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「子供部屋は1人3畳弱で十分」住宅業界が注目する建築家が提案"家族の仲が良くなる間取り"の条件 | ニコニコニュース

家族みんなが仲良く過ごせる家とは、どのようなものか。一級建築士の飯塚豊さんは、生き物の本能に即して、互いに安心して仲良く暮らしていく秘訣はなるべく距離を保つことだという。編集者の藤山和久さんが書いた『建築家は住まいの何を設計しているのか』より紹介しよう――。

※本稿は、藤山和久『建築家は住まいの何を設計しているのか』(筑摩書房)の一部を再編集したものです。

■難解な計算問題に親が同じ目線で取り組める間取り

ある建築士事務所のお手伝いで、4人家族の新居の打ち合わせに参加したことがある。子供は小学生幼稚園児の2人。ご主人は脱サラをして、奥さまの実家で果樹栽培の修業を始めたばかりの人だった。

話題が子供部屋に移ったとき、

「最近はスタディコーナーをつくる家が多いですよ」

と事例写真を見せながら紹介すると、

「これ、すごくいいじゃないですか」

とご主人のテンション一気に上がり即座に採用が決まった。

まわりを畑に囲まれた、約90坪の敷地に建てる平屋である。

スタディコーナーとは、文字どおり子供が教科書ノートを広げて勉強に勤しむスペースをいう。多くはリビング、ダイニング、キッチンといったパブリックなスペースの近くに、2人以上が並んで座れるカウンター状の机として造りつけられる。

かつては、同じ目的でダイニングテーブルが多用されていた。しかし、食事のたびにテーブルの上を片づける手間を考えると、専用のスペースを設けたほうが使い勝手がいい、との判断からしだいにスタディコーナーとして独立させる家が増えていった。

机に2人以上の横幅を確保するのは、子供の隣で親が勉強を見てやるのに都合がよいからだ。子供の隣にもう1つ椅子が置けると、

「ねえ、これどうやってやるの?」

と難解な計算問題を前に動きが止まった娘の呼びかけにも同じ目線で応じられる。

■子供がいつも自分の目の届く場所にいてくれる安心感

マジメに学問を探究する場というよりも、子供の勉強を見てやりながら親子がコミュニケーションを深める場、といったほうが適切かもしれない。とはいえ、大学受験の勉強もここで励んだという高校生もいたので、スタディコーナーの使われ方は家庭によってまちまちである。

スタディコーナーを歓迎する親御さんは、そこに安心を期待する。「これ、すごくいいじゃないですか」と前のめりになったご主人もそうだった。ここでいう安心とは、子供がいつも自分の目の届く場所にいてくれるという安心である。

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」ではないが、私たちは目に見えないものに対しては誇大な妄想を抱きがちになる。まだ小さな子供がいる親御さんはとくにそうだ。

さっきまで近くで遊んでいた子供の姿が見えなくなると、途端に不安が募る。どこかでお腹を出したまま寝ているのではないか、庭先で転んで動けなくなっているのではないか……。

そんな不安をスタディコーナーは払拭する。そこが子供の根城になれば、親は炊事でも洗濯でも安心して作業に没頭できる。その思いは子供のほうも同じだろう。とくに小学校にあがる前くらいまでの子供は、親が視界に収まっている状態が1つの大きな安心材料となる。

親と子が互いの視線を愛おしいと感じる季節はとても短い。

皆それを分かっているからこそ、親子の時間を濃密なものにしてくれるスタディコーナーは、まだ小さな子供がいる家庭にことごとく受ける。スタディコーナーを設置する間取りは、今後ますます「子供部屋」のふつうになっていくような気がする。

■スタディコーナーの躍進で狭くなる子供部屋

では、本家・子供部屋のほうはどうか。

私が見たところ、従来の子供部屋はすでに大きな変化を成し遂げている。

スタディコーナーの躍進にともない、子供部屋全体の面積が狭くなっているのだ。

都内の戸建てばかりを見ているせいもあるが、近頃の子供部屋はどの家も一様に狭い。1人あたり4畳半もあればいいほうで、それ以下の子供部屋もざらである。藤子不二雄作品に登場する昭和の子供部屋はおそらく6畳程度。ドラえもんハットリくんがやってきても、いまはリビングにお連れしないとゆっくり話もできなくなっている。

狭くなった理由は主に2つ。

1つは、スタディコーナーの登場によりそれまで子供部屋にあった機能が1部そちらに移管されたためだ。子供部屋から飛び出した大物の1つが学習机。学習机と椅子のセットが丸々なくなれば、狭い子供部屋でも機能上はさほど影響がない。

もう1つの理由は、子供のひきこもりを警戒するお母さんが増えたためだ。

ひきこもりといっても、児童相談所へ相談に行くほど深刻なひきこもりではない。子供部屋への滞在時間が長くなり、親と子が顔を合わせる時間、親と子が会話をする時間が少なくなる――。その程度のひきこもりである。だが、世のお母さんたちはそれをひきこもりと呼んでとても嫌がる。そして、次のような計略を思いつくのだ。

「子供部屋を長時間居づらい部屋にしてやろう」

イメージとしては、ルーク・スカイウォーカーたちがすべり落ちたデススターのゴミ処理場である。大きな壁が両側から迫ってきて、いまにも押しつぶされそうな圧迫感。早くここから脱け出したいと思わせる恐怖、息苦しさ。

そういった子供部屋をお母さんたちは望んでいる。子供部屋を長時間居づらい場所にしておけば、わが子はほうほうのていで私のいるリビングやキッチンまで這い出してくるに違いない――。

「そう考えて、子供部屋は小さめにつくったんです」

はじめての家づくりを終えたお母さんインタビューすると、この手の裏話をたびたび聞かされる。冒頭に紹介した果樹農家のお母さんもそうだった。

敷地はありあまるほど広かったのだが、スタディコーナーとは別に設けた通常の子供部屋は、1人あたり3.75畳でまとめられた。子供部屋の狭小化は、都市部に限った現象ではない。

■「とりあえず、あればいい」15年間だけ使う部屋

現代の間取りにおける子供部屋の位置づけについて、建築家の飯塚豊さんに聞いた。飯塚さんは、いま住宅業界で最もいきおいのある建築家の1人である。

飯塚さんが設計する住宅を五角形のレーダーチャートで評価すると、おそらくきれいな正5角形が浮かび上がる。①外観は無駄のないシンプルなフォルム、②それを支える構造は合理的で破綻がない。③断熱・気密性能は高く温熱環境は良好、④間取りも楽しい。⑤それでいてコストは控えめ。著書『間取りの方程式』(エクスナレッジ)はプロアマ問わず愛読される住宅設計入門のバイブルとなった。

そんな飯塚さんに、まずはこんな質問をした。

「近頃のお施主さんは、子供部屋にどのような要望を出されますか?」

返ってきた答えは予想外のものだった。

「そもそもお施主さんのほとんどは、子供部屋に興味がありません。要望があるとすれば、せいぜい広さくらいでしょうか」

後日、飯塚さん以外の建築家にもたずねたが、答えはみな似たようなものだった。

子育てに対する関心は大いにある。けれど、子供部屋には興味がない。進学や就職を機に出ていくとすれば、おおよそ15年前後で用済みになる部屋。それが子供部屋だ。

とりあえず、あればいいです」

その程度の冷めた認識が大勢を占めるらしい。

■子供部屋は子供にとっての縄張り

施主がそのようなスタンスならば、子供部屋づくりの主導権はいきおい設計側が握ることになる。飯塚さんの場合は、いつも次のような仕様から子供部屋の提案を始めるという。

・広さは一人あたり2275×2275ミリ(3畳弱)
・学習机は置かない
・洋服ダンスも置かない
シングルベッドを1つだけ

曰く、「勉強は子供部屋以外の場所でするだろうから机は必要なし、洋服は家族全員分のタンスを1カ所にまとめたほうが便利だから個別に設けない、そういう割り切りです」。

3畳弱という数字を見ると狭そうだが、机もタンスも置かない子供部屋ならそれほどでもない。シングルベッドが1つ置いてあるだけでも、子供部屋として立派に成立する。

「でも、やっぱり机くらいは置いてやりたいです」

親御さんからそういうリクエストがあれば、そのときどきで広さや機能をカスタマイズしていく。

さて、そのようにして生まれる子供部屋を間取りのどこに配置するか。

飯塚さんに言わせれば答えは1つしかない。

「できるだけ、親のいるところから離れた場所に配置します」

家族の滞在時間が長いLDK、親が寝起きする寝室など、親のいる場所からなるべく離れたところに置く。「それが生き物の本能に合致する配置だから」というのが飯塚さんの持論だ。ここでいう本能とは、縄張りテリトリーといった動物が生きていくうえでの本能的な戦略を指す。

「動物というのは、みずからの身の安全を守るために縄張りをつくりますよね。人間も動物の1種と考えればその習性は同じと考えられます。縄張りは身体的・精神的に安心・安全を得るのが目的ですから、互いに近接していては意味がありません。親と子の居場所を離すというのは、生き物の本能に沿って考えれば当然のことなんです」

飯塚さんの見立てでは、子供部屋とは家の中につくる子供の縄張りなのだ。

■誰にとっても穏やかに、気楽に過ごせる楽園を

「住まいは、そこに住むすべての人が安心して過ごせる場所でなければなりません」

飯塚さんはそう断言する。安心の定義はさまざまだろうが、こと家族間の関係にしぼっていえばそこには2つの安心が存在する。

1つは「家族と一緒にいることで育まれる安心」、もう1つは「いつでも1人になれるという保障から生まれる安心」。この2つが約束された住まいは、誰にとっても穏やかに、気楽に過ごせる楽園となる。

スタディコーナーと子供部屋は、まさにその典型といえる。

家族と一緒にいたいときはスタディコーナーに。1人になりたいときは子供部屋に。役割の異なる2つの場所を与えられた子供は、1年中安心に包まれたなかで暮らしていける。その日、そのときの気分で2カ所の居場所を使い分けられれば、「どこにも居場所がない」という状態には追い込まれない。

だからこそ、一方の居場所である子供部屋は、ときに「敵」となる親のテリトリーからなるべく離れた位置にしておかないと意味がないのだ。

さらに飯塚さんは、家づくりの打ち合わせ中に奥さまなどから頻出する次のような要望に、どちらかといえば否定的な立場をとる。

「うちは男の子が2人なので、2人とも小学生のうちは同じ部屋を使わせます。で、上の子が中学生になったら部屋を分けてやるつもりです。ですから新築工事のときは、将来必要になる間仕切壁の用意だけしておいてもらえますでしょうか」

私もそういう子供部屋で育ちました、という人は多いだろう。

■バカ息子の意見は一切無視する

だが飯塚さんは、自身の経験も踏まえ将来2分割構想の子供部屋には反対の意見を述べる。

「あとで分割するくらいなら、最初から1人に1部屋つくってあげたらどうですか、というのが私の意見です。自分だけの縄張りをもちたいのは大人も子供も同じでしょう。少なくとも私が子供のときはそうでした。

私は小学生の頃、2つ年上の兄と同じ部屋を使わされていたのですが、子供心にそれが嫌で嫌でたまりませんでした。自分1人になれる場所がどこにもないので、仕方なく親戚が経営する隣の工務店の事務所に逃げ込んでいたものです」

ときには1人にさせてほしい――。子供の縄張りづくりは、すでに6歳頃には始まっているのである。

子供の縄張りについては、はじめての家づくりから約30年後、2世帯住宅をどのようにつくるかという場面で再び考える必要に迫られる。

昨今は現役世代の所得が総じて低い。やむをえず親の家を2世帯住宅に建て替えて同居するケースが増えている。1度は家を出ていった子供が10年ちょっとで舞いもどり、「子世帯住宅」という大きな子供部屋を構えるかたちだ。

「2世帯住宅を設計するとき、いちばん気をつけていることは何ですか?」

幾人もの建築家にたずねてきたが、答えは誰に聞いても同じだった。

「親世帯と子世帯をなるべく離すことです」

理想は玄関から別々に分ける「完全分離型」のプランである。

子世帯が娘家族の場合はそこまで神経質にならなくてもよいが、息子家族と2世帯住宅を構えるときは「息子の嫁」との関係から完全分離型以外はなかなかうまくいかない。それが大方の意見だった。

「いや、うちの妻は母と仲が良いので、完全分離型でなくても大丈夫ですよ」

そう胸を張るバカ息子がたまにいる。だが、建築家たちに言わせればそういう家族がいちばん危ない。ふだんから奥さんと母親がどれだけ気を使い合い、互いの腹を探り合いながら暮らしているか、知らないのはバカ息子だけなのだ。

「そういう息子さんの意見は、僕は一切無視しますよ。2世帯住宅の設計を依頼されたら、まずは完全分離型で計画するのがいちばん安全なやり方ですからね」

ある老建築家は力強くそう言い切った。

■仲良しでいたいなら積極的に離れるべき

この大原則は、子供が建てた家に親が同居する場合も同じように適用される。

最近は、親のほうも子のほうも進んで親子の同居を求めるケースは少ない。ただし、都会に出てきた子供が大きくなって都会で家を建てるとき、「将来、田舎にいる親を引き取って同居するかもしれません」と1部屋余分に設けることはある。そんなとき、施主である息子夫婦が建築家に出す要望はいつもこんな内容と決まっている。

「親の部屋は、私たち夫婦となるべく顔を合わせなくて済むような場所にしてもらえますか。可能なら部屋にミニキッチンくらい付けておいてもらえると助かります」

互いの縄張りが干渉しないよう、子供はみずから親を遠ざける方向で調整をはかる。仲が良いとか悪いとか、そんな話はひとまずおいて、生き物の本能が親を自然と遠ざけるのである。

親と子をめぐる家づくりの要諦は、未来永劫(えいごう)このワンポイントだけだろう。

互いに安心して仲良く暮らしていく秘訣(ひけつ)は、なるべく距離を保つこと、互いを適度に遠ざけること。この距離感が生き物の本能に即した無理のない住環境をつくる。

いつまでも仲良しを続けたければ、積極的に離れることだ。

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藤山 和久(ふじやま・かずひさ)
編集者
建築専門誌『建築知識』元編集長。建築分野の編集者として建築・インテリア・家づくり関連の書籍、ムックを数多く手がける。主な担当書籍に『住まいの解剖図鑑』(増田奏)、『片づけの解剖図鑑』(鈴木信弘)、『間取りの方程式』(飯塚豊)、『建物できるまで図鑑』(大野隆司・瀬川康秀)、『非常識な建築業界』(森山高至)など。著書に『建設業者』がある。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/South_agency

(出典 news.nicovideo.jp)

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