月給43万円、退職金2,100万円の国家公務員〈生涯安泰〉を信じた結果…定年後に「ゆとりがない」の悲惨【FPが解説】 | ニコニコニュース
例年、なりたい職業ランキングで上位にランクインする「公務員」。給与や待遇面から「安定」のイメージが強いですが、FP Office株式会社の髙屋亮FPは「先々まで考えたとき、必ずしも安泰とはいえない」と警告します。それはなぜか、詳しくみていきましょう。
「生涯安泰」のイメージが強い公務員だが…
日本には、内閣府、総務省、法務省、外務省、財務省、文部科学省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省、環境省、防衛省、デジタル庁、復興庁という1府11省2庁の行政機関※が存在します。
中央の府省の他、多くは全国各地の地方支分部局などの出先機関等で働いています。国家公務員採用試験という狭き門を通過したエリートたちです。
しかし、先々まで見た時、公務員は「必ずしも安泰」とはいえないかもしれません。今回は人事院『令和2年退職公務員生活状況調査』をもとに、実際に勤め上げた先輩の声から実状を読み取っていきます。
人事院の調査結果からみえた、公務員の「油断」
人事院は令和2年8月末から10月にかけて、国家公務員の高齢期雇用の在り方や職員の生涯設計に関する施策を検討するため、令和元年度の一般職国家公務員の60歳定年退職者を対象として、「退職公務員生活状況調査」を実施しました(有効回答率78.9%)。
調査結果として、主なポイントは以下の5点です。
① 約9割が定年後も働きたい
② 何歳まで就労希望かについては「65歳まで」が最多、次いで「働けるまで」
③ 定年後の9割が就業しており、就労先の8割は「国の機関の再任用職員」
④ 民間企業で働く人はフルタイムが9割だが、再任用の場合は約5割
⑤ 今後の不安は「自分の健康」、次いで「家族の健康・介護」が約7割
まず、①・②から見ていきましょう。9割が定年後も働きたい、できれば働けるまでという人が多い。これは何を表しているのでしょうか。
『生涯設計について考えるようになった時期はいつか』というアンケートでは、「50代後半」と答えた人が50%と最多です。定年直前まで特段不安がなく、あと数年と差し迫った事態になってようやく考え始めた人が多いことが見て取れます。
続く『定年後の生活や生涯設計について利用したものは』の問いには「先輩からの話」が最多の42%、次いで「再任用制度に関するパンフレット等」が37%です。③の通り、身近な再任用の体験者の先輩に聞き、再任用制度に関心を持った人が多いことが推察されます。
そして、『定年前にもっと知っておけばよかったと思うこと』は「年金・保険に関する情報」が54%、次いで「資産運用に関する情報」が35%、「税金・相続に関する情報」が30%です。これは、定年後の72%が就く国の再任用職のなかで、金銭面での不安を感じ始めているとみることができるでしょう。こうしたなか、定年後しばらくして「やばい、お金がない。でも対策が分からない……」という悲惨な状況に陥っている人が、少なからずいると予想されます。
④では「再任用先でフルタイムの人は5割」。これは定年退職で一区切りつき、自ら仕事量を減らしたいと思った人が多いようですが、その反面で定年時から一気に半減した収入にお金の心配を抱き始めた……と推察されます。
退職後の家計に関するアンケートでは、「ゆとりはないが赤字でもない」が最多のため、収入減に対して今後退職金をどう使うべきなのか。病気で治療費が大幅にかかったらどうするのか。その時に持つべき生命保険は……と、続いていることが回答から浮かび上がってきます。
月給43万円、退職金2,142万円でも「ゆとりがない」という現実
人事院『令和2年退職公務員生活状況調査』では、定年後の生活で「ゆとりがない」と回答したのは、独身者で37.0%、夫婦二人世帯で38.0%でした。国家公務員はエリートと言われる職のひとつですが、それでも3人に1人が「生活にゆとりがない」という状況です。
人事院『令和3年国家公務員給与等実態調査』によると、国家公務員(行政事務)の平均給与は月43万2,622円(平均年齢42.6歳)。また令和3年12月の12月期期末・勤勉手当の平均65万1,600円ということから考えると、平均年収はおよそ650万〜700万円程度です。
また内閣官房『国家公務員退職手当実態調査』によると、国家公務員の定年退職による退職金は平均2,142万1,000円。「老後2,000万円問題」などありましたが、実際は2000万円÷30年(65歳~95歳とした場合)=月5.5万円で、むしろ年金の上乗せとしては少ないくらいでしょう。計画的な老後への備えがないと預金が枯渇しかねません。
65歳定年延長で「国家公務員」の給与や退職金は?
2023年から、大きく変わる国家公務員の60歳以降の働き方。人事院の資料では「60歳に達した職員の給与例」が記され、定年延長後の給料は延長前の7割になり、60歳前の俸給・職務級が引き継がれて諸手当も出るとしています。ば59歳で月給50万円のキャリアは、60歳に達した日後の最初の4月1日にその7割の35万円になります。
退職金については60歳以降、定年前に退職した職員が不利にならないよう、当分は退職事由を「定年退職」として算定。また60歳定年になるまでの期間と定年延長の期間(定年延長前給与の70%になった後)を分けて計算する「ピーク時特例」が、当分の間は適用されます。
これからの世代は65歳まで働くことになりますが、それで終えず65~70歳まで年金を繰り下げて支給額を増やす、余裕資産を安定資産で運用する等のリタイアメントプランも重要でしょう。
冒頭の「退職公務員生活状況調査」では、『生涯設計について考えるようになった時期』についておよそ半数の人が「50代」と回答しているとおり、安定のイメージが強い公務員は、早いうちから老後の生活について考える人が少なく、その結果、定年後に「もっと早く知っておきたかった」と後悔している人が少なくありません。
50代になってから慌てて……ではなく、20代、30代のうちからシミュレーションを立ててみることを推奨します。
髙屋 亮