「冷房代を節約するのは危険」一級建築士が警告する“深刻なリスク” | ニコニコニュース
こんにちは、一級建築士の八納啓創と申します。会社員の方から上場企業の経営者宅まで、住む人が幸せになる家をテーマにこれまで120件の家づくりの設計に携わってきました。 『日刊SPA!』では、これまでの経験を生かし、「これからの時代に必要な住まいの姿」をテーマにお伝えしていきます。
◆高すぎる電気代にどう向き合うか
2023年6月に電力会社が軒並み電気代を値上げしたことで、新型コロナが流行する前と比べると電気代がおよそ2倍近くになりました。これにより多くの人が、家計を圧迫されて苦しんでいるかと思われます。
今後、電気代はどのようになっていくのでしょうか? 為替などの関係で円安が続いている影響もあり、海外から輸入する燃料代自体もどんどん値上がりしています。そういったことからも、電気代をはじめ、燃料代はますます高騰することも予想されます。
さて、光熱費削減に関して、多くの人が見落としがちな盲点があります。ここからは、光熱費削減を賢く行いながら、生活水準を下げずに快適な住環境を維持する方法を紹介していきます。
◆「冷房と暖房」のエネルギー消費量はこんなに違う
TVやインターネットでは、光熱費の削減に一番つながる方法として「冷房の節約」を紹介しています。もちろん、光熱費削減につながりますが、冷房を節約する前に知っておいてもらいたいことがあります。
それは、一戸当たりの年間エネルギー消費量からみると、冷房代はその内訳のたった2%程度しかないという事実。
資源エネルギー庁の調査によると、暖房の26.7%に比べて冷房のエネルギー消費量は2.2%。なんと暖房の12分の1程度しかありません。
「冷房も結構使っているけど、どうして暖房とこれだけ差があるの?」と不思議に思う人もいるかもしれません。
実は理由は明確です。暖房の時は、外気温が5度で20度設定にするとその差は15度。冷房の時は、外気温が30度で25度設定にすると、その差は5度あります。これらに加えて、例えば東京であれば暖房を使う期間は、11月~3月の5か月ほどでしょうか。対して冷房は、7月~9月の約3か月程度と短いですよね。
このように、冷房のエネルギー消費量は、暖房に比べて非常に少なく思えるでしょう。そして、この“意外とコストのかからない”冷房を節約してしまうすることで大きな問題が2つ起こり得るのです。
◆冷房を節約して起こるリスクとは…
暑い環境に体が適応できず、体温の調整がうまくいかなくなり、汗をたくさんかくことで、体内の水分や塩分のバランスが崩れることが原因。おもな症状は、めまい、だるさ、吐き気、嘔吐などです。
近年、家庭で熱中症にかかる高齢者が増えており、住宅での発生率が半数を超えています。ここからも、高齢者は冷房を節約することによるリスクが高いと分かります。
そしてもう一つが、「ダニの大発生」です。それは2011年の東日本大震災の年の夏のこと。電気を出来るだけ使わないよう、国民が一丸となって取り組んだ年でもあったのですが、冷房を使わなかったことが災いしてか、家庭内でダニが大発生したケースもあるようです。
気管支喘息やアレルギー性鼻炎など、ダニによる、健康被害は多岐に渡ります。先述した通り、年間エネルギー消費量が全体の2%で、暖房のエネルギー消費量の8%程度である冷房を節約したとしても、健康リスクが付きまとうと考えれば、本末転倒になりかねません。
しかし、何か対策をしない限り、光熱費を押さえることができません。そこで、猛暑を乗り切るために有効な手段をお伝えしていきましょう。
◆意外と侮れない「フィルター掃除」
はじめに取り組んでいただきたいのが「エアコンフィルターの掃除」です。これまでエアコンフィルターの掃除をしたことはありますか?
実は、エアコンの効きは、フィルター掃除をすることで、まるっきり変わってきます。
最近は「自動お掃除機能付きエアコン」も出ていますが、このエアコンもフィルター掃除が必要です。しかしこのフィルターのメンテナンスがし難い構造になっているのがデメリットなので、フィルター掃除は専門業者に依頼したほうがいいでしょう。
普通のエアコンの場合は、手軽にフィルター掃除が可能です。最低年に1度は行いたいものですが、欲を言えば冷房を使用する前と暖房を使用する前の2回は実施したいです。
◆“28度設定”でも快適に過ごす方法
「冷房の空気」そのものが嫌いという話を聞いたことがあります。その理由は、「べっとりとした冷たい空気が体にまとわりついて気持ち悪い」というもの。なぜべっとりしているのでしょうか?それは、湿度が高いまま冷房をかけているからです。
ここで重要なのは、先に湿度コントロールをするということです。湿度計で40~60%に保つと、夏のエアコンはさらっとして気持ちよくなります。
国が推奨している冷房設定温度は28度ですが、湿度さえコントロールしておけば快適になります。外部の湿度が70%以上の時は窓を閉め切って除湿し、その後窓を閉め切ったまま冷房のスイッチを入れましょう。湿度が上がるので、冷房を入れた後にすぐ窓を開けるのは控えたほうが良いです。
◆室外機のケアも忘れずに!
なかには冷房をかけても全く効かない!と感じる人もいるのでは? そういった場合には、家の外に置いている室外機の状況を確認しましょう。
室外機で冷房の冷気を作り出しているワケですが、室外機自体が直射日光で暑くなりすぎていたり、室外機の前が隣の家の壁でほとんどスペースがなく熱気がこもっていたりする場合は、冷房の効きは極端に落ちます。
室外機の前面が壁の場合は、熱風を上に逃がす風よけルーバーなどで対処しましょう。また、よしずなどを置いて、直接太陽光が当たらないようにするのもおすすめです。これらの対策をするだけでも、冷房の効きは格段に違うはずで、夏を快適に過ごすことが出来るでしょう。
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いかがでしたでしょうか? 冷房を節約することで起こりうる問題と年間のエネルギー消費量のバランスから考えても、暑い中我慢して家の中で過ごすことは、人権侵害にも近いと私は考えています。
「冷房を使わないことで起こるリスク」を念頭に入れて、どうすれば得するのか見定めれば、きっと賢く猛暑を乗り切れる術が見つかるでしょう。
【八納啓創】
1970年、神戸市生まれ。一級建築士、株式会社G proportion アーキテクツ代表取締役。「地球と人にやさしい建築を世界に」をテーマに、デザイン性、機能性、省エネ性や空間が人に与える心理的影響をまとめた空間心理学を組み込みながら設計活動を行っている。これまで120件の家や幼保園、福祉施設などの設計に携わってきた。クライアントには、上場会社の経営者やベストセラー作家をはじめ「住む人が幸せになる家」のコンセプトに共感する人が集い、全国で家づくりを展開中