松本潤、西島秀俊etc.「大物俳優の独立」が止まらないワケ。背景に“稼げる交渉人”の増加も | ニコニコニュース
◆所属事務所を離れるのは“お金”のため?
俳優の独立が続く。今年に入ってから5月末までに「嵐」の松本潤(40) 、西島秀俊(53)、多部未華子(35)、黒木華(34)、田中哲司(58)らが、所属芸能事務所を離れた。
「独立はお金のため」とよく言われるが、大手芸能事務所幹部A氏は「それは芸能界の外側にいる人の見方。一線の俳優が独立する場合、お金が目的という人はごく少数。一線の俳優は既に稼いでおり、独立したからって収入が大きく増えるとは限りませんから」と言い切る。
お金のための独立が多いのは若い俳優だ。いくら稼ごうが給料を数十万円に抑えられているからである。
「そもそも個人事務所が増えた理由を考えるとき、大きなことが抜け落ちてしまっています」(A氏)
抜け落ちている大きなこととは、腕利きのエージェント(交渉人)の出現。米国では当たり前の仕事だが、日本では5年前程から徐々に増えてきたという。今は大手芸能事務所・田辺エージェンシーの元有力幹部らもエージェント業を行っている。エージェントはフリーで活動し、複数の俳優と契約する。そして、その俳優に向いた良い仕事を探す。ときには売り込む。話がまとまったら、本人と相談の上、今度はギャラなど諸条件の交渉をする。
「待っているだけで良い仕事が来るほど芸能界は簡単ではありません。ドラマ、映画の先々の制作情報すら得にくい。しかも金銭面などの交渉は経験を積んでいないと難しいです。腕の良いエージェントは、契約している俳優にとってプラスになる仕事を見つけ、しかも最良の条件を成立させます。優秀なエージェントが現れたから、俳優は独立しやすくなったといえるでしょう」(前同)
◆独立=収入アップとは限らない
また、やはり芸能界内にいないと分からないのが独立に伴うコスト。
「個人事務所を普通に運営すると、デスクと称する事務員、経理担当者、現場マネージャー、運転手が欠かせません。そのうえ事務所の家賃も掛かるから、ランニングコストが毎月200万円前後はかかる計算です」(前同)
コストがあるので、独立が収入の大幅アップに直結するとは限らないのだ。2020年に大手芸能事務所のオスカープロモーションから独立し、個人事務所「Desafio」を設立した米倉涼子(48)が、「(事務所の運営は)大変」と、ボヤいたのは芸能界ではよく知られた話だ。
それでも一線の俳優が独立するメリットは、「活動の自由度が飛躍的に高まること」(大手芸能事務所幹部B氏)という。
たとえば米倉の場合、独立前には出演歴のなかった配信有料動画の大型ドラマに立て続けに主演した。『新聞記者』(2022年、Netflix)と『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(2023年、Amazon Prime Video)である。
一方で前所属事務所の会長が企画者であるテレビ朝日の人気作『ドクターX〜外科医・大門未知子〜』には2021年の第7シリーズ以来、出演していない。
◆西島秀俊「ドラマより映画がやりたい」
今年5月いっぱいでクォーター・トーンを離れた西島秀俊の場合、「事務所の皆さんと共に歩んだ日々は、私にとってかけがえのない宝物」と声明し、独立理由には触れなかったものの、やはり自由度の拡大を求めたものと見られている。
西島はまず1997年に大手芸能事務所・渡辺プロダクションを離れた。退社のわけは「ドラマより映画がやりたいから」と伝えられた。同社時代の西島はフジテレビ『あすなろ白書』(1993年)など数々のドラマに出演していた。
このほど退社したクォーター・トーンに入ったのは2002年。同社は新興勢力であり、当初は西島の個人事務所に近かった。同社入り後の西島は2010年ごろまで映画を中心に活動した。
1999年の主演作『ニンゲン合格』(黒沢清監督) や2008年の同『東南角部屋二階の女』(池田千尋監督)などで評価を決定的にしたあと、2021年の同『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)によって第94回アカデミー賞の国際長編映画賞を得た。
しかし、徐々にドラマの仕事が増え、このところはかなり多い。TBS『ユニコーンに乗って』(2022年) 、テレ朝『警視庁アウトサイダー(2023年)、TBS『さよならマエストロ〜父と私のアパッシオナート〜』(3月終了)と、立て続けに出演している。
「もっと映画の仕事がしたいのではないか。事務所に所属していると、どうしても断れない仕事が出てくる」(B氏)
◆松本潤、STARTOにいることの長短
やはり5月いっぱいで独立した松本潤のケースも「金銭目的の独立とは考える人はいないでしょう」(前出のA氏)という。
「『嵐』はSTARTO ENTERTAINMENTとエージェント契約ですが、松本さんも同社に残ってエージェント契約を締結していたら、ギャラのうち7、8割が得られたのですから」(A氏)
松本は独立によって金銭とは違ったプラスがある。STARTO社勢の新規起用をストップしているNHK、テレビ東京の番組に出られる。
「両局の制限がいつ解除されるのか見通しが全く立っていない。松本さんの場合、STARTOにいると仕事の幅が狭まったままなので、独立したのでしょう」(A氏)
STARTOとの取引を停止しているスポンサーもある。TBS『日曜劇場』のスポンサー4社のうち、サントリー、花王、日本生命もそう。このため、松本は『日曜劇場』から声が掛かっているものの、STARTOを離れないと出演できないのだ。
同じ「嵐」の二宮和也(40)の場合、この7月からの『日曜劇場 ブラックペアン シーズン2』への主演を打診されていたため、昨年11月にスマイルアップ社(前身は旧ジャニーズ事務所)を退所した。松本は二宮に倣ったのだろう。
◆円満退社の多部未華子
多部未華子は3月末に約20年所属した大手芸能事務所・ヒラタインターナショナルを離れた。自由度が高まる。
4月25日に宝石関連のイベントに参加した際には独立後の抱負について「海外に住んでいる友達が多いので海外に行きたい」「ニューヨークで散歩をしたい」と語った。独立しないと難しかった。
また、自由度を高めたい背景には2019年に写真家の熊田貴樹と結婚したこと、2021年に第1子を出産したことも関係しているに違いない。
多部は円満退社だ。近年の一線俳優の独立はほとんどがそう。
「円満退社し、独立後も前所属事務所との関係は断たず、何かあったら相談に乗ってもらう。お互いに協力する。庇護も受ける。完全に個人でやる人は滅多にいない」(B氏)
◆大手の傘下に入るメリットとは
大手芸能事務所のアミューズを2022年に離れて独立した上野樹里(38)も同社と決別したわけではない。同社元幹部が興したDon-crewと業務提携している。
2021年にアミューズを離れた佐藤健(35)と神木隆之介(31)の所属するCo-LaVoもアミューズ元役員が代表を務め、同社から出資も受けている。系列会社なのである。
前所属事務所と決別する独立組もいるが、代わりに別の大手芸能事務所の傘下に入るケースが大半。理由はエージェントと契約する目的に近く、それが良い仕事をスムーズに得るのに役立つからだ。
黒木華は3月末に約13年所属したパパドゥを離れた。その際、 「心から感謝しております」と声明し、一方で同社側も応援のメッセージを出した。これで分かるとおり、トラブルに端を発した退所ではなく、やはり自由度の高まりを求めたものだろう。
黒木は2014年の映画『小さいおうち』(山田洋次監督)で第64回ベルリン映画祭の最優秀女優賞(銀熊賞)に輝いた。また、京都造形芸術大に在学中は学生演劇界の大スターだった。今後は映画と舞台への出演がより増えるのではないか。
やはり3月いっぱいで鈍牛倶楽部を退社した田中哲司は多数のドラマ出演で知られるが、実は舞台志向が以前から強い。退社直前の3月にも主演舞台『ボイラーマン』(東京・下北沢本多劇場)に立った。こちらは舞台が増えそうだ。
<文/高堀冬彦 写真/産経新聞社>
【高堀冬彦】
放送コラムニスト/ジャーナリスト 1964年生まれ。スポーツニッポン新聞の文化部専門委員(放送記者クラブ)、「サンデー毎日」編集次長などを経て2019年に独立。放送批評誌「GALAC」前編集委員