食べ放題で「1番コスパがいい/割に合わない」メニューは?焼肉よりもお得な“意外なネタ”――2023年大反響トップ10 | ニコニコニュース
2023年、反響の大きかった記事からジャンル別にトップ10を発表。食べ物から1年を振り返る「グルメ」部門、第7位はこちら!(集計期間は2023年1月~10月まで。初公開2023年4月26日 価格やメニューは取材時の状況。変更の可能性ありますのでご注意ください)
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さまざまなタイミングで物価高を感じる昨今、コストパフォーマンスを大事にする人が増えつつある。金額と量を比べて、「果たして本当にお得なのだろうか……?」と気になるのは当然の心理だ。
たとえば、好きなメニューをたくさん頼める“食べ放題”や“飲み放題”はどうだろうか。そもそも食べ放題が儲かる仕組みとして、売上高における原価の割合を表す“原価率”を下げ、売上高に対する利益を示す“利益率”を上げることが必要。
食べ放題を取り入れるお店は、それぞれ独自の工夫を凝らしているだろう。しかし、そんな中でも消費者が少しでもお得に食事をするには、具体的にはどのような食材を選べば良いのだろうか? “食の台所”といえば大阪。「大阪府飲食業生活衛生同業組合」に取材し、食べ放題の本質を探ってみた。
◆食べ放題の本質を“やっていない店”に聞く
話を聞かせてくれたのは、同組合に加入する2店の経営者だ。2店とも食べ放題を取り入れない方針だが、そこには食べ放題にまつわるさまざまな“裏事情”が関係しているようだ。
まず話を聞いたのは「雁飯店」の大岩賢悟氏。彼が営む雁飯店は、大阪の茨木市竹橋町の茨木市駅から徒歩3分の距離にある。“大阪産名品認証”を受けた餃子をはじめ、さまざまなメニューを提供する本格中華料理店だ。
――中華料理店から見る、コスパ最高のメニューとは何でしょうか。
大岩賢悟(以下、大岩):単純にアワビ・伊勢エビ・国産牛など希少性の高い食材は当然コスパ最高です。こういったメニューがもしあれば、間違いなく頼むべきでしょうね。ただ普通にあるメニューとしては、餃子や小籠包、春巻きみたいに“仕込みに時間がかかるもの”は狙い目だと思います。工場で調理済みの冷凍モノだとまた話は変わりますが、手包みだったりすると間違いなくコスパはいいはずですよ。
餃子などの包む料理は、皮がダメになってしまうのでどうしても当日の朝に仕込むのが鉄則。自家製だと、調理前の状態で大量生産して冷凍ストック……なんてことがしづらいんです。たとえば餃子は仕込み・皮を練る・皮で包む・焼く、と完成までにざっくり4工程かかる料理。こうした作るのに手間暇がかかる料理を食べ放題で見かけたら、ラッキーだと思っていいでしょう。
◆仕込みに時間がかかるメニューも!
――なるほど! 包む料理がコスパが良いというのは意外ですね。
大岩:あと他に思いつくのは、ローストビーフですね。これは仕込みに時間がかかるし、牛肉なので原価も高め。ウチはコース料理で提供していますが、作ったらストックしやすいという点で見ると食べ放題に導入しているお店も多いのではないでしょうか。
――これまた意外。でも考えてみれば、たしかにビュッフェスタイルのお店ではよく目にするかもしれません。
大岩:一見、簡単そうな料理ですが、野菜と一緒に火入れをしてからオーブンでさらに加熱。その後、アルミで包んで休ませるという工程も踏まえれば、5kgも作ると2時間くらいかかってしまいます。ハンバーグ1つと同じくらいの100gを1人前としても、2時間かけて50人前しか作れないということに。原価の割に合わない高級なメニューといえます。
◆「焼肉」食べ放題のおすすめは?
――他に大阪に行ったら行くべき、おすすめの食べ放題について教えてください。
大岩:大阪に多いのは焼肉食べ放題ですが、これは個人店でも食べ放題を設定しているお店があります。大阪の焼肉店は仕入れが命という信条のお店が多い。ぜひ大阪に来たら、本場のホルモンを食べてみてください。食べ放題じゃなくても、充分安くて美味しいですから。
あと現在は円安の影響で、国産牛がお得に食べられるお店が大阪でも増えつつあります。食べ放題メニューのなかに国産牛の料理が入っているお店は要チェック。いまだけかもしれませんよ。
◆飲み放題では「洋酒」も狙い目
――お店では飲み放題を導入されているとのことですが、お得なメニューなどはありますか。
大岩:原価率で考えると、基本的に「水割り」「ソーダ割り」などの割りモノはあまりお得ではないでしょう。濃度がお店によって決まっているので、どうしてもお得感を感じづらいはず。そこでおすすめなのが、ウイスキーなど洋酒のロック・ストレートです。
2011年頃は大衆居酒屋にも山崎のウイスキーなどが入っていたものですが、いまはめちゃくちゃ値段が上がっているのでお得といえるでしょう。まあそもそも居酒屋で山崎が飲み放題メニューにあるお店はあまり見ないので、あったらラッキーです。
あとよく言われる「ビールは原価が安いんでしょ?」という話なんですが、実はビールって原価率で言えば結構高めなんですよ。もともと薄利多売で出している飲み物なので、お得度で言えばビール飲み放題だって結構なレベル。何杯いけるか、というところだけですね。
他に飲み物で言えば、本醸造クラスの日本酒は大体お得。白鶴や月桂冠といったよく聞く銘柄でも、本醸造ならしっかり元が取れますよ。
◆あえて食べ放題を実施しない理由
――集客力のありそうな「~放題」というワードですが、大岩さんのお店であえて食べ放題を実施しない理由は何かありますか。
大岩:大きな理由としては、お店とお客様のニーズが噛み合わないからです。お店としては「それでは損しちゃう」という話以上に、「時間を気にせず食べてほしい」という気持ちが大きい。大阪で言えば、食べ放題のお店は「食べ放題専業」のパターンが多いんです。ウチの業態とは合わないので、今後も食べ放題の導入は考えていません。
あとお店のブランドとも関係します。「餃子が腹いっぱい食べたい」というお客様がいるとして、「安いからあそこに行こう」と言っていただくより「あそこの餃子が食べたい」と言っていただけるお店作りを目指しているからです。
どうしても「食べ放題」というと値段とかお得度のインパクトが強くて、お店の雰囲気が伝わりづらい。それを嫌っている個人店は多いのではないでしょうか。
続いて話を聞いたのは、日本料理店「まごころ料理 つる井」の澤井哲治氏。彼の営む「つる井」は昭和15年創業の歴史ある伝統的な日本料理店で、大阪市住吉区我孫子に居を構えている。
食べ放題を取り入れていない飲食店の視点から、食べ放題の“からくり”やコスパの良い商品について興味深い話を聞くことができた。
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――そもそも食べ放題・飲み放題は、どのような条件が揃ったとき、店でメニューとして出せるのでしょうか。
澤井哲治(以下、澤井):わかりやすいところでいえば、魚を仕入れる魚屋が飲食店を開いたら、刺身を割安で提供できますよね。農家がサラダバーを提供しやすいという感じでも同じことが言えます。お客様の食事量と仕入れ値のバランスが取れる場合に、食べ放題のメニューを用意できます。
そういった意味では、魚屋さんの食べ放題でお得なメニューは「魚屋さんでは普通取り扱っていない品」といえるかもしれません。あくまで仕入れ値とバランスを見比べて、という話ですが……。ただ、ウチはそういった安く仕入れられる状況が整っても食べ放題はやっていません。
◆「お得感」を意識してしまうお客が多い?
――そうなのですね。澤井さんのお店で食べ放題を実施しない方針を取っているのには何か理由があるのでしょうか。
澤井:もちろん、「会費の中で用意できる分の料理を提供してほしい」と言われたら対応しますが、“食べ放題”というとどうしても「お得感」を意識してしまうお客様が多くなるためです。
たとえば焼肉の食べ放題といったら「仲間うちでワイワイ楽しみたい時」にチョイスする方が多いのではないでしょうか。お店とお客さんの需要がマッチするので、これは当然の流れ。ただウチは「季節の食べ物・価値のある食べ物」を食べたいという需要に対応するためのお店です。食べ放題の有無は、お店のコンセプトとも関係するといえるでしょう。
ウチで言えば、大量に安く仕入れられた食材があっても、普段からお世話になっている常連さんに連絡してしまいます。感謝祭じゃないですが、そうしたタイミングにはイベントとして食べ放題的なサービスをさせていただくことはあります。
◆やってない店に聞く“お得なメニュー”とは?
――食べ放題のお得メニューを探す時、和食のお店では「これがお得」という品はありますか。
澤井:うちではコースをやっていて、その中でお飲み物の提供はコース料金に含む……という方式を取っています。そのなかでいえば、酎ハイは原価が安いのであまり「お得感」を感じるのは難しいと思います。
強いて言えば、メニューの中に日本酒が含まれていれば、頼むとお得なのではないでしょうか。ウチではメーカーの杜氏さんを招いて、季節に応じた日本酒の試飲会みたいなものを月1回やっています。そうした時に開けた大瓶は幅広いお客様に割安でご提供できるので、コースで提供するお酒のメニューに組み込むことも。普段ならもう少し高めに設定するかな、という銘柄をお得に飲めるタイミングですよね。
特定の季節だけ取り入れられる日本酒だったり、季節メニューみたいなものはお得な傾向があります。これは大手さんでも変わらないと思いますよ。
――メニューの中に、季節で入れ替わるような品があれば狙い目ということですね。
澤井:実際のところ、知り合いの店舗経営者で食べ放題をやっている人はないんですよね。食べ放題をやるのは、主に大量仕入れが可能なフランチャイズ。その中でお得感を感じるとしたら、やはり季節ものになるのではないかなと思います。
<取材・文/吉田裕貴>
【吉田祐貴】
福岡出身の28歳。編集プロダクションで修行後に独立。編プロ時代の不摂生を反省し、健康的な生活を送るための情報探しに余念がない。Twitterのくすっと笑える話題を見つけると、つい反応してしまう。スポーツはルールを勉強するところが楽しいポイントだと思っている