「閉店はショックでしたが、もう仕方ないですね」と振り返るのは、東京は上野にあった「スパリゾートプレジデント」の元支配人・中出昇さん(41歳)。今年の6月いっぱいで37年の歴史に幕を下ろした。
「建物の老朽化やコロナ禍での売り上げ減、水道光熱費の高騰など、危機は薄々感じていたんです。本社から閉店を告げられたのは1か月前。でもほとんどのスタッフは最後まで働くと言ってくれました」
◆最終営業日、常連さんが表彰状と寄せ書きを…
SNSで閉店の投稿をすると瞬く間に拡散されて、全国から惜しむ声が相次いだ。
「閉店までは手続きやら事務作業に追われて感傷に浸る余裕もなかった。でも最終営業日の閉店後、常連さんたちに呼び出されて近くのお店に行ったら、表彰状と寄せ書きをいただいて。『プレジデント』に対する愛情に感動しました」
会社を辞めて温浴業界を離れるつもりだったが、現在は人気サウナ「ジートピア」の運営会社で働いているという。
「内勤営業だったり、『ジートピア』を手伝ったりしています。業界のご縁で仕事も紹介してもらえました。もし今後チャンスがあったら、どこか別の施設で支配人に再挑戦できたら嬉しいですね」
一方で、廃業したサウナを常連客が救うケースもある。それが今年8月にオープンした「新岐阜サウナ」。施設至近の飲食店オーナー・西山誠さん(43歳)が前施設「ガント」を生まれ変わらせたのだ。
「『ガント』には20代から通っていたけど、’20年12月に閉店。当時ウチは居酒屋を3店舗やっていたのですが、コロナ禍で1店舗を閉じて、若手社員たちの顔も暗かった。でもサウナを始めるという新事業を話したら急に目を輝かせて。絶対実現しようと思った」
知人やSNSでプロジェクトメンバーを募った。だが道のりはなかなか険しかった。
「一番は資金面でした。事業再構築補助金と会社の持ち出しで予算は1億円だったのが、結果的に6000万円ぐらいオーバーして。法人向けの年間パスを売ったり、株式を発行したり、クラウドファンディングで協力してもらったり。足りない資金をかき集めて、どうにか開店できました」
◆「前と違う!」と言われることも…
大箱のサウナだけでなく、個室サウナも堪能できるとSNSを中心に話題になった。
「ガント時代の常連から『前と違う!』とお叱りを受けることもあります。でも若い客の意見を取り入れながら、新しいサウナにしたいんです」
その思いは「新岐阜サウナ」の店名に込められている。
「岐阜には、歴史のある『大垣サウナ』があって、ウチはまっさらなサウナ。今通ってくれている20代が50代になっても通えるような場所に育てていきたいと思っています」
サヨナラは新たな始まりだ。
取材・文/週刊SPA!編集部