■タイム誌の「次世代の100人」に選出
2022年9月28日、米タイム誌が「次世代の100人(Time 100 Next)」を発表した。タイム誌が選んだ、文化、スポーツ、政治、科学などの各分野で「未来を切り拓き、次世代のリーダーシップを定義する世界の新しいリーダー100人」だ。
その中に、日本を拠点に活動する若者が選ばれた。低迷する若者の投票率を上げるための活動を続けるNOYOUTHNOJAPAN代表理事の能條桃子さん(24)だ。能條さんは2021年に、森喜朗元首相の女性蔑視発言に抗議する署名活動の発起人の1人となり、15万筆の署名を集めたことでも注目を集めた。
今回、日本人でこの100人のリストに選出されたのは、能條さんと、ロンドンを拠点に活動する音楽アーティストのリナ・サワヤマさんの2人だけ。能條さんのジェンダー平等への取り組みや、若者の投票率を上げるための活動が評価されたという。
選出について能條さんに聞くと「ありがたいと思う反面、なんだか恐れ多いなと思います。これまでも海外メディアからは、森喜朗元首相の発言に抗議する署名活動をしていた時に、たくさん取材を受けましたが、それはジェンダー平等がテーマでした。ですから、若者の政治参加に関する活動についても評価してくれたのは、結構びっくりしました」と、照れながら答えてくれた。
■候補者が若くても周りは高齢者ばかり
現在、慶応大学大学院生の能條さんが、初めて政治との接点を持ったのは、2017年10月の衆議院選挙。大学2年生だった能條さんは、選挙事務所でインターンを行った。それまで、Webマーケティングのベンチャー企業でインターンをした経験があり、「政治の世界でもSNSやマーケティングを活用できるのではないか」と興味を持ったことがきっかけだった。2週間の選挙期間中、ツイッターやインスタグラムの更新を担当したり、学生メンバーと政治の話をしたりと、活動はとても楽しかったという。
一方、選挙期間中、問題意識も芽生えた。街頭演説では、高齢の人たちは聞いてくれるが、若い人はほとんど足を止めない。ビラを配っても、受け取ってくれる人は少なかった。
「それに、候補者が34歳だったのに、周りにいる人は60代や70代の人ばかりだったんです。若い人が選挙に出ても、周りで支えている人たち、話を聞いてくれる人たちの感覚に合わせて話をしなければならない。そうしているうちに、年齢が高い人たちだけのために政治をするようになってしまうのではないかと思いました」という。「しかも、若者の投票率が低いので、事務所の会議でも『いったん若い人の票は忘れよう』という展開になっていました」
■「20代の1.5倍いる60代が、20代の2倍選挙に行く」現実
その時の経験から、「もっと若い世代が積極的に政治に参加できるようにするにはどうしたらいいのか」と考えていた能條さんは、ある勉強会で、北欧では若者の投票率が高いことを知った。そして、デンマークの若者の4人に1人が行くといわれる「フォルケホイスコーレ」に3カ月間留学する。高校でも大学でもない全寮制の「民主主義の学校」だ。
そして帰国後の2019年に能條さんが立ち上げたのが、「若い世代なくして日本はない」を意味する、NOYOUTHNOJAPAN(以下NYNJ)だ。日本ではその年の7月に、参議院選挙が予定されていた。
能條さんが、メンバーを集めるために発信したSNSの投稿には、こう書かれている。
「同世代を選挙に送れないU30世代は、私たちの世代の願いや想いを託すために、政治家を選ぶ必要があるのです。わたしたちがいるよと示すために、選挙に行く必要があるのです。20代の1.5倍いる60代が、20代の2倍選挙に行く。これが今の日本の現実です……一緒に何かやりませんか?」
選挙権は18歳だが、参議院の被選挙権は30歳。18歳から30歳までの若者は、政治家としての政治参加はできないが、選挙で政治に参加することはできる。それを若者に訴えたのだ。
■小中学校で子どもたちと給食を食べる政治家たち
能條さんの留学中、デンマークでは国政選挙があった。その時彼女を驚かせたのは、デンマークの若者の80%が、当たり前のように投票しているという事実だった。
選挙期間中は、ソファーでポップコーンを食べながらみんなで党首討論番組を見た。選挙当日は、学校でパブリックビューイングが開催された。大学生、高校生、高校を中退した人、誰もが各政党の政策や特色について、詳しく知っていたという。
「日本人が当たり前に九九を覚えているように、デンマーク人は各政党の違いを当たり前のように説明できる。そこに違いを感じました」と能條さんは言う。
そして、政治家と有権者の距離も近かった。
「学校では、政治家と話したことがない子はいないんです。政治家はよく小中学校に来て、子どもたちと一緒に給食を食べたりします」。学校で政治討論会も開かれ、出席した政治家は夕食まで子どもたちと過ごすという。「会議やお祭りに来ても、挨拶だけして帰るのが当たり前。顔と名前を売ることだけが目的で、『1日に何件回れるか』ばかり気にする日本の政治家と違い、一人ひとりときちんとコミュニケーションをとろうとしている感じがしました」
■若者の街に「選挙案内所」、投開票日にパブリックビューイング
NYNJの活動を始めた能條さんは、まずは基礎的な知識を広めようと、選挙についてのわかりやすい解説を作り、インスタグラムで発信した。当初は、選挙期間中のキャンペーンとして2週間程度で終える予定だったが、フォロワー数が1.5万人になったことで、活動を続けていきたいと思うようになったという。
現在のメンバーは60人ほどで、インスタグラムのフォロワー数は10万以上になった。地方選挙の投票率を上げるプロジェクトや、政治家とインスタライブを行うなどの活動も行った。また選挙前に、若者が集まる街、東京・下北沢に「投票案内所」を作り、各政党のパンフレットを置いたり、質問に答えていくと自分に合う政党が分かるというアプリの入ったiPadを置き、選挙に関心を持ってもらうための空間も演出した。選挙の投開票日にはパブリックビューイングを企画し、参加者と盛り上がった。
企業とのコラボも積極的に進めた。マッチングアプリのTinder(ティンダー)の協力を得て、広告のような形で「7月10日(日)は参議院選挙。投票しよう!」「逆に投票しない理由って何ですか」などのメッセージをアプリに無償で出させてもらったり、グループでスケジュールの共有ができるカレンダーアプリのTimeTree(タイムツリー)と提携し、アプリのカレンダーに「投票日」と自動表示されるようにしてもらったという。
「祝日と同じように、カレンダーに自動的に投票日が表示されるようにしました。TimeTreeでは家族でカレンダーを共有している人も多いので、投票日の表示を見て『家族みんなで投票に行こう』というコミュニケーションをしてほしいと思ったんです」
やりたいことは、まだたくさんある。例えば、「すべての携帯会社が選挙の前日に、『明日は選挙です』というSMSのショートメッセージを一斉送信してくれれば」など、楽しそうに語る。アイデアは次々と浮かんでいるようだ。
■20~30代の女性候補を増やしたい
能條さんたちは今年9月、NYNJとは別に、若い女性候補者を応援する「FIFTYSPROJECT」を立ち上げた。「投票に行くだけが政治参加ではない。立候補することには、まだあまり光があたっていない」という問題意識からだった。このプロジェクトは20~30代の女性議員を増やすことを目的とし、まずは来春の統一地方選挙に照準を合わせ、全国の地方議会で200人以上の女性が立候補することを目指している。
「自分たちの仲間から200人を出すということではなく、日本全体で200人になればいいと思っています。私たちが、その一部を担えればという意識です」と能條さんは言う。
■40歳以下の議員の割合、日本は150カ国中125位
日本の国会議員の女性や若者の比率は、世界の中でもひときわ低い。ジュネーブに本部を置く国際組織、列国議会連盟(Inter-ParliamentaryUnion)の2018年のレポートによると、40歳以下の議員の割合を比べると(各国の第1院で比較、日本は衆議院)、日本は150カ国中125位だ。
2021年の衆院選で、女性の当選者は45人となったが、全体に占める割合は9.7%。また、朝日新聞の集計によると、衆議院議員の77.2%を40~60代男性が占めていた。20代から30代は23人で、わずか4.3%だ。
地方議会も圧倒的に男性が多く、高齢化も進んでおり似たような構造ではあるが、国政の数字よりも女性比率は高い。内閣府によると2021年4月1日時点で、全国の市区町村議会における女性議員の割合の平均値は17.5%。20代女性議員の数となると、2021年7月1日時点で2万9507人中のたった15人、0.05%しかいないという。
9月6日に行われた記者会見では、FIFTYS PROJECT副代表の福田和子さんも「このまま行くと、永遠にジェンダー不平等は解消されません。性教育の遅れ、生理の貧困、避妊や中絶に関して女性が主体的に選択できないなど、女性や性的マイノリティを取り巻くさまざまな問題が放置されたままです。解決のためには、女性の地方議員を増やし、草の根で全国的に運動を広げていく必要があります」と、女性の声を政治に届けることの重要性を強調した。
■地域の若者の困りごと、誰が聞いてくれるのか
最近では、地方で若い人たち向けのワークショップや講演を行うことも多い能條さんだが、ある高校で聞いた話に危機感を持ったという。
その高校では、ようやく全員にタブレットパソコンが配られたが、インターネットの回線が貧弱なために授業がよく止まってしまうのだという。
「それは政策のミスなのに、先生は『問題だよね。でもこういうもんだから仕方がない』と言っているそうなんです。でもそれは、議会に訴えて予算を付けてもらえれば解決する話。だから、『地元の議員に言ってみたり、市長に手紙を書いてみたらどう?』と高校生にアドバイスしたんです」と能條さんは言う。
しかし実際は、地方議会の議員にも若い人がいないことが多い。高校生にしてみれば、困りごとに共感してもらえるイメージもつきにくく、話をしに行きづらいだろう。
「若い人たちや女性が地域で抱えている困りごとを聞いてくれる、若手や女性のコーディネーターが必要だと思います。本来は、地方議員がその役割を担うべきですが、議員の多くは年配の男性なので、若者や女性が相談しに行くのはハードルが高い。また、政治や社会に興味を持って『何かしたい』と思っている子どもや若者がいても、近くでサポートし、その思いを実現するために一緒に動いてくれる大人がなかなかいないんです。そういう存在が出てくれば、こうした子どもや若者、女性も救われるでしょうし、投票率も上がると思います。だから、まずは20代、30代の政治家を増やすことが必要だと思ったんです」
■若者が増えない悪循環
若者が選挙に行かないのは、「現状にそれほど不満がない」「選挙に行っても、何か変わるとは思えない」などの理由があると考えられるが、身近に自分たちの話を聞いてくれる政治家がいないことも大きいだろう。話をしたいと思える若手の政治家がいないから政治が身近に感じられず、政治に自分の声が届いて困りごとが解決したという経験もないために政治に期待が持てない。だから選挙にも行かない。すると余計に若手の政治家が増えなくなる。
その悪循環を断ち切るためには、NYNJのような若者の投票率を上げる活動と、FIFTYS PROJECTのような若手の候補者を増やす取り組みの、両方が必要だ。能條さんらは、若者の投票率が低迷している背景を詳しく知るため、意識調査を行って分析を進めており、近くその結果を公表する予定だ。
■「ジェンダー平等にコミットする若手候補者」を募る
能條さんたちは、アメリカのEMILY’s List(エミリーズリスト)のように、FIFTYS PROJECTが応援する候補者のリストを選挙前に公表し、その候補者を支援するスタッフのボランティアを募るといった活動も考えているという。
エミリーズリストとは、妊娠中絶の選択権を尊重するアメリカの民主党派女性候補を支援するため、1985年に作られたアメリカの政治資金団体だ。組織名は「Early Money Is Like Yeast(早期の資金は、イースト菌のように大きな成果をもたらす)」の頭文字からきている。イースト菌がパンを膨らませるように、資金が候補者の選挙を成功に導くという考え方を表現している。
FIFTYS PROJECTはまず、立候補に関心をもつ20~30代の女性や、性自認が男女どちらにも当てはまらないXジェンダー、ノンバイナリーといった人々を募る予定だ。そして、選挙に関する相談会や勉強会の開催、政策の助言、SNSを活用した情報公開や、未来の立候補者を増やすためのコミュニティづくりなどを進めていくという。趣旨に賛同する人であれば所属政党は問わない。
「基本的には、『ジェンダー平等にコミットする人たち』を後押ししていきます。自分が住む自治体でいい人が立候補していても、そのことを知らず、応援しないままで終わってしまう人も多い。FIFTYS PROJECTが、そのきっかけになればと思っています」
■政党に頼らなくても議員になれる選択肢を
政党の公認を取るのは至難の業で、地方議員の8割は無所属だ。しかし、無所属で出馬するとなると、選挙の資金はすべて自分で用意しなければならないし、政策立案も自分1人で担うのは大変だ。
「それらの支援ができるようになりたいんです。政党に頼らなくても立候補して当選できるような方法の選択肢が、やはり必要なのではないかと思います」
10月には、「20代で政治家になるってどんな感じ? 深堀TALK TIME!」と題して、20代の女性地方議員4人に話を聞くイベントを開催した。選挙に出たきっかけ、苦労したこと、議員になってみての体験などを、4人が本音で語ってくれた。参加者からは、「同世代の議員の話を聞きたいと思って参加しました」「ジェンダー格差がまだ大きい中、政治という大きな力を動かすため力になりたい」「立候補を予定しているので、先輩議員の話を聞きたい」といった言葉が寄せられていた。
11月には、立候補予定者を集めて1日ワークショップを開く。スピーチの練習や、チラシの作り方、政策の立案方法などの具体的な話もする予定だ。
■「選挙“だけ”に集中できる人」しか当選できない仕組み
能條さんは、地方議員の多様化は、国会議員を多様化するための第一歩でもあると話す。現在の国会議員の約4割は世襲議員か親類に政治家がいる人で、約3割強が地方議員出身だ。また、それ以外では政治家の秘書、官僚出身者などが多い。
「結局は、地域に根をはっていないと国会議員にもなれません。(国会議員への)道のりのスタートは、やはり地方議員だと思います」
ただ、今の選挙のやり方や法律は、時代遅れな面も多くあり、それが若者や女性たちを選挙に出にくくしていると能條さんは指摘する。
公職選挙法の定める選挙活動のための公的資金補助は、ポスター、選挙カー、選挙カーの運転手などに限られている。また、選挙運動は無償のボランティアが原則で、例外的に報酬を支払うことができるのも「ウグイス嬢」や「カラス」と呼ばれる車上運動員、手話通訳者など非常に限られた人に対してのみ。日本の選挙活動が、ポスターと選挙カーでの活動を前提にしていることがわかる。
「何十年も変わっていない、昔ながらのスタイルで選挙活動をすることが前提になっているんです。例えば、ハガキではなく、ネットにお金を使った方がいいんじゃないかと思います。今どき、友達の住所なんて知らないですし」
能條さんは、「制度そのものが“男性的”だと思うこともあります」という。
「1、2週間の選挙期間中、ずっと走りきれる人しか、選挙で当選できないようになっているように思えてなりません。期間中毎日、朝から晩までずっと選挙のために時間を使える人ばかりではありません。それなのに、家事や子育て、介護などを他の人に任せて、選挙だけに集中できる人じゃないと、参加ができない仕組みになってしまっています」
■仲間を増やしていきたい
能條さんは、日本の、若者の政治参加を促す活動はまだまだ道半ばだと感じている。
長期的に活動しているメンバーの多さ、若者の団体を支える助成金の規模などを考えても、日本はデンマークとは比較にならないほど少ない。デンマークには、若者の政治活動を支えるエコシステムがあり、多くの専従スタッフを抱えるような規模の団体も多いという。
「活動を持続させ、参加者の幅を広げるためには、“企画屋”が引っ張るだけではできないと思っています。経営者視点を持って、仕組みを作れる人になるのが目下の私の目標です」と能條さんは言う。そして「FIFTYS PROJECTを通じて、政治に関わる人たちの多様性を上げていく活動をする仲間を増やしてきたい」と熱く語った。
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ジャーナリスト、元ジャパンタイムズ執行役員・論説委員
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。
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<このニュースへのネットの反応>
そりゃ働いてない老人がお小遣いアップ目的で社会保障連呼の政治家に投票するんだからw働いてて休日くたばってる有権者とは勝負にならんよ。森元に署名より選挙日に連休設定を頼む署名すんのが妥当だと思うよ
投票を促すだけなら良いけど、同じ世代同じ性別だから同じ政治信条とは限りませんよね、デカイ主語で協力求めると集まって来た者で内ゲバ始めそうだね。
だから選挙権持ちも被選挙権持ちも男より女のほうがずっと多いんだって。男だけじゃなく大多数の女性にもNo!されてんのがお前らなんだよ……
若い世代なら若い世代向けの政策するわけでも、女性議員なら世が良くなるわけでも、当選さえすれば上の世代に太刀打ちできるコネや政治力が手に入るでもない。そもそも当選するためには老人向けの施策を掲げるしかなく、覆すためには若中年の投票率を上げるしかない。投票者側の不参加が跳ね返ってるだけなんよね。
そりゃ、立候補に200万円以上かかる供託金という高い壁がある上に、一定数得票を得ないと全額没収とか、金持ち以外にはリスク高すぎて…
若者か老人かはどうでもいいけど与党も野党も朝鮮カルトや中国企業を通して売国するやつばかり、スパイ禁止法みたいなものでこういうやからを立候補できなくさせられないのか
優秀な人は民間で働けば収入も多いし生き甲斐も満たせるんですわ
有権者の半分は女性なんだから、女性候補者が有利ってなったらどの党も女性候補増やすでしょ。でも現実はそうなってないってことはそういうこと。いい加減アホメディアは女性候補を推すふりをして売国奴を国会に送り込もうとするのやめろ。
政治家が政治の議論をしてないのに若者が政治の議論をするわけがなかろう