選挙カーから自分の子が手を振ると公職選挙法違反…女性立候補者を悩ます男性仕様の謎ルールが多すぎる | ニコニコニュース
■増加傾向だが女性県議会議員は2割未満しかいない
2023年4月に行われた統一地方選挙の結果、都道府県議会における女性の割合は過去最高になりました。とはいえ、全体に占める割合は依然として2割にも届かず、日本、特に地方の政治がまだまだ「男性政治」であることには変わりありません。
政治に多様性を求める人は多いはずなのに、なぜ女性地方議員はいまだに少ないままなのでしょうか。その背景には、女性は男性に比べて圧倒的に選挙に出にくく、また選挙活動もしにくいという現状があります。いったい何が障壁になっているのか。私は、大きく分けて次の3つの障壁があると考えています。
■立候補するとワークライフバランスが取りにくくなる
1つ目は、現在の選挙活動は、候補者にとってワークライフバランスの確保が非常に難しいということです。先日、日本維新の会の馬場伸幸代表が「選挙は非常に厳しい戦いであり、私自身も1年365日24時間、寝ているときとお風呂に入っているとき以外、常に選挙を考えて政治活動をしている。それを受け入れて実行できる女性はかなり少ないと思う」などと語りました。
この発言は炎上しましたが、残念ながら現状はこの言葉通りで、今の選挙活動は家事や育児などのケア責任を免れている「ケアなし男性」モデルを前提としています。政党もそうした候補者を探そうとしますし、有権者側にもそうした人を求める傾向があります。
日本の選挙は国政も地方も、政党ではなく個人中心で行われる傾向が強く、政策の内容よりも、地元のお祭りに参加する、有権者と直接握手をするといったことが票につながりやすいのが実態です。政治家は「地域の代表」という面が強いからです。政策を語る場が少ないせいもあって、有権者もつい個人的なつながりを重視してしまいがちです。
■現状の選挙は家族の「ケアなし」で活動できる人が有利
もちろん、直接会ってみて印象が良かったから票を入れるというのは悪いことではありません。でも、候補者が個人で地域回りをするには膨大な時間がかかります。特に女性の場合は家事や育児を負担していることが多いため、夜に行われる会合などには出席しにくいという現状があります。
選挙戦をゲームと見なし、勝つことだけを考えるのなら「ケアなし」が絶対的に有利でしょう。しかし、議会がケアなし男女だけで占められているようでは政治がゆがんでしまいます。多様な人々の生活に役立つ政策とは、家事育児をしている男女が、今の生活を続けながら参画できて初めて実現できるものだと思います。私たちがめざすべきはそうした社会ではないでしょうか。
家事育児負担が女性に偏っている現状、ワークライフバランスを無視した選挙活動のありかた、政策で競えない選挙文化。女性も出やすい選挙を実現するには、これらを改善し、かつ有権者も候補者を政策で選ぶ意識を持つ必要があると思います。
■選挙カーから子どもが手を振ったら公職選挙法違反に?
2つ目は、選挙活動の場も当選後の職場となる議場も、さまざまなところが男性仕様のままであるということです。例えば、子連れでの選挙活動は公職選挙法違反になる可能性があり、子どもの預け先が確保できない場合に候補者はとても困ることになります。「こそだて選挙ハック!プロジェクト」などの働きかけがあり、総務省も3月には通知を出し、ルールを明らかにしています。子どもが単に親に同行しているのは問題ないのですが、子どもが選挙運動用の車に乗って有権者に向かって手を振ったら、法律に抵触するおそれがあるとのことです。
道ゆく有権者に手を振られたら振り返す子もいるでしょう。問題は、違法かどうかの判定が曖昧なために、子連れで選挙活動せざるを得ない候補者は、ことあるごとに「これはOKなのか違反なのか」と悩み、萎縮してしまいます。対立陣営がつけいる隙を与えることにもなりかねません。そもそも、未成年の選挙運動を禁止すべきなのか、子どもの政治権利の観点から見直しを含めて、議論が必要でしょう。
年齢的に一人で家に置いてはおけないけれど、パートナーや両親に頼れない、預け先がない、ベビーシッター代を出すのが厳しいなど、人によってさまざまな理由があるはずです。政党によってはベビーシッター利用料を補助する仕組みもありますが、無所属の人はこれも利用できません。
■公職選挙法は子育て中の母親仕様にできていない
現在の公職選挙法は、子育て中の女性の立候補を想定せずにつくられたもので、今の時代にはまったく合っていないのです。育児と選挙活動の両立を阻害するようなルールは、今すぐ見直しが必要でしょう。
議場でも、腰掛けるとスカートの中が見えてしまうような低い椅子をよく見かけますし、女性の肖像画もほとんど飾られていません。イギリス議会などでは肖像画を飾る際に女性議員の存在を可視化できるようルールを変えたり、男女同数の芸術家に依頼するなどの工夫をしています。先人の女性議員は貴重なロールモデルなのですから、日本の議場でもしっかり見せていくべきです。こうした男性仕様の環境も、女性議員が増えれば変わっていくのではないでしょうか。
3つ目はハラスメントです。これは男性に対してもありますが、女性に対しては特にセクハラがひどく、女性が政治参加するにあたって大きな障壁になっています。内閣府の調査によると、女性地方議員の約6割がハラスメントを経験し、3割弱が性的、もしくは暴力的な言葉による嫌がらせを受けています。
■候補者の体を触ってくる悪質な「票ハラ」も
支援者や有権者から「票ハラ(投票ハラスメント)」を受けたという人もいますが、これは「当選させてあげる」「投票してあげる」などと言って候補者を個人的に誘う、性的発言をする、体を触るといった行為をするものです。なかにはストーカー被害に発展することもあります。候補者にとっては票を持っている有権者をむげにはできないので、その立場の弱さにつけ込んで悪質な行為をする人がいるのです。
近年、ようやく表面化してきましたが、まだ改善傾向にはなく、今後女性の議員や候補者が増えるにつれてもっと激しくなるのではないかと懸念しています。
悪質な行為は一部ですが、他方で、何気ない言葉に性差別が混じることは多く見受けられます。「女性は見た目がいいと票が取れる」といった具合です。世の中には「政治は男性のものであり、女性は入るべきではない」と思っている人や、ミソジニー(女性嫌悪、女性蔑視)を持つ人も一定数います。候補者を支える人々や政党はこの現実を知り、できる限りの対策をとっておくことが必要だと思います。
具体的には、ハラスメントの事例を選挙ボランティアなどの仲間同士で共有し、1人きりで有権者と相対させないようにする、信頼できる男性ボランティアに目を配ってもらう、無所属の人も利用できるハラスメントの相談窓口や対策ノウハウを得られる場を設けるといった対策が考えられます。また、現状は圧倒的に男性が多い「支え手側」に女性を増やし、皆で声を上げていく必要もあるでしょう。
■後援会なし、土日は家庭最優先で活動し当選した市議も
近年、女性議員は徐々に増えつつあり、従来の選挙活動とは違ったやりかたで当選する人も出始めています。例えば2020年のつくば市議選では、小さな子ども2人を子育て中の川久保皆実さんが無所属新人として立候補し、後援会も辻立ちも選挙カーもなし、土日は子どもとの時間を最優先にするといった選挙活動で当選を果たしました(※)。
※「後援会も辻立ちもなし」無名の34歳女性が3位当選を果たした、斬新すぎる選挙戦略」
今は新しい選挙文化への過渡期であり、この文化が根付けば女性候補者のチャンスは大きく広がっていくでしょう。地域回り以外の、政策発信の場も広がりつつあります。今はSNSもありますし、候補者アンケートの結果を基に有権者が政策キーワードで候補者を絞っていけるサイトもあります。
従来は、有権者と候補者の接点と言えば「抽象的な政策論争か握手」と、極端にかけ離れた2つしかありませんでした。これでは、有権者が候補者を知ることのできる場が少なすぎます。
投票先は、地域への思いやライフストーリーを含めた「人となり」と、当選したら皆の生活をこう変えますよという「政策」の2点を重視して選びたいもの。どういう政治信念を持っているかを見極めるためには、議員の議会での言動を市民がチェックするようなアクションが広がってほしいと思います。
■具体性のない政策論争はやめ、暮らしに直結する選挙を
地方議員は地域の住民の要求にきめ細かく対応をしています。ただ、男性の方が議員とのつながりが多く、女性たちの声は同じように届いていないのが現状です。声さえ届けばほとんどの議員は動いてくれます。それこそが自分の仕事だと思っていますし、実際に住民の暮らしを変える力があるからです。
しかし、そうした議員たちも、そもそも有権者の支持がなければ議員にはなれません。つまり、政治や暮らしを変える本当の力は有権者にあるのです。その力に気づいてほしいと思います。推しの政治家を支えつつも自分たちの意見を届ける。そうした行動を有権者が取ることで、力を発揮することができるのです。
ジェンダー平等で多様性のある政治を実現するには、「ケアなし男性」が圧倒的に有利で男性仕様のままの選挙文化も、女性候補者がハラスメントに遭う現状も変えていかなければいけません。有権者が力を発揮し、新しい選挙文化をつくっていくことを願っています。
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上智大学法学部教授
専攻は現代日本政治論、ジェンダーと政治。1967年東京都生まれ。慶應義塾大学卒業。カリフォルニア大学バークレー校大学院修了。政治学の博士号を取得。2021年、フランス政府より国家功労勲章シュバリエ受章。著書に『私たちの声を議会へ 代表制民主主義の再生』(岩波書店)、編書に『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』(朝日新聞出版)などがある
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名無しさん そもそも選挙カーに子供を乗せる意味は?事務所があるだろう。事務所に子供を預けられる環境を作れない政党など潰れてしまえ。逆に選挙カーに子供を乗せていたら、そんな能無し誰も支持したくないわ。だって考える知恵が無いから子供乗せてるわけだし |
トージ 子供は選挙の道具ではない。挙げられてる問題の殆どは男に置き換えても存在するのに女性特有の問題だとこじ付けてないか?「具体性のない政策論争はやめ、暮らしに直結する選挙を」というけど「暮らしに直結する」と謳ってる候補の政策も特に具体性がなかったりする |
linen 性別に関係のない選挙活動中の子育てをどうするかという話なのにそれが理解できていない。性差が生まれているというならそれは法律ではなく子育てのあり方の問題。上智大学はこういう水準になっているのですか? |
mutchie 公職選挙法は子育て中の母親仕様にできていない>シングルファーザーが候補者になっても同様の問題は発生するのに、何で子育て中の母親限定なんだ?シングルファーザーは少数だから除外しているのなら、子育て中の母親も同じ理由で除外して良い事になるだろ。 |
金鯖缶 出産・育児という行為が育児休暇・子供手当始め立法府が制定して法的に保護される理由はなんだと思ってんですかねぇ? 政治家やるより大事な事だからだぞ。 同様にそれを利用して票集めするのもやっちゃいけねぇに決まってんだろ。 |