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「年金プラス40万円」で老後安泰のはずが…「退職金3,000万円」をつぎ込んで〈高配当株投資〉を始めた65歳男性の末路【FPが解説】 | ニコニコニュース

「年金の足しになれば」と、退職金を元手に投資を始める人は少なくありません。投資のなかでも、高配当株式への投資は、配当金の積み上げにより長期で利益をあげることも見込めるでしょう。しかし同時に、大きなリスクが潜んでいることも忘れてはいけません。本記事では、Eさん(仮名・65歳男性)の事例とともに、退職金運用のポイントについてFPの牧元拓也氏が解説します。

退職金を元手に高配当株式への投資を始めたEさん

これまで株式投資に関心があるものの仕事や子育てで投資経験がなかったEさん(65歳)。2019年3月に退職し、時間に余裕ができたので同年6月ごろから退職金3,000万円を元手に、老齢年金にいくらかプラスされることを見込んで、株式投資を始めてみることにしました。株式といっても値上がり益(キャピタルゲイン)を目指すのは難しいと考え、配当(インカムゲイン)を目的とした高配当の日本株を中心に投資をしていきました。

Eさんは自分で選ぶことによって配当を出していない企業もあることや、配当利回りも企業によって異なることに気づきました。そして、配当利回りが4%と比較的高いと思う企業を中心に投資をしていきました。最初は100万円程度で始めましたが、少しずつ金額も増え1,000万円を投資し、年間で得られる配当金予想額は40万円程度となりました。

1,000万円分の株を追加購入した矢先、コロナ禍で市場が下落…

株式市場も堅調に推移し10月ごろには評価益も8%程度出ており、さらに配当金もあったら嬉しいと考え1,000万円分の配当株を追加購入しました。

ところが投資を始めて9ヵ月が経過した2020年2月。コロナ禍で株式相場状況が悪化し、Eさんの保有株式も10%程度下落したことで含み損が100万円を超えました。

なんとか損した分を取り返そうと500万円の追加投資を決めますが、さらに5%下落。再度500万円を投資し、累計投資金額は退職金と同じ3,000万円となりました。それでも翌月3月にはさらに10%下落。この時点で含み損は500万円を超えてしまいました。

投資した株式の平均配当利回りは4.5%。Eさんは「配当金を受け取り続けても投資金額まで取り戻すのに5年かかってしまう」、「これ以上値下がりしたらどうしよう」と、精神的に参ってしまいました。もう耐えられないと感じたEさんは1,500万円分の株式を損切りすることに。

相場変動とともに一喜一憂

すると4月から株式相場は急回復し6月には下落前の水準に戻りました。「元の値段に戻るなら持ち続けていればよかった」、こう思っても時間を巻き戻すことはできません。さらに業績悪化への懸念から配当を減配する企業も出てきました。

Eさんは、投資を始めるのは簡単でも、日々変化する相場状況のなかで継続することは難しいこと、配当金も必ず得られるものではないことを実感しました。

退職金を投資運用する際のポイント

Eさんのように退職金を運用する場合に考えておくべきポイントを3つまとめました。

1.配当金が減配する可能性も考える

配当金は定期預金などの金利と異なり、決まった額が受け取れるとは限りません。企業の業績が悪化すると減配することや配当自体がなくなることも考えられます。目先の配当利回りだけを見るのではなく、企業業績は伸びているか、ビジネスモデルに納得感があるか、などは意識してみたほうがよいでしょう。

配当金が一定で株価が下落すると配当利回りは上がります。そのため、「株価が下落しているため配当利回りが高い=将来の減益することによって減配する可能性もある」ということも判断材料に入れることをおすすめします。

2.リターンだけでなくリスクにも目を向ける

投資においてリスクの理解が必須といっても過言ではありません。多くの方はリスクという言葉を聞いて「損をする」「危険」「値下がりする」などをイメージされますが、運用におけるリスクは「価格の振れ幅」のことを指します。

リスクが大きい(高い)ということは価格の上下が大きく、リスクが小さい(低い)ということは価格の上下が小さいということになります。

また、リスクの大小によって期待できるリターンが変わってきます。株式はハイリスク・ハイリターンに位置づけられ、値動きもなくまったくといってよいほど金利が付かない預貯金はローリスク・ローリターンに位置づけられます。

また株式のなかでもIT企業のような成長性が高い業種より、銀行のような成長性は期待できないものの安定した経営がなされている業種のほうが株価も安定していると思われますが、決して値下がりしないというものはありません。

世界全体の株式に分散投資をしたとしてもコロナショックのような「〇〇ショック」といわれる相場状況では30~40%程度の一時的な下落はありますので、個別株式の場合はより値下がりする可能性も考えておいたほうがいいといえます。配当目的の運用でも一時的な株価の下落に耐えられるかよく考えてから投資したほうがいいでしょう。

金融の先進国であるアメリカでは「Good sleep」と表現され、「安心して眠れるか」を判断基準にする方法があります。あくまで想像するしかないですが、仮にEさんが退職金の3,000万円を投資し、2,000万円を下回ったこと(1,000万円以上の下落)をイメージしたとき、損失が気になって眠れないようなら投資金額を減らすか、債券なども入れたバランス運用を取り入れたほうがいいと考えられます。

3.ゴールまでの距離とリスクバランスを考える

目的地(ゴール)にたどり着くためにはさまざまな方法があります。実生活であれば、徒歩5時間かかる距離で公共交通機関もない場所に行きたい場合、車で行くと思います。時速60キロの速度で走るよりも時速100キロのほうが目的地(ゴール)に早く到着しますが、警察にスピード違反で捕まることや、事故を起こしてしまうリスクがあります。

投資をするにも目的(ゴール)がありますが、リスクとのバランスが大切です。たとえば、家を買うために手元資金3,000万円を2年後に4,000万円にしたい場合、年利15%必要になります。これは車を法定速度以上で走らせるような非現実的で博打的なものです。まさに個別株式により短期間で一攫千金を狙うような運用で、暴落した場合は目も当てられません。

仮に10年で4,000万円を目指す場合、年利3%で達成可能です。もちろん運用途中に値下がりする局面は想定されますが、世界株式が過去半世紀で6%程度のリターンがあることや、GPIF年金積立金管理運用独立行政法人)が2001年2023年度第一四半期までの約20年間で3.97%のリターンだったことを考えると現実的であるといえます。

まとめ

Eさんのように退職金で運用を始める方も少なくありません。

目先のメリットばかりに目を向けるのではなく、自分自身に合う運用方法やリスクをしっかりと考慮したうえでスタートすることをおすすめします。

牧元 拓也

ファイナンシャルプランナー

株式会社日本金融教育センター

(※写真はイメージです/PIXTA)

(出典 news.nicovideo.jp)

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