動脈硬化を引き起こし毎年50万人超が死亡…健康管理の専門家が「絶対に口にしてはいけない」と話す食品
■最悪の場合は死に至る「超加工食品」とは
現代の食環境が有害化した経緯を理解しようとする私たちの探究は、デイヴィッドが2015年にブラジルから受け取ったメールをきっかけに、重要な一歩を踏み出した。メールの差出人は公衆衛生栄養学の第一人者、サンパウロ大学のカルロス・モンテイロ教授。
カルロスは、人間とペットの摂食パターンに関する私たちの論文を読み、彼の研究に関連があることに気づいて連絡をくれたのだった。カルロスはさまざまな種類の食品と肥満との関係を、世界中で調べている。まずブラジル、それからアメリカやそのほか多くの国で実施された彼の研究は、明確なパターンを明らかにした。「超加工食品」と呼ばれる分類の食品の摂取量が増えると、肥満が増えるのだ。
そして肥満が増えるほど、糖尿病や心疾患、脳卒中、特定の種類のがん、早死が増えるのは周知のとおりである。人間の健康にこれほどの悪影響をおよぼしている、超加工食品とはいったい何だろう?
超加工食品が、ほかの種類の加工食品とどう違うのかを理解する必要がある。加工食品の多くはなんの危険性もなく、むしろ健康によいものさえある。ここで、カルロスと研究仲間の出番となる。カルロスらは食品を加工のレベルに応じて分類し、健康を脅かす加工食品を特定するためのシステムを開発した。この方式は、「NOVAシステム」と呼ばれる。
■安全な加工食品
NOVAシステムは、食品を加工の性質によって4つに分類した。
■グループ1:食品の長期保存、簡易調理のための加工
その1つ目、NOVAグループ1は、非加工食品と、組成をほとんど変化させない単純な方法――乾燥、粉砕、焙煎、煮沸、低温殺菌、非食用部分の除去、真空パックなど――で加工された食品である。
グループ1の加工の主な目的は、保存性を高めて食品の寿命を延ばすことや、調理を簡易化することにある。この分類の食品の例には、低温殺菌牛乳、粉乳、冷凍・缶詰野菜、無塩のローストナッツ、乾燥豆などがある。
■グループ2:下ごしらえ、風味づけのための加工
NOVAグループ2は、グループ1のようなホールフードを含まず、食品の下ごしらえや調理、風味づけに使われる食材である。バターやオイルなどの油脂類、メープルシロップなどの砂糖および関連製品、塩などがこれに含まれる。
これらの食材は、主に精製、抽出、圧搾、また塩の場合は採取、蒸発などの機械的加工によって製造される。
■グループ3:缶詰、瓶詰
NOVAグループ3は、加工食品だが「超」のラベルには相当しない。これらは瓶詰や缶詰、場合によっては発酵などの保存技術を用いて、グループ1の非加工・最小加工食品に、グループ2の食材(脂肪、糖、塩)を加えて製造される。
グループ3の加工の主な目的は、グループ1の食品の品質保持期間を延ばし、嗜好性(おいしさ)を高めることにある。このグループの食品の例には、缶詰・瓶詰の豆や野菜、果物、缶詰の魚、塩または砂糖で味つけされたナッツ、塩漬け肉・乾燥肉・燻製肉、伝統的な製法でつくられた新鮮なチーズやパンなどがある。
■超加工食品=工業製品
工業的製法で広範な加工が行われているため、ときには食品と見なされず、「超加工製品」と呼ばれることさえある食品だ。ペンキやシャンプーと同じ工業製品だが、消費者の装飾的な美学や衛生観念にではなく、味覚に訴えるよう設計されている。
一般に超加工食品の製造は、大規模な機械によってホールフードをデンプン、糖、脂肪、油、タンパク質、食物繊維などの成分に分解するところから始まる。主な原材料は、工業生産された高収量作物(トウモロコシ、大豆、小麦、サトウキビ、テンサイなど)や、集約的に生産された畜肉の挽肉やすり身である。
続いて加水分解(化学分解の一形態)や水素化(水素原子の付加)などの化学的修飾を施されてから、ほかの物質と組み合わされることもある。
またその過程で、さらに工業加工(前揚げ、押し出し、成形など)されたり、また品質保持期間を延ばし、食感や風味、匂い、外観を変えるために、化学添加物を配合されることもある。こうした添加物の多くが農産物由来ではなく、石油などの産業に由来する化学物質である。
■「アイスクリーム」と「原油」の共通点
そんな馬鹿な、とあなたは思うかもしれないが、本当の話だ。たとえば一般的な超加工食品の1つ「アイスクリーム」を考えてみよう。
世界石油大手のBPが発行する雑誌の2016年8月17日号に、こんな文章で始まる記事が載っている。
「アイスクリーム、チョコレート、ペンキ、シャンプー、原油の共通点は何だろう?
答え:それらを支える科学である」
この記事によると、ケンブリッジ大学BP混相流研究所の研究チームが、石油生産から、ペンキ、シャンプー、チョコレート(これも超加工食品の一種だ)、アイスクリームなどの多くの製造工程に共通する問題の解決に取り組んでいるという。
科学という見地からいえば、科学者が分野を超えて大きな問題について考えるのはよいことだ。とはいえ、石油とシャンプー、ペンキ、超加工食品産業の共通の関心とは、人間の食事をよくすることではなく、製品をより効率的に製造したり、消費者への訴求を高めたりすることにある。
またこれらの産業は、ただ問題や関心を共有するだけでなく、製造上の問題を解決するために用いられる原料や工程までもが共通していることが多い。
■市販のアイスのヤバい原材料
たとえばアイスクリームは、クリームと砂糖、果物などのフレーバーだけを使って、家庭でつくることができる。では大量生産された市販のアイスクリームの製造に一般的に使用される原材料を見てみよう。
石けんや合成洗剤、合成樹脂、香水にも使われる「酢酸ベンジル」。染料やプラスチック、ゴムにも使われる「C-17アルデヒド」。燃料ガスのブタン由来で、医薬品や殺虫剤、香水にも用いられる「ブチルアルデヒド」。ひと昔前、病院でアタマジラミの駆除に使われていた「ピペロナール」。糊やマニキュアリムーバーにも使われる「酢酸エチル」。リストはまだまだ続く。
そして市販のアイスクリームは、私たちの食事の無視できるほど小さな要素ではない。2018年のアメリカのアイスクリームの年間消費量は約200万キロリットル、1人当たりでは約6.12リットルにも上った。アイスクリームが、こうした原材料を含む超加工食品の1品目でしかないことを考えると、さらに不安になる。
ほかにも大量生産されたキャンディやチョコレート、ケーキ、パン、ピザ、ポテトチップス、朝食用シリアル、サラダドレッシング、マヨネーズ、ケチャップ等々、多すぎてここには掲載しきれないほどの品目があるのだ。
■ラベルでは「合成香料」とだけ表示される
2018年にオーストラリアで販売されていた加工食品の61%が、NOVAグループ4に該当した。2016年に新しく発売された食品・飲料製品の数は2万1435品に上ったが、これらのほとんどが超加工食品だった。
私たちが体内に送り込んでいる奇妙な化学物質のカクテルがどんなものか、想像がつくだろうか。これらが有害かどうかは重要な問題だが、それは線引きがとても難しい問題でもある。有害性が疑われるものもあれば、確実に有害なものもある。
たとえばアメリカ食品医薬品局(FDA)は2018年10月、動物実験で発がん性の証拠が得られたとして、超加工食品に合成香料として使われていた8種類の添加物の使用を禁じた。ベンゾフェノン、アクリル酸エチル、オイゲニルメチルエーテル、ミルセン、プレゴン、ピリジン、スチレンである。
最初に挙がったベンゾフェノンについては、食品と直接接触するゴムの製造に使用することさえ禁じられた。なのに、これを執筆している間も、またもしかするとあなたがこれを読んでいる今(原書刊行時)も、これらの化学物質は大手を振って食品に使われている可能性がある。
なぜならFDAの決定後2年間は、使用が認められるからだ。だがどの食品に使われているかを知るすべはない。食品メーカーには、ラベルに「合成香料」以上の詳細を表示する義務はないのだから。
■専門家が一番危険と言う物質
加工食品メーカーは、人工的に修飾した分子を食品に加えることもある。この悪名高い例が、「トランス脂肪」だ。
トランス脂肪とは、植物から抽出された健康的な不飽和油を、水素化(水素原子を付加)することで、工業的に製造される脂肪である。なぜこんなことをするかといえば、安価な液体油を固体化させることができ、それをバターの代わりにピザやパイ、電子レンジポップコーン、ドーナツなどの製品に使うと、パリパリ、サクサクとした食感が得られるからだ。
また健康的な油をこのように変化させることで、油とそれを含む超加工食品の寿命を延ばすこともできる。残念ながら、トランス脂肪はそうした歯触りがよく長期保存の利く食品を食べる人々の寿命を延ばすことはない。
工業的に製造されたトランス脂肪が、現在あるすべての脂肪の中で最も危険だという点で、健康管理の専門家の意見は一致している。世界保健機関(WHO)の推計によれば、トランス脂肪の摂取が原因で、毎年世界で50万人以上が心臓病で亡くなっている。
■日本では禁止されていない
2005年のデンマークをはじめ、アイスランド、オーストリア、スイスなど一部の高所得国でトランス脂肪が禁止されているにもかかわらず、これだけ多い人数なのだ。アメリカは、2018年になってようやく使用を禁止した。
その後ニューヨークとデンマークで行われた研究は、心臓病による入院と死亡の大幅な減少を示している。トランス脂肪は、今も多くの低中所得国と一部の〔日本を含む〕高所得国の食品の重要な一角を占めている。
たとえば私が暮らすオーストラリアでは禁止されていないし、加工食品のメーカーにはこの有害物質を使用しているかどうか、どれだけ使用しているかを表示する義務さえないのだ。
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オックスフォード大学で研究員および専任講師を10年間務めた。世界中の大学や会議で講演を行っている。スティーヴン・J・シンプソンとの共著に『The Nature of Nutrition: A Unifying Framework from Animal Adaptation to Human Obesity』(未邦訳)がある。シドニー在住。
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主な受賞歴に王立昆虫学会ウィグルスワースメダル、オーストラリア博物館ユーリカ賞、ロンドン王立協会賞、オーストラリア勲章第二位など。イギリスやオーストラリアのメディアやテレビにたびたび取り上げられている。
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