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『藤井風』黒人差別用語の使用を謝罪…潔く過失を認め、迅速かつ真摯な対応がすばらしい

 人気シンガーソングライター藤井風が過去に自身のYouTubeで公開したカバー曲について謝罪し、11月2日に動画を非公開にしました。

藤井風LOVE ALL SERVE ALLUniversal Music

◆黒人差別をあらわす「Nワード」使用を謝罪
 問題の動画は2018年アップされたもの。m-floの「come again」を土台に、アメリカの女性ラッパー、ニッキー・ミナージュらの曲をつなぎ合わせるように歌唱していました。

 ところがその中で黒人差別をあらわす「N」ワードを含む歌詞をそのまま歌っていたことに、海外のファンから疑問の声が上がったのです。

 これに本人が11月1日に英語ツイートで対応。不快にさせる意図はなく、全ては自らの不勉強によるものであるとのメッセージを発信しました。続けて2日付のツイートでも、「N」ワードの背景を知らずに使ったことを猛省。自らの非を全面的に認めました。

 迅速かつ真摯な対応を多くの人が支持しました。潔く過失を認め、ていねいに真意を伝えようとする姿勢は立派でした。メジャーデビュー前の出来事とはいえ、自分のキャリアに責任を持つ態度に筆者も敬意を表したいと思います。

藤井風ほどのミュージシャンが知らなかったとは信じられない
 その上で考えるべき点が残ります。まずは本当に藤井風が「N」ワードとその背景を知らなかったのだろうか。邦楽、洋楽を問わず数多くの楽曲をカバーしてきた活動から察するに、豊富な音楽的素養を持ち合わせているものと思われます。当然その中には60年代、70年代リズムアンドブルースソウルミュージックの名曲も含まれるでしょう。

 だとすれば、ニッキー・ミナージュ以前に「N」ワードに出会う機会はあった可能性は高いし、文化的な背景に関してトリビア程度でも知る機会はあったのではないか。

 つまり、藤井風ほどのミュージシャンが「Don’t Call Me Nigger, Whitey」(スライ&ザ・ファミリーストーン)を知らなかったとは、にわかには信じられないのですね。公民権運動真っ只中の1960年代のアメリカで、あえて刺激的な「N」ワードを使った問題作。白人の視点からの“白んぼ(Whitey)と呼ぶな”というフレーズを呼応させることで、人種差別の問題を立体的に浮かび上がらせました。決してマニアックな曲ではなく、真剣なミュージシャンにとっては通過儀礼のような曲です。
 かつて彼がカバーしたスティーヴィー・ワンダーをはじめ、90年代の女性コーラスグループ「SWV」に至るまで、ブラックミュージックに含まれる負債のような美しさ。このコンテクストをたどっていけば人種差別の問題に行き着きますし、その過程で「N」ワードを知ることにもなる。

 だから筆者は藤井風の“無知”や“不勉強”という言葉をそのまま信じられません。決して彼が嘘をついているという意味ではなく、むしろパフォーマンスの素晴らしさが、その言葉を覆(くつがえ)しているように感じるのです。

◆「N」ワードが立場を離れ、ファッションアイテムになる危険性

 そこで2つ目の問題が生じます。藤井風の“無知”や“不勉強”が真実だとした場合、体得したエッセンスを無邪気に出せてしまう危険性です。

 藤井風にとって「Sir Duke」(スティーヴィー・ワンダー)もニッキー・ミナージュの「N」ワードも、等しく“カッコいい”ものとして消化されてしまったということですね。このように歴史や生活に対する想像が失われると表現がナイーブなものとなる恐れがあるのです。

 もちろん、サンプリングオマージュの手法自体を否定するのではありません。しかしながら、ただ気に入ったからという理由で借用してしまうと、“文化の盗用”と見られる可能性が生じます。

 今回の場合は、黒人女性というマイノリティーの立場から「N」ワードを用いたニッキー・ミナージュと、その種の問題とは無縁で遊び半分に拝借した藤井風の関係性を考える必要があるでしょう。
 明確な意図があったミナージュと、自らの趣味嗜好を披露するためにコピーした藤井風とでは、同じ言葉でも意味が違ってくる。原曲を知らない藤井風コピーを聞いたファンからすれば「N」ワードがただのカッコいいファッションアイテムになってしまう。当然ニッキー・ミナージュの狙いとは異なります。それが“文化の盗用”に当たるのですね。

 それゆえに、不勉強よりもこのためらいのなさの方を筆者は懸念します。ケガをしたときのダメージがより大きくなり得るからです。

藤井風の謝罪が残した教訓とは
 もっとも、これは藤井風にだけ起こりうることではありません。筆者も含め、多くの日本人にとって洋楽の歌詞の意味や背景をある程度切り離して音楽を聴ける点はメリットです。同時に、偉大な芸術の多くは困難や辛苦から生まれることも忘れずにいたいものです。

 藤井風の真摯な謝罪は、そんな教訓を残してくれたのだと思います。

<文/石黒隆之>

【石黒隆之】音楽批評の他、スポーツエンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4

藤井風「LOVE ALL SERVE ALL」Universal Music

(出典 news.nicovideo.jp)

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