気合や我慢の“根性論”では無理? 高齢者の願い「子どもに迷惑をかけたくない」を実現する、たった一つの方法 | ニコニコニュース
高齢期のライフスタイルの充実について調査・研究・提言するNPO法人「老いの工学研究所」理事長を務めている筆者が、高齢者と接していて、最もよく耳にするのは「子どもに迷惑をかけたくない」という言葉です。お墓や葬儀、相続などのこともありますが、ほとんどの場合、介護が必要になって子どもたちに苦労や心配をかけるのは避けたいというものです。「ピンピンコロリ」「死ぬなら、がんが一番よい」とおっしゃる人がいるのも、介護の負担が子どもに及びにくいからというのがその真意でしょう。
ただし、深く話を聞いてみると、「迷惑をかけたくない」には単に「負担をかけたくない」というだけでなく、もう少し複雑な面もあるようです。
例えば、「重い介護状態で身の回りのことが自分でできないのは、自立や尊厳に関わるもので、自分も子どもにも耐え難いし恥ずかしいだろう」といった気持ちです。自分の意思で、自分の思うように行動できない人になってしまうのは、所属していた集団やつながっていた人間関係を失うことと同じで、それによって子どもたちへの依存を強めてしまうのではないかという想像も働いているように思います。
もっとも、そこまでの介護状態になる可能性は低いので(例えば、80代後半で要介護2以上の人は約23%、要介護3以上だと約15%しかいません)、悪い想像をし過ぎて、せっかくの高齢期をネガティブな発想で暮らすのはよくありませんが、可能性が低いとはいえ、人生の終盤を迎えて「子どもに迷惑をかけたくない」と願うのは当然です。では、どうすれば実現するのでしょうか。
気合も我慢も「意味がない」
「自分は何でもできるし、これからも頑張って同じようにやっていくつもりだから、おまえたちに迷惑をかけることはない。心配するな」と胸を張って言うお年寄りがいます。その気概は立派ですし、それなりの努力もしておられるのだと思いますが、だからといって転倒や骨折をしないわけではありませんし、脳や心臓の疾患で体調が急変する事態がないわけではありません。気合では乗り切れないということです。
「年を取ったから余計なことはせず、ここで今まで通りの生活を続けていくから、心配しないで」と言う人もいます。周辺環境が変わって会話や交流の機会が減っても、外出や家事がおっくうになってきても、事件や災害のニュースを見て不安になっても、我慢するしかないという姿勢は子どもを思いやってのこともあるのでしょう。しかし、そうはいっても限界があり、交流や運動が減ったり、ストレスを抱えたままの状態でいたりすると心身の衰えが加速しますし、事故や病気のリスクも大きくなります。
「夫婦2人とも元気だし、どちらかが不自由な状態になっても助け合って暮らすから、大丈夫。子どもに負担をかけることはない」と考える人もいます。「老老介護」を受け入れる覚悟かもしれませんが、若い世代でも介護は大変な仕事なのに、老いてから介護をするのは想像を超える重労働になります。「助け合って」とはいってもどちらかが先に亡くなるわけですから、1人暮らしになったときに問題なく暮らせるかどうかも考えておく必要があるでしょう。また、もし2人とも要介護状態になれば、子どもの負担や心配はより大きなものになってしまいます。
高齢期が数年しかないなら気合や我慢も分からなくはありませんが、20年、30年となる可能性もあるわけですから、そのような暮らし方は、子どもに迷惑をかける時期がせいぜい先延ばしになるだけであって、それはすなわち「子どもたちに心配をさせている期間が長くなる」のと同じことです。
「子どもに迷惑をかけなくて済む」環境を
内閣府の「高齢社会白書」(2019年版)によれば、介護が必要になった主な原因の上位は、「認知症」「脳血管疾患(脳卒中)」「高齢による衰弱」「骨折・転倒」となっています。であれば、子どもに迷惑をかけないためには、これらを防止、あるいはこれらへの素早い対処体制があればよいということになります。
会話や社会参加、運動が盛んな場所にいれば認知症の防止になりますし、高齢による衰弱も予防できます。脳卒中になったときにも、すぐに助けが呼べて対応してくれる人がいれば、後々の症状が全く違ってきますし、段差や階段が少ない家、歩きやすい環境に住めば、骨折や転倒も未然に防げるでしょう。
子どもに迷惑をかけないためには、気合や我慢といった根性論で終わらせるのではなく、「要介護になりにくい環境に住まう」という具体的な行動が必要だということです。もちろん、年を取って家財道具を整理したり、環境を変えたりするのは大変でしょうが、住み替えを含めて高齢期にふさわしい環境を整えた高齢の方々は、何年にもわたって子どもに負担を負わせ続ける可能性を考えて、その大変さを乗り越えられたのだろうと思います。
子どもに負担を負わせず、不安を与えない高齢期を実現するには、高齢期の心身の状態や高齢期特有のリスクに見合った環境や住まいを手に入れることが、おそらく最も重要であり、筆者には他の方法が見当たりません。そして、高齢期にふさわしい環境は、「子どもに迷惑をかけない」だけでなく、自立した暮らし、自律的な生活や尊厳、人間関係の維持と帰属、承認欲求の充足といったさまざまな要素も満たすことになるはずです。
NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕