人気スニーカー系YouTuberの“福袋炎上騒動”から1年半「手元に残ったのは300円…」仲間の存在が心の支えに | ニコニコニュース
SNS全盛時代において、その影響力をうまく活用すれば、ビジネスに大きな効果をもたらす。その一方で、使い方を誤れば炎上騒動に発展し、自分の首を閉めることになる。まさに、諸刃の剣とも言えるSNSだが、タイ・パタヤ在住のスニーカー旅人系Youtuberのケンジさん(@NANTRATV1)さんも、かつてスニーカー福袋の件で炎上したひとりだ。
騒動直後には、自身の運営するYouTubeチャンネル「NANTRA TV」では、炎上後に頭を“丸刈り”にする動画を公開。深く反省の意を示し、しばらくは活動の休止を発表した。あの炎上騒動から1年以上経った今、けんじさんは当時を振り返り、何を思うのか。現在も、スニーカービジネスを行う原動力などについて話を聞いた。
◆福袋を「買う側から作る側へ」の転換
事の発端になっているのは、2022年12月にケンジさんが待望のスニーカーリセールショップ「RECEPTION」をオープンさせ、その記念企画として「スニーカー福袋」を発表した1本の動画だった。
「当時から“スニーカー福袋芸人”と呼ばれるほど、身銭を切って多数の福袋を購入し、開封する動画が人気コンテンツになっていたんです。自身のショップ開店を機に『福袋を買う側から作る側へ』に転じ、新たな挑戦に臨むところでした」
けんじさんが用意したスニーカー福袋の動画について説明すると、下は15000円から上は100万円と、全部で5種類の価格帯からなる福袋を用意。数量の関係から抽選制で販売し、当選者のみが福袋を購入できる企画となっていた。
これまで、たくさんの福袋を購入してきた経験があるからこそ、「どんなスニーカーが入っていれば喜ぶのか」という購入者目線を抑えたスニーカーの品揃えを意識し、“絶対に損はさせない”と謳った福袋販売を宣言したのだった。
◆当初は炎上の理由がわからなかった
スニーカー界隈では有名なYouTuberとして知られるケンジさんの取り組みに、期待感は一気に高まり、多くの申し込みが殺到。しかし、いざ年末年始に福袋を発送する段になって、事件は起きた。
「動画で言っていた福袋の内容が違う」「あれだけ購入を煽って、期待していたのに落胆した」「『当たり』なんて全然入っていない。『はずれ』のスニーカーばっかり」と批判が殺到したのだ。ケンジさんは当初、何が炎上の原因かがわからずに困惑したという。
「炎上の経緯を追っているうちに、スニーカーフリークに人気だった『ナイキ エアマックス 97 “シルバー バレット”』と『ナイキ エアフォース1 カラーオブザマンス』が入っていないことにイラ立ちを覚えた福袋の購入者から火がついたのがわかりました。また、オペレーションの都合で最初の配送便で外れだけ送ってしまったのも、炎上の火種になったと考えています」
◆炎上騒ぎを助長した「憶測」や「噂」
ケンジさん曰く、当たりの福袋も含め、年明け1月3日に購入者の元へ届くように設定していたそうだ。だが、宅配業者のシステム上、配送前に営業所へ行けば福袋を受け取れてしまっていた。つまり、まだ当たりを送っていない段階で、購入者が先んじて福袋を取りにいったことで「当たりが全然入っていない」という事態が起きてしまったのだ。
「炎上の理由が『外れしか入っていない』というものだったので、全部の配送を急ピッチで進めたんですが、『火消しのために当たりの福袋を送っている』と捉えられてしまって。さらに、年末年始の恒例である福袋という話題性も加わって、一気に炎上が拡大してしまいました」
また、ケンジさんは、信頼のある仕入れ先から新品として購入したものだけを福袋に入れていたので、スニーカーは全て新品そのものだった。しかし、理不尽にも「新品ではなく中古品が福袋に入っている」といった指摘がされてしまった。
「スニーカーフリークは紐が少しでもほどけていたり、箱が傷ついていたりすると、それだけで中古だと思ってしまう。運営者としては、箱が傷ついているからと返品を許してしまうと、箱をわざと壊して返品させるといった手口もあり得ると思ったので、全て返品不可と定めていました。それでも、購入者と僕たちの考えがマッチしていなかったのも、炎上の引き金になったのかもしれません」
◆YouTuber仲間がメンタル不調の支えになった
ケンジさんとしても、スニーカー福袋を販売するのが初の試みであり、完全に手探り状態だったわけだ。しかも、スニーカー福袋の仕入れコストと実売から得た利益を差し引いて残った利益は20万円以下。そこから手数料などの諸経費をさらに除くと、手元に残ったのはわずか300円ほどだった……。
「数か月の活動停止」を余儀なくされ、さらに炎上に伴う誹謗中傷や批判から心労を抱えてしまい、うつ病を患ってしまったケンジさんだが、その支えになったのは知人・友人の存在だった。
「スニ垢男子の今野さん(@suniakadanshi)や髭ミルクさん(@hige_milk369)、くろまなさん(@kuromanasnkrs)といったスニーカー系YouTuberの人たちが、相談に乗ってくれたり一緒にご飯へ行ってくれたりと、とても励みになりました。また、大阪でブランド古着の買取販売を行うブランドバイヤーズの社長も『炎上したなら、それをネタにするしかない』と言ってくれて。こうした色々な支えや働きかけがあって、無事に立ち直ることができたと思うと、今でも本当に感謝しています」
◆日本はスニーカーの返品が圧倒的に多い
もともとはタイの大学を卒業後、Airbnbの物件管理を手がける会社を起業したケンジさん。あるとき、自宅近くのスニーカーリセールショップの動画をYouTubeに上げたところ、再生数が予想以上に伸びたのがきっかけにスニーカー系YouTuberを志すように。
現在は活動の軸足を海外に置いてスニーカービジネスを行っているという。フィリピン、タイ、アメリカ、ロンドンなどで事業を展開しているそうだが、日本と海外におけるスニーカー市場の決定的な違いは何なのか。
「海外に比べて、日本は圧倒的に返品が多いと言われています。日本人は細かいというか、独特の美意識を持っており、配送時点で生じたほんの些細な汚れも指摘するなど、行き過ぎた“こだわり”が逆に日本のスニーカー市場が成長していく際の足かせになっているのではと考えています。ちなみに、僕がネットで炎上したことを海外の人に伝えると『クール』と言ってくれるんですよ。アメリカとかは“やったもん勝ち”の世界で、『目立つということは実力があること』だと見てくれるのも、日本と海外の炎上に対する捉え方の違いを感じました」
◆「リアルで会ったことのない人の意見は信じない」
炎上を乗り越えてわかったのは「直接的に被害に遭っていない人たちからの誹謗中傷が相次ぎ、気に入らないことは“叩く”ネットの習性を知れた」ことだったとケンジさんは言う。
「2022年の時期は、僕がスニーカーセレクトショップ『atmos』のYouTubeにも出演していたりと、界隈では有名だったことに対し、不平不満に思っていた人が、炎上を機に袋叩きにしたかもしれない。ネットには善良の人もいれば、陰湿な人もいるわけで、後者が中心となって炎上に便乗し、心ない言葉を浴びせてきたのだと思います。こうした経験から、自分とリアルで会ったことのない人の意見は、全く信じないようにするのが大事だと学ぶことができました」
◆3億円あれば日本のスニーカー市場は動かせる
今後もインドや中東など、スニーカー市場が未開拓な国も含め、海外でのスニーカービジネスに注力する一方で、世界最大級のスニーカーの祭典「スニーカーコン」を日本で盛り上げていきたいとケンジさんは語る。
「活動自粛中に海外へ渡り、いろんなご縁を経てスニーカーコンを主催するボスと知り合い、『ぜひ日本でも開催してほしい』と言われたことから、スニーカーコンの誘致をサポートしてきました。1月の名古屋、4月の福岡に続き、8月には東京の開催も決定しているので、そこに向けて準備を進めていきたい」
また、ケンジさんは「日本のスニーカー市場を動かせるくらいの影響力を持ちたい」と付け加える。
「スニーカービジネスはお金を回して金券を買っているようなものなので、資金力が生命線になります。そのため、銀行からの融資などの資金調達を行い、キャッシュを増やしていきたいとは思っています。僕の感覚的に『3億あれば日本のスニーカー市場は動かせる』と予測しており、これからもスニーカービジネスの可能性をもっと追求していきたいですね」
ケンジさんは「スニーカーは世界共通のコミュニケーションツールのひとつ」だと述べる。スニーカーへの「情熱」があったからこそ、炎上から立ち直ることができたのではないだろうか。
<取材・文・撮影/古田島大介>
【古田島大介】
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている