「ねえ、通帳は?」〈年金16万円の母〉と実家暮らしの37歳・末っ子長男の秘密…長女、激怒の理由【FPが解説】 | ニコニコニュース
子や孫の口座を作って預金すること自体は、多くの家庭でよく見受けられます。しかしこのような預金は、場合によっては税務調査の対象となり、結果として高額な相続税や贈与税を払うはめとなる可能性もあると、FP1級の川淵ゆかり氏はいいます。本記事では、Aさんの事例とともに、預金にまつわる相続・贈与の注意点について解説します。
相続・贈与の落とし穴「名義預金」
「子ども(孫)名義の口座を作って預金を積み立てています」
そんな人はけっこう多いと思います。このように実際のお金の持ち主とは別の人の名義の預貯金などを「名義預金」といいます。
子どものお金なのか?
親のお金なのか?
贈与税は?
相続税は?
以前から「名義預金」の口座を持ちながら不安を感じている人も多いと思います。わかりやすいようにAさんのケースを事例にご説明していきます。
実家で母と暮らしていた末っ子長男
Aさんは37歳の独身のフリーカメラマンで、年金16万円と亡夫の遺産5,000万円で暮らす母親と2人で閑静な郊外の戸建てに住んでいました。
若いときは「カメラマンとして名を馳せたい」と意欲もありましたが、最近は出版社から雑誌などの撮影を受けるくらいで、気力もなくなっている状態です。Aさん自体は年収が300万円ほどとそれほど収入があるわけではありませんが、実家は資産家のため、住まいや食費といった生活費も母親に頼っている状態でした。
大企業の役員をしていた父親は10年前に亡くなりましたが、優しかった母親も2年ほど前に亡くなり、法定相続人はAさんとすでに嫁いでいった5歳年上のしっかり者の姉の2人で、特に遺言書もなかったため、大きな財産を均等に相続しました。
学費用・結婚資金用のために始めた「名義預金」
さて、Aさんの父親はAさんが小学生に入ったころ、将来の学費や結婚のために、銀行でそれぞれの子ども名義の口座を作りました。
月々に入れる金額はそれほど大きくはありませんでしたが、それでも姉が結婚するときには300万円ほどになっており、それを結婚費用として利用したあとに、口座もそのまま引き継いで嫁いでいきました。
Aさんも自分名義の口座があることはわかっていましたが、「仕事がダメになったときに使わせてもらえばいいや」程度に考えていて、残高や通帳の場所なども知らないまま過ごしていました。
そして母親も亡くなってしまい、Aさんは母親の部屋の整理をしているときに自分名義の通帳を見つけ出しますが、その残高はなんと2,000万円を超える金額になっていたのです。
結婚もせずにフリーで仕事をしている息子を心配したのでしょうか。母親は5年ほど前から夫から相続したお金の一部をAさんの口座に分割して移していったようです。
母親が亡くなった直後のことで、今後母親からの相続財産も調べないといけない時期だったのですが、「これは俺の通帳だから俺のものだよね。ラッキーだぜ!」くらいにしか考えていませんでした。
税務調査でバレる名義預金
名義預金は口座名義人に関係なく、預金を管理している人の物として扱われます。つまり、Aさん名義の口座は、父親の死後に入金を行い管理していたことから母親の財産となります。ですから、相続発生時にはこの名義預金も相続財産に含める必要があったのです。
相続税の税務調査では、亡くなられた方の財産状況はもちろんですが、税務署は金融機関への情報開示も請求できるので、親族の口座の取引状況まで照会されてしまいます。もし、親族のなかで収入に見合わないような預貯金があった場合にはその資金源を問われることになります。
Aさんの仕事や収入の状況などから、どう見ても不自然な口座残高は、母親からの口座からの移動が確認され、税務署から指摘を受けることになりました。
このように、名義預金は税務署にバレてしまうことがあります。名義預金を相続税の課税財産に含めておかないと、税務署から指摘で追徴課税や延滞税などのペナルティを受ける恐れもありますので注意しましょう。
なお、大きくなった子どもに生前に通帳を渡して管理させるようになった場合は、その時から子どもの財産となりますが、当然、贈与税の課税対象となります。
贈与税の時効は6年(悪質な場合は7年)となっていますが、名義預金にはこの時効は通用しません。親が口座の管理をし続けていることで贈与という事実はありませんから、贈与税の時効は成立せず、相続財産として相続税の計算をしなければなりません。
昔からの名義預金だから大丈夫、と考えず、タイミングをみて名義人に管理を任せて贈与するか、生前贈与しないのであれば自分の財産であることを家族に伝えて相続財産にする必要があります。金額が大きい場合は、節税対策などを専門家に相談してみましょう。
姉弟ゲンカ勃発!
相続が発生したあとは、相続財産をどうわけるかで相続人同士が話し合う「遺産分割協議」が行われます。自分名義の多額の口座が見つかったことで余裕のできたAさんは、姉と争うこともなく、遺産分割協議はスムーズに終わりました。
しかし、姉から問いただされます。
「ねえ、あの通帳は?」さすがはしっかり者です。Aさんの分も預金があることを覚えていました。
しらばっくれていたAさんでしたが、その後の税務調査で名義預金が見つかったことにより、大げんかとなります。
姉は、当然「半分寄こしなさいよ!」と詰め寄ります。AさんはAさんで「自分だって口座から結婚資金を出したじゃないか!」と言い返します。
結婚費用はどうなるか?
Aさんの姉は結婚のときに名義預金から披露宴などの費用を払ってもらいましたが、この口座も父親が管理していたもののため、父親からの支払いとなります。110万円を超える贈与には贈与税がかかりますが、子どもの結婚となるとこの金額以上のお金をかける親御さんも多いでしょう。
結婚費用として親からお金を出してもらった場合はどうなるのでしょうか?
挙式費用や披露宴費用を親が支払ってくれた場合の結婚資金援助は贈与税の対象にはなりません。ですが、挙式費用を実費で払ってもらうのではなく、結婚資金援助として銀行に振り込んでもらった場合等は贈与となりますので、110万円を超えてしまうと贈与税の対象になってしまいます。
なお、2025年(令和7年)3月31日までの時限措置として、「結婚・子育て資金の一括贈与の非課税特例」があります。これにより、受贈者一人あたり1,000万円までの贈与税が非課税となりますが、結婚資金の贈与に充てられる部分は300万円までとなっています(「結婚・子育て資金非課税申告書」の提出等が必要です)。
また、結婚祝いのご祝儀も合計すると110万円を超えるケースも多いですよね。家族や友人などから結婚祝いとして受け取る金品は基本的には贈与税はかかりませんのでご安心ください(ただし、一個人からあまりにも大きな金額の場合等は例外です。ご注意ください)。
川淵 ゆかり
代表