日本人の「ゲームセンター離れ」はウソ…30年前から「大量閉店」が続いても、ゲーセンが決してなくならない理由 | ニコニコニュース
■街中から姿を消しつつあるゲームセンター
かつて、どこにでも見られたゲームセンターの姿が消えつつある。1993年の時点で約8万7000店舗あったゲームセンターは、2021年には約1万までその数を減らしている(図表1)。
帝国データバンクによれば、倒産・休廃業したゲームセンターは2年連続で増加し、2023年には18件に及んだ。同社は、その大きな要因として、電気代の値上げなどにより、ゲームを1回遊ぶために投入する金額100円あたりで、収益が6円にしかならないと分析する。人気のあるプライズゲーム(クレーンなどで景品を獲得するゲーム)も物価高にあわせて、景品の仕入れ価格が上昇すれば、利益率は下がる一方だ。
ゲームセンターでは1970年代から、ワンコイン(100円玉1個)で遊ぶ形(コインオペレーション)が基準となってきた。物価の上昇だけでなく、最低賃金も上がり、人件費もかさむ。業務用ゲーム機は中古であっても数百万円するものもある。大枚をはたいても利益を回収できるかどうかはわからない。他業種のサービス産業の利用料が軒並み上がっていることを考えれば、ゲームセンターは現在、非常に苦しい状況にあると言えるだろう。
ただし、ゲームセンターの店舗が減少しているのは、何もここ数年のことではなく、30年以上続いている現象であることに注意しなければならない。一貫して店舗数が減少しているにもかかわらず、ゲームセンター(オペレーション)は市場規模を伸ばしている時期もある(図表2)。閉店・倒産の数は単純に業界の縮小を意味しない。
■閉店数はラーメン店や自動車整備業者のほうが多い
1990年代初頭にバブル経済が崩壊し、各業界の勢いが急速に下降する中、ゲームセンター業界は市場を伸ばし、新聞などで「不況に強い」とさえ報じられてきた。パンデミックの際に、ゲームセンター業界は売り上げを落としているが、翌年にはもう売り上げを伸ばしている(図表2)。
他業種と比較すると、ゲームセンターだけが苦境に立たされていると印象付けてしまうような記事は、偏りがあることがわかる。帝国データバンクの各種データを参照すると、2020年における倒産・休廃業数は、ゲームセンターが13件なのに対し、飲食店は715件(ラーメン店94件)、自動車整備事業者418件である(注)。
(注)帝国データバンクは母数を示していないことに留意する必要がある。誤解を避けるためにあえて記載するが、筆者は同社のデータは面白いと評価しているからこそ参照していることを強調しておきたい。ネット上で広まっている記事の中には、あまりにもひどく、批判材料にもならないものが散見される。
上記のように一部では倒産・休廃業したゲームセンターが2年連続で増加したことを喧伝するが、そもそも警察庁の調査では、風営法第5号営業として認められたゲームセンターに限ってみても2022年(12軒増)、23年(21軒増)と2年連続店舗数が増加している。
業界団体の報告書でも、現時点で確認できる数値を見ると、2020年に9998軒と前年の1万2212軒から減少しているものの、2021年には1万61店舗とわずかに回復を見せている。同様に、ゲームセンターの売上高も2021年に上昇に転じている。
■「ゲーセンはオワコン」は分析としては薄っぺらい
ゲームセンターは旬を過ぎた業態であり、それゆえに閉店・倒産が続くとこれまで幾度も語られてきた。その典型は、家庭用テレビゲームが登場したから、わざわざゲームセンターに行かなくとも遊ぶことができるというものだった。
新しいメディアが登場したから、古いメディアが淘汰されたというのは、説明としてはわかりやすいが、事態はそう単純ではない。たとえば、家庭用テレビゲームなどを含むゲーム産業の国内市場規模を見てみると、現在、そのトップはスマホゲームに譲っているものの、ゲームセンターは圧倒的なシェアを誇ってきた。この辺りは、以前、別のところに書いたので詳細を割愛するが、一言でいうならば店舗数の減少はほとんど小規模店舗であり、大型店舗は数を伸ばしてきたということだ。
■ゲーセンは「環境」に左右される商売
ゲームセンターは、そのときどきの政治、経済の動きに連動して形を変えてきた。店舗数の減少は、端的に言って商店街の衰退と商業形態の変化に連動しており、ゲームセンター業界やオペレーターの創意工夫や努力は重要であるものの、それ以上に環境に左右されることを見落としてはならない。
大きな商店街を有する都内某所のゲームセンターで働く松原康太さん(31歳)は、ゲームセンターを「大声で遊んだりして、賑わう場所」だという。しかし、コロナ禍において声を出すことも憚られ、多少の咳でも「喘息気味で」と周囲に気遣う状況は、本来のゲームセンターの魅力を損なわせた。
ウイルスの飛沫を防ぐため、客にマスクの着用を呼びかけ、持参していない人にはマスクを配布、筐体(ゲーム機)の間をパーティションで区切り、消毒作業を続けたものの、店だけでなく商店街から客足は遠のいていった。
■電子マネーは小規模店舗の活路になり得る
現在、松原さんの働く店舗では、平日1時間4000円のフリープレイ(筐体の時間貸し)や音楽ゲームの配信台サービス(注)を行うなどして、少しずつ客足を取り戻しつつある。とりわけ、鉄道のガード下に独自のコンセプトで店を集め、客の流れが大きく変化したことは明るい材料だった。
(注)配信台とは、インターネットで同を流すためのカメラやパソコンなどの機材を取り付けた筐体を指す。
寂れ気味だったストリートに活気が戻り、ゲームセンターも賑わうようになった。経営も上向きに転じているという。それでも、パンデミック宣言前のレベルまで回復しているわけではない。リモートワークの増加によってか、会社員の姿がかつてほど見られなくなったと感じている。
松原さんの働く店舗は、麻雀、格闘、音楽ゲームといったビデオゲームを中心とした昔ながらの小規模店舗である。プライズゲームもメダルゲームもプリクラもない。ワンプレイ100円では利益率が低いままだが、電子マネーを導入することで1回120~130円に設定することが可能となった。
コナミの音楽ゲームの場合、ワンコイン(100円)を投入した場合では3曲だが、電子マネーでは4曲遊べるなど幅を持たせることで現金のみの客にも対応する。大型のチェーン店ではすでに10年近く前から導入が進む電子マネーだが、小規模店舗にとっても活路になるのではないかと松原さんは考える。
■ゲーセンは「大型化」している
アミューズメント業界の行末を分析するためには、今後の経過を検討しなければならないが、ここでは日本アミューズメント産業協会の『アミューズメント産業界の実態調査』(最新データは2021年まで)から読み取ることができる、直近の変化をいくつか取り上げてみよう。結論を言うと、ゲームセンターの小型店と大型店の二極が増加している(図表3)。
まず、現在も大型店舗(ゲーム機設置台数201台以上)の数は伸びている(111軒増)のだが、101~200台規模の大型店舗の数は減少し(468軒減)、両者を合わせた大型店舗数は減少傾向を見せている。これは少なくとも現時点では、よりゲームセンターの大型化が進んでいることを示しているといえる。
次に、小型店舗も増加していることが特徴として挙げられる。しかも、増加しているのは小型店舗(ゲーム機設置台数20台以下と21~50台)のうち、20台以下の店舗(569軒増)だけである。場所を取らないカプセルトイ(ガチャガチャ)の売上が伸びている(約6億円増)こととも関係していると思われる。
■小規模店の閉店は「衰退」か「発展」か
巷では閉店ばかりが強調されがちだが、国内においてゲームセンターの開店は続いており、GIGOやタイトーなど海外展開も進んでいる。アメリカではコロナ禍以後、レストラン、バー、ナイトクラブにスポーツやゲームを統合した「イーターテインメント(eatertainment)が急成長。日本ショッピングセンター協会の『SC白書』によると、eスポーツやゲームセンターも提供するデイブ&バスターズは42州に160店舗以上展開している。
もっとも、海外のゲームセンターの多くがファミリー向けとなっており、ビデオゲームを中心とした日本のゲームセンターとは異なる印象だ。私がアメリカで観察した限りでは、青年・大人たちも楽しんでいたが、カップルや友人同士で連れ合って楽しむ場所に感じられた。そこでは、ビデオゲームでハイスコアを狙い、相手と競り合うようなヒリヒリした空気を感じられない。
ひるがえって日本では、2021年までのデータにおいて、売り上げを伸ばしているのは景品提供機(クレーンゲームなど)であり、ビデオゲーム(シューティング、アクションなど)の売り上げは下がっている。
コロナウイルスに関係した規制が解かれ、人びとが求めたのは対面での遊び、競争だった。ゲームセンターを舞台に業務用ゲーム機を用いたeスポーツの大会、プロチームも誕生している。その意味で日本のゲームセンターは、まだまだ終わらない。もし、「ゲームセンター」が終わったのだとしたら、それは店舗の数ではなく、巧みな技を見せ合ったアツい時代が消え去ったときであろう。
今後、ゲームセンターはこれまで同様、時代の変化とともにその形を変えていくだろう。それを衰退と見るか、発展と見るか、単なるノスタルジーを超えて分析する視点が必要となる。
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敬和学園大学教授
1972年、神奈川県生まれ。東京経済大学大学院コミュニケーション学研究科博士課程修了。専門は社会学、コミュニケーション論。おもな著書に『ゲームセンター文化論 メディア社会のコミュニケーション』(新泉社)、『〈オトコの育児〉の社会学 家族をめぐる喜びととまどい』(共著、ミネルヴァ書房、2016年)、『新版 コミュニケーション・スタディーズ』(共著、世界思想社、2021年)などがある。
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