なぜラーメンの無人販売所が増えているの? わずか10カ月で500店に | ニコニコニュース
街中を歩いていると、ギョーザの無人販売所をよく見かけるようになった。「新型コロナの感染拡大をきっかけに増えたよなあ」と思っていたら、その見立ては間違っていなかったようで。帝国データバンクの調査を見ると、ここ数年で右肩上がりで増えているのだ。
2020年は131店舗だったのに対し、22年は1282店舗に。わずか3年で10倍ほど増えているわけだが、こうしたブームの火付け役となったチェーン店をご存じだろうか。同じような店が増えてきたので、忘れている人もいるかもしれないが、「餃子の雪松」(以下、雪松)だ。
雪松が店舗を構えたのは、18年のこと。当時、ギョーザの無人販売は珍しく、さらに巣ごもり需要があって、非接触で購入できて。この3つが重なって、店はどんどん増えていき、3年ほどで350店舗以上に。
「冷凍のギョーザを無人で販売している。しかも、それが人気」となれば、他社も黙っていない。参入障壁がそれほど高くないこともあって「ウチもウチも」といった感じで、さまざまな会社がギョーザの無人販売を展開するようになったのだ。
ところで、雪松を運営している会社は、どんなことをしているのか。社名は「YES」。東京の国分寺市に本社を構えていて、冷凍ギョーザ以外にもいくつかの事業を展開している。もつ煮込みの店舗を構えていたり、個室のシミュレーションゴルフ場を運営していたり。
そんな中で、筆者が気になったのが冷凍ラーメンである。「日本ラーメン科学研究所」(以下、研究所)というネーミングで、22年11月に1号店をオープンし、まだ1年もたっていないのに見逃せない数字を残している。
9月末現在の店舗数を見ると、491店も展開しているのだ(うち自販機は76台)。「ちょ、ちょっと信じられない。イケイケドンドンの会社なの?」などと感じられたかもしれないが、これにはカラクリがある。冒頭で紹介した雪松の店舗に冷凍の什器を設置して、そこでラーメンを販売している。こうした手軽さもあって、スピード出店が実現できているようだ。
「今月は50店舗増えた。来月は70店舗増えそう」といった感じで、ぐーんと伸びているわけだが、その裏でどんなことが起きていたのか。舞台裏を披露する前に、研究所はどんなラーメンを提供しているのかを紹介しよう。
●お湯を使わずに、スープでゆでる
研究所が販売しているラーメンは醤油、豚骨、味噌、魚介だし醤油の4種類のみ。1箱に3食が入って、価格は1000円。このように書くと「フツーだな」と思われたかもしれないが、最大の特徴は「つくり方」である。スープを沸騰させて、あとはスープで麺をゆでるだけ。というわけで、お湯はいらないし、湯切りもいらない。
消費者にウケている要因の一つに「手軽につくれる」ことが挙げられるが、それは便利さを優先したわけではなく、味を重視したことで生まれた形である。ラーメンを開発するにあたって、担当者は「縛り」を設けていた。それは「お湯を使わずに、スープでゆでる」こと。
なぜそのようなことにこだわったのかというと、冷凍ラーメンを家で食べる場合、スープの熱さがどうしても不足する。なぜ熱さが不足するのかというと、麺とスープを別々につくるから。であれば「スープでゆでればいいのでは」ということで、この調理法にこだわったそうだ。
……と、ここまで書いていて、ちょっと気になることが浮かんだ。なぜギョーザの次はラーメンだったのか。担当者に話を聞いたところ、冷凍ギョーザを開発したときに、さまざまなメニューに挑戦したという。ただ、チャーハンがそこそこうまくできたとしても、いまのところそれを販売する予定はないそうだ。なぜか。
スーパーの冷凍コーナーに足を運べば、さまざまなチャーハンが並んでいる。大手が扱っている人気商品もあれば、ロングセラーもある。そんな激戦区の中に、わざわざ飛び込む必要はないと考えているようだ。同社は新たな商品を開発するにあたって、どこに“隙間”があるのかを考え、そこを狙っているという。それが、ラーメンだったのだ。
外で食べるラーメンは、おいしいところが多い。一方、スーパーやコンビニで並んでいるカップラーメンはどうか。話はちょっと違うが、缶コーヒーを飲んだ人から「この味はカフェのコーヒーと違う。お金を返してくれ!」といったクレームを聞いたことがない。同じように、カップラーメンを食べて「人気ラーメン店と味が違う。時間を返せ!」と大声を出す人も目にしたことがない。
外で食べるラーメンとカップラーメンについて、消費者は「別モノである」ことを認識している。ただ、ラーメンについては「生タイプ」もある。スーパーやコンビニなどで、名店の味を再現した商品が並んでいるが、食べたことがある人は次のような印象をもっているかもしれない。「そこそこおいしい。でも、やっぱり店で食べるほうがおいしいよね」と。研究所が狙っているのは「その差」である。
おいしいラーメンを家で食べられるようにしたい――。これを実現するために、ラーメンを構成する麺とスープを何千通りも組み合わせた。「ああでもない。こうでもない」などと言いながら試作を重ねていく中で、「なにかが足りないなあ」と感じれば味覚センサーを使って分析することに。甘味やうま味などを数値化する機器で、塩味が足りないなとなれば、レシピを調整するといった流れで商品を完成させたという。
こうして、ラーメンはできあがった。1号店(小金井店)の反響は、どうだったのか。雪松の店舗で販売するにあたって、担当者はこのようなことを考えていた。「冷凍ラーメンをつくったものの、どのくらい売れるのか」と。試験的に始めたところ、想定以上にお客がやって来たという。
行列ができることもあったり、売り切れることもあったり。こうした姿を目にした担当者は「これはいける! 店舗を積極的に増やしてもいいのではないか」と感じた。店で使う冷凍の什器を用意して、食材を確保して、自販機を契約して。準備不足は否めなかったが、年明けから店舗数を増やすことに成功する。
「増やすことに成功」と言葉にするのは簡単だが、甘い世界ではない。ただ、ここで知見が生きてくる。「雪松をオープンさせて、その後、急ピッチで店舗数を増やしてきました。どうすれば増やせるのか、その経験があったので、ラーメンの店舗数も増やせました」(担当者)と振り返る。
●店舗を急ピッチで増やす理由
出店スピードを見ると、22年は2カ月で5店舗にとどまっていたが、23年1月は51店舗に。その後も勢いは衰えず、48店舗、48店舗、48店舗、71店舗と……二桁の数字が並んでいる。右肩上がりのグラフを目にすると、第三者は「ものすごい勢いだなあ」と感じられるかもしれないが、当事者は違った見方をしている。
店をもっと増やしたいのに、増やせない――。こうしたジレンマを抱えていたのだ。どういうことかというと、スーパーの中には冷凍食品にチカラを入れているところがあって、什器が品薄状態に。また、食材の調達にも悩まされる。
「ギョーザの場合も食材の調達に苦労しました。ただ、『〇〇がない』となっても、別の県や海外で手に入れられたのでなんとかなりました。ラーメンの場合、モノによっては調達ができなかったので、売りたいのに売れないことがありました」(担当者)
「日本ラーメン科学研究所」の看板がどんどん増えているわけだが、どのくらいの規模を考えているのだろうか。答え「年内に1000店舗」。これまでの店舗は雪松の中に“居候”のような形で展開してきたわけだが、そろそろ限界が近づいてきている。雪松の店舗数だけでは足りないので、今後は「研究所だけ」の出店を予定しているそうだ。
それにしても、なぜそんなに急いで店を増やしているのか。個人的には「雪松の経験があったから」ではないかと思っている。冒頭で紹介したように、ギョーザの無人店舗はここ数年でものすごい勢いで増えている。その背景には「雪松が人気のようだ。ウチも同じようなことをしよう」といったところが増えたことが大きい。
「ウチも同じようなことをしよう」と思って、実際に出店できたことがポイントである。店舗はシンプルなつくりなので比較的安くすむ。人件費はかからず、運営コストは家賃や電気代だけ。ギョーザもラーメンも基本的には同じビジネスモデルなので、「もうかっている」となれば、当然、他社も参入を考える。
研究所としては、同じような店がぽこぽこできる前に、少しでもリードしたい気持ちがあるはず。ラーメンの麺は“のびて”しまうとおいしくなくなってしまうが、出店スピードが“のびて”しまうと、他社にとってはおいしくなってしまう。
「ラーメン無人販売」秋の陣が、ひょっとしたら始まるかもしれない。
(土肥義則)