「医者の信者」が多い日本人…体調管理は「自分で実験」が重要な理由【医師が解説】 | ニコニコニュース
脳の老化は「前頭葉」から始まり、前頭葉が老化すると、脳全体が老化する、とルネクリニック東京院院長和田秀樹氏は言います。それでは、どのようにすれば、私たちの前頭葉は衰えないままでいられるのでしょうか。本連載は、和田秀樹氏の著書『50歳からの「脳のトリセツ」 定年後が楽しくなる! 老いない習慣』(PHP研究所)から一部抜粋し、お届けします。
試す前から答えをくれるのは「宗教」
試す前から答えがわかっていることなど、この世にはありません。
すべての事物は、最初は未知のものです。人はそれらを試し、体験することで、既知の範囲を増やしてきました。それが人間の、そして科学の歴史です。
科学と対置される概念として、宗教があります。
宗教は、科学とは逆に、最初から答えを提示します。「世界はこういうものである」「神がこう定めた」というように、世界観が構築されているのです。
宗教に実験の余地はありません。というより、神を試すような所業は不届き千万とされるでしょう。宗教における人の選択肢は、信じるか、信じないかだけ。信じた人はそれ以降、疑うことは罪だと考えるようになります。
「偉い人」に従うことに重きを置く日本人
この姿勢は、日本人の特徴ととても似通っています。日本人は、権力を批判することをタブー視し、上司などの「偉い人」に従うことがわが身の安全につながると思っています。日本は宗教心の薄い国だとみなされがちですが、なかなかどうして「信心深い」のです。
科学者でも、実際は「偉い教授の信者」「現在の学説の信者」になっている人は珍しくありません。東大医学部には、教授の唱える学説を信じて疑わない人々が大勢いました。
医師には全般に、科学的精神、実験的精神を失った人が多いと思います。前章で触れたような、「コレステロール値は下げるべき」と決めつけるような医師たちです。彼らも、最初から答えは決まっているという信条の持ち主です。
「血圧も下げたほうがいい」「血糖値も下げたほうがいい」と彼らは誰にでも言いますが、なかには血圧が高めのほうが体調がいい患者もいるでしょう。血糖値がやや高いほうが脳がよく働くという人もいるかもしれません。その人の体に合う血圧や血糖値は、決して一律ではないのです。
また、確率論的に血圧を下げたほうがいいのか血糖値を下げたほうがいいのかという大規模な比較調査を誰もやりません。外国のデータがそのまま日本にも当てはまると信じているのです。
精神科医でも、「うつならこの薬」「統合失調症ならこの薬」と、決まりきったやり方を繰り返すだけの医師が多数います。とりわけ、師匠筋の先生の学説にのっとったやり方でないといけないと思い込んでいるような医師は最悪です。
精神科の治療では、体の治療よりもはるかに「予想外」が頻発します。だからこそ、医師はさまざまな選択肢を用意しておかなくてはなりません。薬だけでなく、対話やカウンセリングのさまざまな手法について知識を持ち、患者さんに提供しながら、ベストな方法を探っていくことが必要です。私は科学に携わる人間として、いつもそうありたいと思っています。
医師の話を鵜呑みにしない患者になろう
患者の立場にいる方も、医師の「信者」になってはいないか、振り返ってみましょう。
医師に言われるがまま薬を飲んでいるけれど、かえって体調が悪い、ということはないでしょうか。ならば、疑う姿勢を持ち、医師に疑問をぶつけてみましょう。
飲む頻度を減らすか、思い切ってやめてみるのも一つの方法です。
とりわけ高齢者は、薬の量を減らすべきだと私は考えています。もし高齢の親御さんが、毎食後に何種類もの薬を飲んでいたら、リスクがあると考えたほうがいいでしょう。
というのも、年齢を重ねると肝臓の機能が落ちて代謝が悪くなり、半減期(薬の血中濃度が半分になるまでの時間)が長くなるからです。腎臓の機能が低下して薬の排出が落ちているという問題もあります。
「とはいえ、やめて命に関わるようなことになったら怖い」と思うかもしれませんが、そこは柔軟に考えましょう。親御さんにしろ、ご自身が飲むにしろ、薬をやめて調子が悪くなったら、また戻せばいいだけの話です。
逆のパターンでも同様のことが言えます。「薬には絶対に頼らない」という方がときどきいますが、そこに固執して不調を我慢し続けるのは、果たして賢いやり方でしょうか。
薬に頼りたくないのは、副作用が心配だからでしょう。しかし、ほとんどの場合、薬の副作用は永続的なものではありません。たとえば睡眠導入剤を飲むと、ときどき副作用で記憶障害が出ることがあります。しかし、服用をやめればすぐに元に戻ります。
やめてみたらどうなるか、飲んでみたらどうなるか。いずれの場合も、自分に合う状態を見つけ出すには、やはり実験が必要なのです。
生活習慣に関しても、何が最適かは人によって違います。自分の理想の睡眠時間を知りたいなら、6時間睡眠、7時間睡眠、8時間睡眠とそれぞれ試して、一番調子がいい日はどの日か確かめるのが一番です。ほかにも、合う食べ物を実験したり、アルコールの適量を実験したり、試せることはいろいろあります。
世にあふれる健康情報に振り回されるよりも、実験をしたほうが、確度の高い体調管理ができるでしょう。