日本に戻ってきた「爆買い中国人」。一日で2500万円を売り上げた店も | ニコニコニュース
いよいよ「爆買い」が戻ってくる。中国は3年ぶりに“鎖国“を解き、世界で中国人観光客の争奪戦が始まった。観光業からの期待も大きいなか、彼らはどこを訪れるのか?
◆海外旅行予約件数は前年比6.4倍
3年近く続いた強権的なゼロコロナ政策からの大転換が行われた中国で、海外旅行への関心が高まっている。1月8日、中国政府は入国時の隔離措置を撤廃し、事実上の開国となったからだ。
中国の旅行予約サイト大手「Trip.com」によると、春節期間中の海外旅行予約件数は前年比で6.4倍に急増しているという。中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵氏が話す。
「隔離措置撤廃を機に、中国のネット上では、海外で中国人家族が3年ぶりの感動の再会を果たす動画が拡散されています。北京や上海などの主要空港では、出国カウンターに長蛇の列ができています」
そして、渡航先として人気なのが日本だ。Trip.comの人気旅行先ランキングでは日本がアジアでトップになっているのだ。
日本政府は中国での感染状況を踏まえ、1月8日以降、中国からの渡航者に対して入国時のPCR検査など水際対策の強化に踏み切っているが、実はすでに中国人の渡航者は昨年末から増加傾向にある。
日本政府観光局によれば、中国からの訪日客は’22年2月以降、前年同月比で増加し続け、直近11月のデータでは5倍以上も増加している。インバウンド業務を行う東日本国際旅行社の代表・謝善鵬氏は言う。
「商用ビザや経営管理ビザを持つ中国人は、昨年からすでに日本に来ています。建前はビジネスですが、高級旅館や高級レストランでは中国人富裕層が戻ってきていた。春節期間から、徐々に中流層にもすそ野が広がっていくでしょう。中国各都市にある日本領事館では、新規観光ビザの発給も始まっています」
◆一日で2500万円を売り上げた店も
「年明け以降、中国人の友人たちから、『春節に行くからオススメの飲食店を教えて』とよく聞かれるようになりました。直行便は値上がり&満席のようで、香港やタイ経由で訪日する知人もいます」
コロナ禍直前の’19年の訪日外国人の観光消費額のうち、半分近くは中国と香港からの観光客によるものともなれば、関連事業者が爆買いの復活を期待するのは当然だ。一部ではすでにその恩恵にあずかる業種も。東京・銀座の高級ブランド店スタッフは言う。
「昨年秋頃から外国人観光客が戻ってきましたが、当初はシンガポールやタイの人が多かった。でも、1月10日以降は中国人が増え始めた印象ですね。昨日だけで中国人観光客が6~7組来て、2500万円以上は買っていった」
◆飲食店「頼みの綱は中国人の爆食しかない」
一方、都内の和食料理店経営者はこう漏らす。
「飲食店が一番苦しんでいるのは実は今です。協力金は打ち切られ、食材費は値上がりして客も減った。頼みの綱は中国人の爆食しかない。コロナ前は月に20組ほど来ていましたが、客単価は日本人の2~3倍ありましたからね。春節は大いに期待しています」
前出の中島氏は「爆買いの本格的な復活はお花見シーズン以降になるのでは」と前置きしつつ、これからの中国人観光客についてこう述べる。
「過去の爆買いのように、決まった場所やモノに中国人が集中する時代は去り、興味や需要は多様化するでしょう。この3年間で中国では、自然や健康、精神的な豊かさに価値を見いだす人が増えているので、日本でもアウトドア関連の需要が伸びるのでは。富士山が見える場所でのグランピングや、日本ブランドのスノーピークの製品に興味を示す人も増えています。
一方、富裕層の間では、医療ツーリズムでの訪日がより盛んになっていくのでは。また、最近では在日中国人のインフルエンサーたちが、それぞれの得意分野で、日本人さえ知らないようなニッチな情報を発信しています。温泉にしても草津や箱根でなく、奥飛騨や下呂といった渋い場所に、中国人観光客が続々とやって来る可能性もあります」
中島氏の話や中国SNSの書き込み、在日中国人への取材を基に、中国人観光客が殺到しそうな場所をまとめてみたが、たしかに多様化しつつあるようだ。
◆白タクや無資格ツアー業者の宣伝が活発化
一方で問題もある。前出の謝氏はこう明かす。
「中国人観光客が戻ってくるのはありがたいが、すぐには受け入れ体制を整えられない。ツアーバスのドライバーの多くは、コロナ禍で配送業に取られてしまい、多くのガイドも他業種に転職してしまった。未経験者は即戦力にはならないので、時間がかかります」
こうした状況を察知してか、年明けから白タクや無資格ツアーを行う業者の宣伝が活発化しているという。
中国SNS「小紅書」を覗くと、空港送迎をはじめ、登山ガイドや繁華街を巡る買い物ツアー、テーマパークの入場券・ホテルを手配すると申し出る書き込みがいくつもあった。白タクはもちろん違法だが、ガイドも資格を持っているとは思えず、旅行業法に抵触する可能性は高い。
◆日本経済の起爆剤になるか?
受け入れ再開に際してさまざまな摩擦が生じることは想定されるが、それでも経済的な恩恵は捨てがたい。経済評論家の加谷珪一氏は言う。
「日本の水際対策を巡る外交的なゴタゴタさえ解決されれば、早晩、中国人観光客が本格的に戻ってくるのは間違いない。目下の円安もあり、来年くらいには中国人の観光消費は’19年の水準を上回ると考えられ、コロナで疲弊した観光業や飲食業にとって光明となるでしょう。
観光による収入は名目上『輸出』にあたるので、コロナ禍で増えた貿易赤字の穴埋めにも有効です。ただ、日本経済全体から見れば数字は小さく、爆買いへの過度の期待は禁物です」
それでも日本経済の起爆剤にはなってほしいものだ。
◆中国人が殺到する新スポットはここだ!
・東京・下北沢
再開発で新旧カルチャーが融合する人気スポットだが、若い中国人にもその様子が伝わり「行きたい」との声が殺到。「小紅書」では「買い物をしてから演劇を見て、夜はオシャレなバーに行きたい」などのコメントも
・富士山の見えるグランピング施設
中国でもコロナ禍でキャンプブームとなっており、富士山の見える山梨や静岡のグランピング施設への注目度が高まっている。「施設内容についての問い合わせも増加している」(観光系インフルエンサー)のだとか
・東京・大阪のせんべろの街
中国でも人気となったドラマ『深夜食堂』の影響で、安い老舗居酒屋や古くてボロい小料理屋に行ってみたい中国人が多数。SNSでは東京の立石や赤羽、大阪の天王寺や梅田地下街などに注目が集まっている
・東京・大阪から遠いひなびた温泉宿
日本の温泉を紹介する中国系の温泉インフルエンサーも存在しているが、彼らが勧めているのがアクセスの悪い奥飛騨や下呂(岐阜県)、乳頭(秋田県)などの温泉地。廃墟旅館の多い温泉地も「映える」と人気だ
・北海道・ルスツ
コロナ禍以前から「ニセコよりすいている」と外国人に人気だったスキー場・ルスツ。コロナ禍でも外資系コンドミニアムが続々と建設され「中国人富裕層の注目度はいま、一番高い」(国内インバウンド業者)とか
・四国自転車旅行
コロナ禍で中国でも自転車ブームに沸くなか、瀬戸内海や太平洋の両方が眺められるということで四国を自転車で巡るツーリングに注目が集まる。自転車で渡れる本州との橋・しまなみ海道が一番人気だとか
・東京・福生(横田基地)
都心から1時間強で行けることもあり、生で”敵国”である米軍横田基地が見られるスポットとして人気のようだ。「ミリタリー用品や中古家具を買いたいという中国人もいます」(在日中国人)とのこと
取材・文・撮影/奥窪優木 広瀬大介