生成AIで作成したレポート「見分けつかない」 大学の教育現場で困惑広がる…対応策は? | ニコニコニュース
ChatGPTなど、急速に普及している生成AIだが、教育現場では混乱が続いている。
大学などの高等教育機関では、それぞれ方針を定めて対応するところが増えてきているが、教鞭をとる教員たちからは「生成AIでレポートを書かれたら、見分けがつかない」という困惑の声も上がっている。
そうした中、文科省は7月13日、各大学や高等専門学校に対し、学生が生成AIの出力をそのまま用いてレポートなどを作成することは学びにつながらないとして「一般的に不適切」とする文書を周知した。
武蔵大学・庄司昌彦教授(情報社会学)の調査によると、193の大学・学部が生成AIの利用について対応を公表しており、そのうち約1割の大学では、学生がレポートを作成する際に生成AIを利用することを禁じている。
また、禁止しないまでも、「生成系AIの出力をほぼそのまま鵜呑みにしたレポートを提出することは、皆さんが生成系AIに隷属することにも等しく、甚だ不適切」(東京工業大学)と注意喚起する大学もある。
大学教育とAI、どのように考えれば良いのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)
●「公平な採点できているか不安になる」
「これまで、ウィキペディアの丸写しは注意してきましたが、ChatGPTで生成されてしまうと見分けがつきません。無理です」
そう話すのは、都内の私立大学で講義を受け持つ女性講師だ。毎週のように提出される学生たちのレポートに頭を悩ませている。
この女性が勤める大学では6月、生成AIの利用について方針を明らかにした。大学では、学生が生成AIを利用することを禁じていない。ただ、出力された内容を「参考資料」とすることは差し支えないが、そのままレポートや論文として提出することは禁じている。
女性は、「ChatGPTはまとめることがとても上手です。よく書けているレポートなのか、それとも生成AIで作成されたレポートなのかが見抜けず、公平な採点ができているのか不安になります。学問は自らの頭で考えることに意味があると思います。見抜けなかった場合、何も身についていない学生に単位を与えることになってしまう」と話す。
●「鵜呑みにしたレポートは生成系AIに隷属することに」
「今、まさに各大学は学期末レポートの出題の時期なので、試行錯誤していると思います」
そう話すのは、武蔵大学の庄司教授だ。
庄司教授は7月8日に開かれた情報通信学会大会で、「生成AIに対する大学の対応まとめ」を公表した。193の大学・学部の「学生の授業内での利用」や「学生のレポートでの利用」について整理している。
このまとめによると、1割近い大学が、学生がレポートを作成する際に生成AIを利用することを明確に禁じていた。
清泉女子大学「⽣成型 AIの回答をレポート課題や卒業論⽂で参照したり前提情報としたりするならば、⽣成型 AI はあなたの学びを邪魔する存在になりますし、成績評価の際には不正⾏為とみなす」
北里大学「禁止する。(担当教員の許可があればその限りではない)」
国際基督教大学「生成系AIが作成した文章は、多少の改変を加えたとしても、自身で作成したものとは認められず、アカデミック・インテグリティー(編集部注:研究公正)の方針に抵触すると判断される。(ただし、担当教員からAI使用について特に指示がある場合は、この限りではない)」
上智大学「使用を認めない(教員の許可があればその指示の範囲で使用可)」
(まとめより抜粋)
また、利用を一律に禁じなくとも、出力内容をそのまま提出することを禁じる大学は多い。
筑波大学「適切に引用元を明示することができる場合のみに限定し、文章全体のオリジナリティーが懸念されるような割合にならない範囲での使用とする。また虚偽情報でないこと、著作権等の問題がないことを確認できないものは使用しない」
明治大学「生成系AIのみを用いて課題レポート等を作成することは認められない。また、一部の利用であっても、剽窃(盗用)とみなされる場合がある」
早稲田大学「生成AIが作成した論文等をそのまま提出すれば、不正行為」
(まとめより抜粋)
●広く運用するルールを議論していく
生成AIの利用を一律禁止する大学について、庄司教授は次のように指摘する。
「適切な利用方法が確立していないため、一時的に一律禁止しているのではないでしょうか。生成されたものをどのように扱えば適切なのか、たとえば引用として明記すればよいのか、他人の文章とまったく同じ表現が入っていた場合は盗用にあたるのか。まだ議論が始まったばかりなので、現時点では禁止しておくということなのだと思います」
また、庄司教授によると、大学の中には、生成AIの利用を倫理的な非難の意味も込めて厳しく禁じているところもあるという。
「AIを利用することに対して、『不正なものであり、使ってはいけないもの』という意識が背景にあるようにも見えて興味深いです。生成AIが深刻なインパクトをアカデミアに与えると警戒されているのかもしれません」
しかし、現実的に社会で生成AIの利用が広まれば、大学でも利用する学生は増えていく。教育上必要な場合を除き、社会での普及を見越して積極的に利用を進めていく必要もあると庄司教授はみている。
「昔は紙に手書きし手渡しで提出していたレポートですが、今はPCなどで作成して、デジタルデータでオンライン提出しています。かつてはネットで調べてはいけないとも言われていましたが、今の学生はネットも利用しながら勉強しています。これまでもツールの進化に合わせて考え方を変えてきたのですから、今回も大学側の考え方を変えていく必要があるのではないでしょうか。
私の授業では『生成AIの利用を必須とし、レポート全体で生成AIを利用したものとして採点します。どのようにAIを利用しても文責はあなたです』と学生に伝えています。最終的には自分の名前で提出し、成績は自分が引き受けるのですから、学生が度を超えてサボることにはならないと考えています。
また、授業に対する学生の感想を見ていると、当初は生成AIは正解を教えてくれる知性を持ったロボットかのように思われていましたが、実際には万能ではなく、当たり障りのない作文をしてくれるサービスだという正しい理解が広がってきていました。徐々に生成AIに対して学生も冷静になってきています」
生成AIを大学など高等教育の現場にどう活用していけばよいのだろうか。
「過度に期待せず、過度に恐れず、正しい理解に基づいて使っていくことが大事です。教育だけでなく、各業界でも生成AIの利用は広がっていますが、業界や国ごとに異なったルールが乱立するのは不便ですから、できるだけ広く通用する一般的なルールを議論していくことが必要だと思います」