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「学費、住宅、老後資金の全部を作りたい」という無謀…新NISAスタートを前に"暴走投資"する初心者の末路 | ニコニコニュース

2024年から始まる新NISA制度を前に、新たに投資を始める人が増えている。日本証券業協会「NISA口座開設・利用状況調査結果」によると、2023年6月末の証券会社のNISA総口座数は、前年末に比べて9.4%増加。つみたてNISA口座数は前年末から16.2%増えている。こうした中、家計再生コンサルタントでFPの横山光昭さんは「初心者が“無謀な投資”を始めるケースが目立ってきている」と危惧する。“無謀な投資”とはどういうもので、適正な投資額はどれくらいであるべきか。ある一家の相談事例を基に、教えてもらった――。

■家計が不透明だと適正な投資額も見えてこない

「次男の教育費と私たちの老後資金をゼロから積み立てたいんです。貯金だと間に合わないので、とりあえずつみたてNISAを始めてみたんですけれど、今の積立額は適正でしょうか? もっと増やした方がいいのではないでしょうか?」

こう相談に来られたのは、高校1年生の長男と小学3年生の次男を持つ会社員の田中守さん(仮名・45歳)・玲子さん(仮名・46歳・パート)夫婦です。長男の教育費は学資保険代わりに終身保険で計画的に貯めてきました。

一方、次男に関しては学資保険に入っていないうえ、世帯の貯蓄も190万円程度しかなく、このペースで進学費用が貯まるか不安だといいます。加えて、今は賃貸暮らしなので今後可能性がある住宅購入の費用や老後の資金も心配。そこで時流に乗って、初めての投資「つみたてNISA」を始めたわけですが――。

その額、夫婦合わせて5万円。数字の根拠は、聞いても明確には答えてくれませんでした。

「月々5万円なら次男の大学入学までの9年間で600万円には増やせるだろう。投資資金は、月々の家計から出すゆとりはないないけれど、残高190万円の預貯金口座から引き出せばいい」という考えなのかもしれません。

無計画に投資を始めるのは田中家だけではありません。設定額の根拠があいまいなまま、とりあえずNISAとりあえず投資という方が非常に増えているというのが私の印象です。

毎月の投資額をいくらにするか――この初期設定は極めて重要であるのは言うまでもありません。適正な投資額は、家計の現状を基に決めるのが正攻法です。言い換えれば、家計の現状が見えなければ、適正な投資額は設定できるはずがないのです。

■毎月の余剰額の9倍を投資に回していた

今回、田中家の適正な投資額を見積もるために、つみたてNISAを始める前の家計を拝見しました。

平均して、世帯の手取り月収は53万5000円。支出は家賃12万5000円、食費9万1000円など計52万8000円で、収支の差額は9200円です。家計はギリギリで、貯金は190万円。これまで、夫の残業代や年1回あるかないかのボーナス、祖父母からのお小遣いを貯金に回してきたとのこと。

「このまま現金をちまちま貯めていたのでは、教育費も老後資金も家の金も全然貯まらないから」と、つみたてNISAスタートしたわけですが、この状態でつみたてNISAをするなら、毎月の積立額は5万円ではなく、最大で9000円です。それでも、この方の場合は本来、貯金もしていかないといけない状態なので無理な設定と言えます。

ボーナスを充てるにしても今のままでは、つみたてNISAにお金を回すことで貯金がストップするうえ、これまで貯めてきた190万円も取り崩さなければなりません。その貯金も、つみたてNISA以外の家電の買い替えや帰省など特別支出でどんどん目減りしていくでしょう。

そもそも、ボーナスなどの臨時収入がないとすると、190万円の貯金から毎月5万円をつみたてNISAに出していたら、3年で預貯金はゼロになり、投資もストップします。果たしてその後、どうするのでしょうか?

■同じ元本でも長期間積み立てるほうがお得

投資の原則は「長期・分散・積立」。運用期間が長くなればなるほど利子の総額が大きくなる「複利効果」が得られますから、少額ずつでも、最低でも10年、15年かけて増やして行く方が利益は大きくなります。

金融庁の「資産運用シミュレーション」ページで比較すると分かりやすいでしょう。

例えば、月5万円を3年間、想定利回り(年利)3%で運用できた場合、元本180万円、運用収益8万1000円、最終積立金は1881000円。一方、月1万円を15年間、同じく3%で運用できた場合、元本は同じ180万円なのに対し、運用収益は47万円で最終積立金は226万9727円と、38万8727円も多くなる計算です。将来のことは正確にはわかりませんが、こういうイメージが持てるわけです。

このようなシミュレーションからいうと、無理して大きな金額を短期間で積み立てるより、自分が続けられる無理のない範囲で長期間積み立てる方が、よっぽどお得だということです。

では、田中家の場合、収支の差額ギリギリの9000円で投資をすればいいのかというと、それもハイリスクです。あと数年で次男の塾代などもかかってくるでしょうし、不測の事態に備えて現金は残さなければなりません。少なくとも生活費の7.5~12カ月分くらいは。

もし、キャッシュが生活費の7.5カ月分以上はゆうに超えている場合なら、月々の差額のうち投資に回す割合を大きくしても構いません。でも、十分に預金もないまま、世の中の流れに乗ってわずかな預貯金を取り崩していく方法は、危険です。「いざとなれば、投資信託の商品を売却して現金を作ればいい」と考える人もいますが、そのタイミングが市場の暴落時であれば、売却したくてもできないでしょう。

世の投資ブームに振り回されることなく、自分の家計を直視し、戦略を立て、自分なりのペースで資金を増やしていくことが大事です。

■毎月残したい金額の目安は手取り収入の6分の1

では、どう資金を増やしていけばよいのか。田中家は「つみたてNISAの毎月の積立額は5万円から減らしたくない。貯金と投資を並走したい」という強い希望がありました。それなら、月々の余剰額を5万円以上に増やす必要があります。

私たちはよく、「手取り収入の6分の1を残してほしい」と言っています。これは一般的な収入の家庭であれば、無理のない目標額です。田中家の場合、手取り収入は53万5000円ですから、その6分の1、8万9000円を残すことを目標にするのです。

とはいえ、家計収支の黒字額を現在の1万円弱から約9万円まで増やすとなると、かなり思い切った改革が必要です。田中さん夫婦は、入会していたスポーツジムを解約し、お子さんの習い事、家族ぐるみのキャンプといった交際費など、数千円単位の固定費や変動費から見直し、食費や水道光熱費、被服費も少しずつ減らしていきました。その結果、6万4000円と、大きく削減できました(図表1参照)。やれば、できるのです。あとは、これを継続し、さらに支出を削る工夫をしていくことです。

■余剰額を6万4000円まで増やし、つみたてNISAを継続

田中さん夫婦は削減した6万4000円のうち、5万円はそのままつみたてNISAに回し、もともと出ていた黒字額と1万4000円を合わせた2万あまりの余剰金を預貯金口座に貯めています。

貯金と投資のバランス、それぞれの目標額は、各家庭のライフイベントによって変わります。田中家は現状、十分がんばってらっしゃいますが、できればもうあと2万円、余剰額を出して貯金を増やしたほうが安心でしょう。

小学3年生の次男は、大学進学まであと8年間。その教育資金は投資で得た利益から少し引き出すのもアリですが、次男が中学生高校生の間に急に支出がかさむ可能性、また自宅の購入などのライフイベントも予想されます。

前述したように数年に一度は大型家電の買い替えなどの特別支出もあるでしょう。そう考えると、別途、生活費の7.5~12カ月分、少なくとも375万円の現預金は貯めておきたいところ。他方、老後資金に関しては、40代半ばの田中さん夫婦は70歳まで25年あるので、投資ですべての資金を作るのもいいでしょう。

老後資金など先の目標額を据えるのも大事ですが、まず見るべきは現状。そして、明日起きてもおかしくない不測の事態に備えることです。

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横山 光昭(よこやま・みつあき)
家計再生コンサルタント株式会社マイエフピー代表
お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、個別の相談・指導に高い評価を受けている。これまでの相談件数は2万6000件を突破。書籍・雑誌への執筆、講演も多数。著書は90万部を超える『はじめての人のための3000円投資生活』(アスコム)や『年収200万円からの貯金生活宣言』(ディスカヴァートゥエンティワン)を代表作とし、著作は171冊、累計380万部となる。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gyro

(出典 news.nicovideo.jp)

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