「家族同様のワンちゃんは手放せない…」能登半島地震で追い詰められる被災ペットたち | ニコニコニュース
「私たちには、子供みたいなもん。世話が大変とか面倒やとは、思わへん」
ペットとともに暮らしていた被災者たち
死者は88名、安否不明者は22名、ライフラインの途絶も数千戸にのぼり、いまなお多くの人が不便な暮らしを強いられている石川県輪島市のある避難所。その一角にはこんな看板が掲げてあった。
〈ペットつれている方〉
チュンチュンという鳥の声が聞こえ、生き物のにおいが漂うスペースでは、少なくない被災者がペットとともに暮らしていた。鳴き声のする先には、5羽のインコを愛おしそうに撫でる一組の夫婦がいた。40代の妻が語る。
「1日は自宅におったんよ。激しく揺れたから、慌ててインコをケージに入れて急いで家の外に飛び出した」
夫婦で手分けして愛鳥を抱え、ほうほうの体で家から這いずり出た。その日から避難所暮らしが始まったが、ふと冷静になると1羽姿が見えない。あまりの揺れで、我が子にも等しいインコ1羽とはぐれてしまっていた。
「地震が収まって家の様子を見に戻った時、その子の名前を呼んだら、家の中から飛んで出てきたよ」
家の倒壊は免れたが、瓦の大部分が屋根から滑り落ちた。地震の後に降った雨のため、自宅は水浸しになったという。インコのほかに魚もたくさん飼育していた。しかし、水槽を抱えて逃げることはできなかった。
「さすがに持ってくるのはあきらめた。死んでもうたわ。かわいそうに」
ペットとともに逃げてきた人は他にもいる。小鳥にとっては“天敵”のイヌやネコとの同居も余儀なくされている。
「トラブルなんかないね。みんな自分のペットをちゃんと世話してるし、お互い見守っている感じ」
「ネコは癒しだけど、ちょっと大変」
同じペット世帯スペースに、疲れた表情で座る17歳の高校生と14歳の中学生の姉妹がいた。足元のケージの中でネコがすやすやと寝ている。
「今日は夜中の3時にネコに起こされました。逃げて行っちゃうと困るから、ネコが起きている間は監視しないといけません」
連れてきたペットの面倒を見る分、ペットのいない被災者よりも負担がかかる。
「ネコには家に残ってたペットフードをあげてます。ネコは癒しだけど、ちょっと大変」
避難所の廊下で、5歳の息子と3歳の娘を遊ばせている30代の女性もネコを飼っていると話す。だが、その姿が見えない。
「夫が仕事に出かける時、ついでにネコを自宅に連れて行ってくれるんです。壁にひびがはいってぐちゃぐちゃになった我が家ですけど、ネコタワーは潰れずに済みました。ネコも慣れない生活でストレスがたまるので、日中はせめて気ままに遊んでてもらおうかと」
ペットたちもまた被災して家を追われた。人間同様、非常事態のただ中にあるが、意外なほど大人しく見えた。ペット世帯用の避難所を運営しているスタッフは「意外にもトラブルは起きていないようです」と語る。
記者が話を聞いてまわっている最中、潤んだ瞳でイヌがインコを見つめていた。飼い主の背中に止まったインコはその視線に気づいたのか、まるで互いを励ますように「くっ」と鳴いた。
東日本大震災では48頭、熊本地震では10頭の犬を保護したNPO法人「日本動物介護センター」理事長の山口常夫氏は、動物とともに避難生活を送ることの難しさを語る。
「災害直後は、『ペット連れの避難生活は難しいが、家族同様のワンちゃんは手放せない』と、車中や避難所でペットを世話する方が多い。ただ、ホテルや仮設住宅に移動する際にペットと一緒に住めなくなったり、また長引く避難生活でストレスがかかると、徐々にペットのことが重荷になる傾向が見られたりします」
「エサの買い出しのため、5時間並びました」
時に人命すら危ぶまれる極限状態で、ペットに気を配る余裕を持てるか――。残念ながら難しいのが現状だ。山口氏が地震後に訪れた穴水町役場の職員は「ペットのことは何もわかりません」と嘆いていたという。災害時、安心して動物を預けられるような施設や団体はほとんどない。ペットがケガを負ったり病気にかかったりしても、地域の獣医もまた被災している場合が多く、満足な治療を受けられるとは限らない。
ペットとともに過ごすことができる避難所の環境があるだけでもまだましかもしれない。倒壊した家屋や亀裂が入った道路を避けるようにしながらチワワを散歩させていた30代の女性が打ち明ける。
「ペットと避難所で生活できるとは聞きますが、なかなか踏み出しづらいのが本音です。今は知り合いのところに身を寄せていますが、いつまでそこにいられるかもわかりません。今日はエサの買い出しのため、ドラッグストアに5時間並びました」
救援物資も人間優先。食べ物や水も足りない中で、ペットの分まで要求するのは心理的ハードルも高い。女性は愛犬をそっと抱き上げ、肩身の狭さを嘆くのだった。
石川県で保健所に登録されているイヌは、4万7000頭を超える。未登録のイヌや、登録の必要のないネコやハムスターなど他の動物を考えると、被災したペットの数は計り知れない。
「ペットは死んでもニュースにはほとんどなりませんし、統計も取られません。今回の地震で、一体何頭の動物が犠牲になってしまったのでしょうか」(前出・山口氏)
ペットもまた厳しい新年を迎えている。