※本稿は、亀山純一『繫盛する小飲食店のつくり方』(さくら舎)の一部を再編集したものです。
■「特別感」を意識しすぎる飲食店は危ない
こんなお店があったら一度は行ってみたいだろうな、ここでしか食べられない料理を出したら食べにきてくれるだろうな……そんな考えで飲食店を開業すると痛い目を見るかもしれません。
飲食店を開業する時に考えてしまう他店とは違う自分のお店の特別感。この特別感を意識しすぎると、一度は行ってみたいお店が出来上がります。
ですが、一度だけで終わってしまうお店になる可能性も高くなってしまうのが、“行きたいと思うお店あるある”だったりします。
これは非日常のお店にも共通するものなんですが、行きたいお店や一度行ってみたいお店はリピーター獲得の観点から見ると微妙です。
では、どういったお店がリピーター獲得に有利でしょうか?
それは行きたいお店ではなく、使えるお店です。
多くのお客様に求められているのは独自性よりも使いやすさを重視したお店です。
どんなシチュエーションにも対応できるお店は、お客様に何度も使ってもらえる可能性が高いです。
具体的には、普段使いができる、記念日やお祝いに使える、ご飯だけもしくは飲むだけでも利用できる、家族使いにも友人との会食にも恋人とのデートにも使いやすい、などシチュエーションが限定的でないほうが遥かにリピーターを獲得しやすくなります。
■テレビ取材は諸刃の剣
とはいえ、僕のお店も行きたいお店になってしまったことがあります。
それはテレビ取材が入った時ですね。2018年3月に関西テレビの「おでかけコンシェルジュ」という夕方のニュース番組のグルメ企画に特集されたことがありました。
事前に撮影したVTR収録では、お店に吉本芸人さんに来てもらい、神戸牛コロッケとイタリアンカツレツ(とんかつにトマトソースとデミグラスソースとチーズをのせてオーブンで焼いたもの)を食べてもらいました。
次にテレビ放送当日は関西テレビまで食材をたくさん抱えてタクシーで向かい、テレビ局の簡易厨房でイタリアンカツレツを作り、出来たてを出演者の方に食べていただきました。そして放送翌日から、たくさんのお客様が来店してくれました。
ランチタイムの取材だったので11時半のオープンと同時に満席、注文はイタリアンカツレツと神戸牛コロッケのランチセットのみと言っていいくらい偏った注文です。そんなフィーバータイムが1カ月ほど続き、ようやくお店は通常運転に戻っていきます。
テレビを見て来店してくれるご新規のお客様の反応は上々ではあったんですが、テレビ出演をきっかけに一気に超繁盛店になるなんてことはなく、一度限りの来店のお客様も多かったと思います。
■一度は行ってみたい店=一度しか来ない店
ではなぜこういう状態になってしまったかというと、テレビ出演の影響で一度行ってみたい、一度食べてみたいお店になってしまったからですね。つまり一度経験することで満足してしまい、次に繋がらない状態に陥ってしまったといえます。
当然イタリアンなのでパスタもありますし、他のランチセットも用意してたりするんですが、興味は神戸牛コロッケとイタリアンカツレツに集中してしまい、また次も行こうとはならなかったんですね。
もちろんテレビ出演がきっかけでお店の存在を知ってくれて、その後何度も通ってくれるお客様はいるんですが、それはごくごく一部の話になります。
このように“一度行ってみたいお店”止まりになると、その需要がなくなってしまえば元通りのような状態に戻ってしまいます。
■何度も通いたくなる店を目指す
ちなみにテレビ出演で気をつけなければいけないのは、常連さんの来店離れです。
一気に新規客が来店することでいつものように常連さんが来店できなくなってしまうと、その期間が長くなればなるほど、違うお店を見つけて常連さんがいなくなってしまうケースもあります。
テレビ出演がきっかけで半年間ご新規さんの予約で席が埋まってしまい、常連さんが来店できなくなったために常連さんがどんどんと減っていき、半年後にはテレビ出演前の売り上げより下がったという話も聞いたことがあります。
この時、半分は常連さんのために席を用意しておくなどの対策をしていればこのような結果にはならなかったと思いますが、一度行ってみたい需要で流行るお店は危険なんです。
お客様の興味を引くために独創的な商品を作ることはいいと思いますが、それよりもっと大事なのは何度も通いたくなるお店を作ることです。
■一度限りで終わる店と二度目がある店の違い
どのジャンルで開業するか? 飲食店を開業する時に頭を悩ませるこの問題。
結論からお伝えすると王道を攻めるのが一番です。
これはなぜなのか? それは先ほどお伝えしたような答えになってしまいますが、一度限りのお店と二度目のあるお店の違いは、お客様にとっての日常の延長であるかどうかの違いだからです。
多くのお客様にとっての馴染みがあるお店ほど来店頻度が高くなります。提供する料理も馴染みがない料理より、馴染みがある料理や馴染みがあるジャンルのほうが潜在需要は多いです。
お店の数を調べてみたらわかるんですが、ラーメン屋さん、うどん屋さん、カレー屋さん、焼肉屋さん、焼き鳥屋さん、イタリアン、中華料理屋さん、和食屋さん、居酒屋さん、カフェ、定食屋さん、洋食屋さんなどこういったお店は、どの街に行ってもたくさん見かけると思います。
一方、フレンチ、高級寿司、鰻屋さん、割烹、料亭、スペイン料理、台湾料理などは場所にもよりますが、店舗数が少ないです。前者は市場のニーズが多く、後者は市場のニーズが少ないジャンルだからですね。
これは価格帯の問題もありますが、基本的に日本の文化やその土地の潜在需要が多いジャンルは店舗数が多くなります。
逆にニッチなジャンルは店舗数が少ないのでライバルは減りますが、市場のニーズが少ないので顧客に飽きられてしまうとなかなか立て直すのが難しいジャンルになります。
また価格帯が高いジャンルはライバルが強敵であり、顧客の舌も肥えている場合が多いので料理人の腕が非常に重要になってきます。
■王道の中に個性を生み出す店が強い
では王道を攻めてどこにでもあるような似たようなお店を作ればうまくいくでしょうか? その答えはNOです。
王道の中に個性を生み出すお店がうまくいくお店です。つまり市場のニーズがある程度予想できて、その中でも違いを生み出せるお店がうまくいくお店です。
料理の美味しさで一歩抜きん出ているだけでも、個性がある飲食店として成功率は上がりますよね。
経営を学んでいくとどうしても、新しいコンセプトや革新的なお店を作れば注目されて繁盛すると考えてしまいますが、それはメッキ加工された中身がない装飾品のようなもの。メッキが剝がれると価値が一気に急落してしまいます。
たとえば、「ペヤングやきそば」「UFO」「一平ちゃん」のように、同じカップ焼きそばでもそれぞれの良さがあるように、一定数のファンを獲得するようなお店を作ることが飽きられないお店を作る秘訣(ひけつ)です。
「一平ちゃんショートケーキ味」のような革新的すぎるメニューはネタとしては面白いですが、長年経営していく柱としては難しいですよね。
■王道×王道で個性を発揮する
料理に特化できない場合は王道を組み合わせて個性を作ることもできます。
たとえば、僕が開業したお店はイタリアンバルですが、これはイタリアン×居酒屋です。同じように中華×居酒屋でも違いは生み出せますし、洋食×居酒屋みたいに王道を掛け合わせれば新しいジャンルを簡単に作り上げることも可能です。
焼肉と中華料理が食べられるお店も流行ってますし、王道×王道で市場のニーズがある程度、約束された中で個性を発揮する飲食店を作ることもできます。
また最近では服屋さんとカフェがコラボしたり、ギャラリーと飲食店を掛け合わせたお店も出てきています。
これはストアブランディングの一種ですが、料理にそこまで個性が出せない場合は違った視点から何度も通いたくなるお店を考えてみるといいでしょう。
■料理の価格設定はどのようにすべきか
顧客単価はいくらにしたらいいだろう? 料理の価格設定はいくらにしたらいいだろう? こんな疑問を持つ方もいらっしゃると思います。
僕がおすすめする顧客単価は1、2カ月に一度来店できる単価設定です。
これは出店する地域やジャンル、お客様によって変わりますが、ラーメン屋さんは週に1回、居酒屋は2週間からひと月に1回、レストランは3カ月に1回、高級レストランは半年から1年に1回くらいが常連さんの来店頻度といわれています。
どんなに美味しい料理を作ってもお客さんが通えない価格設定では、常連さんはつきません。
料理が美味しいことも大事ですが、地域のお客様が通える価格設定であることも常連さんを獲得するためには非常に大事なことです。
そして年間いくら使ってくれるか。
これがお店を長続きさせるために大事になってきます。
1回の来店で3000円使ってくれるお客様が月に1回来店してくれたら、年間3万6000円のお金をお店に使ってもらえるということです。
客単価を上げて5000円にしたとしても、3カ月に1回の来店に減ってしまえば年間2万円です。
観光地にあり、一生に一度しか来店しないようなお客様で成り立つお店は単価が高いほうが儲かるのは当然ですが、常連さんは基本的に近所のお客様がメインになります。
その近所のお客様が何度でも来店できる価格であることも、長年経営していくには大事になってきます。
アドビやマイクロソフトのソフトなども、高額買い切りモデルからサブスクリプションモデル(定額制)に変化していますし、一人のお客様に年間どれだけ使ってもらえるか。この視点を持って価格設定を考えてください。それが常連さんを作る秘訣です。
ちなみにコンビニの1回の平均単価は600円くらいで、毎日通う人は1年で10万円ほどコンビニに使っているといいます。
常に満席でお断り状態でしたら、単価は高いほうが儲かりますが、行きたくても行けないお店は、お店側にもお客様側にも残念なことです。
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イタリアンバルオーナー
1984年、島根県木次町に6人兄弟の5番目として生まれる。小さい頃から料理が好きで、高校卒業後、住み込みのアルバイトをしながら京都の調理師専門学校に通う。卒業後、さまざまな飲食店で働き、27歳でシェフとして中国人の友人と神戸に創作居酒屋を開業する。2014年、30歳の時、独立。京都市左京区一乗寺の住宅街に、オーナーシェフとしてイタリアンバル「クチーナカメヤマ」を開業。多くの常連さんに支えられながら、のんびりとお店を経営している。また、経営コンサルタントとしての顔も持ち、経営に苦しむ飲食店や、飲食店の経営を考えている人たちに向け、極めて実践的な経営ノウハウをメルマガやブログなどで発信している。画家としても活躍中で、店内には絵画作品が飾られている。「クチーナカメヤマ」HP:https://ryourigaka.jp/cucinakameyama/
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