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ゴキブリ混入で操業停止でもボーナスは全額支給…「ペヤング」が炎上から大復活を遂げられたワケ

ゴキブリ混入で操業停止でもボーナスは全額支給…「ペヤング」が炎上から大復活を遂げられたワケ | ニコニコニュース

ネット上での「炎上」に、企業はどう対応するべきか。ブラック企業アナリストの新田龍さんは「迅速な対応ができれば、むしろ信頼獲得につながる場合もある。『ペヤングソースやきそば』の異物混入事件はその好例だろう」という――。

※本稿は、新田龍『炎上回避マニュアル』(徳間書店)の一部を再編集したものです。

■炎上の鎮静化には「過ちを認め改める」ことが重要

孔子の「論語」には、「過ち」について言及した箇所が多い。

中でももっとも有名なのは、「子曰、過而不改、是謂過矣。」(子いわく、過ちて改めざる、これを過ちという)との教えであろう。ご存知のとおり、「過ちを犯していながら改めないことが、本当の過ちである。過失はやむを得ないが、過ちと気づいたらすぐ改めよ」との意味である。

他にも同義の言葉として「過ちてはすなわち改むるに憚ることなかれ」といった教えがあったり、孔子がもっとも信頼していた弟子顔回を評価していたポイントが、「過ちをふたたびせず」(=同じ過ちを繰り返さない)であったりするなど、過失に気づき改めることの重要性を度々説いている。

本書では数多くの炎上失敗事例を取り上げているが、中には世間からの厳しい批判を浴び、一時的に危機的な状況に陥りながらも、着実な対処や迅速な対応、すなわち「過ちを改める」ことで事態を収拾し、早期の鎮静化を成功させたり、逆に信頼獲得に繋げたりしたケースも存在する。本稿では2つの事例から、炎上鎮静化のポイントをひもといていきたい。

■ペヤング製造会社の「ゴキブリ混入事件」

まるか食品株式会社の事例

ロングセラーブランドペヤングソースやきそば」を製造・販売する「まるか食品株式会社」における異物混入事件は、初期対応のまずさから厳しい批判が寄せられたものの、事後対応の姿勢が結果的に支持されることに繋がったケースだ。

まるか食品は、1929年創業の、群馬県伊勢崎市に本社を置く老舗食品メーカー。主力商品である1975年発売のカップ焼きそばペヤングソースやきそば」は東日本を中心に高い知名度を誇り、長年にわたって販売されている。

2014年12月カップ焼きそば購入客が、「ペヤングからゴキブリ出てきた」というメッセージとともに、麺の内部に虫の死骸とみられるものが入った写真をSNS上で公開。すぐに話題となって報道されることとなった。その際、発覚直後であり、まだ混入原因が特定できていない状況にもかかわらず、会社側は「製造過程での異物混入は考えられない」という主旨の文章をサイトに公開し、ネットメディアの取材に対しても「虫が混入していたという苦情も初めて」とコメント。製造過程での混入疑惑をかなり強気に否定していた。

■迅速な自主回収と工場の大規模改修を慣行

しかしその後、外部機関によって分析した結果、虫に加熱の形跡が確認されたため、同社は「製造過程での混入の可能性が否定できない」と認識を改めた。同時に、製品の自主回収費用を補償する「リコール損害保険」に同社が未加入だったことも報じられたほか、問題発覚後、投稿した購入客本人の元へ直接担当者が訪れて商品買い取りを提案した際に、「問題となった写真を削除してほしい」と依頼したこと、社長がコメントを出さず謝罪会見もおこなわなかったことなど、一連の不誠実な対応が明らかとなった。

これにより同社の姿勢への不信感が高まり、「食の安全への認識が甘い」と厳しい批判を招くこととなり、同社は商品の全面回収と約半年間の生産・販売自粛、生産設備の全面刷新を余儀なくされてしまったのだ。

ただ同社は、そこからの動きが早く、かつ徹底していた。その後の調査においても、虫の混入原因や経路の特定には至らなかったが、虫混入疑惑があった所とは無関係な場所も含め、全工場での生産を停止。同時に、既に市場に流通していた製品4万6000個を自主回収するとともに、全国で販売休止を決定した。事件発覚からわずか10日あまりのことであった。

その後、大規模な投資を決定し、生産設備を完全に入れ替え、徹底的に品質管理を強化した。虫混入の可能性があると考えられる箇所の絞り込みをおこなったのち、本社工場では虫の侵入を防ぐため壁を補修し、床を抗菌仕様に変更。また麺の製造ラインには金属探知機、重量チェッカー、X線検査機を設置して異物混入チェックし、運搬レーンにもセンサーカメラを設置して複数回のチェック対策を施した。

工場入場時に作業員は除菌シャワーと複数回のエアシャワーを実施するほか、原材料や資材の搬入時にも極力外気に触れず、異物混入を防ぐ仕組みにするなど、徹底的な再発防止策を導入した。当時の年間売上高約80億円に対して、改善のために投資した金額は10億円を超えると言われている。

■操業停止中も人員整理を行わず、ボーナスは全額支給

操業停止の間、同社は一切の人員整理をおこなわず、従業員へのボーナスも全額支払い、新年度を迎えて新入社員も全員受け入れた。また、生産中止で行き場所がなくなった大量の在庫(食材、調味料、旧容器など)をすべて取引先から買い取り、社長が小売店へお詫び行脚をおこなったほか、自ら工場に赴いて仕分けを率先しておこない、社員を鼓舞するなどの対応をおこなったのだ。

結果的にこれらの姿勢が地元の取引先から強く支持され、販売再開時の支援体制に繋がることとなった。約半年後の2015年5月に生産再開、6月に関東地方での販売を再開した際には、当初予想の約3倍程度の注文が入り、24時間フル稼働の生産体制でも追いつかなくなり、急遽製造ラインを増やして対応しなければならない程であった。その後7月には全国での販売が再開している。

同社は、販売休止期間中、他社にシェアを奪われることもなく、出荷量も拡大を継続。コロナ禍中の2020年5月には、グループ社員約150人に対して「特別感謝金」として一人10万円ずつ支給する大盤振舞いをおこなったことも話題となった。2020年度の売上高も、事件のときからほぼ倍増の約150億円にまで成長している。

■SNS上で「転売容認発言」を行い炎上

株式会社ホビージャパンの事例

株式会社ホビージャパンは、出版及び模型・玩具・ゲームの開発・輸入・販売を手掛ける、1969年設立の老舗企業。総合ホビー雑誌「月刊ホビージャパン」のほか、「カードゲーマー」「月刊アームズマガジン」等、ホビーやゲーム関連の専門誌を刊行するとともに、東京・神奈川に直営店舗を構えて運営している。

2021年7月末、同社は自社雑誌の編集者が、「自身のSNSにおいて、プラモデルなどの買い占めや転売を容認する発言をおこなった」として、当該編集者を退職処分としたほか、常務取締役など、監督者3人を降格させたことを発表、話題となった。

当該編集者は7月、自身のプライベートSNSにおいて「転売を憎んでいる人たちは、買えなかった欲しいキットが高く売られているのが面白くないだけ」「頑張って買った人からマージン払って買うのって、普通なのでは」などと発言。また別のコンテンツ配信サービスでも「転売している人は、買えなかったあなたよりも努力してそれを勝ち取った」「希少価値がついたものは、誰でも複数欲しくなる」といった、転売や買い占めを容認する主旨の書き込み(現在はいずれも削除済)をおこなっていた。

これらの投稿を受け、ネット上では「自社でプラモデルを販売し、取引先にも玩具メーカーが多くあるのに、転売を容認するのか?」などと一気に批判対象となり、炎上状態に。当該編集者は投稿内容を撤回し謝罪したうえ、ホビージャパンも事態を受けて「(顧客の)ホビーに対する思いを裏切る事態になった」「当社としての考え方とは全く相容れるものではなく、ホビーに携わる人間としてあってはならないもの」として謝罪し、会社や編集部としては転売や買い占めを容認していないと明言。編集者を社内規定に従って処分する方針を示していた。

■「炎上」で退職処分は妥当か

そして7月末、同社は当該編集者を退職処分、管理監督者をそれぞれ譴責したうえで、常務取締役編集制作局長を取締役に、「月刊ホビージャパン」編集部編集長を副編集長に、副編集長をデスクに降格したと発表したのであった。

世の中の反応を見る限り、同社の迅速な対応を評価するものが多かったようだが、一部からは「一社員のプライベートなSNS投稿だけで退職処分なんて厳しすぎる」といった意見や、専門家からも「懲戒権の濫用では?」「会社は不当解雇で訴えられても文句を言えないのでは?」との指摘も見られた。

■懲戒の理由と処分内容にはバランスが必要

そもそも懲戒処分とは、組織の秩序維持のために、何らかの違反に対して科せられる制裁のことだ。「懲戒解雇」が有名だが、「戒告・譴責」(口頭注意)、「始末書提出」「減給」「降格」「出勤停止」といったものも懲戒処分のひとつである。

「どのような懲戒を設けるか」については基本的に各企業の自由だが、だからといって企業は「自由に懲戒できる」というわけではない。懲戒処分はあくまでも制裁罰であるため、懲戒の理由と処分内容のバランスを慎重に判断されることになる。「遅刻を1回した」だけとか、ちょっとしたミス程度で懲戒処分を下すと、それは「懲戒権の濫用」に該当し、その懲戒は無効となってしまう決まりがあるのだ。

労働契約法
第十五条 使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。

ホビージャパンが下した「退職処分」とは聞き慣れないが、おそらく懲戒処分のひとつ「諭旨退職」のことと思われる。これは解雇相当の重大な規則違反ではあるが、懲戒解雇よりは幾分温情的な措置としておこなわれる処分である。双方の違いは次のとおりだ。

懲戒解雇
即日解雇。退職金や解雇予告手当の支給はなく、離職票の離職事由にも「懲戒解雇」と記載され、再就職先にも懲戒処分を受けたことが明らかになる厳しい処分

諭旨退職
処分対象の社員に、自主的に退職届を提出するよう促す。自己都合退職扱いとなり、退職金も支給されることが多い。懲戒ではあるが、一段階軽い処分

■「転売容認」は会社の存続にかかわる案件と判断

とはいえ、諭旨退職自体がもっとも厳しいレベルの懲戒処分であり、本来であれば「刑事罰相当の犯罪をおかしたとき」「重要な機密を故意に漏洩したとき」「架空取引や不正会計で会社に損害を与えたり、信用を損なったとき」といったレベルの問題行動に対して下されるものである。今般はそれが「プライベートSNS投稿」に対して下されたわけだから、「厳しすぎる」との意見も一理あるかもしれない。

恐らく本件は、そのような批判があることも想定の上で、あえて下したギリギリの判断ではないかと考えられる。

●単なる一社員のプライベートSNS投稿であるが、当該社員は「ホビージャパン編集者」と身分を明かしており、「社員の意見=会社の見解」と認識されるリスクがあった
●不正転売対策に業界を挙げて取り組んでいる中、多くの玩具メーカーと取引があり、自社でも玩具を販売している会社の社員が転売容認発言をすることは、取引先各社から強い批判を招く恐れがあった→たとえ当該社員から「懲戒権濫用だ」「不当解雇だ」と訴えられたり、その裁判で会社側が負けて解決金を支払ったりする結果になったとしても、迅速に処分を下して取引先や関係者にケジメをしっかりつけなければ、会社の存続が危うくなるレベルの厳重処分案件だった

結果的に、この処分が発表されて以降、炎上は沈静化し、騒動自体も収束している。リスクを負ってでも素早く対処した成果といえるだろう。

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新田 龍(にった・りょう
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役
働き方改革総合研究所株式会社代表取締役。労働環境改善、およびレピュテーション改善による業績と従業員満足度向上支援、ビジネスと労務関連のトラブルと炎上予防・解決サポートを手がける。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

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『まるか食品株式会社』HPより

(出典 news.nicovideo.jp)

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