※本稿は、小林弘幸『腸を整えたければバナナを食べたほうがいいこれだけの理由』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■今、なぜ腸活をしなければならないのか
「腸は、第2の脳」「腸内環境が乱れると免疫力が落ちて、病気にかかりやすくなる」。体や心の健康に腸が重要だということが、昨今語られるようになってきました。
しかし、そのような情報が広まってきたにもかかわらず、特に最近、便秘や下痢など、腸の不調からくる、体や心の悩みを抱えている人が増えているように感じます。
その原因の1つとして、やはりコロナ禍における生活環境の変化があげられます。コロナ禍における激しい生活環境の様変わりや先の見えない情勢などにより、私たちはこれまで以上に、目に見えないストレスにさらされながら生きています。
そして腸は、神経やホルモンなどによって脳と密接につながっているため、環境の変化や不安によるストレスに敏感に反応してしまう臓器です。そのため、時代の波に翻弄(ほんろう)される今、腸は想像以上にヘトヘトになっていると考えられます。
メンタルとともに、肉体的な変化も腸に大きく関係しています。今、長引くコロナ禍の影響で、筋力が大きく落ちていることが考えられます。
厚生労働省が2021年3月に発表した「新型コロナウイルス感染症に係るメンタルヘルスに関する調査結果(報告書)」によると、新型コロナウイルス感染症の感染拡大前と比べて運動量が減ったと回答した割合は約4割に及びます。
運動と腸はどこか無関係のように感じますが、お腹の中を、背中から太ももの付け根にかけて斜めに通っている腸腰筋は、腸が便を押し出す働きを助けています。ほかにも、さまざまな筋肉が腸の活動にかかわっているのです。
■日本人は腸によくない生活を続けてきた
そもそも、コロナ禍以前から、日本人は腸によくない生活をしていたようです。その1つが、座りすぎです。世界20カ国・地域の成人を対象に、平日の総座位時間を調べたところ、日本人の中央値は1日420分(7時間)。全体の平均中央値である1日300分(5時間)より、2時間も長かったと2011年にシドニー大学の研究者が発表しています。
少し古いデータですが、まわりの方々の働き方を見る限り、さほど状況は変わっていないように感じます。座った状態が長いと、糖尿病、肥満になる危険性が高まる、発がんリスクや死亡リスクが高まるなどという研究結果が出ていますが、座っている時間が長いのは、腸にもよくありません。
腸内環境の乱れを引き起こす原因となる便。その便を出す蠕動運動が、座ったままの姿勢が長いと、滞ってしまう危険性があるからです。普段から腸が疲れていたのが、このコロナ禍でのストレス増加、運動不足によって、状況が悪化した方も少なくないだろうと想像できます。
また、腸内環境の悪化と密接な関係があるといわれるうつ病。そのうつ病に悩む方が、コロナ禍になって増えたという話を聞きます。これも今、多くの方の腸内環境が乱れているということを象徴しているといえるかもしれません。
今現在は、コロナ禍が落ち着き、それまでの日常に戻りつつありますが、戻ったことによる環境の変化がストレスになり、より腸内環境を悪化させることも考えられますし、そもそも、コロナ禍で悪化した腸内環境が急によくなることはありません。
さらに悪化してしまい深刻な事態に陥らないよう、今、腸内環境を整え、ヘトヘトになっている腸を元気にしておくことが大切なのです。
■おならが異常に臭いのは腸が疲れている証拠
しかし、「最近、腸が疲れている」と実感することは、あまりないと思います。
ひどい便秘や下痢が何週間も続けば、「さすがに何かおかしいのかも……」と思うかもしれませんが、数日間だと気がつかない、もしくは気がついても放っておくという方も少なくないのではないでしょうか。
私が診る患者さんも症状がひどくなってからクリニックを訪れる方がほとんどです。その放置がどんどんと腸を疲れさせ、「やる気がでない」「体がだるい」「風邪などの病気にかかりやすくなる」「やせられない」「肌が荒れる」「よく眠れない」といった、体と心の不調を引き起こします。
さらには、うつ病や大腸がんといった病気につながる危険性も高まっていくのです。そうならないためにも、早めに腸の疲れに気がつくことが大切です。たとえば、起きたときに、おへそのまわりを触ることを習慣化してみてください。
いつもより冷たさを感じたら、腸が疲れている可能性があります。おならが異常に臭いのも、腸が疲れている危険性が……。ぜひ、「腸疲労チェック」を試してみてください。簡易的なものですが、腸がどれだけ疲れているかをはかる目安になるはずです。
■腸を整える最高の栄養素
腸を整えて元気にするために運動と食事に気をつける必要があります。食事のほうが新しい習慣をはじめるわけではなく、食生活を見直すだけなので、取り組みやすいかもしれません。
「善玉菌が含まれているヨーグルトなどの発酵食品を食べて腸内環境を整えて、腸を元気に!」といった内容の言葉を耳にしたことはないでしょうか。腸内には、さまざまな種類の腸内細菌がすんでおり、その数は100兆個、重さにすれば1.5kgほどあるといわれています。
腸内細菌の中でも、腸内の悪い菌の増殖を抑えるなど、腸を含めた体にいい成分を作り出す「発酵」を行うものを善玉菌、逆に水素やアンモニアといった体に悪い成分を作り出し「腐敗」を起こす菌を悪玉菌と総称しています。
乳酸菌や麹菌などの善玉菌を含む、ヨーグルト、みそ、納豆、ぬか漬けやキムチ、酢や甘酒、チーズといった発酵食品を食べて、腸内の善玉菌を増やすという食事法があります。
個人個人によって腸にいい発酵食品は違うというのが定説です。多様性が豊かな社会を生むといいますが、それは腸の世界でも同じで、どれか1つを食べ続ければいいというわけでもなく、自分の体調の変化を気にしながら、自分に合う、2種類ぐらいの発酵食品を食べるのがよいでしょう。
■食物繊維で善玉菌が元気になる
ただし、食事によって取り込んだ善玉菌が、腸ですぐに元気に活動しはじめるかというと、どうも話はそう単純ではないようです。腸内では、腸内細菌たちがともに助け合い共生しながらも、同時に激しい生存競争が日夜繰り広げられています。
古参の菌たちが幅をきかせている中で、新参者の菌が生存するのは難しく、なかなかすみつくことができないので、定期的に善玉菌を摂取して腸に送り込むことが大切だということがわかってきています。
同時に目を向けたいのが、なかなか新しい善玉菌が定着しにくいのであれば、腸の中にすでにすんでいる善玉菌を元気にして、増殖させていく方法です。
腸の中にいる善玉菌を元気にするには、次の2つのことが大切です。
・腸を善玉菌が居心地のいい環境にする
・エサとなるものを与えて元気にする
おいしいものを食べて、快適な空間で働ければ、元気になる。人間と同じですね。
そして、この2つを実現するために役立つのが食物繊維です。食物繊維は、人の消化酵素で消化されない成分です。つまり、腸に直接作用してくれます。
■便は悪玉菌のエサになる
食物繊維は、水に溶けるか溶けないかで、2種類に分けられるのが一般的です。腸内を善玉菌の居心地のいい環境にしてくれるのが、水に溶けない「不溶性食物繊維」です。
善玉菌にとって居心地のよい快適な空間というのが、便がたまっていない環境です。便がたまってしまうと、便がエサとなって悪玉菌が増え、善玉菌にとって居心地の悪い環境になってしまいます。
不溶性食物繊維は、水分などを吸収する性質を持っており、
・水分や老廃物などを吸着して、便のかさを増やす
・腸を刺激して蠕動運動を活発化し、排便を促す
といった2つの効果があります。つまり、便を排除し、腸を善玉菌にとってすみ心地のよい環境にしてくれるのです。不溶性食物繊維は、にんじんやごぼうといった根菜類、小麦、ライ麦といった穀類、ほうれん草、レタスといった葉物の野菜、枝豆などの豆類、きのこなどに含まれています。
そして、善玉菌のエサとなるのが、もう1つの食物繊維「水溶性食物繊維」です。水溶性食物繊維は、昆布、わかめ、こんにゃく、里いもなど、ネバネバ、ヌルヌルしたものやごぼうなどに多く含まれています。水に溶けるとどろどろのジェル状に変化し、善玉菌のエサになるだけでなく、便をやわらかくして出やすい状態にもしてくれます。
先ほど、発酵して、腸を含めた体にいい物質を生み出すのが善玉菌と説明しましたが、ほとんどの水溶性食物繊維が、そのいい物質を生み出すための善玉菌のエサとなります。
■ハイパー食物繊維「レジスタントスターチ」とは何か
最近では、このような善玉菌のエサとなる食物繊維を「発酵性食物繊維」とも呼ぶようになっています。つまり、「この2種類の食物繊維を摂取するということが大切」ということなのですが、そのほか、最近、注目を集めているのが「レジスタントスターチ」です。
レジスタントスターチは、「消化されない(レジスタント)」「でんぷん(スターチ)」という意味で、その名の通り、食物繊維と同様、消化されずに大腸まで届いて作用してくれます。そのすごさは、「不溶性と水溶性(発酵性)、2つの食物繊維の機能を兼ね備えている」ところです。
善玉菌がすみやすいように腸をきれいにし、なおかつエサとなり元気にさせる、まさに「腸活の二刀流」といった働きをみせてくれます。
その効果から、食物繊維を超越しているという意味合いを込めて「ハイパー食物繊維」という異名を持っています。レジスタントスターチは、大麦などの穀類、さつまいも、じゃがいもなどのいも類、米にも多く含まれています。
■「バナナ腸活」が最適である理由
私が、バナナを食べる腸活、名付けて「バナナ腸活」をおすすめする理由が主に2つあります。
1つが、バナナは、不溶性、水溶性(発酵性)の2種類の食物繊維を含むだけでなく、このハイパー食物繊維「レジスタントスターチ」を多く摂れるという点です。
主食であるパンやごはんにも、レジスタントスターチが含まれています。ごはんは冷やすとレジスタントスターチが増えるという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
バナナは成熟具合によって、レジスタントスターチの量が異なるので選び方にはちょっとした工夫がいりますが、毎日摂取しやすいそれらの主食と比べると、より多くのレジスタントスターチが含まれています。
ただ、単純に量でみると、ごぼうのほうが不溶性も水溶性(発酵性)も食物繊維の量が多いです。また、特に、ふかしてから冷やしたじゃがいもなどには、バナナよりもレジスタントスターチが多く含まれます。
でも、ごぼうを使った料理を毎日考えて作って食べたり、ポテトサラダなどのふかしてから冷やしたじゃがいもを使った料理を毎日作ったりするのは、しんどいですよね。先にあげた発酵食品も同様です。食べ続けられる人は、ぜひ意識的に食べ続けてほしいのですが、しんどいと、続かない。続かないと意味がないのです。
■腸活は一日にして成らず
「バナナ腸活」をおすすめする理由の2つ目が、食べやすさです。前述したように、どんなに効果がある方法でも、途中でやめてしまえばその努力が水の泡となってしまいます。
その点、バナナなら洗わず、包丁もいらず、皮をむけばすぐに食べられます。持ち運びもしやすいので、仕事先や外出先でも食べられるのです。しかも、スーパーやコンビニなどさまざまなところで売っていて、全国どこでも1年中手に入る。
実は、このように手軽にいつでもどこでも食べられる食材は、そう多くはありません。さらにいえば、バナナは、よく食べる果物ランキングで継続して1位をとるほど、老若男女が味になじみのある、食べやすい食材です。
くり返しになりますが、腸内環境の改善には「腸活を継続すること」がとても重要です。使い勝手の面からも、入手のしやすさの面からも、味の面からも、継続しやすいバナナこそ、本気で腸を整えて元気にしたい人に、おすすめできる食材だと私は考えます。
■1日2本、皮をむいて食べるだけでいい
では、いよいよ「バナナ腸活」のやり方を話していきましょう。まず、1日にどれだけ食べればいいのでしょう。さまざまな検証、研究を重ねて出た結論が、1日2本です。
順天堂大学漢方先端臨床医学研究室と小林メディカルクリニック東京の共同チームで、健常な成人男女20名を対象に実験を行いました。1日2本のバナナを食べる・食べないの2つのチームに分けて、腸内環境、ストレス症状、免疫の状態、自律神経の活動、気分のアップダウンなどメンタル面が2週間でどのように変化するのかを検証するという試みです。すると、約半数の方々に、次のような結果が得られたのです。
・腸の環境改善
・自律神経の活性化
・ストレス改善
・気分改善
という4つの効果が見られ、2022年、日本抗加齢医学会で発表しました。今回、2週間の「バナナ腸活」によって、両方(交感神経・副交感神経)の自律神経が活発化された状況に近づいたというわけです。
さらに、副交感神経が優位に働いている=リラックスした状態になっているというのは、ストレスがたまりやすく、交感神経が優位に働きやすい時代において、非常によい結果が出たといえるのではないでしょうか。また、今回の研究で、腸や自律神経が整うことによって、ストレス改善など気持ちの面での実感があったという結果が出たのは、非常にうれしい限りです。
「病いは気から」といいますが、メンタルの不調は体の不調の現れでもあり、メンタルが改善したということは、腸を含め、体が健康に向かっている証拠ともいえるのではないでしょうか。
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順天堂大学医学部教授
1960年、埼玉県生まれ。順天堂大学医学部卒業後、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人のコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した“腸のスペシャリスト”としても有名。近著に『結局、自律神経がすべて解決してくれる』(アスコム)、『名医が実践! 心と体の免疫力を高める最強習慣』『腸内環境と自律神経を整えれば病気知らず 免疫力が10割』(ともにプレジデント社)『眠れなくなるほど面白い 図解 自律神経の話』(日本文芸社)。新型コロナウイルス感染症への適切な対応をサポートするために、感染・重症化リスクを判定する検査をエムスリー社と開発。
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