「コーラを飲むと歯が溶ける」は科学的に正しい…砂糖たっぷりのコーラが腐らないゾッとする理由 | ニコニコニュース
※本稿は、田中越郎『なぜ、一流は飲み物にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■「戦闘モード」に切り替えられる飲み物
朝、会社に行きたくないと思うことってありますよね。その理由のひとつが、まだ眠気が残っていて休息モードのままであり、「さあ、これから仕事だ」という戦闘モードに転換できていないせいではないでしょうか。
戦闘モードに突入するためには、レモンの香りがする炭酸水が適しています。糖をちょっとだけ含んでいると、血糖値も少し上昇してシャキッとなります。つまり、最適な飲み物はレモンスカッシュです。通常はビタミンCが入っているので、一瞬だけ気分が高揚します。
具体的に商品名を挙げると、各社から出ている「レモンスカッシュ」のほか、「C.C.レモン」「マッチ」「ビタエネC」あたりでしょうか。レモンの香りは遠のきますが、「三ツ矢サイダー」なども同じグループに入れていいでしょう。
■「サイダー」は国によって全く異なる
炭酸を含まないレモン風味の甘い飲み物は「レモネード」と呼ばれています。一般的には炭酸を含むものを「○○スカッシュ」、炭酸を含まないものを「○○エード」としているようです。さらに、「○○ジュース」とは果汁濃度が濃いものを指しているようですが、これらの名称には絶対的な決まりはありません。
なお、「サイダー」は国によって指すものが異なります。日本では透明の甘い炭酸飲料のことですが、アメリカではアップルジュース、イギリスではリンゴ酒のことです。
日本における最初の炭酸飲料は、1872年にスコットランド人が神戸の薬局でコレラの予防薬として売り出した炭酸入りレモネードのようです。この「レモネード」の発音が「ラムネ」になったわけです。
日本人にとって「ラムネ」と言えば、中身よりもその特徴的な容器を思い浮かべる人が多いかと思います。発明者にちなんで「コッド瓶」と言いますが、炭酸水容器の栓にビー玉を使うというアイデアはすばらしいです。
夏の暑い日、セミの鳴き声の下や縁日などで、大きな容器(業界では「どぶづけ」と言います)の氷水のなかから冷えたコッド瓶を取り出し、ビー玉をプシューと下に落としてカラカラ言わせながらラムネを飲んだ記憶がある人も多いかと思います。世界的にはコッド瓶は絶滅危惧種になっています。
■医学的にはまったくオススメできないコーラ
レモンスカッシュと同類の飲み物にコーラがあります。コーラ類は世界的に非常にたくさん飲まれています。コーラもレモンスカッシュも普通の炭酸水に甘味や色などをつけたものですが、単純な炭酸水とはまったく異なった飲み物です。単純な炭酸水と比べると医学的にはまったくオススメできません。非常に困った点が4つあります。
① 糖が加えてある
コーラの最大の元凶は糖です。しかも、糖のなかでもタチの悪い異性化糖(とうもろこしデンプンを分解してつくった果糖とブドウ糖)が大量に使われています。米国の貧困層の子どもたちに肥満児が多い原因のひとつはコーラの飲み過ぎ、つまり異性化糖の摂り過ぎです。
近年、インドやブラジルなどの開発途上国でも赤や青(「コカ・コーラ」と「ペプシコーラ」のイメージカラー)の飲料は貧困層の普段の飲み物として浸透してきています。その販売攻勢たるや、すさまじいものがあります。特に子どもを取り込む戦略は、さすがにえげつなさ過ぎだと私は感じています。その結果、当然ながら肥満者および肥満児が増えて問題になっています。10年後は肥満者がもっと増えていることでしょう。
■殺菌のため、ウィルキンソンより酸が100倍強い
② 強い酸が加えてある
炭酸飲料は酸性です。しかし、その酸性の原因は炭酸によるものではありません。実は炭酸はきわめて弱い酸なのです。たとえば、「ウィルキンソン」と「コカ・コーラ」の酸性度の強さ(水素イオンの量)はまったく違います。pHで示すと、「ウィルキンソン」のpHはおよそ4~5と酸性ではありますが、その程度は弱く、一方、「コカ・コーラ」のpHは2~3とかなり強い酸性です。
化学が苦手な人のために説明すると、pHは0~7が酸性、7が中性、7~14がアルカリ性です。そして、pH2とpH4とでは、その酸性度の強さは100倍違います。要するに、「コカ・コーラ」の酸は「ウィルキンソン」の酸の100倍強いということです。
なぜ、コーラはわざと強い酸性にしてあるのか。それは腐敗防止です。つまり、コーラの酸は殺菌の目的で加えた防腐剤です。強い酸性下ならバイ菌は繁殖できません。
■常温でも、開栓した後もしばらく腐らない
コーラには砂糖のようなバイ菌のエサがたくさん入っています。バイ菌が繁殖しては困るので、コーラなどの炭酸飲料には、腐敗防止のためにリン酸やクエン酸のような強めの酸をわざと加えてあります。つまり、コーラの酸性は、炭酸のせいではなく、添加したリン酸やクエン酸のせいです。
リン酸やクエン酸は蒸発しないため、気が抜けたコーラ(もう大半の炭酸は蒸発してしまっています)でもpHは3以下のまま、強い酸性を維持し続けています。よってコーラは開栓して1週間放置しても、ずっと酸性が強いままです。
この添加した酸があるからこそ、コーラは砂糖を含んでいるにもかかわらず常温で保存しても長期間腐らず、開栓後もしばらくの間は腐らないのです。なお、「ウィルキンソン」には砂糖のようなバイ菌のエサは入ってないので、理屈ではバイ菌が混入しても繁殖できません。
■さすがに骨は溶けないが、歯は溶ける
実際に私も学生たちと一緒にpHの測定実験をしたことがあります(以下、数値はpHの平均値)。大学内の生協売店で買ってきた「コカ・コーラ(3本)」は開栓直後2.43で、開栓1週間後は2.38とほとんど変わりませんでした。一方、「ウィルキンソン(3本)」は初日4.30、開栓1週間後5.00でした。開栓1週間後に飲んでみると、どちらもほぼ完全に炭酸が抜けていました。
この実験結果のポイントは次の2つで、どちらもコーラに添加してある蒸発しない強い酸(正体不明、おそらくリン酸か?)のせいです。
・1週間放置してもコーラの強い酸性はほとんど変化しなかった
このようにコーラは酸性度が強いので、コーラを飲んだあと、その飲み物が口腔(こうくう)内に残っていると、その強い酸により歯を痛めます。これは「コーラを飲むと骨が溶ける」という都市伝説発生の原因でしょう。骨は溶けませんが、歯は溶けます。「コーラを飲むと歯が溶ける」は正しい文章です。ということで、コーラのような強い酸性炭酸飲料を飲んだあとは歯を守るために口をゆすぐようにしてください。
なお、ポンジュースのような柑橘系の100%ジュースは柑橘の絞り汁自体が強い酸(pHは3~4)なので、リン酸などは加える必要はなく、実際に加えてありません。
■コカ・コーラのリン酸含有量は非公開
③ 不明の成分や添加物が加えてある
レシピが非公開の飲み物は多く存在します。非公開ということは、何が入っているかがわからないということです。含まれているものが不明の飲み物はあまり飲みたくないですよね。
昔の「コカ・コーラ」にはコカインが入っていたという説がありますが、いまとなっては真偽不明です。なぜなら、「コカ・コーラ」の製作者とも言えるエイサ・キャンドラーは1901年の裁判で、「『コカ・コーラ』にコカインは含まれているか」という質問に対して答えなかったからです。もし含まれていたら大問題だし、含まれていなかったらラベル表示に齟齬(そご)が出てしまいます。
ちなみに、「コカ・コーラ」のリン酸含有量は非公開です。一方、「ペプシコーラ」(日本での販売会社はサントリーです)のリン酸含有量はホームページで公表してあります。日本人の健康を守るという視点から見たとき、隠蔽(いんぺい)体質の多国籍企業と、正直に公開している日本企業との差がこんなところにも現れています。さすがはコカ・コーラ、さすがはサントリーです。
食品は国によって取り締まる法律が異なるので、コーラだけでなくハンバーガーやピザなどのファストフード類も国によって成分が違います。外国では日本で禁止されている添加物が大量に入っていたりするため、注意が必要です。たとえ、同じ名称であっても国によって成分やつくり方がかなり異なるのです。価格も当然違いますが、見た目と味は似ています。仕事や留学などで海外に長期滞在する場合は、日本の食品と同じつもりで常飲・常食しないようにしましょう。
■子どものころから常飲していると「コーラ中毒」に
④ 子どものときに好きになると一生飲み続ける
食べ物の嗜好(しこう)は18歳くらいまでに完成します。したがって、18歳くらいまでコーラを常飲していたら、コーラが好物となり、一生飲み続けることになります。
私の知り合いの欧米人のなかには、「コーヒーブレイク」ならぬ「コーラブレイク」を定期的にとっている人が多くいます。そのうちの1人は、「自分はアル中ならぬコーラ中毒だ」と自虐的に言っていました。
幸い日本では、お茶やミネラルウォーターの牙城があるせいか、コーラのシェアはそれほど伸びていません。コーラ類は飲まないで済めば飲まないに越したことがない飲み物です。
■それでもコーラを飲みたいならコップを準備
コーラ類は最初のひと口、もしくは最初の一杯がさわやかなのであり、惰性でペットボトル1本を全部飲むのは好ましくありません。したがって、コップに取り分けて飲むようにしてください。冷たいと舌の甘みの感度が低下するので、あまり冷やし過ぎないほうがいいでしょう。
低カロリーを強調している商品もありますが、図表1の通り、1本(500ml)のカロリーは、カロリーオフで100キロカロリー弱、カロリーゼロで25キロカロリー弱です。つまり、カロリーは完全にゼロではないことに注意してください。
砂糖があまり入ってないのに甘みは十分にあるということは人工甘味料を使っているということです。日本の人工甘味料は安全性をチェックしているので、大人は多少摂取しても構わないと思いますが、やはり子どもには飲ませないほうが無難です。
食の細い子どもには、食前に甘い飲み物を飲ませてはいけません。空腹感が削がれるからです。子どもに対しては、コーラへの嗜好は育てないほうが幸せな人生を歩めると思います。
■炭酸飲料を飲むとゲップとおならが増える
また、これは害というほどではないのですが、炭酸飲料を飲むとゲップが出ます。さらに人によっては放屁も増えます。ゲップの成分は飲料中の二酸化炭素そのものです。一方、オナラの成分は炭酸飲料由来のガス、すなわち二酸化炭素ではありません。
炭酸飲料を飲むと胃のなかで二酸化炭素が発生し、胃は膨らみます。すると、「胃に食べ物が来たぞ」という情報が神経を介して腸に届けられ、腸の動きが活発になります。その結果、放屁が増えるのです。こうしてプッと放屁に至ったオナラの成分は、あなたのいつものオナラの成分と同じです。
なお、炭酸飲料から出てきた二酸化炭素は、消化管内ですみやかに吸収され、肺から呼気とともに出ていきます。
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東京農業大学名誉教授
医学博士。専門は栄養学・生理学。長崎市生まれ熊本市育ち。熊本大学医学部を卒業後、三井記念病院内科、スウェーデン王立カロリンスカ研究所留学、東海大学医学部などを経て、東京農業大学栄養科学科へ。所属が農業大学という特徴を活かし、健康におよぼす食品の影響について、医学と栄養学の両面からずっと研究を続けてきた。食品と臨床医学の両方に造詣が深い数少ない栄養の専門家。授業や著書のわかりやすさには定評がある。日本テレビ「世界一受けたい授業」、NHK「あさイチ」などメディア出演多数。著書に『なぜ、一流は飲み物にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)などがある。
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