「かかと着地」と「大股歩き」は絶対NG…通勤するだけでヘトヘトになる人の"誤解だらけの歩き方" | ニコニコニュース
※本稿は、夏嶋隆『10秒でほぐす カラダが硬い人でもラクに柔らかくなる。きつくない、痛くない「シン柔軟法」』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■いまの歩き方のままでは永遠に疲れ続ける
あなたはこれまで誰かに歩き方を習ったことはありますか?
「ない」と答える方が大半でしょう。私の治療院を訪ねて来られる方も、「歩き方なんて習わずとも歩けるようになるでしょう」だとか、「そもそも歩き方について考えたこともない」など、人生において自分の歩き方を意識してこなかった方がほとんどです。
歩くことは健康にいい――そう言われ続けています。ウォーキング、つまりは適度な有酸素運動は、健康であり続けるために、また体を美しく保つために有効であると。その通りでしょう。
筑波大学大学院と健康器具メーカー・タニタの共同研究によると、都内にオフィスのあるビジネスパーソン1日あたりの平均歩数は1万1500歩。厚生労働省が推奨している1日あたりの目標歩数8000歩を上回る数字だそうです。
目標歩数は十分に超えていて、でも歩き過ぎというほどでもないのに、毎日ヘトヘトになるのはなぜでしょうか。それは、あなたの「歩き方」が疲れの大きな原因となっている恐れがあります。
ただ多く歩けばいいわけではありません。歩数計の数値がすべてではないのです。大切なのは、体に過度な負担をかけない歩き方を身につけることです。
■「かかと着地=正しい歩き方」という誤解
あなたは普段歩くときに、かかとから着地していますか? それともつま先ですか? もし、かかとから着地していたら、すぐに見直す必要があります。かかとから接地して、そのあとに母指球に重心を移して足を上げる動作を「正しい歩き方」だと思い込んでいる方が多くいるのですが、そうではありません。
かかとから足裏を着地する形で歩くと、「浮き指」と呼ばれる足の指が浮いた状態になります。これが続くと足首が固定されたままになり、ふくらはぎは常に緊張した状態に陥ります。本来であれば地面に着地した際の衝撃は、まず足首がクッションとなり、次にひざが受け止めてくれ、そして腰に、という流れで分散をしていきます。
それがかかと着地により足首が固定されることで、膝は伸びたままの状態になり、十分なクッションが働かず、衝撃が腰にもろに来てしまうのです。何度も衝撃を強く受けることで骨格のバランスも狂っていき、腰やヒザに過度な負担が一歩踏み出すたびにかかり、痛みの発症にもつながっていきます。
また、大股で歩くとかかとへの衝撃が強まり、足首の角度もさらに鋭角になるため疲労感が増し続けることになります。その結果さらにふくらはぎをガチガチに硬くさせたり、ひざ、腰の痛みを発生させるケースが多いのです。
歩き方を正さない限り、ガチガチになったからだにいくらストレッチやマッサージをしても意味がありません。
■腰や膝を痛めてしまう人の共通点
私は30年以上、「動作解析」という分野を研究しています。人の体の使い方を観察・記録して、運動学や解剖学、物理学に沿った「人体構造に合った正しい動作」を検証し、治療院を営みながら、普段はスポーツ選手のケアやからだのサポートをしています。
立ち方、歩き方、座り方などの基本の動作を筆頭に、一つひとつの動きには必ず、カラダにとって最適な動かし方や体勢があります。それらを外れるとカラダに無理を強いることになり、時間の経過とともにやがて違和感や痛みとなって現れます。
治療院を訪れる患者さんを診ていると、基本の動作にさまざまなクセがあることに気付きます。硬くなった全身をときほぐし、柔軟性のあるカラダを取り戻すためにいちばん大切なことは、からだが間違えて覚えた姿勢や動きを「理に適った動作」に正すことです。
日本古来の武道「合気道」をご存知でしょうか。合気道の達人は、自分よりも大柄な相手をいとも簡単に投げ飛ばすことができます。その理由は、合気道は体を動かす上で、理にかなった姿勢、動作、力の使い方をしているからです。
古来、武道では、理にかなった姿勢、動作、力の使い方を「理合」と呼んでいます。なぜ、私がこのような話をしているのかというと、腰やヒザに問題を抱えて訪ねてきた方々は一様に、理合どおりに体を動かせておらず、無駄な筋力を使って歩いていたからです。
■疲れない歩き方のイメージは「抜き足、差し足」
では、体に優しい疲れにくい歩き方とはなんでしょうか。
ポイントは、次の4つです。
②前に踏み出す足は、そっと引き上げ体の少し前に下ろす。
③かかとからではなく、足指で地面をつかむ感じで、足裏全体で接地。足を引き上げる際には足首を伸ばす。
④つねに着地する足に重心を置き、このとき、耳、肩、骨盤、着地した足を直線状にそろえる
この歩き方ができるようになれば、体の硬化を防ぐことができます。イメージしづらい場合は、忍びの歩き方を例える際によく使われる言葉「抜き足」「差し足」を、頭の中に浮かべてみてください。そうすると、自然とつま先からの着地が意識できるようになるはずです。
はじめは歩きにくさや、違和感を覚えると思います。ですが、それは間違った歩き方を何十年と続けてきてしまった結果です。だんだんとこの歩き方ができるようになってくると、疲れにくくなっていきます。
かかとから着地する歩き方をしている人は、ふくらはぎにダルさを感じていることが多いですが、それも改善していきます。
こりかたまってしまった筋肉も、ただ歩いているだけでほぐれていくでしょう。
■世界最高のランナーもつま先から着地する
ことは歩き方だけではありません。走り方についても同じことが言えます。健康を保つために、ウォーキングだけでなく、ランニングに励む人もいるかと思います。
ランニングのフォームについて「かかとから足裏を地面に接地させて、そのあと母指球に重心を移動させ足を浮かせる」という指導をされることがあるそうです。ですが、私は勧めません。
メキシコ北西部にタラウマラ族という先住民族がいることをご存じでしょうか。全米でベストセラーとなった『BORNTORUN走るために生まれた』という一冊で、一躍世界的に有名となったことでも知られています。
別名“走る民族”と称されるタラウマラ族の走り方を見てみると、着地はかかとからではなく、つま先からです。このことからも、地面から受ける衝撃をいかに分散できるかが、体への負担を最小限にし、長く走れるようになるためのポイントであることがわかります。
私の治療院に通っていた久保竜彦さん(元サッカー日本代表)は、つま先部分から着地する歩き方・走り方に変えたところ、慢性化していた腰やヒザの痛みが改善。一度は引退を決めるまで追い込まれていたものの、そこから6年も現役生活が延びました。
あなたが健康のためにランニングをはじめても、かかとから着地する走り方をしていると、そのうちケガをしたり体を壊したりする原因となるので注意が必要です。
■体の正しい使い方を覚えない限り一生疲れ続ける
私が動作解析の研究をしていて改めて思うのは、理にかなった体の使い方をしている人ほど疲れにくく、誤った体の使い方のクセがついてしまっている人ほど、疲れやすく体を壊しやすいということです。
そして残念ながら多くの人が、体を正しく使えていません。体の使い方を間違えると、筋肉が硬くなり続けて、可動域が失われます。その結果、一歩踏み出すたびに衝撃をもろに受けたり、立ち上がるたびに腰痛のリスクにおびえたり、走るたびにヒザを壊す危険が増します。
詳しくは拙著『10秒でほぐす』に譲りますが、歩き方だけでなく、立ち方、座り方、寝方など、あなたが普段当たり前のようにとっている姿勢や動作にも、理にかなった体の使い方があります。それを知り、改善していかない限り、マッサージに行っても帰る頃には体はガチガチの状態に元通り。疲れは一生とれず、溜まり続けてしまうでしょう。
まずは、前項で解説した「ナチュラルポジション」を習得してほしいと思います。これは縮んだカラダをもとの状態に瞬時に戻し、重力の影響を最小限にする立ち方の基本姿勢です。
その上で、今回解説した歩き方を実践してみてください。出社するだけで疲れて仕事にならなかった状況もきっと改善されます。ナチュラルポジションを手に入れ、体の使い方を見直し、人生100年と言われるこの時代を、軽やかな足取りで歩んでいってくださることを願っています。
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メディカルトレーナー、動作解析専門家
1957年、大阪府出身。大学卒業後に実業団バレーボール部の指導者としてキャリアをスタートさせるが、自身の足のケガをきっかけに手技療法の道に。久光製薬バレー部元監督。大阪体育大学サッカー部、関西国際大学トレーナー。現在は、メディカルサポートやアスリートの動作解析を行っている。メディア出演も多数。
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