日本で電気自動車が普及しない理由 乗り遅れたのか、それとも… 英国人記者が考えてみた | ニコニコニュース
EVに対する考え方の違い
日本の自動車メーカーは、常に自動車のデザインとテクノロジーの最先端にいるように見える。ただし、EV(電気自動車)は別だ。
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世界最大の都市である東京の街角に立てば、EVを見つけることができるだろう。しかし、先ごろ開催されたジャパンモビリティショーでわたしは1週間ほど滞在したが、一度も見かけなかった。調査会社ジャトー・ダイナミクスのデータによれば、2016年から2021年にかけて国内で年間平均500万台以上の新車が販売されるなか、EVの販売台数は全体の0.4%から0.6%にとどまる。2022年に1.7%、今年(9月末まで)は2.3%まで増加したが、成長は微々たるもので、電動モビリティをサポートする明確な充電ネットワークもない。
日本は、自国が置かれているエネルギー事情がまったく異なるにもかかわらず、他の国々がそうだからといって、なぜ自分たちもEVにしなければならないのかと疑問に思っている。産地に関係なく、単に燃料の使用量を減らしたいだけなのだ。日本では、外気温が28度になるまでビルの空調をつけない企業もあるほど、エネルギーをできるだけ使わないことが重要視されている。
このことから、原材料の使用量や製造時のエネルギー消費量を大幅に増やすことなく、現実的に効率を向上させるハイブリッド車、そしてクルマだけでなく国全体の電源としての可能性を持つ水素が、日本にとって魅力的であることがわかる。
マツダのジェフリー・ガイトンCFO(最高財務責任者)は、「日本では、消費するエネルギーのほとんどが何らかの形で輸入されています。日本は他の多くの国よりも、炭素のライフサイクルをトータルに見ることに熱心です」と語る。
「水素やハイブリッド車は、より少ないエネルギーで、より柔軟に資源を利用するためのものです。カーボンニュートラルとはどのようなものなのか、異なる考え方をする能力があります。カーボンニュートラルであれば問題はなく、EVである必要はありません。環境目標をサポートするためにカーボンニュートラルであればいい。非常にプラグマティック(現実的)なのです」
効率的な小型車を選ぶ日本
欧州では、クルマからの排出量に基づいてEVを支持する法律が制定されている。これが解決策であると同時に目標でもあるというガイトン氏の見解は、欧州の立法者を声高に批判するステランティスのCEO、カルロス・タバレス氏の見解と重なる。タバレス氏は、2022年にフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会食した後、立法者が「独断的で世間知らず」であることを知ったという。自動車業界にカーボンニュートラル目標を設定するだけではなく、そこに到達するために必要な手段、つまりクルマのゼロ・エミッションを設定したのである。
日本では電動車を支持する法律は存在せず、EVの普及は非常に遅れており、販売台数ではインドが大きく上回っている。日本は、日産リーフという世界初の量産型EVを生み出した国であるにもかかわらず、国内の消費者はEVを敬遠し、ハイブリッド車や軽自動車など、より効率的なクルマに目を向けてきた。欧州では、EVを含むさまざまな法規制が業界を圧迫しており、自動車メーカーにとって生産コストが不経済であるため、シティカー(超小型車)は事実上消滅している。
他の国では、EVが避けられない主流となりつつある。中国は自国向けと輸出向けのEVを産業戦略の重要な一部とし、米国でさえインフレ削減法の一環としてEVの生産と普及を促進するために膨大な補助金を用意している。
日産は2010年にリーフを初めて市場投入したが、2番目のEVであるアリアを発売したのは2022年だった。日本の自動車メーカーが複数のEVモデルを生産し始めたのは、日産、ホンダ、トヨタなどの世界的展開があるからに他ならず、日本国外での市場の変化に対応するためである。
調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズのグローバル自動車予測担当副社長、サム・フィオラニ氏は言う。「従来、トヨタ、ホンダ、日産が小型車、小型トラック、SUV、ハイブリッド車といった新分野への参入をリードしてきました」
「プラグインハイブリッドを含むハイブリッド車で、排出ガスの改善に向けた取り組みの大部分を満たせると考え、最新のEV開発に必要な投資を遅らせていたのです。EVへの移行は、排出ガス対策が主な理由でしたが、巨大な中国市場へのアピールの必要性も背景にあります」
世界の潮流に乗り始めたが…
日本では今、潮目が変わりつつある。EVの成長は避けられないと思われたため、日本の自動車メーカーは遅ればせながら対応に動いている。トヨタの豊田章男会長は2021年後半、数兆円規模の投資計画の一環として、トヨタとレクサスから2030年までに30台の新型EVを発売する計画を明らかにし、先ごろ開催されたジャパンモビリティショーでその第一弾を公開した。同じ場で日産も5台の新しい電動コンセプトカーを披露し、内田誠CEOは、中国の自動車メーカーがEV開発に関する既存の体制に「警鐘」を鳴らしたと発言して話題となった。自動車メーカーにとって大きな稼ぎ頭だった中国への輸入車需要も、国産EVの台頭で冷え込んでいる。
「トヨタが新型EVに注力すると決断したと同時に、中国市場は海外ブランド、特に日本や韓国のブランドに冷淡になった」とフィオラニ氏は言う。
ジャパンモビリティショーの実行委員長であるトヨタの長田准CCO(チーフコミュニケーションオフィサー)は、日本がEVに出遅れているとの指摘を否定し、業界は「他の自動車技術の開発」に忙しかったと言う。
しかし、BEV(バッテリーEV)が「決定的に欠けている部分」であり、現在開発を加速させていることは認めつつも、コストやニーズが大きく異なる世界の主要市場のほとんどすべてに向けて新型車を開発するということから、トヨタのような世界的大企業は常に「マルチ・パスウェイ」を歩んでいると強調した。トヨタが2030年までに350万台のBEVを販売するという豊田章男会長の野望を達成したとしても、それは世界販売台数の30~40%程度に過ぎない。
日本はこれまで複数のEVモデルを製造してきたが、マツダのMX-30やホンダeのように、意図的に小型バッテリーを採用する自動車メーカーもある。これは価値あるアイデアだが、今まで消費者に敬遠されてきた。
「消費者の立場からすれば、大きければ大きいほどいいと考えるのが普通でしょう」とマツダのガイトン氏は言う。「MX-30は、日常的に使える航続距離を提供していると思います。100kWhではなく30kWh程度のバッテリーであれば、そのバッテリーに含まれる貴重な資源を3人で(購入して)使うことができるのです」
「そうすれば、表向きは1人ではなく、3人のドライバーがカーボンニュートラルな運転をすることになる。これは非常に合理的であり、日本におけるプラグマティズム(実用主義)と相通じるものがあります」
レクサスのデザイン責任者であるサイモン・ハンフリーズ氏は、「航続距離の許容度が下がれば(EVの)コストは下がる。お客様が決めることです」と述べている。
EV需要の伸び悩みはむしろ好機
ジャパンモビリティショーで展示されたように、日本が現在開発中のEVは商業的な魅力がはるかに高く、バッテリーも大きくなっているようだ。トヨタとレクサスの新しいモジュラーアーキテクチャーを採用したモデルは1000kmもの航続距離を実現するという。しかし、興味深いことに、これは多くの市場でEV需要が冷え込んでいる中での発表であった。例えば英国は、EVの成長が市場シェア17%弱で停滞している。
「日本の3大自動車メーカーが最新EVを開発すると発表した直後に、EVへの移行が突然軟化したのです」とフィオラニ氏は言う。「これらのEVが2~3年後に市場投入される頃には、市場成長の第2波を迎えているかもしれません。その間に大手自動車メーカーの多くが行ってきた、大規模な電動化投資の影響を受けずに済みます」
「当分の間、EVの成長が小康状態にあることは、日本の自動車メーカー、特にEV新製品のポジショニングが弱い中小企業にとっては好都合かもしれません。スズキは依然として効率的で信頼性の高い小型車やトラックを販売しており、マツダは最新の内燃エンジン搭載クロスオーバーを市場投入したばかりで、スバルは手頃な価格の四輪駆動車を求める消費者にアピールし続けている。BEVモデルにシェアを奪われ始めるまでは、こうした中小企業は市場に強く受け入れられ続けるでしょう」
ガイトン氏は、このような需要の一服とEVのコストに対する反動によって、立法者が日本の見解に賛同し、純粋な排出量だけでなく大局的な見地から考えるようになると期待している。「科学技術は時間をかけて進化していかなければなりません。消費者の選択もまた、これを推進することになるでしょう」
「英国ではここ数日、(内燃エンジン車の販売禁止を2035まで年緩和することで)一歩後退したと思います。わたしはそれほど詳しいわけではありませんが、ある意味、消費者の選択肢という点では一歩前進かもしれません。どのような言説があったかは知りませんが、EVを義務付けるのではなく、炭素問題を解決する……世界的にそのような方向に進む可能性はあると思います」
「しかし、時間の経過とともに、消費者の選択とわたし達が持つ解決策の成熟は、期待できるものだと思います」
成熟した日本市場
日本の自動車販売台数は、今世紀初頭には年間600万台近くまで伸びたが、その後は400万台程度まで落ち込み、中国、米国、インドに次ぐ世界第4位の市場となっている。
ジャトー・ダイナミクスのシニアアナリスト、フェリペ・ムノス氏は日本市場を「成熟した市場であり、飽和状態で、保護されており、EVの導入にはまだ消極的」と評している。
ムノス氏によれば、日本国内のベストセラー車は固定的で、「基本的に変化しない」という。2016年はトヨタ・プリウスが国内ベストセラーだったが、それ以降は軽自動車のホンダN-BOXになっている。
「トヨタのコンパクトモデルや小型ミニバンとともに、軽自動車がリードし続けています。日本市場のもう1つの特徴は、SUVの牽引力が低いことです。基本的にSUVの人気が低い唯一の市場なのです。しかし、これはヤリスクロスによって変わり始めました」とムノス氏。実際、ヤリスクロスは2020年の発売以来、毎年ベストセラーのトップ10に入っている。
日本市場は「地場産業を保護するために輸入車に対してかなり閉鎖的」だとムノス氏は指摘する。しかし、電動車の普及が遅々として進まないことが、かえって国際的な意思決定における影響力の面で日本の足かせになっているという。
「この事実が市場に影響を与えています。軽自動車は輸出の可能性のない日本専用車であり、電動化は他の先進国のようには進んでいません。このことと、ハイブリッド車に多額の投資をしてきたトヨタが圧倒的な強さを誇っていることから、世界のトレンドに沿っていないのです」
「日本ブランドの大半が世界的な存在感を示すことで、国内での優位性を強固なものにしています。日本で販売されるモデルの大部分は国内に特化していますが、日本ブランドは海外での好調によってその資金を賄うことができるのです」
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