絶好調のマクドナルドよりすごい…北海道発「ラーメン山岡家」にハマる人がどんどん増えている納得の理由 | ニコニコニュース
■コロナ禍に既存店売上高と客数を伸ばし続けている
ラーメン店チェーンの「ラーメン山岡家」(株式会社丸千代山岡家)が好調です。コロナ禍で飲食店が苦しんだ20年、21年も売り上げを伸ばし、22年に入ってからはさらに売り上げを伸ばしています。
特に驚くのが23年1月期(22年2月~23年1月)の既存店売上高は前年同期比で119.3%、客数は116%と客数を増やして売り上げを伸ばしているのです。
19年比で見ても客数を2桁伸ばしており、飲食業界注目の会社と言えるでしょう。
飲食業界ではマクドナルドも好調ですが、ほぼ同時期の22年12月期(22年1月~12月)の既存店売上高は前年同期比で108.9%、客数は103%です。山岡家はマクドナルドを大きく超える実績をたたき出しているのです。
山岡家は一体どんな店づくりでお客を引き付けているのか。山岡家の店に行き、山岡家自慢のラーメンを食し、そこであらためて山岡家の逆張り経営とも呼べる戦略を目の当たりにすることになりました。
■なぜ3年で売り上げ高が1.5倍になったのか
まずは山岡家の業績推移を見てください。
伸び率は23年とコロナ禍前の19年との比較ですが、売り上げは145.6%です。営業利益も19年を26%上回り、コロナ前の実績比較では飲食業界でもトップクラスの伸びです。この実績をほぼ、ラーメン業態のみで作り上げている点が特筆すべきところです。
ではこの山岡家の高成長経営を支えるのはどんな戦略なのでしょうか。
■売り上げアップの理由は出店数の急増ではない
まず見ていきたいのが山岡家の出店戦略です。
出店は小売り・サービス業にとってもっとも優先度の高い戦略要素です。特にチェーン店にとっては店を増やす=店舗が増えて売り上げが上がり、食材コストなどの原価率が下がり、収益性が高まるというのが鉄則だからです。
山岡家もコロナ禍でたくさんの店舗を出店して、売り上げを伸ばしているのだろうと想像しました。しかし出店数を時系列で見て私は驚きました。店舗の出店ペースがとても遅いスローな出店戦略なのです。
山岡家の出店数は06年1月期に67店舗でしたが、12年には137店舗と6年間で倍増させた時期があります。しかし売り上げは1.7倍までしか伸びず、数年間の停滞期間を経験します。
ここから山岡家は出店政策を見直し、本当に最適な立地にゆっくりと出店していくスロー経営に転じます。すると驚くことに、10年後の22年には店舗数は169店舗と23%しか伸びていないのですが、売り上げは70%増です。12年に1店舗あたり6000万円程度だった売り上げは23年1月期では8900万円まで伸びています。
山岡家は一般的な飲食店のように大量出店して売り上げを伸ばすのではなく、1店舗ごとの個店に磨きをかけて売り上げを伸ばす戦略を強化したのです。これは注目に値する取り組みです。
■人がいるところに店は出さない戦略
山岡家はその出店立地にも特徴があります。
最大の特徴は、東京にはほとんど出店せず、地方郊外を選んでいることです。ですから都心の会社に毎日電車で通っている人は山岡家の存在をまったく知らないと思います。
山岡家はれっきとしたラーメンチェーン店です。一般的に売り上げを上げたいと考えたら、人口の多い立地に店を出していくものです。
しかし山岡家は人のいない地方の郊外ロードサイド立地に出店をしています。それでも1店舗あたりの売り上げを上げ続けているのです。
私が訪ねたのは、東京都唯一の店舗である瑞穂町の新青梅街道沿いの山岡家です。新青梅街道は東京の都心部と多摩地域とを東西に結ぶ主要な幹線道路で、物流関係の大型トラックがひっきりなしに通行します。この立地戦略こそが山岡家逆張り経営の極みであり、最大の独自性です。
■ラーメンを食べるとシャワーが無料
① 400メートル手前からでもわかる看板
山岡家の特徴は、とにかく看板が目立つということです。これは郊外型店舗がもっとも力を入れなければならない点です。山岡家の看板には他社よりもひときわ大きな文字サイズで「ラーメン山岡家」と書かれています。
さらにポール看板が必ずついているので、400メートルほど遠くからでも座席位置が高いトラックドライバーの目に必ず入るようになっています。
② 大型トラック用の駐車場とシャワー室
山岡家のメインターゲットはトラックドライバーです。ですから駐車場を広くとり、大型トラックが10台以上駐車可能なスペースを確保している店が多いのです。
山岡家ではシャワー室を完備している店もあります。私が確認できた店では北海道の苫小牧船見店、埼玉の羽生店など13店舗ほどが設置しています。
店内で飲食すればシャワーを無料で使えます。24時間営業店がほとんどですから、トラックドライバーにとってはまさに聖地。
工場や倉庫などから別の事業所や店舗などに定期的に物を運ぶことが多くなります。同じルートを一定の周期で通ることも多い。決まったルート沿いに、いつでも休める店があれば固定客になりやすいわけです。山岡家はそこを狙っているのです。
郊外立地に出店することは経営メリットも非常に大きくなります。特に家賃。小売り・サービス業にとって家賃を抑えることは一番の収益性アップ要因。広い面積を借りても、都心で商売することを考えたらかなりの低家賃で済みます。
■24時間営業をやめない理由
ラーメンチェーンを主業態にしている幸楽苑と一風堂(力の源HD)で比較すると、山岡家の安定した収益性がよく分かります。
21年は飲食業界はコロナ禍で休業を余儀なくされ、大打撃を受けました。しかしその21年にも山岡家は利益を出しています。
多くの飲食店が24時間営業をやめるなど時短の決断をした中でも、24時間営業を続けているというのも結果的には売り上げを安定させる一因になっているでしょう。
コロナ禍以降、ファミレスなどでは24時間営業をとりやめる店も増えました。しかし山岡家はトラックドライバーの聖地ですから、24時間営業をやめることはしません。24時間営業は必須なのです。山岡家の営業スタイルは今の世の中のエッセンシャルワーカーの支えにもなっていると言えます。
■浮いたお金は人に投資
では山岡家の経費はどうなっているのでしょうか。
販管費率は22年度で71.5%です。とても低いわけではありませんが、利益を出すには十分な販管費に抑えています。理由は地代家賃の安さ。売り上げ比で5.6%です。幸楽苑はその倍以上の12.7%の地代家賃です。店舗出店やリニューアルも絞りに絞って出していますので減価償却も抑えられています。
広告宣伝費も1%以下でほとんどかかっていないレベルです。一方で人件費には投資しており売り上げ構成比で37.3%、労働分配率(粗利に占める人件費割合)は50.7%です。幸楽苑の人件費率は山岡家と同程度ですが、分配率は48.5%。
つまり山岡家の経営は、人に投資をしてそれ以外の経費をできるだけ抑えることで、一定以上の利益を出す経営体を作っているということです。
■実際に食べたラーメンの味は?
では、その従業員たちはどのように働いているのか。
瑞穂町の店内で昼間働いていたスタッフは全員女性でした。20~30代の女性5名で厨房とホールをまわしていました。1組当たり40分前後の滞留時間でどんどん回転していきます。
およそ30席・60人程度入る店で、駐車場は満杯。行列はしていませんでしたが常にお客さんが入れ替わっている状況が続いていました。しかも100%男性客。ブルーカラー系の客層で、ほぼ常連さん。75%のお客がリピーター(山岡家調べ)というのも納得できました。
同店では麺を茹でる時間は7分間と決められています。ここにも同店の作りたいラーメンの品質へのこだわりが見られます。都心であれば時間を気にするお客さんが多く、待っていられないということもあります。
これも、都心ほど時短を気にする人がいない郊外立地にこだわっている理由かもしれません。
私は山岡家定番の味噌ネギラーメン(税込み810円)と特製ギョーザ(税込み340円)をいただきましたが、山岡家特有のすこし濃い目ですが飲みやすいスープと、たっぷりのネギとこだわりチャーシューの味わいに加えて、おなじみパリパリ餃子を楽しみました。山岡家のこの2品さえあれば、一日何も食べなくてもいいくらい満足度の高い逸品です。
■セントラルキッチンは導入しない
山岡家の理念は「ラーメンでお客様に喜んで貰う」というものです。
通常、多くの飲食チェーンではセントラルキッチンで主要な食材の下準備や調理を済ませ、店舗に配送することでオペレーションコストを下げ、効率的に収益を上げようとするものです。
これに対して山岡家では麺は共通ですが、ラーメンの味の核となるスープ、チャーシュー、野菜類のカットはすべて各店の店内調理です。
スープは水と豚骨を丸3日煮込んで作ります。山岡家らしい味が出ているかどうか、山岡家の創業者である山岡正会長は実際に車で全店をまわりチェックし続けていると言いますから、そのスープに対するこだわりは並々ならぬものがあると言っていいでしょう。
新規出店はスープづくりを任せられる店長が育つことを目安にしているそうです。出店スピードがゆっくりなのは、納得のいかないラーメンを絶対にお客に提供しないという山岡家の理念に沿っているからなのです。
本当においしい山岡家ならではのスープを作れるようになる人材を育てるには、年間7~10店舗が出店の限界なのです。
■コロナ明けでも絶好調
直近の山岡家を同業他社と比べてみましょう。
飲食店の客数回復が目立ってきた22年から23年1月期の山岡家最新決算期の年間数値は驚くほどの伸び率です。幸楽苑、一風堂も伸びていますが、売上高、客数共に年間通して20%以上の伸びです。
しかも22年5月以降は売り上げ、客数共に毎月2桁伸びています。業界トップクラスの伸び率です。しかもこの1年で閉店は1店舗しかありません。それも実質は移転のため閉店していますので、実質閉店はゼロ。
幸楽苑は59店舗減少、一風堂は国内・海外合わせて13店舗減少という中では素晴らしい数字です。
チェーン店でありながら、1店舗1店舗の店舗力を磨き、職人をじっくりと育て、自信をもてる味でゆっくりと店を出していく。新たなチェーン店のあり方を示しているように思います。
これからは単に規模の成長を追いかける時代ではありません。人口減少も始まっているわけですから、企業も新しい時代の成長のさせ方を考えるべき時にきています。
山岡家はそんな脱成長時代にきちんと伸びていくモデル企業なのです。
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経営コンサルタント
1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、ムガマエ株式会社を創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングを得意とする。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。
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