ヤマトと佐川で分かれた明暗。「Amazonからの撤退」が分岐点に――大反響・総合トップ10 | ニコニコニュース
日刊SPA!で反響の大きかった2023年の記事をジャンル別に発表してきたが、今回は総合トップ10。初回とランキング発表時の反響をあわせて集計、本当にスゴかった記事を発表する。第1位はこちら!(集計期間は2023年1月~2024年3月。初公開2023年7月6日 記事は取材時の状況。ご注意ください)
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中小企業コンサルタントの不破聡と申します。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、「有名企業の知られざる一面」を掘り下げてお伝えしていきます。
2023年6月19日にクロネコヤマトのヤマトホールディングスと、日本郵政の協業が決まりました。「クロネコDM便」を「ゆうメール」に、「ネコポス」を「ゆうパケット」に融合し、荷物を共同で配送するというもの。この協業体制は2社の課題を解決する有効な一手となるかもしれません。
◆郵便局の配送網で効率化を図る
「ネコポス」は2023年10月から順次終了し、「クロネコゆうパケット」という新たなサービスに変わります。「ネコポス」は、フリマやオークションを利用する人には身近なもので、個人間取引サイトを利用する顧客が対象のサービスでした。
これまではヤマトが配送をすべて行っていましたが、今後はヤマトが荷物を引き受けて、それを郵便局の配送網で顧客に届けます。
「クロネコDM便」は2024年1月31日に終了し、「クロネコゆうメール」となります。これもオペレーションはほぼ変わりません。
つまり、ヤマトは配送の手間を省くことができ、郵便局は全国に構築した配送ネットワークをフル活用できるという内容なのです。ここが一番のポイントです。
◆“効率的に稼ぐ力”が佐川に及ばず
ヤマトホールディングスの2023年3月期の売上高は1兆8006億円。競合・佐川急便の運営会社であるSGホールディングス2023年3月期の売上高は1兆4346億円でした。2社の売上は3600億円以上離れています。
しかし、利益に目を転じると見え方は変わってきます。
佐川の営業利益率は9.4%。ヤマトは3.3%ほどしかありません。佐川はヤマトよりも効率的に稼いでいるのです。
◆「Amazonからの撤退」が分岐点に
佐川の2013年3月期の営業利益率は3.5%でした。現在のヤマトとほとんど変わらない水準です。しかし、2014年3月期に5.2%まで急速に高めます。この期に佐川急便はクロネコヤマトの営業利益率を追い抜きました。
2013年に佐川が下した決断こそ、Amazonからの撤退でした。個人宅向けの細かな荷物は配送に手間がかかり、1つ当たりの配送料も高くはありません。ただでさえ、人手不足な業界にも関わらず、業務負荷は高まる一方です。
佐川は細かい荷物からの脱却を図り、単価が高い大型の荷物を中心に扱うようになりました。それが奏功して利益率を高めることができたのです。
◆粛々と構造改革を進めていたヤマト
ヤマトは2020年3月期に営業利益率が2.7%まで下がりました。前年と比較して0.9ポイント落としています。そこからコロナ禍のEC特需に見舞われ、営業利益率は5.4%まで回復しました。一時的に回復はしたものの、再び少しずつ利益率を落としています。
日本郵政との協業は、ヤマトの配送負荷を軽減し、利益率を高める狙いがあるのでしょう。
ネコポスの2023年3月期の取り扱い個数はおよそ4億1300万個。単価は189円でした。このサービスの売上高は781億2700万円となる計算です。
クロネコDMは8億冊取り扱い、単価は67円。売上高は536億3500万円です。両サービスをあわせた売上高は年間およそ1300億円。協業体制をとることでこの分の売上高が減少する可能性もあります。
しかし、ヤマトは2024年3月期の売上高を前期比3.3%増の1兆8600億円と、増収を見込んでいます。予想通りの着地で営業利益率は4.3%。1ポイント増加する計画です。
利益率の低下に苦心していたヤマトは、高単価であるBtoB取引のシェア拡大に取り組んでいました。その成果が表れているように見えます。
ヤマトの構造改革が進んで増収増益効果が高まっているのであれば、日本郵政との協業によるコストカットは更なる収益性の改善に寄与するでしょう。
◆デジタル化の波に飲まれた日本郵政
さて、日本郵政は業績が振るわない典型的な会社の一つ。2015年3月期から9期連続の減収に見舞われています。2024年3月期も減収を予想しており、10期連続という不名誉な記録を残すことになりかねない状況です。
減収の主要因は、郵便物の取り扱い数の縮小。2023年3月期は郵便が2.8%、ゆうメールが7.0%、ゆうパックが0.8%それぞれ減少しています。
メールやLINEなどでコミュニケーションが図れるようになっただけでなく、請求書のやり取りも電子化されました。郵便を使う機会が失われています。しかも、ドル箱だった年賀はがきは縮小の一途を辿っています。2003年に44億枚発行というピークを迎えてから、2022年は16億枚程度まで減りました。
このまま売上高の減少が続けば、郵便局は雇用の維持ができなくなってしまいます。しかし、郵便局の配送網は僻地や集落に暮らす人々のライフラインを支えており、簡単に各営業拠点を縮小できるわけではありません。配送網をフル活用しなければならないのです。
◆協業で長期低迷から抜け出せるか
ヤマトとの協業は、全国各地に構築した配送ネットワークを活かす魅力的な提案だと映ったでしょう。日本郵政は今回の協業における業績へのインパクトには言及していませんが、何らかの収益貢献もあるはずです。
日本郵政は豪州物流会社トール・ホールディングスを6200億円で買収し、4000億円という途方もない巨額損失を出しました。その後、楽天に1500億円を出資し、株価が低迷したことで850億円の評価損を計上しています。
正に踏んだり蹴ったりの日本郵政ですが、ヤマトとの協業のような、実業とのシナジー効果が高い堅実なビジネス構築を優先的に進めるべきでしょう。この協業が業績の低迷から抜け出す一歩となるのか、注目すべきポイントです。
【不破聡】
フリーライター。大企業から中小企業まで幅広く経営支援を行った経験を活かし、経済や金融に関連する記事を執筆中。得意領域は外食、ホテル、映画・ゲームなどエンターテインメント業界