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『大間まぐろ』商標はなぜ1カ月で方針転換したのか…漁協トップが語った
 例年、1月の初セリでは数千万円から数億円の値がつく日本一高価な「大間まぐろ」。その呼称は特許庁に商標登録されており、青森県北海道の間の「大間沖」で獲れたことが条件として定められている。この「大間まぐろ」の商標を巡り、大間漁業協同組合(以下、漁協)は揺れた。このほど、漁協トップノンフィクションライターの甚野博則氏の取材に応じ、その実態について初めて詳しく語った。

「大間沖」の産地表示を適切にする方針を通知

そもそも、大間の漁師たちに激震をもたらしたのは、漁協からの一通の通知だった。

〈「大間まぐろステッカー貼り付け 大畑―竜飛崎漁獲のみに 大間漁協、適切な産地表示〉(青森の地元紙「東奥日報」、10月4日

「大間沖」の定義を、下北半島の大間のやや南東の大畑から津軽半島の竜飛崎までと厳密に定め、そこで獲れたマグロに限って商標登録された「大間まぐろ」のステッカーを貼ることで、産地表示を適切にする方針を、大間漁協が漁師らに通知したのだ。一見、至極当たり前のことをわざわざ漁協が通知したのはなぜなのか。大間の漁業関係者は甚野氏の取材にこう明かしている。

「これまで、大間沖で獲れていないマグロにも『大間まぐろ』のステッカーを貼っていたんです。あれを貼るだけで値段が1,5倍ほどに跳ね上がりますから。でも最近になって『これは産地偽装じゃないか』と外部から指摘され始めた。そこで組合は、大間沖以外で獲れたマグロも荷受けはするが、『大間まぐろ』のステッカーは貼らないと9月下旬にいったんは決めた。マグロが高く売れる年末を前に、大間沖で獲れたものだけを『大間まぐろ』とする、商標登録にきちんと沿った運用に改めたわけです」

ところが、その方針は、わずか一カ月足らずで180度転換された。

〈「大間まぐろ」漁場不問 1カ月で転換、商標再出願〉

「東奥日報」が、こんなニュースを伝えたのは10月30日のことだ。漁協は11月1日から、大間で水揚げして荷受けしたマグロは、獲れた漁場を問わず、「大間まぐろ」のステッカーを貼って出荷する運用を始めたのだ。その急な方針転換の背景に何があったのか。

「ここ(大間沖)にマグロはいねえから」

漁協の組合員は、約700人、そのうち約120人がマグロ漁業に従事している。漁師たちを束ねるのが、今年3月から漁協のトップを務める小鷹勝敏組合長だ。現地で甚野氏の取材に応じ、経緯をこう説明した。

「要するに、この辺に(マグロの餌となる)イカとかサンマが来なくなって。そうなると、大間の船はマグロ漁で生活できなくなる。だから広範囲に場所(漁場)を探して、結局、太平洋の方が獲れるから、向こうさ行って獲ってきたんだ。ここ(大間沖)にマグロはいねえから。向こう(太平洋)で獲ってきたのが高値で1万5000円(1キロ)さ。この辺は餌がないからマグロの脂の乗りが悪い。ここで獲って3000円、向こうで獲って1万円なら、当然向こうで獲ってくるさ。(売値が)高(たけ)え方がいいってのが我々漁師の考えだから」

「大間まぐろ」の定義を厳密にすれば、いい大間まぐろが獲れない。商標登録を巡る方針転換の背景には、こうした実態があったというのだ。さらに甚野氏が「大間で水揚げされるマグロのうち、太平洋など大間沖以外で獲れた割合はどれぐらいなのか?」と聞くと、口ごもりながら、こう語った。

「大間の船が向こう(太平洋)さ行って大間沖の何倍も獲ってるって報道されれば、それはちょっと、うまくないです。騒ぎになるから、私は言いません」

そして、さらに付言した。

「毎年の初セリあるでしょ。あのマグロは昔っから、ここで獲れたマグロ。本当の大間で獲れたもの」

11月22日(火)12時配信の「週刊文春 電子版」、および11月24日(木)発売の「週刊文春」では、漁船の位置情報データを収集した甚野氏の取材、小鷹組合長のさらに詳しい証言、また漁協の方針とは違った考え方でマグロ漁に臨む若い漁師の肉声、カメラマンの郡山総一郎氏によるマグロ漁の写真なども含め、グラビア&特集で計5ページにわたって詳しく報じている。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2022年12月1日号)

大間漁業協同組合 ©郡山総一郎

(出典 news.nicovideo.jp)

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