「59平方メートルの2LDKで子ども3人の個室はつくれるか」一級建築士が知恵を絞りつくした結果 | ニコニコニュース
■「部屋割り」次第で5人家族でも2LDKに住み続けられる
新築やリノベーション・模様替えなど、多くの住まいづくりに携わっていますが、「住まい」に関しての切実な悩みは「収納」と「子ども部屋」だと感じています。とくに「子ども部屋」ですが、3LDKや4LDKなど、子どもの数だけ子ども部屋がある間取りは問題ありません。
しかし、2LDKなど狭い間取りに住んでいる家庭も多く、とくに勉強に集中させてあげたい中学受験や、こころの成長過程でもある思春期を控えている子どもがいる家庭では「そろそろ子ども部屋をつくってあげたい」と悩む人が多いのです。そこで、いまより広い間取りへ引っ越しをするか、または、いまの住まいでなんらかの工夫をするかの選択肢が迫られます。
結婚して夫婦二人暮らしの時は、住居費を抑えるため家賃の低い2LDKに住んでいる夫婦が多いと思います。しかし子どもが一人、二人と生まれ、家族が増えると、当然ですが2LDKの間取りでは狭くなってきます。また、前述しましたように、中学受験や思春期を控えた家庭では子ども部屋を用意してあげたいという思いも強くなります。その場合、はじめに考えられるのは、広い間取りへの引っ越しです。
■引っ越すより同じところに住んだ方がコスパが高い
しかし、引っ越しにかかる出費は、家賃20万円の物件の場合、敷金や礼金・仲介手数料などだけでも83万円(内訳:敷金、礼金、前家賃、仲介手数料が各20万円、鍵交換や火災保険料などが3万円)ほどかかり、引っ越し料金(家族4人の場合の平均が15万円程度)と合わせると98万円と高額になります。
これから教育費が重くのしかかる子育て世代にとっては、たいへん高額な出費になります。このような理由から、引っ越しをあきらめる家庭も多いのです。また、「時期を見て家を購入する予定がある」「親世帯と同居のため引っ越しできない」「独身時代に購入したマンションのため、ここに住みたい」など、金銭面以外にも住み替えを選ばない家庭も多く、そういった理由からも、いまの住まいを工夫して住み続けることが大切になってきます。
では、どのような工夫で、いまの狭い住まいに子ども部屋をつくるのでしょうか。そのカギは「部屋割り」にあります。部屋割りとは、「どの部屋を誰の部屋として使うか」「どの部屋をどのようにして使うか」ということで、部屋の役割を決めたり、ときには部屋のなかに別々の部屋をつくったりすることです。
この部屋割りを使うことで、狭い住まいでも子ども部屋をつくることはできるのです。そして、この部屋割りを、子どもの成長や家族の変化など、ライフスタイルに合わせて上手に変えていくことで、引っ越しや住み替えをしなくても、ずっといまの住まいに住み続けることができます。では、部屋割りの具体的な方法を2LDK5人家族(夫婦+長女・長男・次女)の例をもとに、見ていきましょう。
■将来に備え、夫婦2人でもモノの買いすぎに注意
<ライフスタイルその1>結婚~新婚生活の部屋割り
図表1は2LDK59.38m2、都心マンションの間取りです。2LDKなので12.3畳のLD以外に4.3畳と5.7畳の洋室、キッチンがありますね。この2つの洋室とLDを、子どもの成長などライフスタイルの変化に合わせて、上手に部屋割りしていきましょう。まずはじめは夫婦二人・新婚生活での部屋割りのようすです(図表2)。
この時期の部屋割りは、家族がふたりなので、とくに難しいことはありません。洋室1は夫婦の寝室、洋室2は収納部屋、LDはLDのまま使用します。洋室2は収納部屋として使用するため、いらないモノを買っても、この時期は収納に困ることはありません。しかし、今後家族が増えていくと、洋室2は子ども部屋または夫婦の寝室などに変わっていくため、収納部屋としては使用できなくなります。そのため、この時期はモノの買いすぎに注意して、収納部屋があっても、むしろいらないものは減らす心構えでいると、今後の部屋割りもスムーズにでき、また家族が増えてもモノの収納場所がなくて困るということが減ります。
また、家具や収納を購入するときは、部屋割りが変わっても使えるような、永く使えるものを選ぶことをお勧めします。永く使うことで、新たに家具や収納を購入・廃棄する手間や出費を省くことができ、なによりもエコで環境にやさしい生活が送れます。
■幼児期までベッド購入はNG
<ライフスタイルその2>子どもが赤ちゃん~幼児期の部屋割り
つぎに、子どもが3人誕生して、赤ちゃん~幼児期までの部屋割りを見ていきましょう。図表3のようにLDと洋室2の収納部屋はそのまま使い、洋室1を「部屋割り」します。例えばですが、「夫婦の寝室」として使用していた洋室1を、「家族の寝室」として部屋割りします。狭い住まいにベッドを置いてしまうと、どうしても窮屈になってしまうため、まだ子どもが小さいうちは布団を敷いて家族全員で就寝するようにするのです。またライフスタイルの変化に合わせて部屋割りを変えるときに、大きな家具であるベッドは動かしにくいため、子ども部屋をつくる時期までは、なるべく布団で寝ることを検討してみてください。
<ライフスタイルその3>子どもが小学生~リビング学習期の部屋割り
つぎは子ども3人が小学生(長女:小学6年、長男小学3年、次女:小学1年)の時期の部屋割りを見ていきましょう。小学生のあいだは、学習習慣をつけるため、リビングなど、親の目が届きやすい位置に、学習空間を部屋割りする「リビング学習」がおススメです。そうすることで、子どものようすを見守ることもできますし、また子どもにとっても親が近くにいることで、安心感を得ながら学習に取り組むことができます。
図表4は、LDのなかに「リビング学習」部屋を部屋割りし、「収納部屋」だった洋室2を「夫婦の寝室」として、また「家族の寝室」だった洋室を「子ども寝室」として部屋割りしたようすです。LDの「リビング学習」部屋には子ども3人それぞれの専用デスクと収納ワゴンを置き、また本棚を置きます。
「子ども寝室」には2段ベッドと布団を敷いて、子ども3人の共同の寝室として使います。収納家具も置いて、掃除から衣服や雑貨の管理まで、兄弟姉妹で話し合い、支えあいながらできるようにすると、協調性が育ち、また思考力も育ちやすくなるようです。
■リビングを区切って子ども部屋を確保
<ライフスタイルその4>子どもが中学生以降~性別による部屋割り
子どもが中学生以降になると、思春期にさしかかります。思春期には、狭くてもよいので一人になれる自分のスペースを用意してあげましょう。また勉強も難しくなってくるため、落ち着いて学習に集中できる環境が大切です。そのため、リビング学習は卒業して「子ども部屋」をつくってあげましょう。この「子ども部屋」の部屋割り方法ですが、大きく2つの方法があります。
ひとつの方法は、図表5のように、兄弟姉妹の性別により部屋割りする方法です。この方法は、狭い住まいでもできるだけ部屋を広く使いたい場合に向いています。また二人で使用する共同部屋になる場合は、協調性が育ちやすく、引きこもりなどの問題も起きにくくなります。例えばこちらのご家族の場合、長女・長男・次女なので、「子ども寝室」だった洋室を姉妹2人で使用する「女の子の部屋」として、また「リビング学習部屋」だった場所を、長男が使用する「男の子の部屋」として部屋割りします。
「男の子の部屋」は、個室として独立性を高めるため、LDとのあいだに間仕切りを設置します。この間仕切りは、天井と床に突っ張るタイプのもので、通販サイトなどで手軽に購入できます。ロールスクリーンの扉がついたものとあわせて使えば、個室のようになります。
姉妹2人で使用する「女の子の部屋」には、2段ベッドを置きます。2段ベッドは高さが高いため、マンションやアパートの場合は天井から下がる梁(はり)やエアコンの位置に注意して、設置場所を選んでください。この部屋割りは「夫婦の寝室」や「LD」はそのままで、リビングの一部と洋室1のみを変更するので、比較的手軽に部屋割りの変更ができます。
■ロフトベッドなら3畳でも個室が確保できる
<ライフスタイルその4>子どもが中学生以降~1人部屋の部屋割り
「子ども部屋」をつくるもう一つの部屋割り方法は、子ども一人ひとりに「子ども部屋」をつくる方法です。子どもに「個室」を与えることでプライバシーが守られやすいですが、狭い住まいに個室をつくることで、より圧迫感がでやすいというデメリットもあります。例えば図表6のように、「子ども寝室」だった洋室を「夫婦の寝室」、「夫婦の寝室」だった洋室を「長女の部屋」として部屋割り変更をします。またダイニングの位置を移動し、「キッチン」「LD」のとなりにそれぞれ「長男の部屋」と「次女の部屋」をつくります。
「LD」と「次女の部屋」のあいだには、市販の突っ張り式間仕切りを使用します。ロールスクリーンの扉がついた簡易設置できるものを使うことで、手軽に個室をつくれます。「長男の部屋」へは、「LD」から「キッチン」を通ってアクセスします。「キッチン」と「長男の部屋」のあいだには、おなじくロールスクリーンの扉を設置します。また「長男の部屋」と「次女の部屋」の間仕切りはパネル型のものを使うことで、個室としての独立性を高めます。この2人の部屋は、それぞれ3畳程度と、スペース的に余裕がないので、部屋の高さを有効に使うことができる「ロフトベッド」を使用します。ベッドの下に学習机などを置けるため、狭いスペースでも、子ども部屋を整えることができます。
間取りの制限上、長男の子ども部屋にはキッチンからしか入れない、次女の子ども部屋は、ほかの家族がバルコニーに出るときに、出入りされるなどのデメリットもありますが、独立性が高いため、子どもに一人部屋を与えたいと考える場合は有効な方法です。
■部屋割りを工夫して住居費を大幅に節約
<ライフスタイルその5>子どもが独立~夫婦の部屋割り
最後になりますが、子どもが独立した後の部屋割りも考えてみましょう。長い人生の中で、じつは子どもと一緒に暮らす期間は驚くほど短いものです。
生まれたばかりの赤ちゃんが大学進学のタイミングで実家を出て行くと仮定すると、親子が一緒に暮らす期間は、たった18年間。90歳まで生きるとすれば約5分の1しか一緒に暮らさないのです。そのかわり、子どもが独立後に夫婦で暮らす期間は、子どもが50歳で独立したと仮定すると、残り40年。じつに子どもと暮らす期間の2倍以上の期間を夫婦で暮らすことになります。そのため、子どもが独立した後の夫婦の部屋割りはとても大切になってきます。
この部屋割りの際に、大切なことは「寝室を一緒にするか、別にするか」です。長い時間ともに暮らしていると、就寝や起床などの生活習慣が違ってくることも増えてきます。また快眠できる温度なども違ってきます。そういった観点からも、今後長い期間をともに暮らす夫婦の部屋割りを、二人でよく話し合い、考えていく必要があります。
例えば図表7は、洋室1を「夫の寝室」、洋室2を「妻の寝室」とした夫婦別室の部屋割り例です。それぞれの部屋にベッドや机・収納を置いていますので、気兼ねなく趣味などの作業や就寝ができます。
このように、狭い住まいでも部屋割りなどの工夫をすることで、ライフスタイルの変化に合わせた住まいを実現できます。また住み替えや引っ越しなど、生涯支払う住居費も大幅に節約できます。住み替えを考える前に、一度、今の住まいがどのように工夫できるか検討してみることをお勧めいたします。
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300軒以上のリビング・寝室・子ども部屋の模様替えを行い、模様替えのスペシャリストとしてTVや雑誌でも活躍。近著に『狭い部屋でも快適に暮らすための家具配置のルール』(彩図社)がある。
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