日本では食べ物と見なされない「昆虫」、どうしたら“嫌悪感”を払拭できるか | ニコニコニュース
(昆虫料理研究家:内山 昭一)
「昆虫を食べる」と聞いただけで嫌悪感を抱く人がいる。この“嫌悪感”が昆虫食を受容する高い障壁となり、昆虫が食べ物と見なされない最大の理由である。どうしたら払拭することができるのか?
食べる人と食べない人の意識の違い
昆虫を食べる人と食べない人でどのような意識の違いがあるのでしょうか?
昆虫は太古から人類にとっても貴重な栄養源でした。恐竜に追われ、夜の世界へ進出した哺乳類の祖先ラオレステスから始まり、猿人、原人、旧人、新人と進化していくなかで、人類は400万年の間、昆虫を食べ物と認識し続けてきました。
日本でも1919年(大正8)の調査では55種類という多くの昆虫が食べられていました。ところが現在では長野など一部地域でイナゴ、ハチノコ、カイコさなぎ、ザザムシなどが食用とされているに過ぎません。昆虫が食べ物と見なされない最大の理由は〝嫌悪感〟だといわれています。〝嫌悪感〟が昆虫食を受容する高い障壁となっているのは事実です。(図1)
筆者が開いている昆虫を食べる会に参加したことのある10歳代〜60歳代の男女38名(〇)と、ほぼ昆虫食経験のない一般学生216名(●)から22項目の評定をしてもらった結果が図1です。これを見ると食べる人と食べない人には大きな意識の違いがあります。
この結果から〝嫌悪感〟が昆虫を食べる心理的な壁となっていることがよくわかります。食べるのをためらう食物には、〝不味食物〟〝危険食物〟〝不適切食物〟があり、この三つが合わさったものを〝嫌悪食物〟と呼び、昆虫はまさにこの〝嫌悪食物群〟に該当するのです。これら三つの要因をどう払拭するかが日々の食卓に昆虫が上る鍵となるでしょう。
昆虫を食べる人の関心とその理由は?
昆虫を食べる人は昆虫食にどんな関心を持っているのでしょうか?昆虫を食べる会への参加者の関心は次の4つのグループのあることが分かりました。
〇狩猟採集:採集活動に重点を置き、その結果として〝食べること〟も古来よりあった自然な行為と考えるグループ
〇グルメ:昆虫も普通の食材と考え、純粋に〝おいしさ〟を追究するグループ
〇エンターテインメント:〝虫食い〟を娯楽として考え、その珍奇性を楽しむグループ
〇食料:〝食料〟としての昆虫食の有効性を科学的に提示したいと考えるグループ
こうした分析を試みることで、昆虫食は単に〝食べ物〟としてではなく、文化的、社会的にも多様な関心が寄せられていることが分かります。
さらに昆虫を食べる理由をタイプ分けすると以下になります。
〇食行動の文化性享受
・料理する楽しさ、面白さ
・グルメ志向、珍味
・食育、食文化
〇変わった趣味を持つ楽しさ
・ユニークな趣味を持つことの満足感
・オタク感がある
〇社会の持続性への貢献
・生態系の維持に貢献
・食料政策的に意義がある
好奇心に富み、昆虫が嫌いではなく、見た目だけで判断しないことが、グルメ志向や食育、食文化への関心から昆虫を食べることへと繋がります。また昆虫に親しむことで生態系や食料政策への関心を持つことになり、さらに未知体験に積極的であることがユニークな趣味を持つことの満足感に通じるのでしょう。
“昆虫=嫌悪食物”という汚名返上のチャンス
〝生理的な美味しさ〟は動物も人間も同じですが、人間には〝情報の美味しさ〟があります。グルメレポを読み、行列に並んで食べる料理の味は格別なものがあります。これまで考察してきたように、昆虫を食べる動機として「食行動の文化的享受」と「変わった趣味を持つ楽しさ」があります。
筆者が主催する昆虫食イベントへの参加者は20~30歳代が多く、当然ながら好奇心に富んだ受容傾向の強い人たちがほとんどです。彼らは〝タガメの洋ナシ味〟や〝ハチノコのウナギ味〟に惹かれてやってきて、昆虫食に魅了され、その楽しさをSNS等で発信し、昆虫を食べる消費者のすそ野を広げる役割を果たしてくれています。
さらに昆虫を食べる動機として「社会の持続性への貢献」があります。これは2013年に国際連合食糧農業機関(FAO)が出した報告書『昆虫―食料及び飼料の安全保障に向けた将来の展望』がきっかけとなっています。この報告書が出たことで地球規模の人口増加や温暖化を解決する手段として昆虫食への関心が急速に高まっています。
昆虫はおよそ4億年前に陸地に誕生した我々人類の大先輩です。私たちの食料の約3分の1は昆虫による受粉のおかげですし、肉食動物の餌として生態系ピラミットを支え、土壌改良にも貢献しています。しかも世界を見渡せば全人口の約8割は今でも日常的に昆虫を食べているのです。
江戸時代までは昆虫はなにかの祟りで自然発生するものとされ、お札を立てて神仏に祈るしかありませんでした。その名残として〝虫おくり〟の行事がいまも各地で行われています。ところが明治以降になると農薬への依存度が高まり、昆虫は〝害虫〟として駆除される対象となっていきます。
さらに都市化が進み、いまや世界中に生息する昆虫の40%が個体数を減らしているというショッキングな報告がされています。生物の多様性を守るためにも虫嫌いをなくし、嫌悪の感情を取り除くことが今こそ求められています。生物学者レイチェル・カーソンが危惧した『沈黙の春』のような、セミの鳴かない夏が来ませんように……。
参考文献
吉村浩一・内山昭一(2009)「昆虫食・昆虫料理をめぐる心理的要因の検討にむけて」法政大学文学部紀要59号
吉村浩一・関口洋美・内山昭一(2011)「昆虫食への関心をPAC分析で捉える」法政大学文学部紀要64号
デイヴ・グールソン(2022)『サイレント・アース』NHK出版
(編集協力:春燈社 小西眞由美)
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ヨドち 毒性は取り除くなり消すなり出来れば問題ないとは思うけどね。ふぐとか猛毒持ってる魚も毒のある部分を取り除けば食べられるからね。昆虫も実際食べて平気な人が居るのだから毒性は対処できるんでしょ。ただそこまでしてまで食べる程、昆虫が美味いのかというのとは別の話。 |