普通の人が新NISAで資産を築くには…プロが語る「一括投資vs.積立投資」迷ったらどうすべきかの最終結論 | ニコニコニュース
※本稿は、柴山和久著『新しいNISA投資の思考法』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。
■一括と積立、迷ったらどっち?
資産運用に関するセミナーではよく、「一括投資と積立投資はどちらがおすすめですか?」という質問をいただきます。
「迷ったら一括投資だけでなく、積立投資も組み合わせるのがおすすめです」とお答えしています。積立によってリスクを下げることができるからです。
ただし、積立のほうが一括よりも資産が多く増えるとは限りません。本質的に重要なのは、どうすれば長期投資を続けられるか、です。詳しく説明します。
■積立投資でリスクを抑えられる
積立投資は、金融危機で相場が大きく下がったときに特に効果を発揮します。具体的に見てみましょう。
図表1は、リーマン・ショック直前の2008年1月から3年間のS&P500指数(アメリカの代表的な株価指数の1つ)の推移と積立投資のパフォーマンスを示したものです。
リーマン・ショックの直前に積立投資を開始した場合、相場が元の水準に戻った時点でプラスのリターンになっていました。
金融危機に限らず、相場が下がって、やがて回復していくとき、一括で投資をすると、資産が減ったあとで元に戻るだけです。
それに対して積立を続けた場合は、株価が下がったタイミングで、追加で安く投資をすることができるので、相場が元に戻っただけで、プラスのリターンになります。
■積立投資が常に高いリターンとは限らない
ただし、積立投資をしたからといって、必ず高いリターンが得られるわけではありません。
たとえばリーマン・ショックのような相場が下がる局面であれば、積立を続けることで、安いうちにたくさん買うメリットが得られます。一方で、相場が右肩上がりを続けていく場合には、最初に一括で投資したほうが高いリターンを得られます。
具体的に見てみましょう。図表2は、先ほどとは対照的に、株価が上がり続けていた2012年1月から3年間の、S&P500指数の推移と、積立投資のパフォーマンスを示したものです。
この期間にずっと積立を続けていたら、3年間でおよそプラス26%のリターンになりました。しかし、同じ期間に一括で投資をしていた場合には、およそプラス62%のリターンですので、積立のほうが一括での投資よりリターンが低いという結果です。
一括で投資した場合には、株価が上がっていった恩恵を全面的に受けることができました。一方で積立をしていた場合には、購入する価格がだんだんと上がっていったことになります。
このようなケースを見てみると、一括と積立ではどちらのほうが資産が増えるのか、最終的には「結果を見ないとわからない」ということになります。
■大事なのは「どちらが長く続けられるか」
本質的な問いは、「どちらが長く続けられるか」です。
資産運用を始めたあと、相場が良くなっても悪くなっても、気にせずに続けられる自信があれば、一括投資が向いているといえるでしょう。
一方で、相場の状況が気になって、運用成績を毎日チェックしてしまったり、始めたタイミングが悪かったのではと後悔したりしてしまう場合は、積立が向いています。
この問いに対して、万人に当てはまる「正解」はありません。積立と一括、どちらが長く続けられそうでしょうか。一人ひとり、答えは異なります。
1つだけ言えることは、「迷ったら積立」ということです。迷う時点で、相場の動向をかなり気にしているということですので、その場合は積立が向いているといえます。
■株式だけに集中投資するべきでない理由
資産運用を長く続けるうえで重要なことは、分散によってリスクを抑えることです。特定の資産に集中することで、分散の効果が十分に得られず、リスクを取りすぎてしまう可能性があります。
かつては、投資といえば、個別企業の株を買うことが主流でした。個別株への投資は、対象が1社に集中するためリスクが高くなります。
個別株は、リスクが最も高くなり、リターンは企業によって高かったり低かったりとバラバラです。一方、株式のみの投資信託は、複数の株式に分散することで、個別の株式と比べてリスクが大幅に低くなります。
さらに、1つの銘柄に投資するのではなく、たとえば5つ、6つといった銘柄に分散するだけでも、リスクは下がります。分散の対象を広げることで、リスクはさらに下がっていきます。
しかし、株式のみで分散することが、世界の資産運用で標準的な方法かというと、決してそうではありません。長期的な観点の資産運用としては、リスクが高すぎ、分散のレベルとしては不十分といえます。
■ライフステージも考慮しながら「リスク分散」を
世界最大規模の1つであるノルウェー政府年金基金をはじめ、資産運用のプロは、株式、債券、不動産など、さまざまな資産のバランスを計算し、分散して投資を行っています。
資産を分散することによって、特定の要因で大切な資産が大きく減ってしまうリスクを下げて、より長く資産運用を続けていくことが可能となります。
長期的にリスクを抑えるためには、株式だけでなく、債券を組み合わせることが重要です。債券のみの投資信託は、株式に比べるとリスクもリターンも低い資産ですが、銀行預金に比べるとリスクが高く、その分期待されるリターンも高くなります。
株式と債券を組み合わせて運用することで、リスクを抑えて、長く続けていくことが可能になります。
資産運用を始めたばかりで、運用する金額も少なければ、ある程度のリスクを取ってもよいかもしれませんが、いずれは株式の比率を下げ、リスクを抑えるべきです。
ライフステージが変わるにつれて、取れるリスクは変わってきます。債券など他の資産も組み合わせ、ライフステージの変化に合わせて、徐々にリスクを下げていくべきでしょう。
■分散投資の方法は歴史的に進化してきた
分散投資には、絶対的な正解があるわけではありません。最適な分散投資の方法は、時代とともに変わっていきます。
たとえば、1980年代のアメリカでは、分散投資は単純な方法で行われていました(図表3)。アメリカの株式に6割、アメリカの政府が発行する国債に4割、というのが当時の分散投資では標準的でした。アメリカ国内だけで分散していたのです。
しかし、1980年代は、日本や当時の西ドイツなどが大きく経済成長しています。すると、1980年代の後半から1990年代にかけて、アメリカ株だけではなく、ほかの先進国にも投資をしましょう、という流れが起こるようになりました(図表4)。
アメリカにおいても、国際分散投資が始まったのはこの頃です。実は、比較的歴史が浅いといえるのです。
■2000年以降の「カネ余り」が国際分散投資を発展させた
1999年にEUが共通通貨のユーロを導入し、2001年に中国がWTO(世界貿易機関)に加盟すると、今度は東ヨーロッパや中国、インドといった新興国への投資が盛んになりました。また、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)に投資することがブームになった時期もありました(図表5)。
いまでは忘れている方も多いかもしれませんが、2000年代の10年間、アメリカ株の運用成績はあまりよくありませんでした。当時は、アメリカ以外の国の株式に投資をしたほうが高いリターンが得られたのです。こうした背景もあって、アメリカ以外への投資に関心が向いていきました。
その後、今度は債券への投資も分散させていこうという動きが広がっていきました。ABS(Asset Backed Securities:資産担保証券)という、住宅ローンやクレジットローンを裏付けとした債券や、新興国の発行した債券への投資が進んだのです(図表6)。
背景には、2000年代以降の「カネ余り現象」があります。お金が余って低金利が続いていたので、アメリカ国債だけではなく、金利がより高い債券にも投資をしようという風潮になりました。それが行きすぎた結果、のちにリーマン・ショックを引き起こすことになってしまいます。
■金や不動産などの「オルタナ投資」
また、株式や債券だけでなく、いわゆる「オルタナ投資」が広がったのもこの時期でした。
「オルタナ」とは、日本語で「代わり」を意味する「オルタナティブ」の略語です。資産運用の世界では、株式や債券の「代わり」となる、金や不動産、ヘッジファンドやベンチャーキャピタルへの投資を指します。
株式や債券に留まらず、さらに分散のレベルを上げるために、年金基金など巨額の資産を運用しているプロの投資家が、資産全体の一部を「オルタナ投資」に回すようになりました(図表7)。
過去40年ほどの間に、分散投資の対象は多様化してきました。10年単位で見ても方法が変わっていることからわかるように、今後も、同じ分散投資の方法が最適であり続けるとは限りません。
時代の変化に応じて、分散の方法を定期的に見直していくことが重要だと思います。
■米国株だけに投資するのは正解なのか?
本稿では、一括であれ、積立であれ、投資は「長く続ける(長く保有する)こと」が大事であること、また、特定の資産に集中して投資をしないことが重要であることを説明しました。
最近は、つみたてNISAで米国株を対象とした投資信託が人気を集めたこともあり、「米国株だけに投資すればいいのではないか」という意見をいただくことが増えました。新NISAの投資先としてふさわしいのは「全米株か、オルカンか」という議論が起こってもいます。
しかし、実際にはさまざまな資産に分散して投資することが重要です。その理由は、特定の資産が長期で高いリターンを得られるとは限らないからです。
■2011~2021年は米国株の年次リターン1位が3回
ウェルスナビが組み入れているさまざまな資産を対象に、2011~2021年の間のリターンを見てみましょう(図表8)。
米国株が1位になっている年が3回あり、相対的にリターンのよかった年が多かったことがわかります。
やはり米国株だけに投資をしていれば、高いリターンを期待できる――そう感じた方も多いかもしれません。とくに、つみたてNISAが始まった2018年の翌年以降は、20%を超える高いリターンを記録していましたから、なおさらです。
■2000~2010年の米国株は金・不動産以下のパフォーマンス
では、次に10年さかのぼって、2000年代の資産ごとのリターンを見てみます(図表9)。
米国株が最下位になっている年もあり、相対的にリターンは低かったことがわかります。この時期には、不動産や金などのパフォーマンスがよい年が続きました。
20年あまりのデータを見てわかることは、毎年のように、資産ごとのリターンの順位は大きく入れ替わっているということです。米国株に限らず、ほかの資産であっても、1つの資産に集中して投資して、高いリターンを得られ続けるかどうかはわかりません。
■1つの資産に集中することは長期的には高いリスクの可能性
「最近好調だから」という理由で選んで1つの資産に集中すると、実は長期的には高いリスクを負っている可能性もあります。
資産を分散しておくことで、1つの資産に集中して投資するよりも、リスクを抑えることができます。分散することで、ある資産の価格は下がっていたとしても、別の資産の価格が上がって、全体ではリスクを抑えてリターンを狙うことができます。
とくに、株式だけではなく、株式とは異なる値動きをする債券などの資産に分散しておくことが重要です。株式の相場が悪いときには、債券のパフォーマンスがよくなることが多くなります。
リスクを抑えて長く投資を続けるためには、資産の分散が重要なのです。
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ウェルスナビCEO
東京大学法学部、ハーバード・ロースクール、INSEAD卒業。ニューヨーク州弁護士。日英の財務省で合計9年間、予算、税制、金融、国際交渉に参画。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2015年4月、「誰もが安心して手軽に利用できる次世代の金融インフラを築きたい」という想いから、ウェルスナビを設立。2016年7月に自動でおまかせの資産運用サービス「WealthNavi(ウェルスナビ)」をリリース。2024年1月、預かり資産1兆円を突破。Forbes JAPAN「日本の起業家ランキング2021」でTop3に選出。
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