水が染み込まない新しい紙ストロー
ところが、プラスチックのストローに慣れた人々からは、「すぐにふやける」「口触りが悪い」「使いにくい」といったネガティブな感想が溢れています。
使用感の良い紙ストローが求められているのです。
こうした需要に応じ、韓国化学研究院(KRICT)に所属するオ・ドンヨプ氏ら研究チームは、生分解性100%の「ふやけない紙ストロー」を開発することに成功しました。
研究の詳細は、2022年11月20日付の科学誌『Advanced Science』に掲載されました。
従来の紙ストローはふやけてしまう
紙だけで作られるストローは、水分を吸ってすぐに使えなくなります。
そこで従来の紙ストローには、紙コップの仕様と同じく、ポリエチレン(PE)など非生分解性プラスチックのコーティングがなされていました。
当然、これらコーティングは完全に分解されず、マイクロプラスチックとして海に蓄積する恐れがあります。
「プラスチックを使わないために、プラスチックのコーティングを用いる」というのは、なんとも矛盾をはらんだ方法です。
そこで登場したのが、ポリブチレンサクシネート(PBS)などの生分解性プラスチックのコーティングです。
現在の紙ストローには、このPBSが採用されたものも存在しますが、コーティング能力が高くないため、完全な解決策にはなりえません。
紙への接着性が悪いため、どうしても不均一なコーティングになってしまい、そこから液体が侵入してしまうのです。
結局紙ストローは長持ちせず、ドリンクに浸した部分や口に咥えた部分からふやけてしまいます。
また露出した紙のザラザラな表面によって、炭酸飲料を飲むと泡立つというデメリットもあります。
ちなみに、紙ストローの代替品には、トウモロコシなどから得られるポリ乳酸を原料にした「PLAストロー」も存在します。
こちらは生分解性プラスチックであるものの、海洋生分解性プラスチック(海洋流出後も生分解性を有するプラスチック)ではないことが実験で確認されています。
では、「生分解性100%のふやけない紙ストロー」は存在しないのでしょうか?
オ・ドヨンプ氏ら研究チームは、人々の需要を満たした新しい紙ストローの開発に成功しました。
生分解性100%の「ふやけない紙ストロー」
研究チームは、紙ストローに使用されているコーティングを改良することにしました。
生分解性をもつポリブチレンサクシネート(PBS)に、少量のセルロースナノクリスタル(CNC)を加えたのです。
セルロースとは植物細胞壁の主成分であり、もともとは紙と同じ素材です。
当然、生分解性をもち、最終的には水と二酸化炭素に分解されます。
チームはこのセルロースからナノサイズの結晶材料(CNC)を抽出し、PBSに追加しました。
CNCは紙と性質が非常によく似ているため、PBSの弱点だった「紙への接着性」を高めることを期待したのです。
いくらかの調整の後に生まれたコーティング「PBS/BS-CNC」は、従来品よりも紙に対して高い接着性を示し、均一なコーティングが可能になりました。
そして研究チームは、PBS/BS-CNCでコーティングされた紙ストローの耐久性を試しました。
冷たい飲み物や温かい飲み物、また様々な種類の飲み物(水、お茶、炭酸飲料、牛乳、脂質を含む飲料)をかき混ぜたり、長時間浸したりしても、ストローはふやけませんでした。
また、5℃の冷水に1分間浸した後、50g以上の重りをつけてもあまり曲がらないと判明。
一方、PBSストローは、同じ条件で25gの重りにさえ耐えられず、大きく曲がってしまいました。
さらに、海洋生分解性を試すテストでは、プラスチックストロー、従来の紙ストロー、PLAストロー(トウモロコシ素材)、今回のPBS/BS-CNCストローを実際の海岸(1.5-2mの深さ)で、海水に浸し続けました。
その結果、プラスチックストローとPLAストローは、120日経っても分解されませんでした。
そして非生分解性プラスチックでコーティングされたであろう従来の紙ストローは、総重量のわずか5%しか減りませんでした。
しかし新しいPBS-CNCストローは、60日後に50%以上が減り、120日後には完全に分解されました。(PBSだけのストローも、同じく完全に分解されました)
新しい紙ストローは、土だけでなく海でも100%生分解し、使用中にふやけることもないのです。
近い将来、現在の「使いにくい紙ストロー」に取って代わることを期待したいものです。