漢方薬の飲み過ぎで「大腸が真っ黒」になる…医師が「副作用に注意すべき」と警鐘を鳴らす漢方薬の名前 | ニコニコニュース
■本当に漢方薬は副作用が少ないのか?
ちょっと体調が悪い、でも「強い薬」は怖い……。
そんな時、患者さんのほうから「漢方はどうですか?」と相談されることがあります。
患者さんは「漢方なら副作用も少ないでしょうから……」とよくおっしゃいます。
あるアンケート調査(※)では、回答者の7割以上が「漢方薬は副作用が少ないと思う」と答えていますが、本当に漢方薬は副作用が少ないのでしょうか。
(ちなみに、こういう場合、「漢方薬」ではなく「漢方」と言う方が多いようです。みなさん「薬」がお嫌いなのでしょう)
※ QLife漢方「漢方のウワサ!リサーチ隊 Vol.3「漢方薬は副作用が少ない?」を徹底調査」
結論から言いますと、残念ながら、漢方薬にも副作用はあります。
たいていの副作用は軽い症状にとどまり、飲むのをやめれば解消するのですが、中には深刻な副作用もまれにあります。
この記事では漢方薬の副作用のうち筆者がよく出会うものや特に深刻なものをいくつか紹介します。
■放っておくと大変なことになる「偽アルドステロン症」
漢方薬の副作用として特に代表的なものが「偽アルドステロン症」です。
これは出会う機会も多いし放っておくと大変なことになるので、漢方薬を出す医師は必ず知っておくべきものです。
厚生労働省の資料によると、「偽アルドステロン症」には、高血圧、むくみ、手足のだるさ、筋肉痛などの症状があるとされます(『重篤副作用疾患別対応マニュアル』「偽アルドステロン症」)。
■漢方薬に含まれる「甘草」が副作用を起こす
偽アルドステロン症は、多くの漢方薬に含まれている甘草(かんぞう)が起こす副作用です。
より詳しく言うと、甘草の有効成分であるグリチルリチン酸が偽アルドステロン症を起こします(図表1)。
アルドステロンというのは人体が自然に作っているステロイドホルモンの一種です。グリチルリチン酸はアルドステロンのような作用、たとえば血圧を上げ血中のカリウム濃度を下げるといった作用を引き起こします。
■「ステロイドホルモン」の作用を強めてしまう
ステロイドホルモンという言葉が出てきました。ステロイドというのはあるグループの化学物質を指す言葉で、多くの物質がステロイドに分類されます。医薬品でステロイドと言えばふつう、アルドステロンとは別の、炎症を抑えて熱や痛みなどをやわらげるタイプの薬を指します。
人体内ではコルチゾールというステロイドホルモンがこの作用を持っています。ステロイド薬は、おおまかに言って、コルチゾールの作用をまねるように作られた物質です。
アルドステロンもコルチゾールもステロイドです。それぞれ機能は違うのですが、完全に異なるわけではなく、共通の作用を持っています。それが血圧を上げるとかカリウム濃度を下げるというものなのです。
ただ、体内では、コルチゾールが代謝されてコルチゾンという物質に変わることで、アルドステロンのような作用が抑制されています。
しかし、漢方薬の「甘草」すなわち「グリチルリチン酸」を摂取すると、その代謝産物が、コルチゾールからコルチゾンへの代謝を阻害してしまいます。
するとコルチゾールが過剰になり、アルドステロンのような作用も過剰になります。
これが「偽アルドステロン症」です。
簡単に言うと、漢方薬の代表的な副作用は、ステロイドの副作用とも言えるのです。
■認知症に処方される「抑肝散」に注意
甘草を含む漢方薬は、天然のステロイドであるコルチゾールを介した副作用を持っています。とすれば、漢方薬の「効果」も、コルチゾールによる部分があるのではないでしょうか?
ステロイド薬はいろいろな病気や症状に使われる、とても便利でよく効く薬です。ステロイドは炎症を抑え、熱や痛み、アレルギー反応をやわらげます。なんとなく、漢方薬が出される症状に似ている気もします。
甘草を含む漢方薬の公式説明文書(添付文書やインタビューフォーム)には、必ず、グリチルリチン酸が含まれること、偽アルドステロン症に注意すべきことが書かれています。
偽アルドステロン症を起こす漢方薬としてよく目にするのは「抑肝散(よくかんさん)」です。
抑肝散は、認知症による興奮を抑えると信じられているようです。ただ、これは臨床試験のエビデンスに基づいて承認された効能ではありません。1967年と1976年に多くの漢方薬製剤が臨床試験なしで薬価収載されたため、漢方薬について知るには臨床試験を頼りにできません。
個人的経験ですが、あるときカリウムの異常値を見つけてこれは抑肝散のせいだと思い、処方した精神科医に「抑肝散を中止できませんか?」と尋ねましたが、「カリウムを補充して続けてください」と言われたことがあります。
■下剤として使われる「大黄」の副作用
たいていの薬は服用をやめると効果がなくなります。
ただ、中には急にやめると困ったことになる薬もあります。ステロイド薬はその代表です。
漢方薬の中にも、しくみは違いますが、長く続けるとなかなかやめられなくなるものがあります。
代表的なものが、排便を促す作用のある「大黄(だいおう)」を含む処方です(排便のための漢方薬には大黄を含まないものもあります)。
大黄の有効成分はセンノシドという物質です。いろいろな植物がセンノシドを含んでいて、西洋でも伝統的に下剤として使われてきました。いまでもセンノシド製剤のアローゼン、プルゼニド、ピムロなどがよく処方されています。
■大腸の内側が黒くなる「大腸メラノーシス」
センノシドはよく効きます。スッキリするという感想もよく聞きます。
しかし長期にわたって毎日飲んでいると、だんだん効かなくなってきます。このことは添付文書で注意喚起されています。
困ったことに、センノシドが効かなくなった人は、どんな薬を使っても排便が困難になってしまう場合があります。
この状態の人の大腸を内視鏡で見ると、内側が黒ずんで見える場合があります。
これが「大腸メラノーシス」と呼ばれる状態です。
センノシドの長期服用が、「大腸メラノーシス」をもたらすとされています。
■よく分かっていない「いわくつきの薬」
ただ、これにはあいまいな点も残っています。
「大腸メラノーシス」になると腸の本来の機能が弱っているのではないかという説がある一方、それに反対する説もあり、よくわかっていません(『日内会誌』 108:40~45,2019)。
また、センノシドが効かない状態は、別の原因で腸の機能が弱った結果かもしれず、必ずしもセンノシドが原因とは限りません。
センノシドのような刺激性下剤は西洋では比較的人気がなく、研究も進んでいません。
学会のガイドラインなどでは一般に、センノシドのようなよく分からない薬よりも、より素性の知れた薬を優先して使うよう推奨されています。
学会も必要なときだけにしろと言う「いわくつき」の薬が、大黄を含む漢方薬の有効成分なのです。
「漢方だから安全」と単純には言えないのです。
すでにセンノシドを毎日飲んでいる人が、服用をやめるべきかどうかの判断は難しいため、決して自己判断で中止しないでください。
■特に注意すべき漢方薬「防風通聖散」
最後に、特に注意すべき漢方薬をご紹介します。
防風通聖散には、ここまで紹介してきた「甘草」と「大黄」に加え、「山梔子(さんしし)」が含まれています(この記事では紹介しきれませんが、ほかに「黄芩(おうごん)」と「麻黄(まおう)」も副作用の面で「いわくつき」の成分です)。
山梔子は長期にわたって飲み続けると、「腸間膜静脈硬化症」という副作用をもたらすとされます。
厚生労働省によれば、「腸間膜静脈硬化症」で腸を切り取る手術が必要になった例もあるとのことです。
そのため、長期間にわたり服用する場合は、定期的にCT、大腸内視鏡等の検査を行うこと、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満等が繰り返しあらわれた場合には特に注意すること、とされています。
■「ダイエット目的」で飲む人は注意が必要
防風通聖散の効能・効果は「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」とされています。
ダイエット目的の人に人気があるのか、別の商品名のものを含め20種類以上も出ています。
偽アルドステロン症を起こす甘草。大腸メラノーシスを起こす大黄。腸間膜静脈硬化症を起こす山梔子。
副作用をもたらす成分を3つも含んでいる「防風通聖散」は、なんと処方箋なしで買えます(というか、たいていの漢方薬は処方箋なしで買えます)。
まずは、もし「漢方だから大丈夫」とか「市販薬だから大丈夫」と思って名前も確かめずに飲んでいる薬が手元にあれば、パッケージの注意を一度読んでみてください。心配になったら店舗の薬剤師に相談することもできます。
とはいえ副作用があってもいいという気持ちで飲んでいる人もいるかもしれません。その場合も、何かあったら医療が助けるのは当然の義務です。筆者は薬を飲む人を責めたくはありません。副作用対策のために知識をつけろとか、知識がないなら医師や薬剤師に相談しろと要求することも一方的だと思います。
むしろ、ダイエットはいいことだとか、薬にはなんでもできるとか、漢方薬には副作用が少ないといった空気を温存してきた人たちにこそ責任があると思います。
特に同業者として、医師には責任を持った処方と責任を持ったフォローをしてほしいと思っています。
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医師
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。
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kaiko20c 漢方が安全みたいなのは、昭和の終りから平成初期の頃に、漢方ビジネス側がマスコミと組んで広めたイメージ。漢方ビジネスで大儲けしている、医師や薬剤師の商売の手口を実際に見ると、…な事がかなり有る。 |
たこやき 化学合成された薬品と「同重量」では、効果もなく副作用も出ないって意味では安全かもしれない。ただし実際は、効果が出る量を飲んでるんだから、同様に副作用も出る可能性は十分あるよね。さらに漢方薬は有効成分以外の余計な成分を含んでいることが多いんでそれが副作用の原因にもなりえるんで安全かというとね... |