ディズニー、アトラクションの有料予約に価格変動制──入場者を減らしたままでもやっていけるのか? | ニコニコニュース
決算書といえば投資やビジネス視点で見るイメージがあると思いますが、より一次情報に近い経済ニュースでもあります。「決算書で分かる日本経済」ということで、全国旅行支援を含め変化の大きい移動・交通・レジャー関連の業界について4回にわたり取り上げています。
今回取り上げるのはオリエンタルランド。ディズニーランド/シーの運営を中心に事業を展開している企業です。近年は新型コロナの流行以前に比べて入場者数を抑えた状態が続いている他、ダイナミックプライシングを導入したり、有料の予約サービス「ディズニー・プレミアムアクセス」を開始したりとさまざまな変化がありました。
こうした変化は、オリエンタルランドの経営にどのような影響を与えているのでしょうか。まずはここ数年の業績の推移から確認します。
●売り上げはコロナ禍前の半分程度に
売上高は2020年3月期に悪化が始まり、21年3月期には1705億円に。コロナ禍前の19年3月期には5256億円あったところから3分の1程度まで減少しました。そして22年3月期も2757億円と、やはりコロナ禍前の水準は遠いままです。
●22年3月期には黒字も、回復はまだ遠い
純利益の推移をみても、20年3月期に悪化が始まり、21年3月期は541億円の赤字と大きく業績が悪化しています。22年3月期は80億円の黒字と黒字回復したものの、コロナ禍前の19年3月期が902億円あったところから考えると、回復したとは言い難い状況です。
以上が、22年3月期までの業績です。そこからどう変化があったのか、23年3月期の第2四半期までの業績と比較して見ていきます。
売上高は109.1%増の2040.4億円、営業利益は193.8億円の赤字から379.9億円の黒字、純利益は141.9億円の赤字から264.5億円の黒字と大きく回復しています。
業績回復には、社会情勢が大きく影響しています。前期はまん延防止等重点措置や緊急事態宣言が出される中で、時短営業や人数制限もあり、十分な集客ができていませんでした。
今期は「新型コロナ感染予防ガイドライン」順守による多少の制限はありつつも、その影響は比較的限定されます。もう少し詳しく業績を見ていきます。
オリエンタルランドの主な事業セグメントは(1)テーマパーク事業(2)ホテル事業と2つあります。
それぞれの事業の業績の推移は、
・(1)テーマパーク事業:売り上げ1646億円(119.2%増) 利益180億円の赤字→313億円の黒字
・(2)ホテル事業:売り上げ338億円(87.8%増) 利益5億円の赤字→69億円の黒字
となっていて、主力の両事業とも大きな業績回復が進んでいます。
そもそもオリエンタルランドのホテルに泊まるのはディズニーランドの入園者が大半です。テーマパークの業績回復はそのままホテル事業の好調にもつながりやすいという事情があります。
それではなぜ、テーマパーク事業での業績回復が進んだのかというと、コロナの影響が緩和される中で入園者数が前年比129.1%増の894万人となったことはもちろん、ゲスト1人当たりの売上高が前年比5.4%増加して1万5683円になったことも影響しています。
ゲスト1人当たりの売り上げが増加した要因は、アトラクション・ショー収入つまりチケット代が652円(9.4%)増加して7590円となったことです。
アトラクション・ショー収入の増加には、ディズニー・プレミアムアクセスというパーク内施設などの体験時間や入場時刻を指定して予約できる有料のサービスが増えたことに加えて、ダイナミックプライシング(繁忙期は料金を高く、閑散期は料金を安くすること)の導入によって高価格帯チケットの構成比率が上がったことなどが挙げられます。つまり、値上げがうまくいっています。
以前取り上げたJR東日本でも、オフピーク定期券や特急料金を繁忙期に値上げする取り組みなどを進めていました。最近ではホテルもダイナミックプライシングを導入しているところが増加していて、全国旅行支援の影響もあり、土日は数倍近い値段になるほど価格は変動しています。
このように、さまざまな分野で値段変動により需給を調整する取り組みが進んでいます。時間的な自由が個人の経済事情に与える影響が無視できないほど大きくなっていますね。
●業績が苦しくても1000億円以上の投資
また、値上げを可能にしている要因の1つに継続的に施設への投資を進めているということがあります。なお、
業績が苦しかった22年3月期でも1002億円の投資を実施している他、23年3月期も1185億円の投資を実施する予定です。なお、24年春には新エリアをオープン予定です。
こうしたこともあり、コロナ禍以前の20年3月期の建物・建設仮勘定(建設途中の投資の金額)の合計は4430億円ほどでしたが、それが直近では5570億円まで増加しています。テーマパークとしての価値を高める取り組みができていたことで、客単価の上昇へも好影響があったと考えられます。
顧客が増加したとなると、食事の時間が制限され、1人当たりの飲食販売収入が減少することもありえます。しかし、アルコールの販売を再開したことで結果は66円増の3197円でした。アルコールは単価も高い上、利益率も高いため、原料費高騰で飲食の利益が圧迫される中で利益への好影響も大きいでしょう。
実際に前期からの利益の変動要因を見てみると、原料の高騰が進む中でも商品・飲食の原価率は減少。オリエンタルランドはその影響として、30億円ほどのプラスの影響があったと発表しています。テーマパークにとっても、アルコールを販売できることは重要なのです。
また、1人当たりの売上高の増加は期初予想を上回っていたとしていて、値上げをしたチケット収入だけでなく、商品販売、飲食販売の収入も想定を上回っています。
これまでのディズニーランドのような人気のテーマパークは、繁忙期には数時間待ちが当たり前で、需要が過剰な状態でした。ある程度人数が制限されている現状の方が十分に遊ぶことができ、以前より1人当たりの消費額が増えているのでしょう。となると顧客満足度的向上につながっている可能性もありそうです。
マーケットが縮小していく日本において、体験価値を上げて価格上昇させていく必要性はオリエンタルランドは以前から感じていたと推測されます。
コロナ禍は業績には悪影響をもたらしましたが、価格の変動や客数が減少した際の満足度など、データを取るという点に関してはプラスに働いていると考えられます。これまでは得られなかったデータも取れているはずです。今後もさらに値段の調整を進めていくのではないでしょうか。
続いて、コロナ禍前と比べてどんな変化があったのか、業績を見ていきましょう。
コロナの影響がなかった20年3月期の第2四半期と比べ、22年3月期の第2四半期の売上高は17.9%減、営業利益は37.7%減で、コロナ禍前の水準には回復していません。しかし、その内容には大きな変化があります。
まずは入園者数ですが、コロナの影響がなかった20年3月期の第2四半期時点では1573万人の入園者がいましたが、現在は894万人。43.2%も減少した状況が続いています。
一方でゲスト1人当たりの売上高は1万1504円から1万5683円になり、4179円(36.3%)増加しました。
コロナの影響が残り入園者数が減少しているものの、それを大幅な1人当たりの売り上げの上昇で補う形で今回の業績となっているということですね。
コロナの影響がさらになくなっていくと考える中、入園者数は上期の894万人に対して下期は約1100万人まで増加し、計2000万人に達するとオリエンタルランドは予想しています。コロナ禍前の19年3月期は、下期で1700万人ほどの入園がありました。これと比べると、600万人(35%)も減少した状況は続く見通しです。
しかし、単価は1万1815円から1万5551円まで上昇する見通しです。そこから下期の単純な売り上げを出してみると、
とコロナ禍前の14.8%減の水準まで回復すると考えられます。下期は85%程度まで売り上げの回復が見込めているということですね。
利益面に関しては、23年通期の見通しで営業利益が800億円となっています、第2四半期時点では380億円、下期は420億円の営業利益を見込んでいます。コロナ禍前の19年3月期の下期の営業利益は674億円のため、利益面は62%程度の回復です。
売り上げ、利益ともにコロナ以前の状況にもどる見通しではなく、さらに業績を回復させていくためには、今後さらに客数の回復を進める必要があります。
全国旅行支援などがありレジャー需要が回復していますから、客数は増えていくでしょう。そういった中で高単価を維持していくか、価格の調整を生かしてどのように需給の調整をしていくかにも注目です。