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「朝メシ何食ったの?」とわざとフランクに聞く面接官の罠…マニュアルバカ学生が即落ちする採用現場の心理戦 |

2024年入社の就活が佳境を迎えている。採用する側とされる側に駆け引きは昔も今も同じだが、人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「売り手市場の中でも、優秀な学生を獲得するべく、企業側は質問の手法を変えたり、面接時の評価の仕方を工夫したりしている」という――。

■「有休は100%取得できますか」タブー質問もウエルカム

6月の選考開始を前に2024年入社の就活は今、ど真ん中にある。人手不足と言いながら優秀な学生を獲得したい企業側と意中の企業の入りたい学生のせめぎ合いが続いている。

最近は学生からどんな質問をされても嫌な顔をせずに答えるなど気を使う企業も多い。かつては「残業時間はどのくらいですか」「有休は100%取得できますか」と質問すると、「働く気があるのか」と×印をつける会社もあったが、今ではこうした質問への応答は当たり前になりつつある。

またコロナ禍で学業以外の活動ができなかった学生に配慮し「ガクチカ」(学生時代に力を入れたこと)に関する質問を避ける企業もある。

面接担当者の研修を実施している自動車部品メーカーの人事担当者は最新の面接スキルと心構えを教えてくれた。

「研修では会社は選ばれる側であると認識し、誠意を持って面接に臨むことが大事だと言っています。例えば、Web面接だと顔の動きは見えるが、手の動きは見えない。話を聞いてメモを取っていると、相手は自分の顔を見ていないと思い、不快な気分になる。そこで、相手の顔を見ながらもなんとかメモを取るようにと面接の初歩から叩き込んでいます。また、まず相手の質問を受けるようにして、質問がなくなったら初めて聞く。疑問を持ったまま終わらせないようにしています」

かつて横行した「圧迫面接」がウソのような変わりようである。一方で、学生の側も面接担当者が驚くような質問をしてくる学生もいる。

副業OKのIT企業に面接に来た学生は「大学院でやっている今の研究を続けたいので1日8時間、週5日働かなくてもいいですか」と質問してきたという。

あるいは学生時代から小さなベンチャー企業で働いていたという経験をもつ学生から「自分は残業時間を気にせず、いくらでも働きたいのですが、大丈夫ですか」と聞かれたという。

同社の人事担当者は「やりたいことがあるので毎日働きたくないと交渉をしてくる学生は逆に頼もしいと思う。専門性が高く、本当に欲しい学生であれば受け入れる余地はあると思う」と語る。

もう1人の学生に対しては、「さすがに会社の規程をオーバーした残業は認められないが、最大限配慮したくなる」と語る。

■文系学生など「ポテンシャル採用」のチェック指標

もちろんどこの会社も欲しがるIT・デジタルスキルデータサイエンスに必要な統計学の知識など専門性を持つ学生は、専門性のレベルチェックすれば即採用が可能だ。

しかし、とくに文系の学生などのポテンシャル採用のチェックは簡単ではない。各企業も学生を選ぶチェック指標をベースに見極めようとしている。

住宅メーカーでは1次面接は20代後半から30代前半の主任クラスの社員が15分間面接する。面接担当者に与えられたチェックポイントは、

① 会社の理念に合致しているか
② チャレンジ精神があるか
③ 最後までやりきる力があるか
リーダーシップはあるか

などの項目について○×△で評価することにしている、1つでも×があると2次面接には進めない。2次は課長クラスが同じやり方で面接し、絞っていく流れだ。

ある食品会社は次の3つの指標だ。

① 学び続ける力を持っているか
② 経験に基づく思考ができるか
③ 当社で成長できるか

それぞれ学生の答えと面接担当者がどう感じたのかについて報告してもらい判断しているという。しかし、こうした抽象的な評価指標だと、面接担当者の感情が入り、どうしても相手の印象に左右されやすい。

同社の人事担当者は次のように語る。

「面接担当者に学生との会話の内容を文字に書き起こして判断することを実践している。口頭で聞くと、おそらく自分の感情が入り交じった曖昧な内容の評価になってしまうが、客観的に文字化したものであれば、感情というノイズを極力排除できる。書かれたものを最終的に人事と役員でチェックしている」

ただし面接ですべてを見極められるわけではない。多くの企業は評価指標に「協調性・チームワーク力」を入れているが、協調性は面接ではわからない。5人か10人でチームを組んで何かを一緒にやらせてみて、どういう動きをするかを見る方法もあるが、短時間で見極めるのは相当難しい。

そもそもいくら研修をしても普通の社員にアセスメントの能力があるわけではない。どうしても自分に近い考えを持っている学生が良く見えてくるものだ。最後は自分の好き嫌いで判断してしまう傾向がある。

前出の住宅メーカーの人事担当者はこう告白する。

「個人的には面接という手法はそろそろ限界かなと思っている。採用直結型のインターンシップが増えているが、採用の中心がインターンシップに流れていくのは自然の流れだと思う」

■質疑応答で即落ちになる人の4つの共通点

合格者を選ぶのは難しいが、質疑応答で不合格になる人の共通点はいくつかあるらしい。学生の回答によっては「即落ち」の場合もある。代表的なパターンは以下の4つだ。

ビジネスセンスが感じられないマニュアル漬けの人
② 実績だけを強調し、先の展望を示せない人
③ 「自分も成長したい」成長派を気取る中身がない人
④ ウソをつく人

大学の中には外部講師を就活セミナーに呼んで志望動機やアピールの仕方など詳細な模範解答を学生に暗記させているところもある。

そのことは当然面接する側も把握している。前出の住宅メーカーの人事担当者は、①のマニュアル漬けの学生に対して暗記している内容は聞かず、マニュアル外しをして見極めているという。

「たとえば最初に『○○さん、おはようございます朝ご飯は何を召し上がりましたか』と丁寧に聞けば、マニュアルインプットしていない学生も丁寧な言い方で返事をしてくる。そこで、『○○君、今日の朝飯何を食ったの』とわざとフランクに聞いてみる。すると、『今日は母に作っていただいたご飯を食べてまいりました』と答える学生がいます。これは明らかマニュアルだなと判断できます。取引先との商談にはTPOがある。相手の言動に合わせて対応しなければうまくいきません。この学生は対応力が欠如していると見てしまう」

さらに「そういう人に限ってお客さんと会うと、いきなり建築計画書を出して、工期はいつまで、価格はこうです、とやりかねない。そんなことでは商談も成立しない。営業センスというのは相手との間の取り方、コミュニケーションを通じた人間関係の構築が前提。マニュアル仕込みの丁寧語、謙譲語はともかく、この業界ではどういうビジネスをしているのかを考え、自分の言葉を使ってどうやって売り込むのか、相手に納得させるセンスがない人はいらない」と語る。

同様に②(実績だけ強調し、先の展望を示せない人)のようにアピールポイントがずれている人も落とされる確率が高い。前出のIT企業の人事担当者は「社会に対して何かクリエイティブな発信をしたい、何らかのアクションを起こしたいというマインドを持つ人が欲しい。それを探るために、学生時代に何らかの実績を持つ人は、その中身やプロセスを聞いていく。でも、何かの大会で単に優勝したとか何位だったという実績のアピールをする学生は山ほどいる。優勝しなくても自分は何を感じてどういう行動を起こしたのかを聞きたいのに、タイトルすごいだろ、みたいなタイプは、本当は自信がないのかと思ってしまい、次の面接に上げようという気になれない」と語る。

こういうタイプは、単純に競争環境に恵まれていたから成績がよかっただけと思われかねない。

最近の企業は、目指すキャリアを設定し、それに向けて自ら学び続ける「キャリア自律」を掲げる企業が多い。

■即落ち「ウソつき就活生」はなぜウソとバレるのか

ところが③(成長派を気取る中身がない人)のような人も多いという。前出の食品会社もキャリア自律を掲げる会社の一つだ。人事担当者はこう話す。

「うちに入って自分も自律し、成長したい、という学生が増えた。そのこと自体は大いに結構だし、こっちも応援したい。でも『なぜうちの会社に入ったら、あなたは成長できるの?』と聞いて、その理由について、会社の考え方を理解せず、かつ筋道を立てて説明できなければ基本的に落とす。結局、本気じゃないのかなと思ってしまう。しっかり考えていれば、どういう仕事を通じてどんなキャリアが築けるとか自分で整理できるはずだ」

また、④のウソをつく人は、バレたら「即落ち」の可能性が高いという。前出のIT企業の人事担当者は「1次、2次と面接を重ねていくうちに発言の内容が違ってくる学生もいる。たとえば、最初の面接で自分が大事にしている価値について力説していたのに、2次の面接では違うことを言うなど、整合性がとれていないケースもある。次の面接では思いっきり突っ込んで聞き、そこでウソがばれたらその時点で落とす」と語る。

そのほかにこういう事例もある。

「最終面接で、他社の内定は出ているかを聞くことがある。そのとき、学生はこちらを牽制するためなのか、『内定が出ています』と答えたが、じつは出ていなかった。その事実が学生同士の会話やOBとの会話で漏れ、ウソであることがわかった。中には他社の面接では『次回が最終です』と言っていたが、実際は一次面接だったという話もある。そういう学生はどうしても信用する気にはなれない」

ウソをつくなら絶対にバレないように徹底することも大事だが、自分では安易なウソのつもりでも墓穴を掘ってしまうこともある。くれぐれも注意が必要だ。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

(出典 news.nicovideo.jp)

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