「変化を嫌う、職場の老害」が生まれるワケ。仕事が“10倍効率化”しても不機嫌に | ニコニコニュース
仕事をしていれば、会社の仕組みや働き方について「こうすればもっと早いんじゃないか?」と感じる機会は少なくないはず。もちろん理由があって仕組みが成り立っていることもあるが、たいていは「昔からこうだった」という言葉で片付けられるものだ。
そして古い仕組みを効率的に変えようとした時、「別に変えなくていいよ」と言われた経験のある人も少なくないだろう。
この現象について昨年8月、「驚かれるかもしれませんが、今やっている方法よりも効率的な進め方を提案した場合、感謝されると思いきや不機嫌にされることは意外に多いです」と語ったツイートが、現在(2023年3月)までに2.6万件を超えるいいね!がつくなど、多くの共感を呼んでいる。
ツイート主は業務改善サービスなどを提供する株式会社リビカル代表の元山文菜氏(@ayana_motoyama)。業務コンサルタントである元山氏に、ツイートの真意や効率的なやり方に反対する人の心理などついてインタビューをおこなった。
◆1日がかりだった「仕事」が5分程度に短縮
――今回話題になったツイートは、どういった経緯で発信したものだったのでしょうか。
元山文菜(以下、元山):業務コンサルという仕事をするなかで、アナログの作業をデジタルに置き換えるデジタルシフトや、単純作業をロボットに任せるRPAなどを提案することは多いんです。もちろん提案するからには、時間効率とコストをきちんと勘案したうえです。
人によっては「一日がかりだった仕事が5分程度で終わるようになった」ということもあるため、会社にとっても担当にとっても嬉しいことのはずなんですが、それでも仕事を進めていくなかで、時に「今まで通りのやり方がいい」という声をいただくことがあります。理屈で考えたら、反対する理由はないはずなので、同じ問題にぶつかっている方は多いだろうと思います。
◆生き残っていくのに変化は必要
――たしかに同じような場面を目にしたことはあります。
元山:人は変化を恐れる生き物です。業界の動向を見ている我々からすれば、現状維持のほうが怖く見えてしまうくらいなのですが……。ともあれ、社会の変化にあわせて、仕事のやり方もどんどん変えていく必要があります。たとえるなら「川で洗濯をする方を否定はしませんが、洗濯機を使っても良いんじゃない。乾燥機つきもありますよ」と言いたいのです。これまでのやり方でも仕事はこなせるけど、より効率的な仕事方法があれば切り替えてもいいはずです。
従来のやり方を否定する意図はないんですが、さらにプラスアルファの価値を生む体制が作れないと時代から取り残されていきます。「川まで行って、洗濯板で時間をかけて汚れを落とす」から「洗濯機のボタンを押す」へと仕事を切り替えて、空いた時間で価値ある仕事を自ら作っていくのは、生き残っていくために必要な変化だとお伝えしています。
◆契約書の電子化NG…非効率的な仕事が続くワケ
――業務効率化の提案をした際の反対意見としては、どのようなものが多いでしょうか。
元山:ある現場では、議事録や契約業務の書類作業に忙殺されている人がいました。契約書を紙で印刷して校正し、契印の押す位置を整えるための工夫をしているために契約作業が膨れ上がってしまったというようです。そこで「重要な契約はともかく、簡単な契約であれば電子化してみては」と提案してみたところ、担当者からお叱りをいただくことに。「契約書は大切なものだから、手を抜いたらダメ」ということでした。
ほかには、Excel作業で時間を使っている人にピボットテーブルの使い方を教えようとしたら「そういうことじゃない」とピシャリ。ピボットテーブルを使うことで問題が出るわけではないようでしたが、効率化することに抵抗感があるようでした。作業を効率化できる手段があっても頑張って手入力している状態を変えたくないというのは、不思議な話ですがよくあるパターンのひとつです。
弊社でも同じようなことが起きた経験があります。請求業務をおこなう際、経理上必要のない「明細書」を発行していたことが判明。領収書などの必要な書類とは別にほとんどの支払いに対して作っていたため、とても忙しそうでした。そこで「いらないんじゃない?」と提案したところ、「そういうものなので」という回答が。仕事の引き継ぎで教えてもらった業務だから、とまったく「不要な業務」と思っていないようでした。
◆仕事が10分の1になると困る人?
――なぜ非効率的な仕事を守ろうとする方がいるのでしょうか。
元山:先にもお話しした通り、人間は変化が苦手です。心理的ホメオスタシスと言いますが、私たちには本能的に「現状を維持したい」「変わりたくない」という感情が備わっているのです。だからこそ、その人の抱える「怯え」をくすぐってしまうと人は変化を制御するために一気に抵抗勢力化します。
――「怯えをくすぐる」とはどういうことでしょう。
元山:「自分が必要とされなくなるのでは」「自分の影響力が薄れるのでは」といったようなその人にとっての不安をくすぐる心情をイメージしています。たとえば長時間の残業をしていた人が働き方改革で残業が禁止された場合、「頑張っている」と周りに認められる手段がひとつ、失われたとも言えますよね。
同じように、業務改善の結果「あいつがいなきゃダメな仕事」が「誰でもできる仕事」に変わるかもしれません。そうした時、仕事を担当していた当人が「必要とされなくなってしまうかも」と考えて反対するのではないでしょうか。事実として、「あの人に聞かなれば仕事が進まない」とチームに必要とされてきた生き字引のような方こそ、業務改善に懐疑的な目を向けるパターンは多い印象です。
また、従来の仕事量が10分の1になったら「新しい仕事を覚えなければならない」状態に。新しいことを覚えるのは大変なので、「大変だけど今のままでいい」という人が出てくるのだと思っています。会社のためにも自分のためにも、将来的には良くないことだと思うんですけどね。
現状維持というと聞こえは良いですが状態としては立ち止まっているにすぎません。これだけ時代の流れが速く周りが進んでいるのに、変化を拒むということは取り残されてしまうことにつながります。
◆業務改善に大事なのは“伝え方”
――そうした反対がある中で、業務改善に踏み切るためのコツなどはありますか。
元山:我々は経営者の承認を得て業務改善に入っているため、ほとんどの場合は最終的に受け入れていただけます。だからこそ、まずは経営層(リーダー)の覚悟が必要です。そのうえで現場で業務改善を進めていくには、「なぜ変わらなければいけないのか?」を相手にあわせて伝えることが大切です。
業務改善に反対して、現状を維持しようと変化に抵抗するのは、今よりも期待値の高い選択肢を知らないからの場合も多いです。そこで、「業務改善で損をする」という発想から「業務改善したほうが得である」に発想を転換してもらう必要があります。つまり、「今よりもよくなるはずだ」「変化しないことのほうがリスクだ」と思えるような情報を収集して伝えます。
「あなたの経験をいかして〇〇の仕事を任せたい」「そのために残業時間を減らして、自己研鑽に充ててほしい」のようなイメージです。「自分の居場所が失われる」というぼんやりした不安がある場合、プラスアルファを身につけ、その人にだからこそ頼みたい仕事があると伝えることで前向きに考えてもらいやすいです。
また、多様な視点や経験をして視野を広げてもらうのもひとつです。たとえば、同じ業界の他社の働き方を見学に行ったり、セミナーを聞くなどでも良いかもしれません。「競合他社が新しいシステムで効率化を進めている」「このままでは業績に影響が出る」など、現状維持で発生する不利益を感じてもらいます。
◆ゴール目線で仕事の肥大化を防ぐ
――逆に、必要のない仕事を生まないためにはなにをすべきですか?
元山:現代は大量生産・大量消費の製造業を中心とした「モノ」が中心の工業社会ではありません。サービスや体験を売るなどの知識社会に変化しています。社会が変わり、ビジネスの中心が変化すると、求められる仕事のやり方も変わっていきます。今まで「仕事」とは「与えられたことを正しく遂行する」ことでした。
それが「与えらえた仕事を正しく遂行し、よりよく改善する」ことが求めれるようになり「よりよく改善しながら、新しく創造すること」になっています。「与えられた仕事を正しく遂行する」のはロボットのほうが得意なのです。私たちは、もっとクリエイティブに考える力が必要。そのためには、多様なな知識や経験を身につけなくてはなりません。
ゴール目線で物事を考え、「この仕事は誰のために、なんのためにやっているんだろう」を常に考えれば仕事の肥大化は防げます。そのうえで「今よりもっと良いやり方がある」と気づいた時には先輩や上司に伝える勇気を持ってほしいです。
◆自分の半径5メートルから変えていく
元山:若い世代の方から「今までのやり方を否定したら生意気と思われてしまうかもしれない」と相談を受けますが、新しいやり方に気づいていないだけのこともあります。
私自身40歳を過ぎて思いますが「こんなやり方をしたいです」と提案されて「生意気だな」と思うことはほとんどありません。それでも、抵抗されてしまう場合には大きく改善しようとせず、自分の半径5メートルから変えていくイメージを持ってください。
いつものExcel表に少し関数を入れてみたり、申請書のフォーマットを少し変えてみたり……そんなふうに個人としてのスキルを上げて転職していった方もいます。ゴール目線で正しいことをしていれば、きっと大丈夫です! 変化を楽しんで、一緒に業務改善を進めていければと思います。
<取材・文/木村義孝>
【元山文菜】
株式会社リビカル代表取締役。業務コンサルタント。大学卒業後、株式会社サクラクレパスに入社。その後、富士通株式会社に転職。2017年に独立し、現在の株式会社リビカルを設立。個人や企業にとっての「価値ある時間の創出」「経営資源の拡大」を支援。共著に『業務改善の問題地図』(沢渡あまね、技術評論社)がある
【木村義孝】
副業フリーライターとして2年活動したあと独立。子育ての苦労と楽しさを噛みしめつつ、マンガ趣味の影響で始めた料理にも全力投球している。クルマを走らせながら一人でカラオケするのが休日の楽しみ