もたれてきた女性を起こしただけなのに… 「痴漢冤罪」動画の真実があまりに皮肉だった | ニコニコニュース
SNS上でしばしば話題にあがるトピックのひとつが痴漢冤罪。9月末に突如、X(旧・ツイッター)上でこちらの4文字がトレンド入りを果たしたことをご存知だろうか。
件の出来事には、とある1本の動画が影響しており、その内容が「怖すぎる…」と話題になっているのだ。
■電車でもたれかかった女性に…
話題を呼んだ動画は、劇場公開作品などを手掛ける映像作品クリエイターチーム「こねこフィルム」が9月15日にTikTokに投稿したもの。
電車内の座席で本を読んでいる男性に、隣の見知らぬ女性がまどろんだ様子でもたれかかるシーンから映像は始まる。女性の頭がグラッと大きく傾いた瞬間、男性は女性の頭を手で支えて押し返し、軽く会釈することでやんわりフォロー。
こちらの男性、または女性の立場になった経験がある人は少なくないと思うが、何と女性の口からは「えっ…痴漢ですよ…」と、耳を疑う一言が。「痴漢」というフレーズを耳にして異変を察知したのか、他の乗客たちも2人のやり取りをチラチラと窺い、車内に不穏な空気が漂い始める。
男性は身振りを交えて「寝てらしたんで…ちょっと起こしました。すみません」「頭だけです」と、謝罪を交えつつ状況を説明。しかし女性は「えっ違いまし…たよね」「それだけじゃなかったですよ!!」と主張しだす。男性は乗客らから「痴漢」と認定されてしまったのだ。
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■男性の境遇、あまりに地獄すぎる
もちろん男性の不運はこれで終わらない。その場を離れようとするや否や、他の男性乗客らに囲まれてしまうのだ。
男性は無実を主張するも、自身が受けている対応が明らかに「痴漢をした人物」のそれであることに焦りを覚える。必死で冷静さを保っていたが、誰も自分の言葉に耳を傾けていないことに気づき、感情が爆発。
他の女性客に守られるような状態になった件の女性の元に詰め寄り、「あんたちゃんと説明してくださいよ!」「起こしただけじゃないか!」と激昂し、女性たちを怯えさせてしまうのだ。
男性は「正義ヅラすんなっ!」と必死に抵抗するが他の乗客らによって連行され、グシャグシャの泣き顔を浮かべた女性の「最っ低っ…!」という呟きで動画は終了となる。
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■「痴漢冤罪」がトレンド入りに
そして動画が投稿されてから約2週間後、X上にてインフルエンサーを中心にこちらの動画が広く拡散される事態に。28日にはXのトレンドワードに「痴漢冤罪」が急浮上したのだ。
Xユーザーからは「痴漢冤罪、本当に恐ろしい」「この場合、男性がとるべき最適解は何なんでしょうか…」「これが怖いから電車に乗れないし、乗るときも椅子には座らない」といった声が多数上がっている。
一方で「こういう動画があるから、痴漢されてるのに声を上げられない女性がいるのでは?」「こんな被害妄想の酷い女性なんて少なく、実際は痴漢のほうが遥かに多い」などの疑問の声も少なくなく、文字通り「賛否両論」を呼ぶ形となった。
果たして、話題の「痴漢冤罪」動画は、どのような経緯で作成されたのだろうか。動画を製作した「こねこフィルム」に詳しい話を尋ねたところ、なんとも皮肉な事実が明らかになったのだ…。
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■「意図しない形」での拡散
まず前提として、今回の動画は「こねこフィルム」によってTikTok、およびYouTubeに投稿されたものである。X上に拡散された動画の中には、TikTokのリンクページを記した投稿も確認できたが、決して少なくないユーザーが「無断転載」として動画を広めているのだ。
そのためトレンド入りを含む一連の経緯に関しては本来、動画を投稿する意図のなかったSNS上で(違法的に)、歪んだ解釈を伴って拡散されてしまった…という事実を強調しておきたい。
実際、Xユーザーの多くは痴漢、痴漢冤罪に関する論争を繰り広げていたが、こねこフィルムは「痴漢冤罪」という題材に、決して特別な意味を込めているワケではないのだ。
動画製作の経緯について、こねこフィルムは「世の中には明確に『白か黒か』で区分できる事象は決して多くなく、多角的な視点から『自分がこちらの立場だったら…』というように、相手の視点に立って考えること、議論の余地があるべきことが重要と考えています」「本動画は、決して痴漢を擁護したり、痴漢冤罪に警鐘を鳴らす意図があるものでなく、『痴漢冤罪』という一例を通じて『悪意と捉えられてしまった善意』や『集団心理の怖さ』を表現するものとして製作いたしました」と説明している。
▶︎https://t.co/wofCbGPIs2 pic.twitter.com/Whym7zvRcP
— こねこフィルム (@conecofilm) October 2, 2023
こねこフィルムはnoteにて「『物事の⼀部分を切り取った端的な情報への警鐘』を表現したく製作いたしました」とも説明しており、これはなんとも皮肉な話ではないだろうか。
いわゆる「神の視点」を持つ我われ視聴者は俯瞰した立ち位置から全貌を把握できるため、今回の動画に対しても「男性の親切心がとんでもなく誤解されてしまった」という真実を認識している。
しかし、動画内で男性を取り押さえたり、女性に寄り添う乗客たちは騒ぎが起こるまで夢中でスマホ画面を覗き込んでおり、女性が「騒ぎ始めた」瞬間からが、彼らにとっての(切り取られた)情報であり、真実となるのだ。
そして「痴漢冤罪」というトピックは注目度が高く、物議を醸しやすいトピックである。それ故、今回Xで動画を拡散した人の中には「インプレッション稼ぎ」のネタとしてや、自身の主義主張の題材として、動画の内容を不必要・不自然な方向へ煽っていると思われるケースも少なくない。
その煽りがさらに論争を生むという、完全に負のスパイラルだが…「物事の⼀部分を切り取った端的な情報への警鐘」を目的とした動画に対し、ネット民が「端的な情報」に対する議論を激化させているのは、皮肉以外の何物でもない。本人たちが問題視している動画と大差ない事象を、自身らで再現しているのだ。
今回の取材に際し、前出の動画を通しての「多面的な考え方」に加え、こねこフィルムが「役者さんたちのリアルな演技にも注目して頂きたいです」とも説明していたのが印象的であった。
確かに、男性が必死で潔白を説明するシーンで物珍しそうにスマホカメラを構え出す男性の仕草などは妙にリアルであり、ハラハラして見守っていた記者も思わず吹き出してしまった。そして動画の最後を飾る女性の泣き顔は、どこか憎たらしさをも感じさせる、まさに迫真の「名演技」である。
今回の作品を「単なる人を不愉快にするだけの映像」として捉えた人は、ぜひ2回、3回と繰り返し視聴してみてほしい。そしてその際、自分とは異なる立場、異なる意見の持ち主の視点で全体像を眺めると、新たな発見があるはずだ。
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■執筆者プロフィール
秋山はじめ:1989年生まれ。『Sirabee』編集部取材担当サブデスク。
新卒入社した三菱電機グループのIT企業で営業職を経験の後、ブラックすぎる編集プロダクションに入社。生と死の狭間で唯一無二のライティングスキルを会得し、退職後は未払い残業代に利息を乗せて回収に成功。以降はSirabee編集部にて、その企画力・機動力を活かして邁進中。
X(旧・ツイッター)を中心にSNSでバズった投稿に関する深掘り取材記事を、年間400件以上担当。ドン・キホーテ、ハードオフに対する造詣が深く、地元・埼玉(浦和)や、蒲田などのローカルネタにも精通。
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