東映・東宝・松竹…“アニメ頼み”の映画業界で一人負けは?ヒット作は数あれど | ニコニコニュース
中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
2022年度は東映にとって記念すべき一年となりました。売上高が前期の1.5倍に跳ね上がったのです。立役者となった作品が『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』と『ONE PIECE FILM RED』、そして『THE FIRST SLAM DUNK』です。3作品ともに大ヒットしました。
もはや日本の映画産業はアニメーション抜きに語ることはできません。王者東宝もアニメ部門の強化に動き始めました。
東宝の2022年度の売上高に当たる営業収入は2443億円、東映の売上高は1744億円です。700億円もの差が生じていますが、これは主に2社が運営する映画館の数に起因しています。ヴァージンシネマズ・ジャパンを買収した東宝は721スクリーンを展開し、東映は220スクリーンに留まっています。
映像関連事業に目を向けると、見え方は違ってきます。
東宝の2022年度映像事業(映画の配給と製作出資、コンテンツの利用料、パッケージ販売などの合算)の売上高は869億円。東映は1351億円でした。2021年度はほとんど差がありませんでしたが、東映が1.5倍も上回ったのです。
2022年度の東宝は、ヒット作に恵まれなかったわけではありません。興行収入100億円を突破した『すずめの戸締り』や、同じく100億円でシリーズ最高となった『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』を公開しています。
ただ、東映はそれらの人気作を遥かに上回るヒットを飛ばしました。
◆近年苦戦を強いられていた東映だったが…
東映は『THE FIRST SLAM DUNK』が、ここまでヒットすることを予想していなかった節があります。ドラゴンボールとワンピースが盛り上がったことにより、東映は2022年11月11日に業績予想の修正を発表しました。
売上高を当初の1434億円より9.5%高い1570億円としました。136億円もの上乗せでした。その数字を、翌年の5月11日に再度修正しました。売上高を11.0%高い1743億円とし、173億円を上積みする予想を出したのです。
東映がスラムダンクでヒット作を出したことは特別な意味を持ちます。東映の業績を支えているのは子会社東映アニメーションで、ワンピース、ドラゴンボール、プリキュア、仮面ライダー、スーパー戦隊などの根強いファンがいるシリーズを抱えています。しかし、ここ最近はヒット作の芽となる新たなIPを探し出し、育てることができませんでした。
スラムダンクはその殻を打ち破ったのです。しかも、このコンテンツは東映が中期経営計画で掲げていた戦略の一つをそのまま体現するものでした。
同社は映像事業収益の最大化を目的とし、過去作のリメイクなどを通して2世代、3世代のファンを作り、未来へ繋ぐというテーマを掲げていました。これをエバーグリーンマーケティング戦略と呼んでいます。
◆世代を超えて愛されるIPを育てられるか
スラムダンクが連載されていたのは1990年代。コミックを楽しんでいた世代は、子供たちと映画館へ足を運ぶ年齢となりました。『THE FIRST SLAM DUNK』は、次の世代へと繋ぐ布石となる可能性があるのです。
東映が中期的に成長するポイントの一つは、エバーグリーンマーケティング戦略を通して、スラムダンクのような成功に再現性を持たせられるかどうかです。その種まきを始めています。
その一つが『オトナプリキュア』。10月7日に放送を開始するアニメーションで、プリキュアのかつての主人公が成長した姿を描くもの。子供時代にプリキュアに親しんだ10代後半から20代前半をターゲットとしています。正に世代を超えた作品に位置付けられるもので、興味深い取り組みだと言えます。
東宝は新規IPの創出や、既存のIPの収益力を高める仕組みづくりに邁進しています。
◆小回りを利かせ始めた東宝の実力
迎え撃つ東宝は、2022年にアニメ本部を新設しました。独立した部署となったことで、円滑な意思決定やアニメーションの制作予算を獲得しやすくなったのは間違いないでしょう。
東宝は2023年2月17日にジャズがテーマのアニメ映画『BLUE GIANT』で、異例のヒットを飛ばします。興行収入は10億円を超えました。この映画の制作進行に組織再編の影響がどれだけあったのかは分かりません。しかし、決してメジャーとは言えないジャンルの音楽映画かつ知る人ぞ知るコミックの映画化がヒットしたことは、東宝が組織再編で好調な滑り出しをアピールするには十分でした。
今年、最も興味深かった東宝の映画が『SAND LAND』。8月18日に公開しました。東映のドル箱ドラゴンボールの鳥山明氏による連載漫画で、根強いファンが多い作品として知られています。
映画の内容そのものに対する評価は高かったものの、プロモーションが上手くいかなかったからか、興行的には失敗に終わりました。興行収入は5億円程度と見られています。
◆その一方で松竹は…
東宝は『君たちはどう生きるか』や『劇場版 SPY×FAMILY CODE: White』など、ある程度ヒットが約束された大型作品を得意としています。
今後は『BLUE GIANT』や『SAND LAND』のような、中型の作品でヒット作を生み出せるかどうかがポイントでしょう。新たなIPを生み出し、育てることができれば、組織再編を行った意味が生まれます。
業績が振るわないのが松竹。2022年度の映像事業の売上高は、前期比1.6%増の412億円でした。13億円のセグメント損失を出しています。
松竹もアニメーションが業績をけん引しており、『ゆるキャン△』、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』、『かがみの孤城』などは興行収入が10億円を超えています。しかし、競合を凌駕するような大ヒット作が生み出せていません。
松竹は組織のダイナミックは変革が起きておらず、経営戦略も明確なものが見えてきません。組織がやや硬直的になっている印象を受けます。
<TEXT/不破聡>
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界