パン、白米、パスタが大好きな人は要注意…アルツハイマー病は「脳の糖尿病」という不都合な真実 | ニコニコニュース
※本稿は、マックス・ルガヴェア、ポール・グレワル『脳が強くなる食事 GENIUS FOODS』(かんき出版)の一部を再編集したものです。
■インスリン濃度が高いと認知機能が低下する
科学は常に進歩している。特に脳科学はその傾向が強い。
認知症のうち最も一般的なアルツハイマー病についてわかっていることの90パーセントは、ここ15年ほどのあいだで発見されたものだ。認知症予防(もちろん認知機能の最適化も)の科学は新しい。そして明らかに、科学的な「決着」はついていない。だが決着がつくまで待つのは、何十年とまでいかなくとも、何年ものあいだ何もせずに手をこまねいているのと同じだ。
認知症という病気は、症状が出始める30年前から始まっているという(もっと早いことを示すデータもある)。認知症を発症するずっと前から、それを引き起こす要因が、あなたの認知機能のメカニズムに影響をおよぼしている可能性が高いのだ。
ブドウ糖を取り込んで筋肉や脂肪、肝臓の細胞に送っているインスリンというホルモンがある。脳ではインスリンはシグナリング分子となり、シナプス可塑性や長期記憶の保管、ドーパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の働きに影響をおよぼしている。また、海馬(脳内の記憶を処理する部位)のようなエネルギーをやたらと欲しがる部位の細胞が、ブドウ糖を取り込むのに手を貸している。
生化学的な信号が騒々しいと、細胞はそれを聞くための受容体を減らすことで自らを守ろうとする。脳の細胞のインスリンを「聞く」力が減ると、実行機能や記憶を蓄える力、集中力、報酬を感知する力、ポジティブな気分など、さまざまな認知機能に悪い影響が及ぶ可能性がある。
2型糖尿病が認知機能の低下を引き起こすことを示す論文はかなり多いが、糖尿病ではない人でもインスリン抵抗性(インスリンに対する反応が鈍くなり、血糖値を正常な範囲に下げることができない状態)があると、実行機能や宣言記憶の機能を低下させることを示す論文もある。
宣言記憶というのは、たとえば、私たちが好ましいイメージの誰かを思い浮かべたときによみがえる記憶だ(私たちはみんな、その人になりたいと思う)。非糖尿病患者の知力を調べたサウスカロライナ医科大学の研究によれば、認知的に「健康」な被験者でもインスリン濃度が高いと、ベースライン時(実験が最初に行われた時点)に認知機能が低下していただけでなく、その6年後の調査で大幅な低下が見られたという。
■インスリンの血中濃度を調べる方法
あなたのインスリンの感受性(あるいは抵抗性)を測り、脳機能の状態について知ってみてはどうだろうか?
その場合、判断材料になるのはHOMA-IR(ホーマ・アイアール)という指数だ。HOMA-IR(homeostatic model assessment for insulin resistanceの略)は、インスリン抵抗性を測る数値で、自分の膵臓が空腹時の血糖値を保つには、どれくらいインスリンを送りだす必要があるのかという問いに答えるシンプルな方法だ。この数値は、あなたのかかりつけ医が行えるシンプルな2つの検査――空腹時の血糖値と、空腹時のインスリンの血中濃度を調べることで割りだせる。数式は次のようなものだ。
基準値としては2未満が正常で、低いほど良く、最適なHOMA−IRは1未満だ。2.75を越えるとインスリン抵抗性があると考えられる(日本では、正常値は1.6以下で2.5以上がインスリン抵抗性ありと判断される)。
■糖尿病とアルツハイマー病の関係
研究がはっきり示しているのは、HOMA-IRの数値が高いと、現在はもちろん将来的にも認知機能が低下する可能性があることだ。
インスリン抵抗性は、アルツハイマー病の患者にも非常によく見られる。患者の80パーセントにインスリン抵抗性があるが、それが本格的な2型糖尿病の症状である場合と、そうではない場合があるようだ。データによれば、2型糖尿病を発症していると、アルツハイマー病の発症リスクが2〜4倍に増えるという。
総合的に考えると、アルツハイマー病の40パーセントは、高インスリン血症が直接的な要因かもしれない。そのため研究者や臨床医は、アルツハイマー病を「3型糖尿病」と呼びはじめている。
もちろん、2型糖尿病がアルツハイマー病を引き起こすわけではない。もしそうなら2型糖尿病の患者はすべてアルツハイマー病になり、アルツハイマー病の患者はすべて糖尿病になってしまう。だが、そんなことはない。ただ、この2つは互いに密接につながっているという見方が優勢になってきている。
結論としては、糖尿病や糖尿病予備軍のリスクが低くても、インスリン値が慢性的に高くなると大きなダメージが及ぶ可能性がある。そうなると脳の働きが損なわれ、そのあいだにも数十年後の広範囲にわたる神経細胞機能障害の下準備が着々と進んでいくのだ。
■血液検査でアルツハイマー病になるか予測できる
インスリンシグナルを伝達しているタンパク質は「インスリン受容体基質1(IRS-1)」と呼ばれる。IRS-1は、脳のインスリンの感受性の衰えがわかる高感度のマーカーだと考えられている。アルツハイマー病患者の血液中には、このタンパク質の不活性な形が多い(活性化しているものが少ない)という。
そのため、アメリカ国立老化研究所の研究チームは、シンプルな血液検査によってアルツハイマー病の症状が現れる前に発症の有無がわかるのではないかと考えた。そして、その結果に彼らは目をみはった。不活性の形のIRS-1の量が多い被験者は(脳のインスリンシグナルがダメージを受けていることを意味する)、100パーセントの確率でアルツハイマー病を発症していたのだ。
それよりも驚いたのは、この血液検査に見られる兆候が、疾患の症状が現れる10年前にはっきり現れていたことだ。この知見は、脳のインスリンの感受性を生涯にわたって維持することが、アルツハイマー病を防ぐ大きな一歩になるかもしれないことを示している。
■「低GI食品」だから身体にいいわけではない
1日を通して、インスリンの分泌の急上昇や急降下をできるだけ抑えたいなら、炭水化物がたっぷり含まれる食品の摂取量について考えるべきだろう。
これには糖入り甘味飲料や加工食品、シロップ、ペストリーなど、糖質のかたまりのような食品も含まれる。だが、玄米など「低グリセミック・インデックス(低GI)」といわれる全粒粉の食品でも、実のところはたちまち血糖を増やし、そのブドウ糖をインスリンが血液から取りだすことになる。こんな話は聞きたくないかもしれないが、何年も私の定番食だった全粒粉パンは、グリセミック・インデックス(血糖の増加の指標)もグリセミック・ロード(食品1食分に含まれる糖質がどのくらい血液中に放出されるかを表す)も砂糖より高かったのだ!
全粒粉の食品は、精製された炭水化物より「身体にいい」といわれがちだが、本当のところは、しょっちゅう食べても「悪くはない」というのが正しい。
■食事の中で炭水化物が占める割合を減らそう
炭水化物の耐性は人によってさまざまだが、私は低炭水化物の食品、それに微量栄養素と食物繊維が豊富な食品で皿を満たすことを勧めたい。食物繊維は、慢性的な炎症に対抗するためのメインの武器になる。
低炭水化物の食品にはアボカドやアスパラガス、ピーマン、ブロッコリー、スプラウト、キャベツ、カリフラワー、セロリ、キュウリ、ケール、トマト、ズッキーニなどがある。タンパク質やほかの栄養素を摂るには、天然のサケ、卵、放し飼いの鶏の肉(フリーレンジ・チキン)、グラスフェッド・ビーフなどが頼りになる。
私の場合、以前は穀物が多かったが、今はこうしたごちそうで皿を満たし、大切な栄養素を脳に供給するように心がけている。
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映画製作者。「メドスケープ」「ヴァイス」「ファスト・カンパニー」「デイリー・ビースト」などのメディアに寄稿し、「NBCナイトリーニュース」や「ドクター・オズ・ショー」「ザ・ドクターズ」などのテレビ番組に出演、「ウォールストリートジャーナル」紙で紹介されるなど幅広く活動している。講演者としても人気を博し、ニューヨーク科学アカデミーや、ワイルコーネル医療センターなど権威ある学術機関に講師として招かれた。また、スウェーデンのストックホルムで開催されたバイオハッカーサミットでも講演を行った。2005年から2011年まで、アル・ゴアの「カレントTV」のジャーナリストを務める。主にニューヨークとロサンゼルスを拠点に活動を続けている。
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食生活とライフスタイルという視点から減量や代謝機能、不老長寿のための医療を実践し、講演も行っている内科医。彼自身45キロ近い減量に成功し、その体重を維持している。大きな誇りと情熱を持ちながら、患者が健康に生きるために楽しく続けられる、万人に適用できる療法を探る。ジョンズ・ホプキンズ大学で細胞・分子神経科学の学士号を取得。ラトガース大学メディカル・スクールで医学を学び、ノース・ショア・ロング・アイランド・ジューイッシュ・ホスピタルで研修課程を修了。MyMDメディカルグループを創設し、ニューヨークシティで開業、金融会社や健康管理会社のメディカルアドバイザーを務めている。
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