パチンコや麻雀が楽しめる「介護施設」。当初は“反対意見”も実現に至ったワケ | ニコニコニュース
各所で多様性の必要性が叫ばれているが、介護業界も例外ではないのかもしれない。日本シニアライフ株式会社が関東中心に約20店舗を展開するデイサービス「ラスベガス」は、パチンコや麻雀などを利用者が楽しめる。今回の記事では、これまでのイメージを覆すような介護事業所の実態をレポートしてみたい。
「黒いアルファード」が迎えに来る
お邪魔したのは、東京都町田市にある「デイサービス ラスベガス 町田木曽」。黒いアルファード、もとい送迎車がビシっと駐車されていた。送迎車と言えば白いハイエースのイメージもあるが、デイサービスに通っていることを周囲に知られたくない利用者も少なくないため、黒いアルファードを採用したらしい。
入口を抜けると真っ先に目に飛び込んできたのが、ずらりと並んだパチンコ台。半年に1回は機種を変えるため、飽きがこなさそうだ。ただ、古い台はプレミアムがついているため、なかなか手が出せないのだとか。ちなみに1番人気は海物語シリーズらしい。
体操の時間が気分転換に
1時間に1回、5~10分の体操の時間を設けているという。体操を面倒がる利用者もいそうだが、1時間麻雀を打っていると年齢に関係なく身体を動かしたくなるもの。むしろ気分転換として体操に前向きに取り込む利用者は多いようだ。
また、体操中に流れる曲は、なんとレディー・ガガの「Born This Way」。検討を重ねた結果、1番体操との相性が良かったようで定番化したという。
スタッフがディーラーに!
体操が終わるとすぐに思い思いの娯楽に身を投じる。スタッフがディーラーとなり、ブラックジャックがスタート。すぐ隣では麻雀も始まった。ここに来て初めてこれらを始めた人も多いという。
麻雀は、符計算がややこしく、初心者でなくても難易度が高いが、ここでは符計算という概念はなく、翻数のみで点数が決まる。例えば、子が七対子ドラ2を上がった場合、本来は6400点になるが8000点(満貫)になり、とても計算しやすい。
また、麻雀を知らないスタッフも当然いる。そのため、研修の機会を設けているが、利用者からも教えてもらいながらルールを覚えることが常らしい。
なお、カラオケルームも用意されており、さながらラウンドワンのような総合アミューズメント施設になっている様相だ。
利用者にリアルな意見を語ってもらった
せっかくなので利用者に話を聞いてみた。5年ほど前に本施設がオープンした時から通う初期メンバーの木村さん(68歳)はラスベガスについてどう思っているのか。
「麻雀やカードゲームを楽しんでいるのですが、指先や頭をよく使うため、以前よりも物忘れが減りました。ここに来るまでは家でぼーっとテレビを見ることくらいしかやることがなく、楽しみはあまりなかったです。ただ、ラスベガスに来るようになり、ゲームを楽しんだり、利用者とコミュニケーションをとったりなど、楽しみが増えました。女房も元気になった私の姿を見て喜んでくれています」
また、木村さん同様の古株で、ノンアルコール飲料を飲みながらブラックジャックに興じていた海老沢さん(78歳)は、「みんなでワイワイ遊べるので、ここに来るのがいつも楽しみです」と話す。
「ラスベガスに来る前は5軒ほどデイサービスを利用したのですが、どこも長く続きませんでした。私は歌うことが好きなのですが、他のデイサービスでは利用者全員で歌わされるのですが、それがとにかく嫌だったんです。あとは手芸や絵描きもよくやらされましたが、あまり好きではありません。ここならカラオケルームに入って1人で歌うことができ、ゲームも楽しめます」
ラスベガスで閃いたアイデア
次に日本シニアライフ株式会社代表取締役・森薫氏に話を聞いた。なぜ麻雀やパチンコを遊べるデイサービスを立ち上げたのか。
「介護報酬の財源は税金なのですが、東日本大震災を受け、『日本はこのままだと大変なことになるのでは?』『税金に頼るのは危険かもしれない』と考えました。新しいアイデアを探るため、アメリカに視察に行きました。そこでラスベガスのカジノに行ったのですが、高齢者が多く楽しんで遊んでいる様子にとても驚いたんですよね。もちろん、大金をかけているわけではなく少額で楽しんでいたんです。
そもそも、デイサービス利用を敬遠される人も多く、また『自分はまだまだ元気だ!』という人も少なくありません。デイサービスに楽しく通ってもらう方法を常に考えていたので、『カジノのように遊べる施設にしたら良いのでは?』と思い、オープンしました」
選択肢を増やす必要性を感じた
とはいえ、当初は社内で反対意見が多かったという。
「やはり、デイサービスにも多様な選択肢があったほうが良いと考えています。選択肢が増えることによってデイサービスの利用を前向きに捉える人も増えるため、役員会の多数決はギリギリでしたが、なんとか説得できました」
麻雀やパチンコが遊べる以外のラスベガスの魅力についてはこう語る。
「スタッフとご利用者が対面してコミュニケーションをとれる環境づくりを心がけています。例えば、事務作業を簡略化したり、電子レンジを使う料理を採用したりなど、スタッフが作業に追われる事なく、ご利用者と一緒に楽しめる職場を今後も整備していきたいです」
ギャンブル依存について批判意見も
また、ここでの経験がきっかけで、ギャンブルにのめり込む懸念もよぎったが、「これまでに5000人近い利用者と契約しましたが、ギャンブル依存症になった人はいません」と回答。
「『(利用者が)ギャンブルに興味を持ったらどうするんだ?』という意見も寄せられ、さらにはメディアから『ギャンブル依存症についてどう思うか?』と聞かれることもありました。ただ、ラスベガスではギャンブル依存症になった人がいないため、何とも言えないのが現状です」
ただ、現在はギャンブル依存症に関する意見も減ったようで、森氏は「現在も批判のあった事に対して真摯に向き合っており、財源が税金だからこそ結果を出し、ご利用者に満足していただける様に努めています。これからもその姿勢を崩さずに周囲の理解を得られるようにしたいです」と語る。
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老後の“選択肢を増やす”という意識はとても大切なように思えた。趣味趣向は十人十色であり、ラスベガスとはまた違った個性的な福祉サービスが増えていけば、老後が楽しみになりそうだ。
<取材・文/望月悠木>
【望月悠木】
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている Twitter:@mochizukiyuuki