東日本なら右、関西圏なら左──。地域によって異なるが、エスカレーターには急いで歩く人のために「暗黙のルール」が存在する。埼玉県は昨年、エスカレーターの徒歩移動を禁止する全国初の条例を出した。1年経って、街の人には”変化”が見受けられて…。
■全国初の条例が生まれた背景
昨年10月、埼玉県はエスカレーターで歩くことを禁じる条例を施行した。背景には、エスカレーター歩行中の事故が多発している、右側を空ける習慣によって怪我や障がいなどで右側の手すりしかつかまれない人が困っている等の事情がある。
ここ数年、自治体や鉄道事業者はエスカレーターで歩かず両側で立ち止まるよう呼びかけているが、条例になったのは埼玉県が初めて。罰則はないが、日本で初となる同県の取り組みは昨年ニュースでもとりあげられた。
条例施行から1年経ったが、街の人たちは守っているのだろうか。11月下旬、埼玉県さいたま市に足を運んだ。
関連記事:少女の手がエスカレーター手すりに巻き込まれ… 救出まで1時間かかる大事故に
■大宮駅のエスカレーターで目にしたもの
午前10時、大宮駅は多くの人が行き交っていたが、右側を歩く人はおらず、みんな立ち止まっていた。記者は東京在住で新宿駅を頻繁に利用するのだが、こちらでは右側をものすごい勢いで歩いて行く人が見受けられる。
記者もせっかちな性格のため、エスカレーターの右側を使いがち。そうした光景に慣れているだけに、大宮駅のエスカレーターで立ち止まる人の姿は新鮮に映った。
お昼前、近隣の百貨店のエスカレーターに入ると、足元には「エスカレーターでは立ち止まろう」という張り紙があり、「エスカレーターで歩かないで下さい」というアナウンスも流れていた。利用する人もやはりきちんと立ち止まっている。
百貨店で買い物をしていた50代女性に話を聞くと、「もともとエスカレーターではあまり歩いていませんでしたが、条例を機に子供にも立ち止まるよう注意するようになりました。張り紙やアナウンスも流れているので、みんな自然と意識しているのではないでしょうか」とこの1年で心境に変化があったことを明かした。
■埼玉県庁に問い合わせると…
18時過ぎの大宮駅では、会社や学校の帰りで急いでいたのか、エスカレーターを歩く人の姿が多少見受けられたものの、全体的に条例が守られていると感じた。大宮駅に限らず、条例施行から1年経ち、埼玉県民のエスカレーターに対する意識は変わっているのだろうか。
また、エスカレーターによる事故は減ったのか。埼玉県庁に問い合わせたところ、「埼玉県として県内の事故件数は把握しておりません。エスカレーターで立ち止まる人が減ったのかに関しても、埼玉県庁では定点観測的に何割増減したというデータは取っておりません」(埼玉県庁)とのことだった。
ただ、エスカレーターの利用実態に関しては毎年行っている埼玉県政世論調査で発表しているので、そちらを参考にしてほしいという助言を受けた。
■驚くべき結果が明らかに…
11月29日より、埼玉県庁の公式ホームページに「令和4年度埼玉県政世論調査」の結果が公開されている。今年7月8日から29日の間で埼玉県内の満18歳以上の5,000人を対象に「生活意識」「日常生活」などを調査しているのだが、その中に「エスカレーターの利用実態」という項目が。
それによれば、駅のエスカレーターを「日常的に立ち止まって利用した」(43.3%)と「どちらかというと立ち止まった」(32.2%)を合わせた『立ち止まって利用した』という回答は75.5%。昨年(令和3年)より10.6ポイント増加した結果になっているとのこと。
百貨店でも「日常的に立ち止まって利用した」(59.7%)と「どちらかというと立ち止まって利用した」(31.0%)を合わせた『立ち止まって利用した』が90.7%で、昨年に比べて6.1ポイント増加したと記されている。
少しずつ、エスカレーターに対する意識が変わっているようだ。「エスカレーターで歩かない条例」が全国に広がれば、エスカレーターによる事故も減るかもしれない。
・合わせて読みたい→渋谷の駅エスカレーター、予想外すぎる「先客」に驚愕 一体どんな状況なんだ…
<このニュースへのネットの反応>