カップかき氷「サクレ」冬の舞台裏、夏に向けた商品開発は“ある種の賭け”でもロングセラーが続くワケ | ニコニコニュース
夏場に食べたくなる、キンキンに冷えたかき氷。しかし冬場は需要が落ち込み、かき氷は店頭から姿を消してしまう。アイスクリームは一年中出回るようになったが、かき氷を年間通して販売しているお店は少ない。
こうした状況下で、カップかき氷売り上げNo.1を誇る「サクレ」シリーズは、閑散期の冬場をどう過ごしているのだろうか。
おそらく、夏に向けての企画を鋭意仕込んでいるのは想像に難くない。だが、発売から39年もロングセラーを続け、「夏といえばサクレ」と言わしめるからには、“何か”工夫しているはず。
そこで今回は、サクレを販売するフタバ食品株式会社 企画部 係長の三上菜穂さんに、冬場でやっている工夫や繁盛期につなげる努力の裏側について話を伺った。
1985年に発売して以来、35年以上にわたって愛されてきたサクレだが、当初からロングセラー商品を目指したわけではなく、「食べるときに氷が固くてスプーンが入らない問題を解決したい」という思いから開発がスタートしたそうだ。
「その時代に出回っていたかき氷は、アイスカップの側面が“ギザギザ”した形状で、“ザクザク”とした食感のものが主流でした。ですが、冷凍庫から取り出しても、氷がある程度溶けるまで待つ必要があり、スプーンで砕きながら食べなければならないという課題がありました。
そこで、冷凍庫から出した直後でも、すぐにかき氷が食べられるように、氷の粒が小さく、均等な大きさに削った氷の開発に着手したんです。こうすることで、スプーンも滑らかに入り、“サクサク”とした口当たりの新しいかき氷ができると考えました」(三上さん、以下同)
また、かき氷のフレーバーにもこだわったという。
苺や白蜜といった定番の味ではなく、レモンをかき氷の上にトッピングしたのは、「純喫茶でブームだったレモンスカッシュから着想を得た」と三上さんは話す。
「1980年代は、喫茶店に入ってレモンスカッシュを注文するのが流行っていました。そのグラスにスライスレモンが添えられていて、かき氷に生のレモンの輪切りを乗せれば、新しい商品になるのではという発想から、『サクレレモン』が誕生したんです」
1985年にサクレレモンを発売。当時は大阪の工場で生産していた関係で、まずは関西圏から商品の流通をスタートさせた。
「その頃のサクレレモンは、今よりも相当甘みが強い味わいで、かつ可愛らしいデザインのパッケージで登場しました。あるとき、それが大阪の女子高生の目に留まって、そこから口コミでサクレレモンが広まっていったと聞いております」
定番のレモン味に加えて、「サクレいちご」や「サクレ青りんご」、「サクレアセロラ」、「サクレオレンジ」など、今では製造されていない商品も含めると、これまでに29種類のフレーバーを世に出してきた。
そんななか、かき氷という商品は夏場が最盛期である以上、サクレだけ売っていても企業経営としては成り立たない。
フタバ食品はサクレを出した1985年当時も、春夏は「アイスやかき氷」、秋冬は「冷凍食品や中華まん」という今と変わらない事業スタイルだった。
さらに、1972年から製造する「マロングラッセ」は、手土産として人気が高く、国内No.1のシェアを誇るなど、サクレ以外の利益基盤も作りながら、会社を成長させてきたのだ。つまり、サクレ一辺倒にならずとも、食品会社としての強みを生かし、サクレブランドを丁寧に、着実に育てられる環境があったわけである。
こうした背景があるなかで、フタバ食品がサクレレモンの大幅なリニューアルを敢行したのは2008年のこと。
「時代によって変わる味の嗜好に合わせ、少しずつ甘さや酸味のバランスを調整し、商品改良してきたサクレレモンを、よりお客様に求められる商品にするために、パッケージや味を一新しました。
ありがたいことに、“夏といえばサクレ”と言われることが多くなり、ブランドが大きくなるにつれて、お客様の期待も大きくなっているのを感じていました。そのため、試食やモニター調査でお客様の声を聞き、味のブラッシュアップを行うのはもちろん、店頭のショーケースで、サクレと一目でわかるようなビビットな色合いのパッケージに変え、ロゴもカタカナ表記「サクレ」からアルファベット表記「SACRĒ」に変更したんです」
三上さんの言うお客様へのアンケートは、2008年以降から実施しており、レギュラー商品(現在はレモン、あずき、パインの3種)に次ぐその年限定の商品を開発する際の参考にしているという。
◆期間限定品を当てる難しさ。“過去のリベンジ商品”を出したことも
だが、「“4品目”を当てるのはなかなか難しい」と三上さんは言う。
「直近では、2022年に限定フレーバーとして出した『サクレパイン』が大当たりし、それまでレギュラーだった『サクレオレンジ』を下ろし、通年販売に切り替えたのが一番の成果でしたね。毎年、お客様からいただく要望の中で、最も人気の高いフレーバーを商品化できればいいのですが、そうともいかないわけで。試行錯誤しながら、最大限お客様が食べたくなるような商品づくりを意識しています」
ちなみに、2017年に発売した「サクレマンゴー」は、夏らしさあふれるフレーバーだったのにもかかわらず、お客様のニーズに応えきれなかった“不完全燃焼”を感じていた。
その悔しさを晴らすため、2023年に再びサクレマンゴーを出したという経緯があるという。
◆夏を見据えた商品の作りだめは、ある種の“賭け”
さらに、商品開発の苦労はもとより夏に向けての“作りだめ”も、サクレにとっての勝負どころになっている。
サクレの販売における年間スケジュールとして、その年の夏場からモニターを開始し、翌年の準備を進めているという。
そこで得た味に対する反応をもとに、商品開発チームにオーダーを入れ始める。そして、11月下旬〜12月にかけては流通先との商談が活発化し、翌年の販売量や商品単位(SKU)が決まっていき、年明け1月から商品の製造および在庫の確保に入っていく。
冬場は翌年の販売に向けての重要な時期に変わりはないが、「果汁やシロップの配合、氷の削り方など、製造工場に一度案内したものは変えられない」からこそ、長年の知見や勘が大事になるそうだ。
「モニター調査の声のほか、夏の気温や湿度を意識した商品づくりを行うんですが、当然、人によって温度の感じ方は変わりますし、翌年の夏がどんな気候になるかも予想できない。これは、ある種の“賭け”だと思っています。ただ、よほど冷夏にならない限り、温度的な“外し”はないので、例年では広く万人が美味しいと感じる味に落ち着きますね」
◆いずれは通年販売するお店も増やしたい
2024年はサクレ発売39周年を迎える。「サ(3)ク(9)レ」の語呂合わせとサンキューの意味を込めた記念の年として、プロモーションを強化していくとのこと。
「2024年の39イヤー、2025年の発売40周年と、サクレブランドにとって節目の時期が続くので、さらにお客様から愛されるカップかき氷を目指し、いろんな施策を通してファンを増やせるように尽力していければと思います」
サクレの主な販売時期はおおよそ3月~10月までの間だが、最近では通年販売するお店も徐々に増えてきているそうだ。
さらに、商業施設などとのコラボ施策を通じて、新たな価値の創造にも取り組んでいる。競争激しいアイス市場の中で生き残るための努力と工夫。これこそが、ロングセラーの秘訣なのではないだろうか。
<取材・文・撮影(人物)/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている