ピックアップ記事

72歳でも「認知症グレーゾーン」からUターンできる…認知機能を回復させるために始めるべき「習い事」とは | ニコニコニュース

認知症には、健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーン(軽度認知障害)の段階がある。認知症専門医の朝田隆さんは「認知症の予防には愛情ホルモンのオキシトシンの分泌が重要だ。72歳の女性は、習い事のおかげでオキシトシンの分泌がうながされ、グレーゾーンから抜け出すことができた」という――。

※本稿は、朝田隆『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)の一部を再編集したものです。

■認知症を見事に言い表したある俳優の言葉

先日、ある方が当院へ来院されました。

ご本人はすでに自分の認知機能が低下していることを自覚されていて、検査の結果、認知機能が低下し始めていることがわかりました。そして、診察しているとき、次のようなことをおっしゃったのです。

認知症を専門とするお医者さんや、世間一般でも、認知症というと“知(知性)”の衰えばかり言いたがるけど、“感情”の部分だって侵されるんです」

この方は日本を代表する大御所俳優の方です。私は感服しつつ、このようにお答えしました。

「おっしゃるとおりです。知能は検査機器で測れますが、感情を測る方法がないので、医者もそこにふれたがらないのです」

感情とは「意・情・知」の「情」の部分です。心が動けば脳が刺激され、グレーゾーンからのUターンに好影響を及ぼします。だからこそ私は、認知症予防および認知症グレーゾーンから回復するためのキーワードの一つとして、感情を呼び覚ます「わくわくに満ちた生活」という提案を、患者さんに推奨しているのです。

わくわくに満ちた生活といっても、難しく考える必要はありません。親しい友人たちと旅行へ行ったり、おいしいものを食べに行ったり、カラオケストレスを発散したりするだけでも、脳を活性化するホルモンは分泌されます。

■鏡の中の自分に脳内ホルモンがあふれ出す

脳が若くて活発に働いていると、感受性も豊かですから、自分の見た目に関して、いろいろなことが気になります。

学生時代、女性であれば前髪の長さがほんの少し違うだけで気分が落ち込んだり、逆にウキウキしたりした記憶があるでしょう。男性でも、60代以上の人なら、リーゼントの前髪がうまく決まらなくて、学校に遅刻しそうになった人もいたのではないでしょうか。

髪形や髪の色などを気にしているうちは、脳が健康な証拠です。逆にいうと、髪形や髪の色をいつもと変えることは、認知機能が衰え始めた脳に、適度な刺激を与えるうえでとても効果的なのです。

とくに、「髪を染めるのがめんどうくさい」「美容院へ行くのもめんどう」と思い始めたような人は、ちょっとがんばっておしゃれな美容院へ行き、「私にいちばん似合う髪形と髪の色にしてください」と頼んでみましょう。

鏡の中でどんどん変わっていく自分の姿を見て、最終的に“最高の自分”に仕上がったら、喜びで脳内ホルモンが分泌され、脳は一気に活性化します。

「きれいになったことをほめてもらいたい」と思うと、外に出て人と会うことが楽しくなります。さらに、美容院へ行くこともめんどうでなくなる、というよい循環が生まれます。

自分でヘアカラー剤を買ってきて、いつもと違う色の髪に染めてみるだけでも気分が変わります。このとき、白髪染めではなく、おしゃれ染め用のヘアカラーを使うのがおすすめです。

■恋愛ドラマを観るだけで脳内ホルモンがあふれ出す

誰しも若い頃、恋をして心臓が破裂しそうなほどドキドキした経験があるでしょう。このとき、周りの状況は何も変わっていないのに、すべてがバラ色の景色に見えませんでしたか?

これは、3つの脳内ホルモン(※)があふれるほど分泌されていたからです。

やる気や幸福感を生み出す「ドーパミン」、愛情の源となる「オキシトシン」、心を癒す「セロトニン

誤解のないように申し上げておくと、私は何も、既婚者の方に伴侶以外の人に本気で恋愛感情を抱くことをおすすめしているわけではありません。行きつけの美容院の美容師やカルチャースクールの講師、あるいはドラマや映画などを見て、「この人ステキ」「なんてきれいな女優さんなんだ」とあこがれる。このような感情も十分にときめきですし、脳内ホルモンは分泌されます。

Lさん(65歳・女性)は仕事を定年退職したあと、まだ現役で働いているご主人の食事を作る以外は、これといった家事をする気力もなく、ぼんやりとした日々を送っていました。ところがあるとき、友人からすすめられた韓流ドラマを観て、イケメンの主演俳優にすっかりハマってしまったのです。

その俳優のイベントがあると聞くと、友人とともに韓国まで出向くこともしばしばで、ご主人は半ばあきれながらも、Lさんがイキイキした姿を取り戻したことを喜んでいるそうです。

Lさんのように、一人で盛り上がるだけでなく、同じときめきを共有する友人がいれば鬼に金棒。脳内ホルモンの分泌は爆発的に高まります。

ただし、インターネット上で知り合った異性に本気でのめり込んでしまうことは絶対に避けましょう。国際ロマンス詐欺などに引っかかる場合があるので要注意です。年甲斐もない恋ゴコロは、認知症予防にとても有効ですが、相手を見極める目だけは、“年の功”をぜひ発揮してください。

■スペシャルな趣味で知的好奇心を刺激するのがいい

先日、患者さんからおもしろい話を聞きました。その人がたまたま聞いていたラジオ番組で、高校の校長だった男性が、退職したあとにシニア向けの劇団に所属し、カラオケで流れる映像などに“俳優”として出演している、というエピソードが紹介されたというのです。

この話を聞いて私は、「それはすばらしい!」と思いました。60歳、あるいは65歳で退職したあと、俳優になろうと考えるようなチャレンジ精神に満ちた人は、おそらく認知症にはならないでしょう。

かりに認知症グレーゾーンが始まっていても、俳優として舞台に立ったり、カラオケの映像で自分の姿が流れたりするような人生を送っていれば、脳内ホルモンは爆発的に分泌され、口ぐせの「めんどうくさい」は消えるはず。知的好奇心も大いに刺激され、記憶をつかさどる海馬の萎縮を抑えるうえでも効果的です。

若々しい脳を保つには、没頭できる趣味をもつことが効果的です。若い頃から好きだった釣りや読書、映画鑑賞などを、定年後にあらためてじっくり堪能することも方法の一つ。

ただし、すでに認知症グレーゾーンが始まっている人がUターンするには、この校長先生のように、もっとスペシャルな趣味に挑戦したほうが効果的です。

スペシャルな趣味と言われても……」という方は、図表2のリストを参考にしてみてください。ピピッとときめいたものがあれば、挑戦してみてもよいですね。

■娘と同じ大学に合格したMさん

専業主婦のMさん(54歳・女性)もそんな一人。Mさんは、娘さんが大学受験に向けて必死で勉強している姿を見て、自分も一緒に努力したいと考え、なんと同じ大学を受験することにしました。

当時52歳だったMさんにとって、参考書を片手に勉強をするのは30年以上ぶりのこと。それでも、あらためて教科書や参考書を読んでみると、学生時代は嫌いだった科目も含め、意外なほどおもしろく、毎日夢中で勉強したそうです。その結果、見事に親子で現役合格。地域の新聞にも取り上げられ、Mさんの人生はそこから一変したのです。

こうした方は、生涯、認知症と無縁で暮らしていけると思います。もちろんMさんのようなケースはまれですが、会社を退職したり、子どもが自立したりしたタイミングで、「新しい学びを始めました」という声を最近よく耳にします。

■楽しいと思える大人の学びを持つ

もっと気軽に、自分の好きな趣味の延長線上で、資格試験にチャレンジしてみるのもいいでしょう。認知症グレーゾーンが始まっている人は、勉強を始めても「めんどうくさい脳」が邪魔をし、途中で挫折しがちです。そうしたときは、勉強するモチベーションを上げる「プラスの楽しみ」を見つけるようにします。

たとえば、講師で決めるというのもその一つ。教え方の上手な有名講師のいるセミナーへ通うのもよい方法ですし、イケメン講師、美人教師が目当てでもいい。「勉強するのはめんどうだけど、あの先生に会えるなら行ってみようか」と思えれば、しめたものです。

もっというと、「あの先生に会いたいから、この資格試験を受けてみよう」でも構いません。興味のない分野でも、自分の好きな先生の授業を受けているうちにおもしろさに気づくことは、学生時代でもよくあることです。結果として、いつもと違う脳を使うことになり、脳をバランスよく活性化するうえで効果的です。

ただし、「認知症になりたくないから」という理由で、やりたくもない学びを嫌々続けても成果にはつながりません。大人の学びは、あなたが「楽しい」と思えるかどうか、それが最も大事です。

■社交ダンスやフォークダンスで「スキンシップ」が効果的

最近、ご主人や奥様と手をつないだり、ハグし合ったりしていますか?

年をとると、家族の間でもスキンシップをとる機会がほとんどなくなります。とくに日本では、孫を抱っこするのがせいぜいで、親子や夫婦であっても、西洋人のように頻繁にハグし合ったりするケースは少ないでしょう。これは認知症対策において、とても残念なことです。

肌と肌をふれ合わせることは、愛情ホルモンのオキシトシンの分泌を高めます。このオキシトシンは、アミロイドβという毒性物質による海馬(記憶の中枢)の障害を回復させる働きのあることが、東京理科大学の研究で明らかにされています。

Nさん(72歳・女性)は、70歳を過ぎてご主人を亡くしたあと、一念発起して、社交ダンスの教室へ通い始めました。地域の公民館で開かれているシニア向けの気楽な教室のようでしたが、「男性と手を取り合って踊ることが、こんなにドキドキするなんて」と、乙女のような顔でいつもお話しされます。

社交ダンスを始めてから友人も増え、おしゃれをすることが楽しくなり、最近はネイルアートにも挑戦しているとのこと。最初は戸惑っていた息子さんたちも、そんな彼女の様子を見て、だんだん応援してくれるようになったといいます。

これはとてもステキな生き方で、年齢に縛られない「年甲斐もない生き方」の好例です。Nさんは70歳のときに認知症グレーゾーンと診断されましたが、2年経った現在、認知機能はほぼ正常に回復し、誰よりもイキイキとした人生を送っています。

■ドキドキ、ときめきが認知機能を復活させる

一つのきっかけで、こんなにも人は変わるのだと、私はNさんから教わりました。

「社交ダンスはちょっとハードルが高い」と思う人は、フォークダンスサークルに参加するのもいいでしょう。フォークダンスは、決まったパターンの繰り返しのため覚えやすく、次から次へと相手が変わっていくので、「ときめき度合い」が倍増するかもしれません。

もちろん、長年連れ添った伴侶とのスキンシップでもオキシトシンの分泌は高まります。

「何をいまさら……」なんて思わずに、試しに一度、久しぶりに手でもつないでみてください。忘れていた「ときめき」がよみがえるかもしれませんよ。

----------

朝田 隆(あさだ・たかし
認知症専門医
東京医科歯科大学客員教授、筑波大学名誉教授、医療法人社団創知会理事長、メモリークリニックお茶の水院長。1955年島根県生まれ。1982年東京医科歯科大学医学部卒業。東京医科歯科大学神経科精神科、山梨医科大学精神神経医学講座、国立精神・神経センター武蔵病院(現・国立精神・神経医療研究センター病院)などを経て、2001年筑波大学臨床医学系(現・医学医療系臨床医学域)精神医学教授に。2015年より筑波大学名誉教授、メモリークリニックお茶の水院長。2020年より東京医科歯科大学客員教授に就任。アルツハイマー病を中心に、認知症の基礎と臨床に携わる脳機能画像診断の第一人者。40年以上に渡る経験から、認知症グレーゾーン(MCI・軽度認知障害)の段階で予防、治療を始める必要性を強く訴える。クリニックでは、通常の治療の他に、音楽療養、絵画療法などを用いたデイケアプログラムも実施。認知症グレーゾーンに関する多数の著作を執筆し、テレビや新聞、雑誌などでも認知症への理解や予防への啓発活動を行っている。著書に『認知症グレーゾーンからUターンした人がやっていること』(アスコム)、『まだ間に合う!今すぐ始める認知症予防』(講談社)などがある。

----------

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kitiwan mesinsom

(出典 news.nicovideo.jp)

db

db

研究が進むといいね。

ピックアップ記事

Twitterでフォローしよう

おすすめの記事