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「30年間賃金が上がっていないだけ」日本人がハワイの「1杯2000円のラーメン」に驚く“残念な理由” | ニコニコニュース

ハワイラーメンを頼んだら1杯で2000円もした!」

 近年、海外の物価に驚く日本人が増えた「あまりに悲しい理由」とは? 経済ジャーナリストの渋谷和宏氏の新刊『日本の会社員はなぜ「やる気」を失ったのか』(平凡社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

◆◆◆

「賃金が、10年近く据え置かれたままなんです」

 メーカーに勤務する中堅社員・田中聡史さん(39歳・仮名)の声をお聞きください。

「私は、最大手ではありませんがそれなりに知られた国内のメーカーに勤務しています。新卒で入社した時にはいい会社に入れたかなと思ったのですが、今は胸の内がモヤモヤしています。若手時代を経て、中堅社員として役職に就いてから、賃金がほとんど増えていません。10年近く据え置かれたままなんです。

 私の会社では、係長に相当する等級以上の社員は一人ひとり、半期ごとに期間の実績や取り組みを自己申告シートに書き込み、4段階で査定・評価されるのですが、最上位の評価を得ないと賃金が上がらない仕組みです。上から2番目の評価で現状維持、3番目以下では減らされてしまいます。最上位の評価を得る社員はほんの数%です。そんな人たちにしても最上位を続けて取ることは稀なので、賃金が増えている社員はほとんどいないと思います。

 会社の経営が苦しいわけではありません。一時期は赤字に陥りましたが、今では業績は決して悪くなく、それなりの利益をきちんと出しています。中国での販路開拓がうまくいったのに加えて、私たちの人件費を削ったり、交通費や会議費などの諸経費を切り詰めたり、研究開発に振り向ける予算を絞り込んだりした結果です。私たちも身を切ってきたんです。会社にはそんな努力に少しでも報いてほしいと切望していますが、私たちの想いが叶う予感は今のところまったくありません。

 私は管理部門に所属して、労務管理の仕事に就いています。今の仕事が嫌いではありません。常にではないですが、やりがいを感じることもあります。しかし先ほど言ったようにモヤモヤが晴れないんです。若手時代のように100%前向きな気持ちで仕事に取り組めません。仕事に没入することにためらいを覚えてしまう自分がいるんです」

 この話を聞いて、身につまされた人はきっと少なくないでしょう。もしかしたら、あなたもそうかもしれませんね。

 田中さんは「賃金を10年近く据え置かれたままだ」と告白しましたが、実は10年どころか、この30年間、日本企業で働く社員の平均賃金はほとんど上がっていません。

 それどころか「賃金が上がらないのは会社に貢献できていないからだ」と言わんばかりの巧妙な人事考課と賃金制度によって、社員の賃金を減らしてきた企業も少なくありません。頑張っても報いてくれない会社に対して、モヤモヤした気持ちを抱いている社員は多数派だと言っていいでしょう。

30年間上がらない賃金

 本稿ではまず日本の「安い賃金」に焦点を当て、社員のやる気が失われていった理由を浮き彫りにしたいと思います。

 30年にわたって据え置かれてきた日本の賃金水準は今や先進国で最下位の水準に落ち込んでいます。

 図4のグラフをご覧ください。

 OECD(経済協力開発機構)加盟国38カ国の2022年の平均賃金を比較したグラフです。金額はドルに換算されています。

 それによれば日本の平均賃金は4万1509ドルで、38カ国中25位にとどまり、アメリカ(7万7463ドル)の半分強(53.6%)の水準に過ぎません。

 OECD加盟国平均の5万3416ドルや、ドイツ(5万8940ドル)、フランス(5万2764ドル)、イギリス(5万3985ドル)などヨーロッパ諸国と比べてもかなり低く、韓国の4万8922ドルをも下回っています。

 日本より賃金が低い国はポーランドハンガリー、チリなど経済的に低迷している国が中心です。

 ちなみにOECDは、世界経済や各国経済の現状を分析し課題を協議するため、先進国主導で設立されました。加盟国は日本を含めて38カ国です。世界経済や各国経済に関する膨大な統計を調査・発表しており、統計の信頼性や網羅性の高さから「世界最大のシンクタンク(調査機関)」とも呼ばれています。

欧米人にとって「iPhone」は高くない

 平均賃金が先進国で最下位に落ち込んでしまった結果、欧米の人たちには値ごろ感のある商品が私たち日本人にとっては高額品になってしまいました。

 iPhoneアイフォーン)はその代表でしょう。

 アメリカアップル2023年9月に発売したアイフォーン15の日本での販売価格は、廉価機種が12万4800円で最上位機種が24万9800円でした。この値付けに対して大多数の日本人は「最上位機種とはいえスマホが約25万円もするのは高すぎる」と思ったでしょう。私も「高いな」と思いました。

 日本人2021年の平均月収は、月曜日から金曜日までフルタイムで働く人で残業代も含めて33万4800円でした(厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」による)。アイフォーンの最上位機種の価格はその7割にも達します。高額に思えるのは当然でしょう。

 しかし平均的な収入を得ているアメリカ人にとっては決して高すぎる価格ではありません。最上位機種の価格は月収の3割程度なので、平均的な日本人が12万4800円の廉価機種を買うのと負担感はあまり変わらないのです。

 アイフォーンだけではありません。ジープ社のSUVスポーツ用多目的車)や、L.L.ビーン社のジャケットブーツといったアメリカ製品も、私たち日本人には高価に映りますが、アメリカイギリスドイツなど欧米の中間層にとっては常識的な価格の範ちゅうに入ります。

 またコロナ禍が収束し、海外旅行に出かけた日本人による「ハワイラーメンを頼んだら1杯で2000円もした!」といった驚きの声がネットで散見されるようになりました。2000円ラーメンは欧米人にとって驚きではありません。それが私たちには法外な値付けに思えるのは、日本の賃金水準が低すぎるからです。

日本はどこで間違ってしまったのか?

 日本の賃金はもともとここまで低かったわけではありませんでした。

 OECDの調査では、約30年前の1990年には、日本の平均賃金は3万6879ドルと、アメリカの4万6975ドルに比べれば見劣りするものの、イギリスフランスよりも高い水準でした。

 しかし1990年以降、日本の平均賃金はほとんど増えませんでした。OECDによれば1990年から2022年までの約30年間で4630ドル(1ドル=145円で計算して67万1350円)しか上がっていません。上昇率はたった12.5%です。

 一方、アメリカイギリスの賃金はこの間に約5割上昇し、韓国ではほぼ2倍になりました。日本が足踏みしているうちに他の国々がずっと先にいってしまい、日本だけが賃金上昇の恩恵にあずかれず、大きく劣後してしまったのです。

 30年は長い年月です。1990年に生まれた人たちは今では企業で中堅社員として活躍し、当時、中堅社員だった人たちは定年後の第二の人生を考えなければならない年齢に到達しています。

 私自身、30代初めの中堅記者として働いていた1990年当時を思い出すと隔世の感があります。ビジネスパーソンは私たちメディア関係者を含めてスマホはおろかケータイさえ持っていませんでした。NTTドコモの前身であるエヌ・ティ・ティ・移動通信企画が設立されたのは1991年のことです。インターネットも普及しておらず、eメールもありませんでした。仕事でもプライベートでも相手との連絡は固定電話かファクスが中心でした。

 インターネットによる映画や音楽、ゲームなどの配信ももちろん影も形もありません。映画や音楽はレンタルビデオ・CD店でVHSビデオやCDを借りて視聴しました。ゲームをする時は、任天堂ファミリーコンピュータファミコン)や1990年に発売されたスーパーファミコンなどのゲーム専用機を使いました。ゲームソフトROM(読み出し専用メモリー)に記録されており、ロムカセットと呼ばれた、ROM付きの基盤が内蔵されたプラスチック製の箱をゲーム機本体に装着してゲームを楽しんだのです。

 インターネットなどのIT(情報技術)が普及・浸透する以前の時代です。「プレ(前)デジタル時代」と言ってもいいかもしれません。

 私たちの賃金は、そんないにしえの1990年からほぼ据え置かれたままなのです。日本はいったいこの長い年月、何をしてきたのでしょうか。

 日本が「安い賃金」の国へと転落していく道筋を振り返ってみましょう。それは同時に社員のやる気が失われていった真因を探ることでもあります。

「社員のやる気はますます失われていった」“コストダウンがうまい人間”ばかりを重宝した日本企業の大失敗〉へ続く

(渋谷 和宏/Webオリジナル(外部転載))

ラーメンを代表するように近年、海外の物価に驚く日本人が増えた理由とは? ©getty

(出典 news.nicovideo.jp)

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