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カネも人脈もない人が選挙で勝つにはどうすべきか…前明石市長・泉房穂が実践してきた「選挙戦の極意」 | ニコニコニュース

お金も人脈もない人が選挙で勝つにはどうすればいいのか。前明石市長の泉房穂氏は「お金や人脈がなくても、市民の共感を得て、市民を味方につけることができれば、選挙には勝てる」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、泉房穂『10代からの政治塾 子どもも大人も学べる「日本の未来」の作り方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■「金なんかいらん」父に言った今でも忘れない言葉

私が親に初めて「政治家になりたい」と言ったのは、22歳の頃でした。大学卒業後の進路について話していたときのことです。親はいつも、私がやりたいことすべてに協力的でした。ところが「政治家になる」と言ったこのときだけ、父親が初めて、私に反対したのです。

「お前の夢を叶えてやりたいけど、政治家は無理や。わしには金もないし人脈もない。お前を選挙に出したくても、そんな金はどこにもない」

「金なんかいらん。この口があるやないか。語る言葉があれば、人はわかってくれるはずや」このとき父親に言ったこの言葉は、今も常に私の心にあります。

■「政治家になって明石市を変えてやる」10歳で抱いた強い気持ち

私には障害を持つ弟がいました。弟や、その家族である私たちに、明石市とそこに住む人々は冷たい態度でした。涙がにじむほどに悔しい思いを何度もして、「政治家になって明石市を変えてやる」と心に誓ったのが10歳の頃。その気持ちを30年以上持ち続け、私が明石市の市長になったのは47歳のときです。私には、「この街を変える」という本物の気持ちがありました。本物の気持ちで語る言葉は強いです。お金や人脈なんかより、よっぽど強い。

恥ずかしい話ですが、私が演説で話すときには、泣いてしまうことがよくあります。弟のことや明石の街への思いを語ると、自然と涙がボロボロと出てきてしまうのです。それを見た市民のみなさんは、「あ、この人、本気なんやな」と思う。「なんか暑苦しい人やけど、明石のことを本気で考えてくれてるんやな」と感じてくれる。妙に理路整然とした、上っ面だけの言葉じゃなく、本気で語られる芯のある言葉は、聞いてくれる人の心を動かすのです。

すると次の日、その演説を見た人が、違う誰かに「昨日演説してた泉さん、すごかったで」と、その様子を伝えてくれる。「ホンマに? ちょっと行ってみるわ」と、演説を聞かなかった人が興味を持ってくれる。それがどんどん広がれば、共感を生み、知名度につながり、貴重な一票となって返ってきます。

お金や人脈がなくても、マイク1本あれば、選挙で十分戦えるのです。もっとも、地声が大きい私は、マイクすら不要かもしれませんが(笑)。

選挙は熱伝導です。発信する人には、火の玉のような燃え盛る情熱があります。演説を聞いた人は、それに触発されて熱が出る。その熱が、演説の場にいなかった人にも伝わっていく。この熱伝導が広がれば広がるほど、強い立候補者になっていきます。

■なぜ選挙カーから「日本の平和を守る」と叫んでも響かないか

熱をいかに遠くまで伝えられるかは、語る言葉の誠実さ次第です。

政治家が選挙カーで、「日本の平和を守ります」とか「税金を減らします」とか叫んだところで、誰の心に響きますか? 決まり文句を並べているだけでは、何のリアリティもありません。誰かが書いた原稿をそのまま読み上げているようで、聞いていても面白くありませんよね。聴衆の心を動かすには、自分だけの言葉で語るべきです。それはつまり、具体性とリアリティのある話をすること。

減税を主張するなら、税金を減らして具体的にどんな人を助けたいのか、そう思ったきっかけは何だったのか。自分の体験も交えながら、本音トークをしなければいけません。結局のところ、選挙で一番大切なのは、市民の共感を得ることです。「この人は本当に私たちの気持ちをわかってくれている」と思ってもらうために、有権者と同じ目線に立つところから選挙活動は始まります。

■「みなさんの街」ではなく「私たちの街」

例えば、「みなさんの街をもっとよくしましょう」、これは間違い。

自分も一緒によくしていくのだから、「みなさんの街」ではなく、「私たちの街」なんです。こんな言葉使いひとつで、聞く人の印象はだいぶ違ってきます。

街頭演説をするなら、自分の話をどんな人が聞いているのか、聴衆に目を向けて臨機応変に対応します。日中の駅前であれば、主婦の人がたくさんいるから子育ての話をするし、年齢層が高い市営住宅なら、高齢者向けの話をする。そういう意味では、同じ演説というものはありません。あらかじめ用意された原稿を読み、それを使いまわしているようではダメなのです。

かく言う私も、「今日の演説はイマイチやったなぁ」という日もあります。それは、うまく話せなかったというのではなく、伝えたいことと求められていることに微妙にズレがあって、100%の共感を得られなかったという失敗です。

■赤ちゃんをおんぶした普通のお母さんが立候補していい

サイレント・マジョリティ(「静かな大衆」という意味。積極的な発言行為をしない一般大衆のこと)という言葉がありますが、市民が何を感じ、何を求めているかの正解を導き出すのは簡単なことではありません。

だからこそ、選挙でお金や人脈に頼るのではなく、言葉という強い武器を持って、市民と同じ目線に立つよう努力することが大切なのだと感じています。そういう意味で言えば、街のどこにでもいるようなお母さんが政治家として立候補するのも、一つの理想の形ではないでしょうか。

政治家と言うと、やたらピシッとしたスーツ姿のおっさんやおばちゃんばかりのイメージがあります。でも、赤ちゃんをおんぶした普通のお母さんが、選挙カーで演説したっていい。むしろ、一市民の代表として、リアリティのある政策を掲げてくれそうな気がします。

そしてそれは、決して不可能なことではありません。事実、2023年の明石市議会議員選挙では、絶賛子育て中のお父さんやお母さんが、市議会議員として立候補し、当選を果たしました。知名度のない、どこにでもいるような普通の市民が、多くの人々の共感を集めたのです。

■当選確実と思っていたら超僅差に…投票率の落とし穴

繰り返しますが、お金や人脈がなくても、市民の共感を得て、市民を味方につけることができれば、選挙に勝てます。特定の団体にお金を配って票を集めても、市民の数の方が圧倒的に多いからです。

でも実際の選挙は、もう少し複雑な数字のゲームです。ここでは少しだけ、選挙における投票数の話をしましょう。

例えば、有権者が100人いる村で、AさんとBさんという2人の候補者がいたとしましょう。Aさんは、100人のうちの30人にお金を配って、票を入れてもらうよう約束をしました。Bさんは演説をがんばって、残り70人の共感を得ました。これで選挙をすれば、30対70の票数で、Bさんが当選することになります。

ところが、現実はそう簡単にはいきません。そこに投票率という問題があるからです。投票権を持っているからといって、みんながみんな選挙に行くわけではありません。たとえいいなと思う候補者がいたとしても、用事があったり面倒くさいなと思ったりすれば、行かない人も出てくるわけです。

投票率はそのときどきによって違いますが、だいたい4〜5割程度と言われています。それを加味すると、100人中70人がBさんを応援していたとしても、実際に投票に行くのは4割ほど。70人の4割ですから、28票しか得られないことになります。

一方でAさんの方は、お金を配っているわけですから、最低でも9割の人はちゃんと投票してくれます。30人の9割は、27票。つまり、70人対30人というダブルスコア以上の差で支持者を集めても、実際の選挙の結果は、1票差で辛勝という接戦になる可能性が高いのです。ちなみに、私の市長選挙がまさにコレでした。市民の7割が私に賛同し、当選確実だと思っていたら、わずか69票差の勝利だったんです。人口30万人の選挙ですから、超微差。本当にギリギリで勝てたわけです。

■7割の賛同が得られるかどうかがカギ

逆の言い方をすれば、選挙は、7割の市民の賛同を得られれば勝てるということです。私はこれを「7割の法則」と呼んでいます。仮に投票率がもっと高ければ、勝利はもっと確実なものになるでしょう。私はいろいろなところで、市民を味方につければ選挙に勝てると言い続けていますが、決して理想論ではありません。投票率も加味した「7割」というのが、当選のリアリティなんです。

この割合を多いと思うか少ないと思うかは君次第ですが、サイレント・マジョリティが何を求めているかを的確にとらえられれば、十分に可能な数字です。

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泉 房穂いずみ・ふさほ)
明石市
1963年兵庫県明石市生まれ。東京大学教育学部卒業。NHKディレクター、弁護士を経て、2003年に衆議院議員となり、犯罪被害者等基本法や高齢者虐待防止法などの立法化を担当。2011年に明石市長に就任。特に少子化対策に力を入れた街づくりを行う。2023年4月、任期満了に伴い退任。主な著書に『社会の変え方』(ライツ社)、『子どものまちのつくり方』(明石書店)ほか。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/tsuyoshi_kinjyo

(出典 news.nicovideo.jp)

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