どうして宿題をやらなければいけないの?…そんな子供を納得させる「最高の回答」と反発させる「最悪な回答」 | ニコニコニュース
※本稿は、吉原珠央『シンプルだからうまくいく会話のデザイン』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■宿題をやる理由は「みんなやるから」?
私たちが暮らしている社会では、当然のことながら、「しなければいけない」とされるルールや、約束事があります。
たとえば、交通規則や犯罪に関わるルールは、社会秩序や生命を守るためという意義があり、社会生活において欠かすことはできません。
それでは、別の視点で例を取り上げてみましょう。義務教育を受けている子供たちにとって「宿題をする」というルールはどうでしょう。
もし、「どうして宿題をやらなければいけないの?」と、小学生に聞かれたら、あなたはどのように答えますか? 仮に、以下のように答える人がいるとして、あなたが子供の立場だとしたら、どのように感じますか?
「どんな勉強もいつかは役に立つはずだからだよ」「先生が言うことは守らないといけないからだよ」「小学生は勉強をしないといけないからだよ」「みんなやるものでしょう」「義務教育だから仕方がない」「私だって大変な思いで、やってきたんだから」
■学校に行くことは子供の義務ではない
いずれの内容も、大人の立場となると、つい言ってしまいそうなことですが、子供の立場に立ってみると、腑に落ちない場合が多いのではないでしょうか。
「仕方がない」「従うしかない」と言うばかりでは、相手に納得してもらえるような根拠を示していないことは明らかですよね。
また、教育基本法第5条によれば、義務教育とは親や保護者が、子供が学校に通えるようにする義務であり、子供が学校に行く義務ではないことがわかります。
大人になるにしたがい、私たちは、経験や知恵を身につけていきます。そうしたことで、「社会とはそういうものだ」と、折り合いをつけながら物事を判断するのが容易になり、悩み、葛藤する時間を省略できるようになっていくのかもしれません。
■子供が質問してきた理由を考えてみよう
一方で、「社会とはそういうもの」という考え方が、自分なりの考えとして想像することを抑制してしまう可能性も否定できません。また、同調圧力や認知バイアスにより思考が固定され、悩み、葛藤することによって得られるはずの、自分の感情や考え方に気づく機会を失いかねません。
ここで先ほどの、子供からの宿題に関する質問に戻ってみましょう。
「社会とはそういうもの」という一般論から離れ、「なぜその質問をしたのだろう」という、相手の本意に触れられるような視点で反応してみると、答えの内容も、会話の方向性や着地点も、かなり変わります。
「とにかくやりなさいよ」と、強制する言い方を避けて「それはいい質問だね」「それは深い質問だね」などと受け止めて「一緒に考えてみよう」「どうしてなんだろう」「どうしてそう思うの?」などと反応してみると、子供が自分の立てた問いの価値に気づくきっかけにできるのではないでしょうか。
■答え方によっては親子の信頼関係にヒビが入る
実際に、私自身、娘が小学校中学年だった頃に、「こんなに疲れているのに、どうして何時間もかけて宿題をやらないといけないの⁉」と、うんざりした様子で質問された経験があります。
彼女は、日頃から宿題を早く済ませて、自分の好きなことに時間を使うという計画性と、実行力があるのですが、うんざりしていたのには理由がありました。
それは、その日は宿題の提出方法がオンラインだったのですが、先生が提出先を設定するのが遅れ、児童たちが夜遅くまで待たされていたという状況があったからなのです。
「そんなのみんな同じ状況なのだから仕方がない」といえば、そのとおりですが、その反応で娘は納得できないでしょう。むしろ、「そんなこと私が一番、わかっているわ」と、イライラを増長させ、「ママは自分をわかってくれない」と思われ、信頼関係にヒビが入る可能性すらあります。
■相手に安心感を与える3つのステップ
そのような状況に有用な3つの反応ステップがありますので順に説明していきます。
ステップ1.受け止め
「こんなに遅くまで疲れちゃうよね」「よく頑張ってるね」「確かにこれは大変だよね」と、率直に相手の状況に共感します。
ステップ2.状況把握
「今、どんな状況なの?」「画面を見せて?」「どのくらい大変なの?」と、実際に起きていることを理解できる材料を探すことで、その後の対応策のバリエーションが広がり、適切な言葉でやり取りができるからです。
ステップ3.ねぎらい
「少し休む?」「何か飲む?」「マッサージしようか?」などと、相手がリラックスできる環境を提案し(声に出さなくても動作で見せていくのもいいでしょう)、「私にできることはあるかな?」などと聞いてみると、ニーズがつかめるかもしれません。
このように、「受け止め」「状況把握」「ねぎらい」の3つの反応ステップの最大のメリットは、相手に落ち着いてもらえることです。人は安心感を得て、感情を穏やかにできれば、より良い決断や行動を自発的に再開できるからです。
■娘は自分で解決策を考えることができた
「社会とはそういうものだ」という尺度は、誰もが持っているかもしれませんが、それを口に出さず、常に相手の立場に立った一言を捻り出す一手間をかけていきたいものです。
ちなみに、娘の事例ではまず「こんなに遅くまで疲れちゃうよね」(1.受け止め)と伝えました。続けて画面を見せてもらって、「もうこんなにできているんだね」(2.状況把握)と理解し、「疲れをとってあげるよ」と、ハグをして、マッサージ(3.ねぎらい)をしてあげました。
すると娘は「もう本当に疲れたよ」と声に出すと、しばらくして、すっきりとした様子で「とりあえず、あと30分だけ待って、それで終わらなかったら先生に明日、自分で説明する」と言って、時間と気分を区切ることにしたのです。
結果的には、提出先の設定が修正され、宿題のデータを時間内に送ることができて落着。「ママ、ありがとう」といつもの笑顔で伝えてくれました。
■「受け止め」と「ねぎらい」が重要
子供に限らず、大人であっても、自分が疲れているときや焦っているとき、絶望を感じているときに、誰かに「みんな大変なのは同じ」「世の中って、そんなものだよ」などと言われることで嬉しく感じる人は、ほぼいないでしょう。
社会人となり、職場の同僚が「なんでこんな面倒な作業をしないといけないのだろう」とグチを言ったとしましょう。あなたは「仕事なんだからやるしかない」としか言いようがないかもしれません。ただ、そういうときでさえ、衝動で口に出してしまいそうな社会的な尺度や正論は、いったんは、脇に置いてみるのです。
その代わり、否定も肯定もせず「もう作業の半分が終わっているよ! あと少し集中して1分でも早く帰ろう」と伝えられたら、相手は安心感を覚え、なんとか作業を続けてみようという前向きな気持ちに少しは、なれるのではないでしょうか。
そんなふうに、相手の感情や、前向きな行動に目を向けた反応ができるということは、「受け止め」と「ねぎらい」のできる成熟度の高いコミュニケーションを取れる人であることの証しなのです。
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コミュニケーションコンサルタント
1976年生まれ。日本行動分析学会会員。ANA(全日本空輸株式会社)、証券会社、人材コンサルティング会社などを経てコミュニケーションを専門とするコンサルタントとして2002年にDC&ICを設立し、ビジネスパーソン向け研修、講演活動などを実施。著書に20万部ベストセラー『自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術』『その言い方は「失礼」です!』(幻冬舎新書)、『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)など、多数。
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