なぜ「サイゼ」が最も支持されるのか 「ミラノ風ドリア」300円を維持できるワケ | ニコニコニュース
ファミリーレストラン大手「サイゼリヤ」を利用したことのある人は多いだろう。日本生産性本部が実施した調査では飲食部門で顧客満足度1位を獲得するなど、さまざまな調査で高評価を得ている。もちろん圧倒的な安さが人気の理由ではあるが、低価格で安定したイタリアンを提供し、このご時勢でも値上げを抑えるというのは並大抵のことではない。サイゼリヤは原料生産から店舗運営まで徹底した効率化を図っている。そんなサイゼリヤの沿革、そして効率化の技術についてまとめてみた。
●国内外で店舗数を拡大
イタリアンレストランとしてのサイゼリヤは1973年に始まった。創業者は1967年から飲食事業を展開していたが、今後はイタリアンが流行ると予想していたという。70~80年代と千葉県を地盤に商業施設や駅ビル、ロードサイドなどさまざまな立地に進出し、92年には北海道の新札幌駅に50店舗目をオープンさせた。94年には100店舗目を達成し、98年には200店舗目をオープン。その後、日本証券業協会に株式を店頭登録した。99年には東証2部上場となり、翌年には1部上場に鞍替えしている。
2000年以降、規模拡大のペースは加速していく。01年に500店舗目をオープンし、03年からは中国・上海進出をきっかけに海外展開を始める。07年には上海に続いて中国・広州にも進出、翌年にはさらなる拡大を目指して北京・台湾・香港・シンガポールに現地法人を設立した。
11年には海外店舗数が100を超え、国内外の合計店舗数が1000を突破した。その後も順調に成長を続け、コロナ禍以前の19年8月期末時点で国内外合わせて1504店舗体制となった(国内1093、海外411)。
コロナ禍では業績が落ち込んだものの、23年8月期第2四半期時点でも約1500店舗を展開しており、今期は売上高が過去最高となる1772億円を見込んでいる。
サイゼリヤがここまで伸びたのはもちろん安さが理由だ。人気のミラノ風ドリアはたったの300円であり、ピザやパスタも400~500円である。
日本ではバブル期の「イタ飯ブーム」をきっかけに本格的なイタリアンが普及した。パスタといえば、それまでナポリタンやミートソースしか知らなかった日本人がブームを期に多彩なイタリア料理を楽しむようになった。しかしその後は失われた20年、30年ともいわれる不景気時代が続く。
懐が寂しいと感じる人が増える中、安くて安定したイタリア料理を楽しめるサイゼリヤは消費者のニーズにマッチしたと考えられる。端的にいえばバブル期にイタリアンが定着した日本の消費者に、安価なイタリア料理を提供し続けることでサイゼリヤは成長できたのである。
サイゼリヤは中国でも同じく圧倒的な安さで消費者の心をつかんだ。中国でもイタリアンチェーンとして「ピザハット」が進出していたが、サイゼリヤはそれよりも圧倒的な安さを武器に中国市場へ進出したのである。
12年当時の基準で比較すると、中国国内の一般的な外資系イタリアンの客単価が150元以上であるのに対し、ピザハットも80元とかなり安い水準だった。サイゼリヤはそれをさらに下回る30元弱(約480円)の価格設定で攻めた。洋食は中華料理よりも高いという現地の常識を打ち破ることに成功し、23年8月期第2四半期時点で上海に156店舗、広州に148店舗、北京に70店舗展開している。ちなみに飲食チェーンが海外進出する場合、FC業態をとることが多いが、サイゼリヤでは品質を安定化させるため国内外で直営主義を貫いている。
●徹底された効率化
安さを維持するのは並大抵のことではない。安価なイタリアンを実現するため、サイゼリヤは原料生産から店舗運営に至るまで徹底した効率化を図っている。
例えば、一般的なレタス1玉からはサラダ2~3皿分しかとれないが、自社で品種改良を進め5~7皿分取れるレタスを開発した。物流においては商社を介さずにワインをイタリアから直輸入し価格を抑えている。生産に関してはコストを抑えるため、ハンバーグやミラノ風ドリアに使われるホワイトソースをオーストラリアの現地工場でまとめて生産している。
料理についてはカミッサリー(工場)で加工し、できるだけ店舗の負担を少なくするよう工夫しているようだ。サラダの場合、店舗スタッフは工場から送られてきたレタスなど素材を盛り付けるだけで良い。ミラノ風ドリアに至っては店舗にあるコンベア式のオーブンで焼くだけだ。驚くべきことに店舗での調理に包丁は必要ないそうだ。
こうした工夫もあってサイゼリヤの店舗は一般的なファミレスよりキッチン面積を狭くすることができ、少ない人員での売り上げ確保に成功している。
サイゼリヤは自社を飲食業界の「SPA(製造直販業)」と位置付けている。SPAとは製品開発から物流、小売までを管理するビジネスモデルであり、ユニクロやニトリがこれにあたる。上流から下流までを管理し、仲介業者によるマージンを排除することで安さを実現しているのである。
こうしたビジネスモデルにより圧倒的な安さを維持し続けてきた結果、サイゼリヤは消費者に支持されるチェーンとなった。例えば、サービス産業生産性協議会の22年度調査によると、飲食部門における顧客満足度はモスバーガーやびっくりドンキーを上回って1位を獲得している。
また、LINEリサーチの「一番好きなファミリーレストランは?」という22年調査でも、全体1位という結果が出ている。好きな理由を尋ねると、1位は「値段が安いから」(68.7%)で、「コストパフォーマンスがいいから」(54.0%)、「料理がおいしいから」(43.3%)と続く。全体2位のびっくりドンキーを支持する理由のトップ3が「料理がおいしいから」「コストパフォーマンスがいいから」「お店の雰囲気や内装がいいから」ということを踏まえると、安さが武器になっていることが分かる。
●パスタからは逃れられない
SPAで伸びたサイゼリヤだが、国内店舗数はここ8年間1000店舗台で伸び悩んでいる。海外展開については年間50店舗以上のペースで出店していたものの、近年では10~30店舗のペースに落ち込んでいるようだ。中華圏では日本ほどイタリアンが定着していないことも要因として考えられる。
こうした背景もあってかサイゼリヤは10年代以降、持ち帰りパスタ専門店「Pastas」やファストフード型パスタ専門店「スパゲッティ マリアーノ」などの新業態店を国内でオープンさせている。しかし、いずれも失敗に終わってしまったようだ。ヒット作を生み出したくても新業態店は既存のSPAを活用できるイタリアンに限られてしまい、サイゼリヤ自体が競合となってしまうのだろう。
さらなる成長を目指すのであれば、いっそのことM&Aでイタリアン以外のチェーンを買収するのも一手といえる。
●著者プロフィール:山口伸
化学メーカーの研究開発職/ライター。本業は理系だが趣味で経済関係の本や決算書を読み漁り、副業でお金関連のライターをしている。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー