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若者を「初回無料」で課金沼に落とす…深刻な「ガチャ依存」に陥る日本のゲーム会社の残念さ
日本のスマホゲームではキャラクターアイテムを有料電子くじ「ガチャ」で獲得する方式が主流になっている。この方式は射幸性(ギャンブル性)が高いため、海外では規制が進みつつある。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは「プレイヤーガチャに依存するだけでなく、日本のゲーム会社もガチャモデルに依存している。これでは世界では通用しない」という――。

■ガチャで溶かした金額は200万円超

Appleが円安ドル高の影響を受けて、10月5日からApp Storeで販売しているアプリの価格を引き上げた。その結果、日本での最低価格は120円から160円へと約3割値上がりし、パズドラモンストウマ娘などの人気スマホゲームが有償アイテムや「ガチャ」の値上げを相次いで発表した。

「これまでにガチャで溶かした金額は、200万円は超えていると思う。怖くて正確な計算はできないけれど、最低そのくらいにはなるかな」

20代会社員男性は、ゲームガチャを回すためにランチ代を削る。自分で安売りのカップラーメンを会社に持っていき、浮かせたランチ代でガチャを回すのが日課だ。他に趣味もなく派手な生活もしていないものの、ゲームガチャで月数万円使うことも珍しくない。

「全く出ない時は本当に腹が立つ。でも出たときの嬉しさが忘れられず、つい出るまで回してしまう」。安月給の中、それだけあったら何ができたかということは考えないようにしている。

■初回無料でも、つい課金してしまう仕組み

ガチャとは「ガチャポンカプセルトイ)」からきたもので、ランダムアイテムが出てくる仕組みのことだ。無料のスマホゲームなどでガチャを引くことで、ユーザーは新しいキャラクターアイテムなどを手に入れることができる。

初回は無料だが、ほしいアイテムを手に入れるためには課金しなければならないことが多く、レアで強力なキャラクターアイテムほど出現確率が低く設定されている。

こうしたガチャの仕組みは日本社会に深く浸透しており、親ガチャや配属ガチャ、国ガチャといった流行語にも派生している。

■ギャンブルやアルコールの快楽に似ている

ガチャの仕組みは、パチンコなどのギャンブルと類似性が高く、ドーパミンが出る中毒性の高い行為であることがわかっている。

動物が何かの行動の報酬として食べ物を得られた場合に、脳から出るドーパミンの量を調べた実験がある。それによると、食べ物を得られたときよりも、得られる直前のほうが多かったというのだ。

ある行動をするとほしいものが確実に出るとわかっていると、人は退屈してすぐにその行為をやめてしまう。しかし、ランダムに得られる場合は、その行動を永遠に繰り返し続けてしまうという。

何かを得られたときよりも、それを期待しているときのほうがドーパミンが多く出て快楽性が高いため、その快感が病みつきになってガチャを回し続けてしまうというわけだ。

MRIにより、ギャンブルアルコール中毒に陥っているときの脳の状態と、ゲーム中毒に陥っているときの脳の状態は、非常に似通っていることが証明されている。

2019年WHOによってゲーム依存は病理と認定されたが、ゲームアルコールギャンブルと同様に依存性が高いものなのだ。その中でも特に依存性が高いのが、前述のガチャというわけだ。

■日本人のゲーム課金額は世界一

一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)によると、2020年の国民1人当たりの年間ゲーム課金額は日本では1万円程度だった。一方、米国は約6000円、中国は約1500円で、日本が諸外国を抑えてトップとなっている。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングの「オンラインゲームの動向整理」(2022年3月)によると、有料のアイテムや電子くじ(ガチャなど)を購入できるオンラインゲームを利用したことがある人のうち、この1年間で48.9%が有料アイテム、31.9%が電子くじを購入したと回答した。

「1カ月あたりの平均課金額」は1000円未満が42.1%、1000円5000円未満が34.8%、1万円以上は10.8%。「最も課金したゲームでの課金総額」では、1万円~10万円未満が29.0%、10万円以上が10.6%と高額課金者が目立っている。

また、オンラインゲームを利用した際の一番のトラブルとして、「課金額が予想外に高額になっていた」と答えた人は2番目に多い17.4%で、年代が上がるにつれて増える傾向がみられた。

■ガチャで当たる確率は思った以上に低い

「1%の確率でほしいキャラが出る場合、ガチャ100回引けば必ずほしいものが手に入る」と考えてしまう人がいる。しかし、これは間違いだ。

店舗に置いてあるガチャポンの場合、ほしい賞品が100個中1個入っているとすると、100回引けば必ず手に入れることができる。

しかし、スマホゲームガチャの場合は、何回回しても毎回100分の1の確率は変わらない。1%の確率で当たるレアアイテムガチャ100回引いたとしても、少なくとも1回当たる確率は約63%でしかない(※)。思った以上に、ガチャの確率は低いものなのだ。

(※)https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20160305003/

しかし、「こんなに回したのだからそろそろ出るはずだ。今やめてしまったらこれまで回したのが無駄になってしまう」とサンクコスト効果に囚われ、回し続けてしまう人は多い。

■「コンプガチャは違法」で自主規制

ガチャと言えば、「コンプガチャ」問題を思い出す人も多いかも知れない。

コンプガチャとはコンプリートガチャの略で、特定の数種類の賞品をすべてそろえる、つまりコンプリートすることでレアアイテムが入手できる仕組みのガチャを指す。当然ながら、一般的なガチャよりもさらにレアアイテムの入手確率は著しく下がる。

コンプガチャによって、子どもがレアカードを得るために数十万円課金してしまうといった問題が発生してしまい、問題視されるようになった。

消費者庁から『オンラインゲームの「コンプガチャ」と景品表示法の景品規制について』が発表されたのは、2012年5月のこと。コンプガチャの仕組みが、景品表示法の懸賞景品制限告示5項で禁止されている「カード合わせ」に該当するとして、違法性が指摘されたのだ。

これを受けて、ディー・エヌ・エードワンゴなどモバイルゲーム運営会社6社は同月、コンプガチャを利用者に提供してはならない」とするコンプリートガチャガイドラインを公表し、コンプガチャは事実上全廃となった。6社は「ゲーム内表示等に関するガイドライン」も制定、ガチャゲームに組み込むにあたっての規定を設けている。

■海外では「脱ガチャ」が進んでいる

海外でも「ルートボックス」というものがあり、アイテムやスキンなどの賞品をランダムに得られるという点から、ガチャと同様にとらえられることが多い。しかし一方で、海外ではルートボックスへの規制が強まっている。

英国の11~16歳の23%がルートボックスを購入するなど、2020年の欧州主要5カ国のゲーム市場の40%がルートボックスを含むアプリによる売上で構成されている。2020年の世界におけるルートボックスの売上高は150億ドルに上る。

規制が進んだきっかけは、2017年に発売されたエレクトロニック・アーツ(EA)の「Star Wars バトルフロント II」だ。キャラクター強化などのためにルートボックスを購入しなければならない仕様に批判が集まり、ルートボックス自体への風当たりが強まったと言われている。

執筆現在、ベルギーオランダなどの複数の国ではルートボックスが違法となり、その他の国でも規制について議論されるなど、海外での法規制は進んでいる状態だ(※)

(※)https://automaton-media.com/articles/newsjp/20181203-80772/

そのため、世界のスマホゲームビジネスモデルは、ガチャルートボックスではなく、バトルパスやシーズンパスなどのチケット制に移行しつつある。チケット制は支払う金額は一定で獲得できるアイテムも事前に表示されるため、ギャンブル性はほとんどないとされる。

■ゲーム業界がガチャをやめられない理由

国内でも、世論の高まりとともに自主規制が進んでいる。App Storeでは2017年からガチャ入手確率の表示が義務付けされており、同様にPlayストアでも導入済みだ。

業界団体である一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会(CESA)は、有料ガチャに関するガイドライン自主規制を行っている。ガイドラインでは、協会に加盟する運営会社に対してガチャアイテムの一覧や全ガチャアイテムの提供割合を明示することを定めている。

しかし、ゲーム業界があくまで自主規制にとどまっているのはなぜか。それは近年、スマホゲームの開発コストがかさむようになってきており、高収益が上げられるガチャから簡単には離れられないという事情があるからだ。

ゲームの市場規模を見ると、2021年家庭用ゲーム機が5705億円である一方、スマホゲームは1兆3001億円となっている(『ファミ通ゲーム白書2022』)。ガチャのみでの収益は公開されていないが、新規ガチャリリースと同時に売上が急増する例は多く、ガチャが売上を大きく左右し、市場の拡大に影響していることは間違いない。

ガチャは一度やるとやめられない」のは、ユーザーだけでなくゲーム会社も同様だ。非常に魅力的な仕組みには違いないが、規制が進む世界の流れを見ると、日本でもガチャから脱却し、早期にビジネスモデルを転換することが求められている。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

(出典 news.nicovideo.jp)

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